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050 木材について(2012年1月28日)

世界の森林につい

 世界の森林面積は、約40億3千万haといわれています。地球全体の面積に占める割合は、約7.7%ですが、陸地だけでみると、約31%が森林率なのです。。急激な森林面積の減少から、その対策が叫ばれていましたが、最近のヨーロッパや特に中国における大規模な植林などにより、少しずつ回復の傾向が現れています。しかし、アフリカや南米における熱帯雨林の急激な減少傾向は楽観視できない状況です。

 FAO(国連食糧農業機関)の統計データをみると、2009年度の世界の木材生産量は、約32億9千m3ですが、その56.5%が薪炭材です。薪炭材の比率は、さらに増加傾向にあります。消費量で見ると、薪炭材も含めた木材の消費量は増加していますが、製材のみの消費量は、アメリカや日本での住宅着工数の減少を反映して、減少傾向になっています。しかし、中国やブラジルの増加が際立っており、世界全体の製材の消費量は、緩やかな増加傾向に戻ると見られています。特に、中国における急激な輸入量の増加よる地球全体の森林資源へ

白滝水流橋から白老岳を望む
2011年6月16日撮影
の影響は、余談を許しません。またアフリカでは、焼き畑農業や失火による森林の消失に加えて、密猟者が動物を追い詰めるために森に火をつけるという悲劇も生んでいます。悲観的な見方では、今世紀末には森林が消えてしまうと訴える人もいるほどです。

日本の森林について

 戦後の拡大造林期に植林した、スギなどの樹齢が約50年を経過し、間もなく伐採期を迎えるといわれています。私も小学校の卒業時に、卒業記念にどこかの山に行って、卒業生全員で植林した記憶があります。あの木も50年近く経ていることになります。どうなったことでしょう。それはさておき、日本の国土面積は、約3,779万haですが、日本の森林地域の面積は、全国土の約66%といわれています(※1)。2007年の林野庁の調査によると

日本における森林の割合 (※1)
、蓄積量は、天然林が17億8千万m3、人工林が26億5千万m3あり、年間約8,000万m3ずつ増加しているといわれています。その増加量は、国内の年間総需要量に匹敵するレベルだそうです。日本には、豊かな森林資源が蓄えられているのです。(※2)

 日本全体の人工林の樹種別面積は、スギが44%、ヒノキが25%を占めています。花粉症の原因となっていますね。ちなみに北海道の森林面積は、全国の約23%を占めていますが、人工林は、全国の約15%程度です。天然林の比率が高いですね。2002年の調査ですが、蓄積量ではカラマツが49%、トドマツが42%を占めています。これも余談ですが、北海道の花粉症の主因は、シラカバです。

日本における天然林と人工林の割合 (※2)
 日本の木材供給は、1955年頃は100%近くを国産材が占めていました。それが2000年頃は、20%を切ってしまったのですが、2010年度の林野庁のデータをみると、約26〜28%程度までに回復しています。この比率は、木材全体の数値ですから、製材に限ると、約41〜42%程度の国産比率になります。木材全体の需要量は、総需要量が7,188万m3に対して、製材用が35.3%、パルプ・チップが45.0%、合板が13.3%、その他が6.4%の割合です。(※3)

日本における木材の供給量/製材の国産と輸入の割合 (※3)
一般住宅の木材使用量

 少し古いデータですが、(財)日本住宅・木材技術センターの「木造軸組構法住宅の木材使用量/2002年」をみると、一般住宅の製材使用量が判ります(※4)。この表によると、平均でu当たり、0.186m3/uの製材を使用していることが判ります。一軒当たりでは、25〜28m3程度の製材を使用していることも判ります。ツーバイフォー工法では、若干、木材使用量が減るようです。
区分 工務店系 プレカット系 ビルダー系 平均
製材使用原単位(m3/u) 0.182 0.174 0.204 0.186
国産材使用比率(%) 43.5 24.9 29.9 37.0
戸当平均床面積(u/戸) 135.8 139.4 141.3 138.8

木造軸組構法住宅の木材使用量 (※4)

国産材とJAS規格

 日本の製材品は、日本農林規格(JAS)で、板類、角類。円柱類の3材種に分けられています。古い規格ですが、寸法からひき角類、ひき割類、板類に分ける方法も未だによく使われています。

(JAS規格)
  板類:木口の短辺が75mm未満で、かつ、木口の長辺が木口の短辺の4倍以上のもの
  角類:木口の短辺が75mm以上のもの、及び木口の短辺が75mm未満で、かつ、木口の長辺が木口の
      短辺の4倍未満のもの
  円柱類(構造用製材に限る):木口の形状が円形であって、直径が長さ方向に一定であるもの

(寸法から分ける規格)
  ひき角類:厚さ・幅とも7.5cm以上のもの
  ひき割類:厚さが7.5cm未満で、幅が厚さの4倍未満のもの
  板類:厚さが7.5cm未満で、幅が厚さの4倍以上のもの

 製材のJASには、一般製材品のための「製材の日本農林規格」と枠組壁工法(ツーバイフォー工法)のための
枠組壁工法構造用製材の日本農林規格」の2種類があります。

 表示マークの例は、図(※5)です。




JASマークの例 (※5)

製材の日本農林(JAS)規格

 一般製材品の用途が多岐に渡っているため等級区分は、5種類の品目に分けて規格が定められています。

 1)建築物の造作に使用する針葉樹の「造作用製材」

   無 節:節がない製材
   上小節:節の長径が10mm以下のものが数個程度(長さにより異なる)
   小 節:節の長径が20mm以下のものが数個程度(長さにより異なる)
    並 :節の長径が20mmを超え、長径が木口の長辺の70%以下

  参考ですが、実際の取引では、「三方無節」とか「一無二上」といった表現がされます。

 2)針葉樹の構造用材における「目視等級区分構造用製材」

   外観的に確認できる節、丸身、貫通割れ、目まわり、繊維傾斜、平均年輪幅、腐朽、曲がりなどから、甲種
  と乙種に分け、それぞれ等級を付けています。

   甲種構造材:横使いされ、主として高い曲げ性能が求められる土台や大引き、根太、梁、桁、母屋、たる木
           などに使用されるもので、その断面の大きさから「甲種構造材I」と「甲種構造材II」に分けられ
           ています。

   乙種構造材:縦使いされ、主として圧縮性能が求められる柱や束などに使用されるもの

   例えば、甲種構造材Tの節(欠・キズを含む)の等級区分の基準は以下になっています。

     1級(★★★):節の径比が20%(円柱類にあって径比が17%)以下
     2級(★★):節の径比が40%(円柱類にあって径比が35%)以下
     3級(★):節の径比が60%(円柱類にあって径比が53%)以下

 3)針葉樹の構造用材のうちヤング係数を測定した「機械等級区分構造用製材」

   実大材の試験結果をもとに、強度と材質指標の関係を求めると、樹種に関わらずヤング係数が強度との
  最も高い相関性を示します。ヤング係数を非破壊的に測定して、その値から強度を推定して等級区分を行
  います。その表が(※6)です。


彦根城の木組
2009年12月9日撮影






等級 曲げヤング係数
(GPa又は1000N/mu)
E 50 3.9以上 5.9未満
E 70 5.9以上 7.8未満
E 90 7.8以上 9.8未満
E 110 9.8以上 11.8未満
E 130 11.8以上 13.7未満
E 150 13.7以上

「機械等級区分構造用製材」
の等級区分基準 (※6)

 4)建築物の下地に使用する「下地用製材」

   節や貫通割れや腐朽、曲がりなどで、1級、2級に区分されています。
   例えば、節(欠・キズを含む)の等級区分の基準は以下になっています。

   1級:節の径比が30%以下
   2級:節の径比が60%

 5)広葉樹の「広葉樹製材」

   節や貫通割れや腐朽、曲がりなどで、特等、1等、2等に区分されています。
   例えば、節(欠・キズを含む)の等級区分の基準は以下になっています。

   特等:節がないこと
   1等:節の長径が30mm以下であって、かつ1個以下であること
   2等:節の長径が50mm以下であること

 このように、製材のJAS規格は複雑な表記になっています。さらに最近は、木材ごとに保存処理した薬剤名を
JASマークとともに印字したり、含水率を表記した製材が出ています。

製材の無等級材

 さらに複雑にしているのが「無等級材」の存在です。無等級材とは、JASの目視等級区分、機械等級区分のいずれの等級区分もされていない製材のことです。「特等」と「1等」の中間の「特1等」とか、「1等」と「2等」の中間の「1等並」といった表現がされます。似たような名前でも、ハウスメーカー独自の規格や、慣習的な規格もあります。これらはJASとは関係ありません。JASマークの有無で判断するしかありませんね。


新旭川駅
北海道産の木材が多用された
内藤廣設計 2011年

2011年6月23日撮影

木材の含水率について

 木材の含水率は、木材実質の重量に対して、どれだけの重量の水分を含むかで表され、以下の式により求めることができます。

   u=(Wu−Wo)/Wo×100(%)

    u=含水率
    Wu=水分を含んでいるときの木材の重量
    Wo=木材を100〜105℃で乾燥して、恒量
        (それ以上重量が変化しない状態)に達したときの重量

 木材の水分は細胞壁内にある結合水と、細胞内膣(ないこう)や細胞壁と細胞壁の間にある自由水に分かれていて、乾燥をすると自由水から蒸発し始めます。自由水が完全になくなった状態を、「繊維飽和点」といい、多くの
品目 含水率基準(%以下) 表示記号
造作用製材 仕上材 15、18 SD15、SD18
未仕上材 15、18 D15、D18
目視等区分構造用製材、機械等級区分構造用製材 仕上材 15、20 SD15、SD20
未仕上材 15,20、25 D15、D20、D25
下地材 仕上材 15、20 SD15、SD20
未仕上材 15、20 SD15、SD20
広葉樹製材 10、13 D10、D13

製材の含水率基準と表示記号 (※7)
樹種において、約30%が繊維飽和点です。さらに乾燥をして、空気中の湿度と平衡状態になった時を「気乾状態」といいます。そして、ほとんど細胞中にも結合水がなくなった状態を「絶乾状態」といいます。

   生存状態:細胞内の結合水が飽和状態で、細胞間に自由水がある
   繊維飽和点:細胞内の結合水は飽和状態で、細胞間の自由水がなくなった状態
   気乾状態:大気中の湿度と平衡状態
   絶乾状態:細胞内にもほとんど結合水がない状態

 日本における年平均平衡含水率は15.2%といわれていますので、木材の標準的な気乾材は15%程度になるのです。ちなみに、JASでも、表(※7)のように含水率の基準を品目ごとに定めています。したがって、人工乾燥や天然乾燥を行っても、含水率が基準値より多い場合は、未乾燥材となります。注意しなければならないのは、製材品の含水率を表面部分しか含水率計で測定しないことがあるのです。製材品全体の含水率で判断しなければならないのは当然のことです。

 よくグリーン材とかKD材といわれますが、グリーン材は英語のGreen Woodの略で、一般的には伐採直後の木材のことをいいます。日本語では生材とも言われています。一方、KD材はKiln Dry Woodの略で、乾燥機(Kiln)を用いて人工的に乾燥させた木材を意味しています。天然乾燥(Air Dry)だけの木材はKD材ではありません。


六花亭美術村
北海道十勝地方の中札内
柏林とまくら木の中に浮かぶ美術館
2010年7月9日撮影

構造材と造作材

 建物の骨組みとなる木材を「構造材」といいます。引っ張り、曲げ、せん断などの応力に抵抗する「構造」を受け持っているわけです。一方、仕上に使われる木材を「造作材」といいます。構造材でも、表面に見えてくることもあります。

心材と辺材

 木材の中心に近い部分から取ったものを「心材」といい、赤身、赤太などと呼ばれます。一方、樹皮に近い周辺部から取ったものを「辺材」といい、白身、白太などと呼ばれます。一般に心材には樹脂が多く組織が密で、菌や昆虫に対する抵抗力が強く、耐久性が高く、狂いが少ないとされています。樹皮に近く柔らかな辺材は、含水率も高く、狂いやすく、腐朽菌や昆虫による食害も受けやすいのです。

 心を含んだ木材のことを「心持ち材」といいますが、背割りをしないと割れが入り易いという欠点があります。また、心を外して製材したものを「心去り材」といいますが、太い丸太でなければ心去り材を取ることはできません。
耐朽性 国産材 輸入材
極大(野外で9年以上) チーク、ギアム、コキクサイ、バラウ、セランガンンバツ、ヤカール、エボニー
大(野外で7〜8.5年) コウヤマキ、サワラ、ネズコ、ヒノキ、ヒバ、クリ、ケヤキ、ニセアカシア、ヤマグワ、ホウノキ ベイスギ、ベイヒ、ベイヒバ、ボンゴシ、マホガニー
中(野外で5〜6.5年) イチイ、カヤ、カラマツ、スギ、カツラ、シラカシ、ミズナラ、クヌギ、ナラ、アラカシ、シラカシ ベイマツ、ダフリカカラマツ、ケンパス、メルサワ、ホワイトオーク
小(野外で3〜4.5年) アカマツ、クロマツ、イチョウ、コナラ、マカンバ、ヤチダモ、アカガシ、キハダ ボンデローサパイン、ベイツガ、オウシュウアカマツ、ユーカリ、ベイマツ
極小(野外で2.5年以下) トドマツ、エゾマツ、イタヤカエデ、セン、ヤマハンノキ、ミズメ、シラカンバ、ブナ、シナノキ、クスノキ、トチノキ ベイモミ、スプルス、ラジアータパイン、オウシュウトウヒ、アガチス、パラゴム、ラミン

木材の耐朽性比較 (※8)
木材工業ハンドブック2004年/森林総合研究所 監修より

  背割り:心持ち材の背の部分に材の中心まで切り込みを入れることで、化粧面の割れを防ぐ方法です。強度
       的は、落ちることになりますが、構造的には余裕があります。ただし、柱と梁の接合部などでは、
       使用する方向に注意を払う必要があります。

柾目と板目、木表と木裏について

 製材をしたときに、切断の方向によって表面に現れる年輪の模様を「柾目」、「板目」といいます。特に装飾的価値が高い紋様を「杢目(もくめ)」と呼んだりもします。また、樹皮側か心側かで「木表」と「木裏」に別れます。

  柾目:年輪が平行状態になって見える面の状態。板の収縮やネジれ、割れが少なく、無節材を取りやすい
       のですが、大径木からでなければ、幅の広い柾目は取れないため、高額となります。
  板目:年輪が波型模様や山型模様がでている面の状態。収縮や「ソリ」の狂いが大きいのですが、どちらか
       といえば広巾の板が取りやすいといえます。
  木表:樹皮に近い部分を木表といいます。木表は木裏より収縮が激しく、乾燥するにしたがって木表側に
       「ソル」性質があります。
  木裏:板目材で心材(樹心)近い部分を木裏といいます。節が多く、「サカ目」が立ちやすいので
       「カンナ掛け」に注意する必要があります。


四国の大洲城の木組
2009年11月27日撮影

心材の耐朽性と耐蟻性

 心材は、腐朽菌や昆虫による食害の影響を受けにくいとされますが、樹種によりその影響に差があります。腐朽菌に対する抵抗力の大きさ順に並べた表が(※8)です。ただ、この表は同条件での比較ですので、腐朽菌の繁殖は、水分の有無に影響されやすく、使用される材の水分状態や環境によって変わってきます。

 新月に伐採した木材は腐りにくいという人がいますが、複数の実験結果をみると、迷信に過ぎないようです。

 また、心材における耐蟻性の比較は、表(※9)です。いずれの表も「木材工業ハンドブック/2004年/森林総合研究所監修」を参考にしています。

 日本に生息する主な加害シロアリは、ヤマトシロアリ、イエシロアリ、アメリカカンザイシロアリ、ダイコクシロアリなどが知られています。温暖化の影響からか、その北限位置が北に延びていっています。特に注意すべきなのは、シロアリは木材だけでなく、発泡スチロールやウレタン系の断熱材への加害例を増やしていることです。温暖化と共に、高断熱化がシロアリの生息域を拡げているともいえます。
耐蟻性 樹種(特に指定しない場合は、心材)
ヒバ、トドマツ、コウヤマキ、イヌマキ、ビャクシン、イスノキ、カヤ、ベイスギ、ベイヒ、ベイヒバ、ボンゴシ、マホガニー、シタン、チーク
ヒノキ、スギ、ツガ、クリ、クスノキ、カツラ、ケヤキ、トチノキ、イタヤカエデ、ベイマツ、ダフリカカラマツ、ケンパス、メルサワ
モミ、エゾマツ、カラマツ、アカマツ、クロマツ、セン、アサダ、ミズキ、ブナ、ミズナラ、ハンノキ、ボンデローサパイン、ベイツガ、オウシュウアカマツ、ユーカリ、ベイマツ、オーク、バルサ、ラミン、ホワイトラワン

木材の耐蟻性比較 (※9)
木材工業ハンドブック2004年/森林総合研究所 監修より

  ヤマトシロアリ:比較的含水率の高い木材を好み、主に建物の下部材に加害します
  イエシロアリ:湿潤な木材と共に乾いた材も好み、被害は建物全体に及びます
  アメリカカンザイシロアリ:乾材のみに加害します
  ダイコクシロアリ:奄美大島以南に生息するといわれています

 建築基準法施工令第49条では、「構造耐力上主要な部分である柱、筋かい及び土台のうち、地面から1メートル以内の部分には、有効な防腐措置を講ずるとともに、必要に応じて、シロアリその他の虫による害を防ぐための措置を講じなければならない。」と規定されています。「シックハウスについて」でも記述しましたが、かつて良く現場で使用されたクロルピリホスを使うことはなくなりました。後述する保存処理材では、「K3」の材料を使用するとともに、土台などには耐蟻性の高い製材を使用するのが良いと思います。

木材断面 (※10)

木材の強さ

 木材の強度は、材種によっても異なりますが、同じ木材であっても含水率や密度、節等の有無によっても異なります。一般的に、乾燥材ほど強度が増加します。また、節が多い製材ほどその強度は低下します。さらに、木材の繊維方向によっても強度が異なります(異方性)。

 図(※10)のような断面の木材があったとします。繊維方向(L方向)、半径方向(R方向)、接線方向(T方向)の3軸に対して、柾目面(LT面)、板目面(LR面)、小口面(RT面)が構成されています。代表的な材種の強度は、表(※11)のようになります。この表は、無欠点な小試験体で強度試験をした結果を基にしていますが、木材の異方性が良く現れています。

 実際の木造の構造計算では、実物大の製材の破壊強度試験をベースにして、建築基準法及び告示等によって、木材の許容応力度が定められていますので、その数値に基づいた検討がなされます。

 木材の変形のしにくさを表す指標として、「ヤング係数」があります。ヤング係数が大きいほど、たわみにくいのです。JAS規格にある構造用製材の機械等級区分は、ヤング係数によって、等級が定められています。
樹種 圧縮比例限応力 圧縮強さ 引張強さ せん断強さ
(N/mu) (N/mu) (N/mu) (N/mu)
LR LT
スギ 22.6 1.4 0.7 27.5 54.9 6.9 2.5 6.4 7.4
アカマツ 27.5 2.5 1.8 40.2 127.5 9.3 3.9 10.3 10.8
ブナ 31.4 3.5 2.2 48.1 107.9 18.1 8.8 12.3 15.2
マカンバ 31.4 3.6 3.1 49.0 141.2 - - 16.7 18.6
ミズナラ 23.5 4.6 1.9 38.2 134.4 13.7 9.8 13.2 13.7
アピトン 46.1 2.8 1.8 63.7 163.8 8.3 4.9 11.8 11.3

代表的な木材の強度 (※11)

木材の許容応力度と基準強度

 木材の繊維方向の許容応力度は、建築基準法施工令第89条で、長期と短期に分けて、表(※12)のように、定められています(実際の構造計算では、さらに積雪条件が加わります)。この表の、Fc,Ft,Fb及びFsは、それぞれ木材の種類及び品質に応じて国土交通大臣が定める圧縮、引張り、曲げ及びせん断に対する基準強度(単位:N/mm2)のことです。

 国土交通省の告示第1452号では、樹種ごとに、JAS規格の目視等級区分製材の基準強度が、表(※13)のように、また、JAS規格の機械等級区分製材も、表(※14)のように定められています。

 同様に、無等級材についても、表(※15)のように定められています。無等級製材には、従来から使用されてきた背割り材も含まれます。この表を見ると、甲種構造材の2級以上の品質が確保されていることが前提となっていることが判ります。
樹種 区分 等級 基準強度(単位N/mm2)
Fc(圧縮) Ft(引張り) Fb(曲げ) Fs(せん断)
あかまつ 甲種構造材 1級 27 20.4 33.6 2.4
2級 16.8 12.6 20.4
3級 11.4 9 14.4
乙種構造材 1級 27 16.2 26.4
2級 16.8 10.2 16.8
3級 11.4 7.2 11.4
べいまつ 甲種構造材 1級 27 20.4 34.2 2.4
2級 18 13.8 22.8
3級 13.8 10.8 17.4
乙種構造材 1級 27 16.2 27
2級 18 10.8 18
3級 13.8 8.4 13.8
からまつ 甲種構造材 1級 23.4 18 29.4 2.1
2級 20.4 15.6 25.8
3級 18.6 13.8 23.4
乙種構造材 1級 23.4 14.4 23.4
2級 20.4 12.6 20.4
3級 18.6 10.8 17.4
ダフリカからまつ 甲種構造材 1級 28.8 21.6 36 2.1
2級 25.2 18.6 31.2
3級 22.2 16.8 27.6
乙種構造材 1級 28.8 17.4 28.8
2級 25.2 15 25.2
3級 22.2 13.2 22.2
ひば 甲種構造材 1級 28.2 21 34.8 2.1
2級 27.6 21 34.8
3級 23.4 18 29.4
乙種構造材 1級 28.2 16.8 28.2
2級 27.6 16.8 27.6
3級 23.4 12.6 20.4
ひのき 甲種構造材 1級 30.6 22.8 38.4 2.1
2級 27 20.4 34.2
3級 23.4 17.4 28.8
乙種構造材 1級 30.6 18.6 30.6
2級 27 16.2 27
3級 23.4 13.8 23.4
べいつが 甲種構造材 1級 21 15.6 26.4 2.1
2級 21 15.6 26.4
3級 17.4 13.2 21.6
乙種構造材 1級 21 12.6 21
2級 21 12.6 21
3級 17.4 10.2 17.4
えぞまつ、とどまつ 甲種構造材 1級 27 20.4 34.2 1.8
2級 22.8 17.4 28.2
3級 13.8 10.8 17.4
乙種構造材 1級 27 16.2 27
2級 22.8 13.8 22.8
3級 13.8 5.4 9
すぎ 甲種構造材 1級 21.6 16.2 27 1.8
2級 20.4 15.6 25.8
3級 18 13.8 22.2
乙種構造材 1級 21.6 13.2 21.6
2級 20.4 12.6 20.4
3級 18 10.8 18

針葉樹構造用製材(目視等級)の基準強度 (※13)
国土交通省告示第1452号
長期に生じる力に対する許容応力度 短期に生じる力に対する許容応力度
(単位:N/mm2) (単位:N/mm2)
圧縮 引張り 曲げ せん断 圧縮 引張り 曲げ せん断
1.1Fc/3 1.1Ft/3 1.1Fb/3 1.1Fs/3 2Fc/3 2Ft/3 2Fb/3 2Fs/3
この表において、Fc,Ft,Fb及びFsは、それぞれ木材の種類及び品質に応じて国土交通大臣が定める圧縮、引張り、曲げ及びせん断に対する基準強度(単位:N/mm2)を表すものとする
木材の繊維方向の許容応力度 (※12)
建築基準法施工令第89条
樹種 等級 基準強度(単位N/mm2)
Fc(圧縮) Ft(引張り) Fb(曲げ) Fs(せん断)
あかまつ、べいまつ、ダフリカからまつ、べいつが、えぞまつ、とどまつ E 70 9.6 7.2 12 樹種に応じ目視等級区分の基準強度による
E 90 16.8 12.6 21
E110 24.6 18.6 30.6
E130 31.8 24 39.6
E150 39 29.4 48.6
からまつ、ひのき、ひば E 50 11.4 8.4 13.8
E 70 18 13.2 22.2
E 90 24.6 18.6 30.6
E110 31.2 23.4 38.4
E130 37.8 28.2 46.8
E150 44.4 33 55.2
E 50 19.2 14.4 24
E 70 23.4 17.4 29.4
E 90 28.2 21 34.8
E110 32.4 24.6 40.8
E130 37.2 27.6 46.2
E150 41.4 31.2 51.6
針葉樹構造用製材(機械等級)の基本強度 (※14)
樹種 基準強度(単位N/mm2)
Fc(圧縮) Ft(引張り) Fb(曲げ) Fs(せん断)
針葉樹 あかまつ・くろまつ・べいまつ 22.2 17.7 28.2 2.4
からまつ・ひば・ひのき・べいひ 20.7 16.2 26.7 2.1
つが・べいつが 19.2 14.7 25.2 2.1
もみ・えぞまつ・とどまつ・べにまつ・すぎ・べいすぎ・スプルース 17.7 13.5 22.2 1.8
広葉樹 かし 27 24 38.4 4.2
くり・なら・ぶな・けやき 21 18 29.4 3
構造用製材(無等級材)の基本強度 (※15)

木材と乾燥

 木材は、乾燥するほど強度が増します。木材の標準的な含水率は15%程度とされていますが、築年経過とともに、地域や住環境によって異なりますが、含水率は10〜20%の前述の範囲に落ちつくといわれています。したがって、前もって乾燥処理が充分でなければ、乾燥による寸法変化や変形が木材に生ずることになります。また、工場から出荷した状態の含水率が、建設中の保管や管理によっても、数パーセントの変化を示すこともあります。製材としての含水率とその施工を含めた管理が大事なのです。

 木造住宅の部材別平衡含水率は、床下材が15〜20%、室内部材が12〜14%、小屋組材が11〜13%程度です。理想的には、その中心の含水率の製材を使用するのが、伸縮量が小さく、良いといえます。ただ地域によっては、多少の変化があるでしょう。

 乾燥材には、天然乾燥材人工乾燥材とがあります。天然乾燥は、含水率の管理が難しいのですが、変質等が生じにくいという利点もあります。ただし、心持ち材では表面に大きな割れを生ずることもあります。また、半年以上といわれるように所要時間がかかりますし、広い場所が必要になります。天然乾燥では、15%程度が限界といわれています。
性能区分 木材の使用状態 具体的内容
K1 屋内の乾燥した条件で腐朽・蟻害のおそれのない場所で、乾燥害虫に対して防虫性能のみを必要とするもの ヒラキタクイムシを対象とする
K2 低温で腐朽や蟻害のおそれの少ない条件下で高度の耐久性の期待できるもの 比較的寒冷な地での建築部材用
K3 通常の腐朽・蟻害のおそれのある条件下で高度の耐久性の期待できるもの 土台等の建築部材等
K4 通常よりはげしい腐朽・蟻害のおそれのある条件下で高度の耐久性の期待できるもの 屋外で風雨に直接さらされる部材用
K5 極度に腐朽・蟻害のおそれのある環境下で高度の耐久性の期待できるもの 電柱、枕木、海中使用等

JASにおける保存処理性能区分と使用環境 (※16)

 「葉枯らし」という、立木を伐倒したあとそのまま枝葉を付けた状態で一定期間放置して、葉からの水分の蒸散を促す方法がありますが、含水率は確かに下がるものの乾燥材のレベルまで下がるわけではありません。さらに天然乾燥や人工乾燥が必要なのです。葉枯らしにより、辺材部の含水率が下がり、原木の重量を軽くして、集運材作業を容易にすることができます。また、心材の赤味が強調され、色つやを向上させる効果もあるといわれています。

 人工乾燥は、乾燥機に入れて、1週間から3週間程度の所要時間で、木材を強制乾燥する方法です。比較的、均一で安定した乾燥状態を得ることができます。しかし、乾燥の課程で、水分と一緒に木の脂分なども抜けてしまうため、色つやに劣るとされています。「高周波・蒸気複合乾燥」「蒸気式乾燥」「除湿乾燥」などの方法があります。

SD材とD材

 工場出荷後に何らかの加工がされることを前提とした乾燥材を「D材:未仕上材」といいます。一方、そのまま使用できる乾燥材を「SD材:仕上材」といいます。含水率を合わせて、「D15」などと、JASマークと一緒に表示されることがあります。従って、D材を使用する場合は、出荷時の寸法から削り代を考慮しなければなりません。また、含水率が25%以下のD25の材は、乾燥による収縮が2〜4%程度あるといわれていますので、その寸法も考慮しなければなりません。心去り材よりも心持ち材の方が密度が高いため、収縮率が高くなる傾向を示します。
薬剤の略号 使用薬剤
クレオソート油
AAC アルキルアンモニニウム化合物
ACQ 銅・アルキルアンモニウム化合物
ホウ素化合物
CCA クロム・銅・ヒ素化合物
NCU ナフテン酸銅
NZN ナフテン酸亜鉛
CUAZ 銅・アゾール化合物
BAAC ホウ素・第四級アンモニウム化合物
SAAC 第四級アンモニウム・非エステルピレスロイド化合物
AZAAC アゾール・第四級アンモニウム・非エステルピレスロイド化合物
AZN アゾール・ネオニコチノイド化合物

JASにおける保存処理薬剤と表示略号 (※17)

  SD=Surfaced Dried(表面仕上済乾燥材)
   =Dried(乾燥材)

木材と保存処理材

 日本工業規格(JIS)でも規格化されていますが、日本農林規格(JAS)に次の表(※16)のように、保存処理性能と使用環境がK1〜K5に区分されています。JASマークでも薬剤名(表※17)とともに、表記される例があります。かつて使われた木材保存処理材には、発癌性物質や重金属を含むものがありました。

AQ認証制度とFIPC表示

 JASやJISの他に、(財)日本住宅・木材技術センターによる優良木質建材等認証制度(AQ認証制度)があります。保存処理材、高耐久性プレカット部材、屋外製品部材などの対象品目(12品目)ごとに認証したものです。AQマークの例が図(※18)です。

AQマークの表示例 (※18)

 FIPCとは、木材表示推進協議会が行っている表示制度で、図(※19)のロゴが使われます。木材の品質や規格ではなく、原材料の原産地を明示することで、世界規模の森林減少の原因とされる違法伐採を防ぐことなどを目的としています。

 その他、各都道府県別の産地証明をしたマークや、住宅購入者が森林経営の持続性や環境保全などに配慮された森林から供給した製品を選択できるように、第三者機関が独自の基準に基づき分別・表示したFSC森林認証など各種の認証がありますが、農林水産省の外郭団体を増やしているだけのような気がします。

プレカット

 建築用材を事前に工場で加工しておくことをプレカットといいます。昔懐かしい木造の建設現場では、大工によって現場で木材の加工が行われていましたが、今ではそのような作業風景は見られなくなりました。NC工作機械等を使った、専門のプレカット工場もあります。

FIPCマークの表示例 (※19)

不燃木材について

公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の制定を初めとして、木材利用の推進が図られています。大規模建築物の防火のための構造制限(建築基準法)では、

  床面積が3,000u以下で、高さ13m以下かつ軒高9m以下
            →木造が可能
  床面積が3,000u以下で、高さ13mor軒高9m超で2階以下
            →1時間準耐火または30分の加熱に耐える措置
  床面積が3,000u以下で、高さ13mor軒高9m超で3階
            →1時間準耐火の措置
必要な燃え代 集成材、単板積層材 製材(含水率15%等)
大規模木造建築物 30分 25mm 30mm
準耐火構造 45分 35mm 45mm
1時間準耐火構造 60分 45mm 60mm

燃え代設計 寸法 (※20)
      ※防火地域や準防火地域においては、別な適用面積等があります

の規定がありますが、公共建築物においても、積極的に木造化を推進しようとする動きがあります。木造化ができない場合であっても、内装等での木材利用を推進しています。

 そうした中で、木材の不燃化処理をした製品が市場に出てきました。この製品は、主に内装等に使用される前提で販売されていて、建築物内部の火災拡大や煙の発生を抑制する性能(20分)を有したものです。しかしながら、2011年の6月の国土交通省の発表「不燃木材に関する不燃材料の大臣認定仕様との不適合について」によると、10社中、9社の不適合が確認されました。9割の製品が必要な性能を有していなかったのです。

 ちなみに、建築基準法で規定されている防火材料の要求性能基準は、不燃材料(20分)、準不燃材料(10分)、難燃材料(5分)です。

 木材の不燃(難燃も含めて)化ではありませんが、「燃え代設計」という方法があります。これは、火災時の大断面の製材や集成材の炭化速度の平均値がおよそ0.6mm/分であることから、建物の支持にに必要な構造断面に、表面の炭化する寸法(燃え代)をあらかじめ付加しておくというものです。鉄骨造の耐火被覆代わりに、木材で覆うというハイブリッド工法も出てきています。同じような考え方で木製の防火戸もあります。考え方を変えるだけで、多様な方法がありますね。

 燃え代寸法は、表(※20)の通りですが、JAS規格製品に限られています。


鹿追町ピュアモルトクラブハウス
北海道鹿追町
木材が多用されている建物
倉本たつひこ設計 1998年竣工

2010年7月8日撮影

木造住宅における木材のコスト

 在来の軸組構法の木造住宅における木工事の比率は、30〜40%といわれています。一般的な木材を使用した場合の材料費は、その20〜25%程度です。仮に、60万円/坪(約18万円/u)の工事費だったとします。すると木材のコストは、1.1〜1.8万円/uということになります。延べ床面積が120u(36.3坪)であれば、木材のコストは、総額で132〜216万円ということになります。かなり幅のある金額ですが、工事費全体に占める割合は、6〜10%です。仮に2割高い木材を使用したとしても、その差額は、26〜43万円なのです。それは、家全体の工事費の1〜2%です。そう考えると、品質の良い木材にお金をかけるべきだと私は思います。

木材市場の今後について

 日本は、世界でも希な森林王国といわれています。前述しましたが、国土の約66%が森林であり、その約41%(約1,000万ha)が人工林となっています。しかも、その約70%が戦後を中心に造成されたスギ・ヒノキの人工林なのです。その多くが、木材として利用可能となる50年生以上の高齢級をこれから迎えようとしているのです。

木材価格と素材生産費等の推移 (※21)
林業白書より

 しかしながら、日本における林業は、採算性の悪化、森林所有者の施業意欲の低下、林業所得の減少、林業就業者の減少、高齢化等の悪循環のため、長期的に停滞傾向にあります。図(※21/林業白書より)に見られるように、1980年頃に7万円/m3代の最高値を付けたスギ製材品も、現状では、4割程度の価格ダウンとなっています。しかもこの価格も、国際価格からみれば、必ずしも低いとはいえない状況であり、国産製材への期待が高まっているとはいえ、林業生産性の向上が求められています。これは何も林業だけではなく、日本における産業構造の多くが抱えている問題なのです。

 林業の生産性の向上はもちろんですが、森林が持つ生態系への貢献も見逃すことはできません。むやみな開発のための環境破壊や、保水性の低下による2次的な自然災害も最近は目立つようになってきました。

 乾燥した木材は、炭素を約250kg/m3貯蔵しているといわれます。平均的な木造住宅の木材使用量は25〜28m3ですから、1軒当たりの木造住宅が蓄えている炭素量は6〜7トンということになります。RC造のマンションの炭素蓄積量はその1/4にしか過ぎません。

 伐採をした森林に対して、持続的に植林を実施していれば、理論的には無限に続いて炭素を蓄積できるシステムが成り立っているといえます。

 RC造の校舎と比べて、木造の校舎は安定した湿度環境を維持しやすいため、風邪やインフルエンザにかかりにくいという研究成果もあります。木質フローリングの床は、じゅうたんやカーペットに比べて、ダニの繁殖が1/4になるともいわれています。また、木材には調湿効果もあり、人に優しい住環境を作りだしてくれます。


支笏湖そばの「苔の洞門」にて
2010年7月15日撮影

森林浴について

 レニングラード大学(ロシア)の生態学者ボリス・ペトロヴィチ・トーキン教授が、ギリシア古語の「フィトン(植物)」と「チッド(殺す)」を合成して名付けた、「フィトンチッド」という言葉は、かなり一般的に知られるようになりました。もとは、外敵から葉や幹などを守るための殺虫殺菌物質のことを指していたのですね。このフィトンチッドが、私たちのからだに触れて、気分をやすらげ活力を与えてくれるということから、「森林浴」という言葉が生まれました。毒性があっても、人には優しいというわけです。

 実際には、フィトンチッドは森林浴で気分をやすらげる機能の他に、抗菌・抗カビ作用、殺虫作用、昆虫誘引作用、植物成長促進・阻害作用、抗酸化作用、薬理作用など、多様な働きがあるといわれています。次の表(※22)は、主な樹種の精油成分の含有率を調べたものです。各種のところに掲載されていますが、正確な出典が判りませんでした。「最新木材工業事典/(社)日本木材加工技術協会」にも掲載されていますが、日本木材学会で大平辰朗氏が報告した文献にも掲載されているようです。

 α−ピネンはリラックス効果、リモネンは殺菌・防腐効果、リナロールは興奮・血圧降下効果、カンファーは興奮効果などがあるといわれています。

 木の表面をふんだんに見せた部屋に入ると、香しい臭いが漂っている感覚は、私たちの生活の中に根付いています。その香りが、新築はもちろんですが、長い年月を経た建物にも雰囲気を漂わせていることを、私たちのDNAが知っているのではないでしょうか。
樹種名 含有率(%) 主要成分
スギ 0.1〜1.0 δ-カジネン、β-オイデスモール、α-ムロレン、クリプトメリオール、クリプトメリジオール
ヒノキ 1.0〜3.0 α-ピネン、テルピネオール、リモネン、δ-カジネン、δ-カジノール、T-ムーロロール
ヒバ 1.0〜1.5 α-ピネン、ツヨプセン、セドロール、ウィドロール、カルバクロール、ヒノキチオール
クスノキ 2.0〜2.3 (+)-カンファー、1,8-シネオール、サフロール、リモネン、リナロール
コウヤマキ 1.0〜2.0 セドレン、セドロール、フィロクダデン
サワラ 0.5〜2.0 α-カジネン、α-カジノール、δ-カジノール
ネズコ 0.7〜1.0 α-ピネン、カンフェン、フェンケン、ボルネオール、ネズコン
アカマツ 1.0〜3.0 α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、リモネン、リナロール
ベイスギ 0.1〜1.0 β-ピネン、ツヤ酸メチルエステル、ツヤ酸、ネズコン、α-ツヤプリシン
ダクラスファー 0.1〜0.2 カンフェン、ゲルマクレン、δ-カジネン

主要樹種の精油成分 (※22)
含有率:絶乾重量に対する割合
最新木材工業事典/(社)日本木材加工技術協会
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049 断熱工法について(2012年1月8日)

 ひところ、「内断熱」は間違いであり、「外断熱」を選択しなかった日本のマンションは致命的な間違いを犯していたとの説が流布されましたが、それから10年以上経ています。しかし、日本のマンションは、未だに内断熱が主流です。それは、確かに内断熱には短所がありましたが、外断熱にも短所があったからです。いずれにも、それぞれに長所・短所があり、決定的にどちらが優れているとかの判定はできないからなのです。例えば、複雑な形状の建物には外断熱は難しいですし、バルコニーなどがある場合は、外断熱で施工するためには、簡単ではありません。もちろん、いずれの場合も、デザインやコストを無視すれば、解決方法はいくらでもあります。

 また、木造住宅にまで、「内断熱」対「外断熱」を持ち込んでしまったため、実態に合わない議論が交わされましたが、現在では、木造住宅は、基本的に「充填断熱」と「外張り断熱」という分け方が主流になっています。特に、日本の住宅の寿命が短いのは「外断熱でないから」などといった説明がなされましたが、極論に過ぎないと私は思います。築年数が古い、ほとんど断熱をしていない住宅もたくさんあります。問題だったのは、断熱に対する考え方などではなく、住宅のサイクルを短く考える文化があったからです。土地神話の崩壊がそれを否定しました。これからは、外断熱であろうが、外張断熱であろうが、充填断熱であろうが、建物のサイクルが長くなっていくのは間違いありません。

構造種別と断熱工法

 建物の構造別に、断熱工法を、大きく図(※1)の様に分けて考えます。もちろん、自社の独自の工法を謳っているところもありますので、それを否定するものではありません。また、木造住宅では、複数の断熱工法を採用した「付加断熱」という工法が最近は目立ってきました。それは、省エネ法における「次世代省エネルギー基準」を適合させるためには、単一の工法では、断熱材の厚さなどから施工的に難しくなるケースがあるからです。

断熱材について」の表(※3、4)で、住宅金融支援機構の木造住宅工事仕様書で定める「フラット35S」の断熱材厚さを掲載しました。これは、省エネルギー基準では、「次世代省エネルギー基準レベル」、品確法では、温熱環境性能が「等級4」に当たります。省エネ基準で定める各地域(T〜X/Y地域の沖縄には規定がない)において、性能値Cの熱伝導率の断熱材を利用した場合の、厚さ(mm)を示しています。性能値Cとは、グラスウールであれば住宅用グラスウール24Kor32K相当、ポリエチレンフォームであれば、A種の材料が該当します。

 確かに、木造住宅においては、充填断熱工法よりは、外張り断熱工法の方が断熱効率が良いことが判ります。それとともに、T地域などでは、採用する断熱材によっては、単一の工法での施工が難しいケースがでてくることがこの表から読み取れます。



         RC造:鉄筋コンクリート構造
            SRC造:鉄骨鉄筋コンクリート構造
S造:鉄骨構造

断熱工法の分類 (※1)

内断熱工法

 RC構造などで、現在も主流となっている断熱工法です。概念図が図(※2)です。基礎や地下で断熱区画をどうするかで、いくつかのパターンはありますが、基本的な考え方は、概念図のように、建物の躯体の内側に断熱材を配置する工法です。各階のスラブ部分が熱橋になるため、スラブの上下(図では、下側だけになっている)に折り返しの断熱材を配置しています。また、最上階だけは外断熱にする例が良くあります。

(内断熱工法のメリット)
  ・外断熱工法に比べてコストが安い
  ・施工が容易(施工法に歴史がある)
  ・蓄熱体としての容量が小さいため、冷暖房の立ち上がりに有利

(内断熱工法のデメリット)
  ・部分的に熱橋(ヒートブリッジ)ができやすく、断熱補強が必要
  ・外壁面の配線や配管が熱橋にならないように施工する必要
  ・建物の躯体が直接外気に触れているため、劣化が早い可能性がある

内断熱工法の概念図(※2)

外断熱工法

 RC構造などで、躯体の外周りを断熱材ですっぽり覆う考え方です。概念図が図(※3)です。

(外断熱工法のメリット)
  ・躯体コンクリートで室内の熱暖房冷房の熱量の蓄熱することができる
  ・蓄熱体があることによって、室内環境が安定する
  ・蓄熱体としての躯体を利用することにより、冷暖房費が押さえられる
  ・外気にさらされていないため、躯体コンクリート等の長寿命化が期待できる
  ・内壁は、コンクリートを露出することも可能なため、デザイン性の自由度が高い
  ・建物内部の配線や配管の自由度が高い

(外断熱工法のデメリット)
  ・内断熱工法に比べてコストアップする
  ・外装の断熱材の厚さに制限があり、断熱補強が必要になる場合がある
  ・蓄熱体としての容量が大きいため、冷暖房の立ち上がりに時間がかかる
  ・バルコニーなどを設置するとき、構造的に独立させなければ熱橋になる恐れがある
  ・壁厚さが増える
  ・内装をした場合、躯体の両面が見えないため亀裂等の劣化を発見するのが難しい
  ・外装側に断熱材があるため、断熱材によっては隣棟火災の影響を受けることがある
  ・外装材の自由度が低い

外断熱工法の概念図(※3)

充填断熱工法

 木造住宅で、軸組の内部に断熱材を充填する工法です。基礎周りや最上階・屋根の考え方にいくつかのパターンがあります。概念図が図(※4)です。

(充填断熱工法のメリット)
  ・断熱材に対する汎用性が高い
  ・比較的、施工性が良い

(充填断熱工法のデメリット)
  ・断熱材にすき間ができる施工に注意
  ・壁体内の電気などの配線が熱橋とならないように注意を要する

充填断熱工法の概念図(※4)

外張り断熱工法

 木造住宅で、建物の外回りを断熱材で覆うすっぽり覆う考え方です。基礎周りや屋根の考え方にいくつかのパターンがあります。概念図が図(※5)です。

(外張り断熱工法のメリット)
  ・建物形状が単純な場合、断熱計画がしやすい
  ・壁体内の電気などの配線がしやすい

(外張り熱工法のデメリット)
  ・内張り断熱工法に比べてコストアップする
  ・複雑な形状の外観には対応できない(対応すると、よりコストアップ)
  ・外装の断熱材の厚さに制限があり、断熱補強が必要になる場合がある
  ・バルコニーなどを設置するとき、構造的に独立させなければ熱橋になる恐れがある
  ・壁厚さが増えるため、開口部等の納まりに注意を要する
  ・土台周りの断熱材にシロアリ対策が必要
  ・木材の乾燥収縮に断熱材が追従できないことがある

外張り断熱工法の概念図(※5)

内張り断熱工法

 木造住宅で、内側に断熱材を配置する工法ですが、単独でこの工法を採用する例を私は知りません。少なくとも、寒冷地では無理でしょう。後述する付加断熱工法として、充填断熱工法や外張り断熱工法との併用例は多数あります。

付加断熱工法

 充填断熱工法に外張りを付加するか、充填断熱工法に内張を付加する工法です。さらに「外張り+充填+内張り」もあります。要するに、充填断熱工法や外張り断熱工法での断熱性能アップのための工法です。

熱橋(ヒートブリッジ)

 建物の内外に温度差があるとき、熱は高い温度から低い温度に流れます。熱伝導率が一様な場合は問題ありませんが、部分的に熱伝導率が高い部分があると、その部分の温度が周りに比較して低くなります。そのとき、その部分に結露を発生することがあります。熱橋(ヒートブリッジ)とは、部分的に熱伝導率が高くなった部分をいいます。要するに、熱が伝わる「橋」になるわけです。冬期、外部に面する窓ガラスが結露を起こしているとき、窓ガラスは熱橋になっているのです。






















結露

 空気中に含むことができる水蒸気の量の限界は、温度によって異なります。例えば、温度が30℃のときは、30.4g、20℃で17.3g、10℃で9.4g、0℃で4.8gです。いずれも湿度は100%です。これを飽和水蒸気量といいます。温度によって、空気中の飽和水蒸気量は変化するのです。

 冬期の窓ガラスに水滴が付くのは、同じ水蒸気量の空気の室内で、窓ガラスが熱橋(ヒートブリッジ)となって、飽和水蒸気量が下がったため、余剰となった水蒸気が水滴となって、窓ガラスに付いてしまうのです。この現象を結露といいます。結露は、断熱性能がもっとも低いところに顕著に現れます。

 結露を防ぐには、

  断熱性能を上げる : 熱橋(ヒートブリッジ)を作らない
  空気を循環させる : 部分的な余剰水蒸気を拡散させる
  乾燥させる    : 空気中の水蒸気量を下げる

といった方法が有効です。ですから、洗濯物を室内でたくさん干していたり、加湿器をかけていると結露は発生し易くなるのです。決して、加湿器を使うなといっているのではありません。加湿器を使ったときは、結露し易くなっていますので、結露した窓ガラスを拭くなどの管理が必要になるのです。また、冬の外気は乾燥しているから、外気を入れると良いといったりしますが、北海道の冬の外気は決して乾燥していませんから、北海道の場合は、まったく逆効果です。

定常計算と非定常計算

 難解な計算は省略しますが、外断熱を支持した「史上最大のミステーク」では、沖縄を除く日本の大半で、冬期に内断熱を施工したマンションでは、コンクリートの壁体内で必ず結露を起こしていると結論づけていました。理屈抜きで、結露が発生しているというのです。それを否定したのが非定常計算です。

 定常計算では、確かに壁体内で結露が発生するグラフになるのですが、実際の気象条件のもとでの建物部位の非定常の熱湿気性状を解析する非定常計算を行うと、内断熱でもコンクリートの含水率が多少高まる程度であるとされています。特にこの非定常計算により、夏型結露の予測・解析がされるようになってきました。最近は、コンピュターを利用したシミュレーションも行われているようです。

 このシミュレーションを調べていて、なるほどと思ったことがありました。それは、外断熱の方が、建物全体の熱容量が大きいせいか、全体的に室温が低くなる傾向にあるということです。冷暖房負荷が、内断熱(充填断熱)よりも大きいことが証明されています。

気流止め

 木造住宅に「外壁通気工法」という工法があります。壁体の外側に透湿防水シートを貼り、壁体の水蒸気が出やすい状態にしておきます。そしてその透湿防水シートの外側に通気層を設けてから外壁を貼るのです。空気は、通気層を通って、軒裏からあるいは屋根から外気に流れる様になっています。壁体内結露を防ぐ目的で、相当数のハウスメーカーがこの方法を採用しています。透湿防水シートには、タイベックスシートなどが有名です。木造住宅の外壁に貼っている、メーカー名などを書いた白いシートです。

 以上は、壁体の外側の話ですが、一方、壁体内の通気を考えてみますと、添付した参考図書や、ハウスメーカーの情報をみてもかなりの確率で、壁体内の通気を推奨しています。木造の長寿命化のためには、木材を乾燥させることが重要だという考え方です。

 それに対して、床下から壁の中を通って小屋裏まで空気の通り道があることは、冬場は冷気が通り、夏場は熱気が通るため、建物には良くないという考え方があります。その対策として、「気流止め」という工法が採用されるようになってきました。寒冷地では、これが常識となっています。特に、省エネ改修などでは必須の工法といえます。空気の通り道となりそうな部分に、木材やグラスウールなどで通気を遮断するのです。グラスウールをポリエチレンで圧縮梱包して、挿入後、ポリエチレンに切れ目を入れることで、膨らませ、すき間を埋めることができる専用品も出ています。ちなみにツーバイフォー工法などでは、パネル自体が端部で塞がれているため、気流止めは必要ありません。

スカート断熱

 寒冷地以外の方には、馴染みのない断熱工法ですが、建物の室外側からの基礎地盤の凍結を防ぐことと、基礎下からの室外側への熱流失を防ぐものです。基礎の外側に、スカートのように断熱材を水平(又は少し斜め)に敷くものです。ビーズ法ポリスチレンフォームや押出法ポリスチレンフォームが使用されます。ただし、北海道でも、最近はシロアリの被害が出ていますので、防蟻処理が必要になります。凍結深度の深い地域では、有効な工法です。ちなみに札幌の凍結深度は60cmですが、夏冬の温度差が60度以上もあるという陸別の凍結深度は、120cmもあります。凍結深度以下に施工された古い建物の断熱改修などにも有効な工法です。

最後に

 今回、断熱工法をまとめるにあたって、各種の情報を検索しました。しかし、余りにも色々な考え方があることに驚きました。まるで相反する説明も、多数見受けられました。いかに定まった考え方が少ないかも思い知らされました。かつて正しいとされていたことでも、現在は否定されていることもあります。壁体内の通気に対する考え方などはその代表例でしょう。日本のように、北と南で気候がこれだけ異なると、ある地域で正しいとされた工法が、他の地域では間違っているとされることもあると思います。建築に携わる身として、責任の重さを改めて実感したというのが正直なところです。

参考にした資料図書
 1)史上最大のミステーク/赤池学・江本央・金谷年展/TBSブリタニカ/19990708初版
 2)いい家が欲しい/松井修三/三省堂/19990210初版
 3)世界でいちばん住みたい家/赤池学・金谷年展/TBSブリタニカ/19980213初版
 4)100年マンションの誕生/江本央/東洋経済新報社/20020228初版
 5)外断熱は日本のマンションをどこまで変えるか/山岡淳一郎/日本実業出版社/20021120初版
 6)外断熱が危ない/西方里見/エクスナレッジ/20021201初版
 7)住んでわかった外断熱の家/大宮健司/学陽書房/20021209初版
 8)無暖房住宅のススメ/遠藤和彦/講談社/20061220初版
 9)いい家は無垢の木と漆喰で建てる/神崎髣m/20020829初版
10)続いい家は無垢の木と漆喰で建てる/神崎髣m/20090416初版
11)木造住宅工事仕様書/住宅金融支援機構/2010年(全国版)
12)その他インターネットによる各種情報(出典が明らかなもの)
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048 断熱材について(2012年1月6日)

 かつては、北海道でも「夏をむねとして」住宅が建てられていたと思わざるを得ない時代がありました。断熱材が入っていなかったからです。冬の朝、起きるのが辛かった記憶があります。初期の断熱材は、グラスウールから始まったと記憶しています。他にもあったかも知れませんが、目につくことはありませんでした。当初は、断熱材も30〜50mm程度の厚さだったせいか、少し保温性が良くなったという程度でした。私が記憶しているくらいですから、断熱材の歴史は、まことに浅いことになります。もう少し厚い断熱材になったころ、壁面や壁内の結露が問題になり始めました。断熱施工に対する研究が不十分だったからです。現在では、次世代省エネルギー基準を初めとして、高気密・高断熱住宅が盛んに喧伝されるようになっています。しかも、夏をむねとしていた本州方面の住宅にも高気密・高断熱が謳われるようになってきました。外断熱か内断熱かの議論もありました。そこで、その議論の前に、今一度、断熱材について整理してみたいと思います。
北海道陸別町の陸別保育所
夏冬の寒暖差が60度以上
2010年7月8日撮影

断熱材の種類

 実際には、膨大な種類があります。成分から、鉱物系、プラスチック系、自然系と分けたり、生成過程から繊維系、発泡系と分けたりします。成分から分けたときの主なものを列記してみます。

 (鉱物系)
  ・グラスウール
  ・ロックウール
  ・発泡ガラス

 (プラスチック系)
  ・吹付硬質ウレタンフォーム(現場発泡ウレタン)
  ・硬質ウレタンフォーム
  ・ビーズ法ポリスチレン(EPS)
  ・押出法ポリスチレンフォーム(XPS)
  ・フェノールフォーム
  ・高発泡ポリエチレン
  ・発泡炭化カルシウム

 (自然系)
  ・セルロースファイバー
  ・軽量軟質木質繊維
  ・炭化発泡コルク
  ・セルロースウール
  ・ココヤシ繊維
  ・綿状木質繊維、杉樹皮断熱材
  ・亜麻
  ・大麻
  ・羊毛(ウール)

熱伝導率(λ)について

 表(※1)を見てください。代表的な建材の熱伝導率を比較しています。あくまでも代表的な商品の熱伝導率を示していますので、商品により数値は変わりますが、いかに金属製品の熱伝導率が高いかが判ります。コンクリートが意外に低いようにも感じますが、高性能グラスウールと比較計算すると、44倍も熱伝導率が高いことが判ります。一方、「ガラスについて」でも書きましたが、ガラスの熱伝導率は割と低いのですが、ガラス製品は薄いために熱が伝わり易いのです。
材料名 熱伝導率
(λ)
密度他
W/mK kg/m2
370 8,300
アルミニウム合金 200 2,700
鋼材 53 7,830
ステンレス鋼 15 7,400
コンクリート 1.6 -
タイル 1.3 2,400
フロートグラス 1 2,500
土壁 0.69 1,280
普通レンガ 0.62 1,700以下
せっこうボード 0.22 700〜800
軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル) 0.17 500〜700
木片セメント板 0.17 1,000以下
PVC(塩化ビニル) 0.17 1,390
合板 0.16 420〜660
木材 1種 0.12 檜、杉、えぞ松、とど松等
畳床 0.11 -
断熱木毛セメント板 0.1 400〜600
住宅用グラスウール断熱材 16K  0.045 約16
高発泡ポリエチレン 1種2号 0.042 10以上
高性能グラスウール断熱材 24K  0.036 約24
発泡炭化カルシウム 0.037 -
住宅用ロックウール断熱材 0.038 30〜50
セルロースファイバー 0.038 -
ポリエチレンフォーム A 0.038 20〜40
ビーズ法ポリスチレンフォーム保温板  特号 0.034 27以上
吹付硬質ウレタンフォーム(現場発泡品) 0.026 25以上
硬質ウレタンフォーム保温板 1種1号 0.024 45以上
フェノールフォーム 1種 0.022 45以上

代表的な建材の熱伝導率 (※1)
(代表的な断熱材の熱伝導率を示していますので、商品により数値は変わります

 木造住宅で、壁内に断熱材を充填する工法ですと、柱などの軸組部分で断熱材が途切れる問題がありますが、木材は断熱材の数倍程度の熱伝導率のため、それほど問題にはなりません。もちろん、木材も種類により熱伝導率は異なります。また、断熱材もこの表以上の高性能を誇る製品が各種出ています。あくまでも代表的な数値と思ってください。

 ここで復習ですが、熱伝導率(λ)とは、ある物質があるとします。その物質の厚さを1mに設定します。その両側の気温差が1°Cのとき、その物質の表面から裏面まで、1u当たり、1時間に何キロカロリーの熱量が流れるかを示した値が熱伝導率です。

     λ=W/m・K=W/m・h°C

熱貫流率(U値)について

 表(※2)は、「熱損失係数について」でも載せましたが、国土交通省から出ている「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計及び施工の指針」にある「部位別の熱貫流率の基準値」です。これは、次世代省エネルギー基準にあたります。

 また復習です。熱貫流率(U値)とは、壁があるとします。壁の構成・部材・厚さは問いません。その両側の気温差が1°Cのとき、1u当たり、1時間に何キロカロリーの熱量が通過するかを示した値が熱貫流率です。

     U値=W/u・K=kcal/u・h・°C
種類 施工法 部位 熱貫流率の基準値 W/u・K
地域
T U V W X Y
鉄筋コンクリート造 内断熱工法 屋根又は天井 0.27 0.35 0.37 0.37 0.37 0.37
0.39 0.49 0.75 0.75 0.53 1.59
外気に接する部分 0.27 0.32 0.37 0.37 0.37
その他の部分 0.38 0.46 0.53 0.53 0.53
土間床等の外周 外気に接する部分 0.47 0.51 0.58 0.58 0.58
その他の部分 0.67 0.73 0.83 0.83 0.83
外断熱工法 屋根又は天井 0.32 0.41 0.43 0.43 0.43 0.43
0.49 0.58 0.86 0.86 0.86 1.76
外気に接する部分 0.38 0.46 0.54 0.54 0.34
その他の部分
土間床等の外周 外気に接する部分 0.47 0.51 0.58 0.58 0.58
その他の部分 0.67 0.73 0.83 0.83 0.83
その他 屋根又は天井 0.17 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24
0.35 0.53 0.53 0.53 0.53 0.53
外気に接する部分 0.24 0.24 0.34 0.34 0.34
その他の部分 0.34 0.34 0.48 0.48 0.48
土間床等の外周 外気に接する部分 0.37 0.37 0.53 0.53 0.53
その他の部分 0.53 0.53 0.76 0.76 0.76

部位別の熱貫流率の基準値 (※2)
「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計及び施工の指針」 より

断熱材の厚さ

 熱伝導率は1mの厚さの数値ですから、熱貫流率の式から以下の式が求められます。

     厚さ(t)=熱伝導率/熱貫流率
          =(W/m・K)/(W/u・K)=λ/U

 即ち、ある建材の熱伝導率を熱貫流率基準値で割ると、その建材の必要厚さが求められます。例えば、鉄筋コンクリート造の建物を外断熱で施工する場合、<T地域>の壁の熱貫流率の基準(次世代省エネルギー基準)は「0.49」ですから、

   ポリエチレンホームで断熱する場合
      0.038/0.49=0.077m=77mm

   住宅用グラスウール16kで断熱する場合
      0.045/0.49=0.092m=92mm
充填断熱工法の住宅における断熱材の必要厚さ
  断熱材がCの性能値の場合
部位 必要な熱抵抗値 断熱材の厚さ(mm)
u・K/W T地域 U地域 V〜X地域
屋根 6.6 265 185 185
天井 5.7 230 160 160
3.3 135 90 90
外気に接する床 5.2 210 210 135
その他の床 3.3 135 135 90
外気に接する土間床 3.5 140 140 70
その他の土間床 1.2 50 50 20

住宅支援機構が定める断熱材の厚さ/充填断熱工法 (※3)
住宅金融支援機構 2010年度 木造住宅工事仕様書より

となりますが、もし断熱材を入れないコンクリートで施工した場合
      1.6/0.49=3.26m

3mを超す厚さのコンクリートが必要なことになります。いかに断熱材が有効であるかが判ります。

住宅支援機構が定める断熱材の厚さ

 住宅支援機構が出している木造住宅工事仕様書をみると、断熱材の厚さの基準が定められています。例えば、C性能の断熱材(熱伝導率0.034〜0.030=W/m・K)の材料(高性能グラスウール16k、24k相当、ポリエチレンフォームA種など)利用した場合の厚さの基準です。充填断熱工法の場合(※3)と外張断熱工法または内張断熱工法の場合(※4)の厚さが出ています。これを見ると、T地域の壁には、充填断熱工法で135mm、外張断熱工法で120mmの断熱材を入れなければ
外張断熱工法又は内張断熱工法の住宅における断熱材の必要厚さ
  断熱材がCの性能値の場合
部位 必要な熱抵抗値 断熱材の厚さ(mm)
u・K/W T地域 U地域 V〜X地域
屋根 5.7 230 160 160
天井 5.7 230 160 160
2.9 120 70 70
外気に接する床 3.8 155 155 100
その他の床 - - - -
外気に接する土間床 3.5 140 140 70
その他の土間床 1.2 50 50 20

住宅支援機構が定める断熱材の厚さ/外張(内張)断熱工法 (※4)
住宅金融支援機構 2010年度 木造住宅工事仕様書より
なりません。かなり壁厚が厚くなってしまいます。V地域ですと、それぞれ90mm、70mmですから、それほどの問題とはなりません。しかし、ハウスメーカーのパンフレットなどを見ると、T地域でも、少し薄い断熱材を使っています。それは、より熱伝導率の低い製品を使ったり、前述した計算で、「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計及び施工の指針」をクリアしているとしているのでしょう。

各国との比較

 この図(※5)は、良く出てくるものです。ちょっと判りづらい図なのですが、熱損失係数で各国の省エネルギー基準を比較したものです。1999年の次世代省エネルギー基準で、熱損失係数がやっと欧米諸国と肩を並べるところまで来たというものです。ただ、北海道と東北の一部を除いて、高温多湿にある日本の気候を考えると、単純に熱損失係数だけを論議するのは間違っていると私は思います。北海道の高気密高断熱の住宅を、そのまま南日本に持って行っても、住みにくいことと同じだと思うからです。

主な断熱材の特徴

グラスウール

 廃ガラスを主成分として、熔解したガラスを繊維状にしたものです。最も多く、木造住宅や鉄骨住宅に使われています。断熱性能とともに、吸音性能が高いのが特徴です。価格も安く、切断加工が容易にできます。厚さやサイズも豊富に揃っており、密度(10・16・24・32kg/m3)も多様です。繊維を細かくした高性能グラスウールもあります。袋入りと裸の製品があり、施工時・解体時は繊維による皮膚への刺激や粉じんも発生するため、ゴーグルや防塵マスクの着用が必要です。

断熱材の国際比較 (※5)
(財)建築環境・省エネルギー機構より

 最大の特徴は、燃えにくく、有毒ガスも発生せず、シロアリが付きにくいことです。濡れると変形をして、断熱性能が落ちますが、その後乾燥すれば、復旧します。密度の低い製品を使っていた初期のころは、「ヤセ」が問題となりましたが、最近の高性能タイプでは、使われる製品も厚いものが多くなったため、そのような問題も少なくなりました。また施工不良などによる壁内結露により、カビが発生する問題もありましたが、施工技術の進歩により、その問題も改善されています。

ロックウール

 製鉄スラグや玄武岩などに石灰などを混合、高温熔解して繊維状にしたものです。耐火性に優れていることから、断熱材や吸音材の他に、アスベストの代替品として広く使われています。軽くて、性能や価格は高性能グラスウールとほぼ同等か、少し劣る程度です。吹付け用と成形品があります。耐熱性能は、400度のグラスウールより高く、700度までとされていますが、高温火災時には、グラスウールと同じく、生成時の接着剤が燃えるため黒煙を発生します。

発泡ガラス

 廃ガラスを炭素で発泡させたものをグラスウール状にしたものです。欧米では、かなり利用されているため、輸入品が主流でしたが、国内での商品化もされたようです。従来の製品には、ヒ素や六価クロム等の重金属の溶出が認められたという報告もあります。

 難燃性・耐水性・耐薬品性に優れ、シロアリの食害も受けません。また、通気性がなく、透湿しにくいため、地下室や基礎の外断熱に適しています。燃焼ガスの毒性が極めて少ないといえます。ただし、高価(高性能グラスウールの数10倍)です。


充填断熱によるグラスウール施工例

吹付硬質ウレタンフォーム(現場発泡ウレタン)

 ポリイソシアネートとポリオールを、触媒(アミン化合物等)、発泡剤(水、フルオロカーボン等)などと一緒に混合して、泡化反応と樹脂化反応によって均一なプラスチック発泡体にしたものです。現場において発泡作業が行われるため、継ぎ目のない連続した断熱層を得ることができます。小さな硬質状の泡の集合体であり、その中に熱を伝えにくいガスが封じ込められています。RC造を主体とする大型建築物に、主に用いられてきました。

 現在、主流になっているノンフロンタイプは、封入されているガスが空気となっているため、かつて指摘された経年劣化がほとんどなくなったといわれています。接着力が強く、木造等に使用する場合は、その引っ張り力に注意しなければなりません。

 建設時の火災などで、悲惨な事故例がありましたが、現在は、難燃タイプが主流となっています。施工中は、特に危険な状態です。一旦、火災が発生すると、鎮火することが困難な状態になります。非難燃タイプは黄色の製品でしたが、難燃タイプは青緑色やピンク色に着色されています。しかし、いずれも燃えると有毒ガスを発生します。

 硬質ウレタンフォームと金属を常時接触させておくと、金属との接触面に水が浸入すると、金属の腐蝕を起こす場合があります。そのため、金属表面の防蝕処理や硬質ウレタンフォーム表面に防湿処理を施す必要があります。

 また、吹付け厚さの管理は非常に重要な要素です。このように、吹付硬質ウレタンフォームは、いくつかの問題を抱えた製品ですが、現場対応が非常に容易な製品のため、多くの建築物に利用されてきました。ただし、木造住宅への利用は、余りありません。

硬質ウレタンフォーム(PUF)

 吹付硬質ウレタンフォームを工場で製品化したものです。外張断熱に最も多く利用されています。シロアリの被害を受けやすいので、基礎断熱に使用する場合は対策が必要です。現場発泡と同様に、難燃剤が含まれていますが、燃焼時に有毒なシアンガス等が発生します。

ビーズ法ポリスチレン(EPS

 ポリスチレンを主材料として、発泡剤等を添加して、発泡成形した製品です。いわゆる発泡スチロールのことです。人体に無害な無機質化合物なので、食品トレーなどに多く使われています。防蟻処理をした製品も出されています。軽くて、耐水性があり、金型により自由な成型ができます。ビーズ法といわれるように、一つ一つの粒の中に独立した気泡構造を持った断熱材です。ポリスチレンは炭化水素なので、燃やすと水と二酸化炭素になりますが、常温・大気中で燃焼させると、不完全燃焼を起こし大量の煤を発生させやすい性質があります。難燃剤を添加して、難燃性を向上させています。


既存の木造にグラスウールを
ブローイング工法で施工した例





ビーズ法ポリスチレン(EPS)
カッターによる切断小片が手前
この商品は、防蟻処理をしたものです

押出し法ポリスチレンフォーム(XPS)

 ビーズ法ポリスチレン(EPS)とほぼ同じ成分ですが、製造方法が異なります。ビーズ法よりも、気泡が若干大きい特徴があります。商品名のスタイロフォームが余りにも有名になりました。性質は、ほぼビーズ法ポリスチレン(EPS)と同様です。やはり耐熱性の低さや、シロアリの食害を受けやすいという問題があります。

フェノールフォーム(PF)

 フェノールとホルムアルデヒドを原料とする熱硬化性樹脂です。耐熱性、断熱性に優れており、製品からのホルムアルデヒドは殆ど発生しないとされていますが、フェノールによる皮膚に対する接触事故が知られています。絶縁体として利用されるベークライトはフェノールフォームの一種です。透質係数も低いのですが、若干高価です。石膏ボードや木毛セメント板との複合品もあります。熱伝導率は、断熱材としては最も低いレベルにあり、断熱性能は高いといえます。

高発泡ポリエチレン

 ポリエチレンを主材料として、発泡剤等により発泡させた製品です。この製品も独立した細かい気泡をもつ断熱材です。耐水性が高く、燃焼時の有毒ガスも少ないといわれています。商品名では、サニーライトが有名です。


押出し法ポリスチレンフォーム
カッターによる切断小片が手前

発泡炭化カルシウム

 炭酸カルシウムを発泡させた、完全独立気泡型の製品です。燃えなく、耐水性があり、耐薬品性もあり、害虫に強い性質があります。また、腐らず、加工し易い性質があります。燃焼ガスの毒性は極めて少ないといわれていますので、地下室の外断熱や基礎の断熱に適しています。価格はかなり高い商品です。

セルロースファイバー

 新聞古紙やダンボールを主原料として、粉砕し綿状にしたリサイクルエコロジー製品です。断熱性能は、住宅用グラスウール24、32kg/m3と同等です。湿式と乾式の施工方法があり、主に床や天井に施工されます。壁にも施工できますが、電気の配線等の対策が必要です。また、天井の照明器具も利用できないタイプがあるので、注意を要します。価格は、若干高めに設定されています。

 難燃性を確保するために、ホウ酸を添加しています。燃えても、黒煙や悪臭、有害物質を放出しません。また、ホウ酸による防虫効果があり、腐朽菌、シロアリ等にある程度対応しています。さらにホウ酸効果により、撥水性が保たれ、水を吸収しません。

軽量軟質木質繊維

 原料は木質繊維でリサイクルのエコロジー製品です。廃材などを利用して製品化されます。断熱性能は高性能グラスウールより若干劣るものの吸放湿が良いとされています。現在の価格はグラスウールの約3倍ですが、今後の増産により、コストダウンが期待されています。

炭化発泡コルク

 コルク樫や廃コルクを粉砕して、炭化発泡させた断熱材です。断熱性能は、住宅用グラスウール16k程度です。輸入品が主体であることと、断熱性能がそれほど高くないため、現状では、使用に制限があるといわざるを得ません。

断熱材の一般物性とフロンガス

 主な断熱材の規格と一般物性を比較してみます(※5)。一般物性については、商品により熱伝導率が高い商品もありますので、「〜以下」と表現しています。A種とB種がありますが、A種は、ノンフロンの断熱材です。発泡剤として二酸化炭素を使用しています。B種は、代替えフロン(次世代フロン)といわれていますが、HFC(ハイドロフルオロカーボン)を発泡剤として使用しています。HFCは、「建設リサイクル法と建築物の解体等(改修)に伴う有害物質について」でも記述しましたが、オゾン層の破壊はしないものの二酸化炭素の1,000倍以上の大きな温室効果を及ぼすといわれています。A種を使用すべきですね。

不燃材料と難燃等級および燃焼性

 断熱材のカタログなどでは、「難燃○級」という説明が出てきます。これは、建築基準法第2条に定める防火材料の「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」とは異なる規格です。通常火災による火熱に対して、加熱後20分間は要求性能を満たすものを不燃材料、同様に加熱後10分間が準不燃材料、5分間が難燃材料です。石膏ボードで例えると、厚さ12mm以上が不燃材料、9mm以上が準不燃材料、7mm以上が難燃材料にあたります。

 参考にいうと、異なる規格といいましたが、吉野石膏のホームページをみると、石膏ボード厚さ12.5mm以上は、難燃1級、厚さ9.5mmは難燃2級の認定を受けています。規格は異なりますが、建材としての要求性能に対する目安が判ります。

 一方、難燃○級とは、日本工業規格(JIS)が定める<JIS A 1321>の試験により、難燃1級、難燃2級、難燃3級に規定されるものです。吹付硬質ウレタンフォーム(現場発泡ウレタン)では、難燃2級はピンク色、難燃3級は青緑色とされています。
断熱材の名称 種類 熱伝導率
(23℃)
密度 使用温度 関連JIS
W/(m・K) (kg/m3) (℃)
グラスウール 10k 0.050以下 ------ 400以下 JIS A9504
16k 0.045以下
24k 0.038以下
32k 0.036以下
高性能16k 0.038以下
高性能24k 0.036以下
ロックウール マット 0.038以下 40〜150 650以下 JIS A9504
フェルト 0.038以下
ボード 0.036以下
吹込み用ロックウール 25k 0.047以下
35k 0.051以下
吹付け硬質ウレタンフォーム A種1 0.034以下● ------ ------- JIS A9526
A種2 0.034以下●
A種3 0.040以下●
B種1 0.026以下●
B種2 0.026以下●
A種硬質ウレタンフォーム 1種 0.029以下 35以上 100以下 JIS A9511
2種1号 0.023以下 35以上
2種2号 0.024以下 25以上
2種3号 0.027以下 35以上
2種4号 0.028以下 25以上
B種硬質ウレタンフォーム 1種1号 0.024以下 35以上
1種2号 0.025以下 25以上
2種1号 0.023以下 35以上
2種2号 0.024以下 25以上
A種ビーズ法ポリスチレンフォーム 特号 0.034以下 27以上 80以下 JIS A9511
1号 0.036以下 30以上
2号 0.037以下 25以上
3号 0.040以下 20以上
4号 0.043以下 15以上
A種押出法ポリスチレンフォーム 1種 0.040以下 20以上 80以下 JIS A9511
2種 0.034以下 25以上
3種 0.028以下 25以上
A種フェノールフォーム 1種1号 0.022以下 45以上 130以下 JIS A9511
1種2号 0.022以下 25以上
2種1号 0.036以下 45以上
2種2号 0.034以下 35以上
2種3号 0.028以下 25以上
3種1号 0.035以下 13以上
3種2号 0.035以下 13以上
A種ポリエチレンフォーム 1種1号 0.042以下 10以上 70以下 JIS A9511
1種2号 0.042以下 10以上
2種 0.038以下 20以上
3種 0.034以下 10以上
セルロースファイバー 25k 0.040以下 25以上 ------- JIS A9523
30k 0.044以下 35以上

主な断熱材の規格と一般特性 (※5)
● 推奨設計値

 同様に、断熱材のカタログには、「燃焼性」という項目があります。燃焼性と書いて、難燃○級などと出ているものもあります。燃焼性は、<JIS A 9511>の試験方法により、3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界線を越えて燃焼しないことが基本の性能です。メーカーにより「自己消火性」があると表現されます。燃え広がらないことになりますが、これは試験での条件の話です。実際の火災では異なったことになります。ポリスチレン系の断熱材に実際にライターで火を付けてみましたが、瞬間で燃え上がり、溶解して、厭な臭いとともに火は確かに消えました。しかし、火災時ではどうなるでしょうか?

 グラスウール板とロックウールは、建設省(旧建設省時代)告示1400号で不燃材料と認定されていますが、グラスウールが廃ガラスを溶解して作ることを考えると割り切れなさが残ります。ロックウールのところでも記述しましたが、グラスウールの耐熱温度は400度です。ロックウールでも700度です。住宅で通常火災が発生すると、室内の温度が火災発生5〜10分程度で500℃に達するといわれています。フラッシュオーバーが発生すると、室内温度は1000℃にまで達します。石やコンクリートは燃えませんが、鉄骨は溶けたり曲がったりします。

断熱材の選定について

 いろいろと断熱材の特徴を書いてきましたが、すべてに一長一短があり、決定打はありません。また、建物の構造によっても適不適があります。価格が高いからダメだということにもなりません。木造住宅では、グラスウールの安さが目立っていますが、次世代省エネルギー基準をクリアしようとしたとき、T地域などではその必要厚さが問題となります。RC造の大規模建築物では、欠点が多い吹付硬質ウレタンフォームですが、その施工性の優位から、未だに主流となっています。

 各種図書を読むと、自分が信奉する断熱材の良さを強調する余り、他の断熱材の欠点を、特に改善される以前の古い欠点をあげつらっている例が多く見受けられます。一番大事なことは、その断熱材の特徴や欠点を良く理解した施工がされているかどうかが、現時点のベストな選択だと私は思います。自然を追求するならば、自然素材系の断熱材もありますし、その欠点を補う設計や施工を追求すべきでしょう。


北黄金貝塚公園に復元された住居
約4,000〜6,000年前の縄文時代
外壁が自然素材で構成されている
一種の断熱材ともいえます
北海道伊達市 2010年7月15日撮影

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047 塗装について(2011年12月23日)

 建築材料に限らず、工業製品も含めてさまざまな塗料が世の中で使われています。分類の仕方も種々有り、また時代とともに変遷もしています。メーカー独自の基準で作られている塗料もありますし、各種の特殊効果を持たせた塗料もあります。また、2005年から2008年にかけて「新JIS制度」への移行がありました。移行に伴って変更・廃止された塗料のJIS日本工業規格(JIS K 5○○○で表される)があります。さらに、国際規格への対応などにより、今後も統廃合の可能性があるようです。表(※2)は、規格廃止されたものも含めたJIS番号と塗装の一般名称を表しています。

 ホームセンターなどの陳列をみると、鉄部・木部など使用部位別に分類している例が多いようです。建設現場では、設計図書に基づいて、使用塗料を決定していますが、設計段階では、意外と詳細な検討がされていないこともままあります。そこで今回は、公共建築協会が出版している「公共建築工事標準仕様書/平成22年版」、「公共建築改修工事標準仕様書/平成22版」、「公共木造工事標準仕様書/平成22年版」に出ている塗装工事をもとに整理してみたいと思います。平成22年版の仕様書は「新JIS制度」にも対応しています。


ホームセンターの塗装売場 (※1)
 括弧で表示した塗装の略号は、公共建築協会の略号です。他に独自の略号を利用している団体もあります。あくまでも参考としてください。

塗装の種類(公共建築協会の分類方法)

錆止め塗料
 鉄製品の錆止めを目的とした塗料です。工場で錆止め塗装をしてくることもありますが、現場に搬入されたときにキズがついていると、そこが錆の原因となります。また、錆が発生したところの上に、ただ錆止め塗料を塗っても、そこが錆の原因となったりします。錆が発生したところは、基本的には、ケレン(錆び落とし)をしてから塗装をする必要があります。最近では、鉄製品を痛めないように、ケレンをせずに錆を封じ込める商品も出ています。錆止め塗装と似た効果として、亜鉛メッキがありますが、こちらは工場でなければできません。

 錆止め塗料は種類も多く、効果は高いが毒性も高い製品もあります。鉄製品にとっては、この錆止め塗装が非常に重要な要素となっています。主に利用される頻度が高い錆止め塗料を列記してみます。また、使用部位に適不適もありますので、判断は設計事務所等の助言が必要かと思います。

 錆止め塗装は、カラーの錆止め塗装を使った場合以外、鉄製品の塗装の仕上となることは余りありません。しかし、鉄製品の仕上塗装をする前には、必ず実施しておかなければならない下処理です。特に、改修工事ではとても大事な工程となります。

 ◇一般錆止め塗料 <JIS K 5621>
   建設現場では、<5621>といった表現で使われる製品です。ホームセンターなどで売られている缶入りの商品には、JIS規格も表示していない製品が多いのですが、この製品の可能性があります。カタログを見ても判らないことがあります。カタログなどでは、「一般錆止め」と表記されることが多いようです。赤黒い色をしていることが多い製品です。特に指定をしないとこの錆止め塗料が使われることが多いようですが、あまりお勧めはできません。後述する<5623>や<5625>を使った方が良いでしょう。かつては、<5622><5627><5628>も使われましたが、新JISで廃止されました。

 ◇亜鉛化鉛錆止め塗料 <JIS K 5623>
   新JISでは、今のところ残っています。ある程度の錆止め効果が高い製品です。乾燥性も良く、仕上塗装との相性も良いです。色は、各種の色が使われています。

 ◇シアナミド鉛錆止め塗料 <JIS K 5625>
   鉄鋼面に錆止め塗装をする場合、<5674>とともに公共建築工事の標準になっている錆止め塗料です。錆止め効果も高く、乾燥性も良好です。仕上塗装との相性も良い製品です。

 ◇鉛酸カルシウム錆止め塗料 <JIS K 5629>
   亜鉛メッキ面との密着に優れているとされている錆止め塗料です。これも公共建築工事の亜鉛メッキ面の標準となっています。

 ◇鉛・クロムフリー錆止め塗料 <JIS K 5674>
   鉛とクロムを含まない、リン酸塩系の環境対応型の錆止め塗料です。作業性・付着性も良好です。溶剤はボイル油または、フタル酸樹脂ワニスを使います。後述するSOPとの相性が最も良い製品です。

 また、新JISで廃止されましたが、最近までかなり使用された錆止め塗料をあげておきます。
JIS規格番号 一般名称
JIS K 5421 ボイル油及び煮あまに油
JIS K 5431 セラックニス類(JIS規格廃止)
JIS K 5492 アルミニウムペイント
JIS K 5511 油性調合ペイント(JIS規格廃止)
JIS K 5516 合成樹脂調合ペイント
JIS K 5531 ニトロセルロースラッカー(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5533 ラッカー系シーラー(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5535 ラッカー系下地塗料(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5538 ラッカー系シンナー(JIS規格廃止)
JIS K 5551 鋼構造物用さび止めペイント
JIS K 5552 ジンクリッチプライマー
JIS K 5553 厚膜ジンクリッチプライマー
JIS K 5554 フェノール樹脂系雲母状酸化鉄塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5555 エポキシ樹脂雲母状酸化鉄塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5562 フタル酸樹脂ワニス(JIS規格廃止)
JIS K 5572 フタル酸樹脂エナメル
JIS K 5581 塩化ビニル樹脂ワニス(JIS規格廃止)
JIS K 5582 塩化ビニル樹脂エナメル(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5583 塩化ビニル樹脂プライマー(JIS規格廃止)
JIS K 5591 油性系下地塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5621 一般さび止めペイント
JIS K 5622 鉛丹さび止めペイント(JIS規格廃止)
JIS K 5623 亜酸化鉛さび止めペイント(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント(JIS規格廃止)
JIS K 5625 シアナミド鉛さび止めペイント(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5627 ジンククロメートさび止めペイント(JIS規格廃止)
JIS K 5628 鉛丹ジンククロメートさび止めペイント(JIS規格廃止)
JIS K 5629 鉛酸カルシウムさび止めペイント(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5633 エッチングプライマー
JIS K 5639 塩化ゴム塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5641 カシュー樹脂塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5646 カシュー樹脂下地塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5651 アミノアルキド樹脂塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5653 アクリル樹脂ワニス(JIS規格廃止)
JIS K 5654 アクリル樹脂エナメル(JIS規格廃止)
JIS K 5656 建築用ポリウレタン樹脂塗料(K5658に吸収統合)
JIS K 5657 鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料(K5659に吸収統合)
JIS K 5658 建築用耐候性上塗塗料
JIS K 5659 鋼構造物用耐候性塗料
JIS K 5660 つや有り合成樹脂エマルションペイント
JIS K 5663 合成樹脂エマルションペイント
JIS K 5664 タールエポキシ樹脂塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5665 路面表示用塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5667 多彩模様塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5668 合成樹脂エマルション模様塗料(JIS暫定継続規格品)
JIS K 5669 合成樹脂エマルションパテ
JIS K 5670 アクリル樹脂系非水分散形塗料
JIS K 5960 家庭用屋内壁塗料
JIS K 5961 家庭用屋内木床塗料
JIS K 5962 家庭用木部金属部塗料
JIS K 5970 建築用床塗料
JIS K 5673 安全色彩用蛍光塗料(JIS規格廃止)
JIS K 5974 鉛、クロムフリーさび止めペイント

塗装の種類とJIS規格 (※2)
 ◇鉛丹錆止め塗料 <JIS K 5622>
   錆止め効果が高い製品として利用されました。乾燥しにくい、仕上塗装との相性に制限がある、毒性が高いなどの欠点もありました。オレンジ色をしていることが多い製品です。

 ◇ジンククロメート錆止め塗料 <JIS K 5627>
   錆止め効果は余り高くなく、内部用に用いられたものです。

 ◇鉛丹ジンククロメート錆止め塗料 <JIS K 5628>
   錆止め効果がやや高い製品です。

 塗装とは異なりますが、「亜鉛メッキ」は鉄製品の表面に亜鉛の被膜を作って、錆や腐食に対して強力な効果を示します。亜鉛メッキには「ドブ漬け」や、薄い皮膜だけの「溶融亜鉛メッキ」などの種類があります。

 ◇亜鉛メッキ部の錆止め塗装
   切断面や現場溶接部など、亜鉛メッキをした製品への部分的な補修用塗料として、商品名ですが、「ローバル」という製品があります。複数の商品がありますが、錆止め塗料の代わりにこのローバル塗装するのも、一考です。ただし、コストはアップします。


日本塗料工業会の色見本帳

合成樹脂調合ペイント(SOP)
 亜麻の花から採れる亜麻似油などを主成分としたボイル油に顔料などを混ぜた塗料を<OP>といいますが、乾燥が遅いなどの欠点がありました。<SOP>は、長油性アルキド酸樹脂ワニス(長フタル酸樹脂ワニス)を顔料と混ぜて、乾燥を早くした塗料です。木部や亜鉛メッキを含む鉄部にも使用できます。JIS表示は、<JIS K 5516>の合成樹脂調合ペイントを使用した塗装です。一般に、ホームセンターなどで売られている油性ペイントはこれです。ただし、室内では問題ないのですが、耐候性に劣るため、外部での使用は、あまりお勧めできません。

 改修工事では、既存部が油性調合ペイント(OP)、合成樹脂調合ペイント(SOP)、フタル酸樹脂エナメル(FE)の塗り替えに適しています。

  顔料:塗料は、塗膜成分となる樹脂類に、色を付けるための顔料と揮発成分となる溶剤を主成分としています。鉱物質の無機顔料と人工の有機顔料があります。

  
樹脂類:天然産物である植物油脂や天然樹脂と石油化学製品を原料とする合成樹脂やセルロースなどがあります。

  
溶剤:適度な流動性と塗りやすさを得るために、樹脂類を溶解するものです。アルコール類、エステル類、炭化水素類、ケトン類などがあります。塗料の異臭が良く問題となりますが、溶剤から発する臭気が主な原因です。

クリアラッカー(CL)
 家具などで、顔料を含ませず、木の素地を生かした無色透明な仕上の塗料です。木部にしか用いません。下塗りには、ラッカー系シーラー<JIS K 5533>を用い、仕上にニトロセルロースラッカー<JIS K 5531>を使用します。乾燥が早いのが特徴です。光沢を出さないつや消しクリアラッカーもあります。

木部ラッカーエナメル(LE)
 クリアラッカーに顔料を入れたものです。乾燥が早く、筆ムラも出にくく、短時間で固い塗膜ができます。家具や造作材に使われます。公共建築協会の仕様書にはありませんが、家具の金属部や、自動車の外装、プラモデルにも用いられます。

  エナメル:JIS規格等では、透明な塗膜を形成するワニス(クリヤー)に顔料を加えて作られた、有色不透明な塗料全般をエナメルといいます。例えば有色のラッカー塗料は「ラッカーエナメル」と呼ばれます。

  
ワニス:ニスまたはバニッシュ、バーニッシュとも呼ばれますが、木材などの表面を保護するために用いられる透明で硬い上塗り塗料をワニス(仮漆)といいます。天然あるいは合成の樹脂を、ボイル油や乾性油で溶かした油ワニス、揮発性溶媒に溶かしたスピリット-ワニスなどがあります。

フタル酸樹脂エナメル(FE)
 「公共建築工事標準仕様書/平成22年版」から削除された塗料です。既存の塗装がフタル酸樹脂エナメルの場合の塗替対応として、「公共建築改修工事標準仕様書/平成22版」には残っています。前述の合成樹脂調合ペイント(SOP)を利用しても構いません。屋内の木部と鉄部に用いられました。JIS表示は、<JIS K 5572>のフタル酸樹脂エナメルを使用した塗料です。SOPに比べ乾燥が早いため塗りにくいとされますが、平滑性に優れ肌が良いので,内装の枠廻りなどの仕上げに多く使われました。

アクリル樹脂系非水分散形塗料(NAD)
  屋内のコンクリート面やモルタル面に用いられます。JIS表示は、<JIS K 5670>のアクリル樹脂系非水分散形塗料を使用した塗料です。シーラーレスで、古い塗装(AEP、SOP、VP、GP、多彩模様塗料、吹付タイル、アクリルリシン、アクリルスタッコなど)への塗り重ねに適正がある塗装です。速乾性もあります。

  NAD:Non Aqueous Dispersionの略で、エマルジョンが水系であるのに対して、溶剤系の塗料を指します。<非水>ということです。

  エマルジョン:乳濁液状態をエマルジョン(エマルション)といいます。有機溶剤の代わりに水を使った水性塗料のことをエマルジョンペイントといいますが、正確には水に溶けているわけではありません。あくまでもエマルジョンとは、<乳濁状=分散形>の状態をいいます。水に溶けている塗料は、水溶性塗料といいます。難しいですね。

耐候性塗料(DP)
 屋外の鉄部や亜鉛メッキ部、コンクリート面や押出成形セメント板等に用いられます。鉄部や亜鉛メッキ部では、下地処理の上、JIS表示は、<JIS K 5659>の鋼構造物用耐候性塗料で仕上をする塗料です。

 一方、コンクリート面や押出成形セメント板等では、次の三種類の樹脂が使われますが、下に行くほど耐候性が高くなります。住宅のサイディング等への改修に用いられるのがこの塗料です。要するに、平成19年版まであった、2液形ポリウレタンエナメル(2−UE)、アクリルシリコン樹脂エナメル(2−ASE)、常温乾燥形ふっそ樹脂エナメル(2−FUE)が統合されたのが、耐候性塗料です。

 ◇ポリウレタン樹脂塗料 <JIS K 5656>

 ◇アクリルシリコン樹脂塗料 <JASS 18 M−404>

 ◇フッ素樹脂塗料 <JIS K 5658>

つや有合成樹脂エマルジョンペイント(EP−G)
 コンクリート、モルタル、プラスター、石こうボード、その他ボード等、また屋内の木部、鉄部及び亜鉛めっき部に用いられる、非常に汎用性が高い水性塗料です。JIS表示は、<JIS K 5660>のつや有合成樹脂エマルジョンペイントです。水による希釈が可能なため、臭気が少なく溶剤の揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料です。

合成樹脂エマルジョンペイント(EP)
 コンクリート、モルタル、プラスター、石こうボード、その他ボード等に用いられる水性塗料です。JIS表示は、<JIS K 5663>の合成樹脂エマルジョンペイントです。塗膜は艶消しで不透明、壁や天井などに多く用いられています。抗菌性や耐洗浄性などの機能を付加した商品が出てきています。また、低VOC塗料にしたシックハウス症候群に対応する内装用水性塗料なども出てきています。






合成樹脂エマルジョン模様塗料(EP−T)
 合成樹脂エマルジョンペイント(EP)を用いた模様仕上の塗装です。模様仕上には、スチップル仕上・ゆず肌仕上げ・月面仕上などがあります。

ウレタン樹脂ワニス(UC)
 木部の塗装に使われ、硬く、耐水、耐摩耗性に優れています。光沢、半光沢などの表現ができます。ウレタン樹脂ワニスは、JIS規格ではなく、日本建築学会のJASSで規格が定められています。

 <JASS 18 M-301>は、1液形油変性ポリウレタンワニスで床材などに用いられます。
 <JASS 18 M-502>は、2液性ポリウレタンワニスで家具のカウンターなどに用いられます。床での使用はできません。外部での使用ができる製品もあるようです。

オイルステイン(OS)
 木部の着色や木目の素地を生かした風合いの塗装です。油溶性の顔料や染料を石油系の溶剤で溶かし、油性ワニス、ボイル油を配合して、木部に塗り、その後白木綿で拭き取るという工程を繰り返します。木に染み込ませる塗料ですが、それ自体には防虫・腐食防止の効果はありません。また、外部用として出されている製品は、オイルステンではなく、スティン風の仕上ができるとして販売されているようです。

  染料:顔料は、無機、有機を問わず微細な粒子が水や油に溶けず混ざっている状態をいいます。染料は、水や油に溶けた状態をいいます。正確には、より細かい粒子になっているのでしょうね。プリンタのインクにも染料タイプと顔料タイプがありますが、染料タイプは滲みやすいといわれています。

木材保護塗料(WP)

 日本建築学会の<JASS 18 M−307>で規格されている塗料です。防腐。防カビ、防虫効果のキシラデコール(商品名)が有名ですね。その他、撥水効果、防シロアリ効果、UVカット、耐摩耗性などの機能を持たせた製品が出ています。

マスチック塗料
 コンクリート面や押出成形セメント板、モルタル、ALCパネル面に、多孔質のハンドローラーを用いて、凸凹のパターンを構成する塗装です。ハンドローラーの形状により、各種のパターンがあります。仕上塗りには、つや有り合成樹脂エマルジョンペイント(EP−G)を塗ります。

 公共工事標準仕様書では、塗装工事以外にも、左官工事で仕上塗材を定めています。現実の建設工事では、「吹付け」あるいは「ローラー仕上」の場合は塗装業者、「こて塗り」の場合は、左官業者といった区分けがなされることが多いようです。仕上塗材を列記します。また、いずれもコンクリート、モルタル、ALC板、押出成形セメント板、石膏ボードなどに対応した製品が出ています。


薄付け仕上塗材
 代表的な製品として「砂壁状吹付材(リシン)」や「陶石状吹付塗材(スキン)」、「じゅらく」などがあります。仕上の形状は、「砂壁状」「ゆず肌状」「さざ波状」「平たん状」「凸凹状」などがあり、吹付け・ローラー仕上・こて塗りなどで仕上げられます。

厚付け仕上塗材
 「スタッコ」といわれる製品がこれにあたります。仕上の形状は、、「吹放し」「平たん状」「凸凹状」「ひき起こし」「かき落とし」「凸部処理」などがあり、吹付け・ローラー仕上・こて塗りなどで仕上げられます。立体感に富んだ重厚な仕上りになります。

複層仕上塗材
 一般に「吹付けタイル」といわれるものです。磁器や陶器のタイルとは関係ありません。多数の種類がありますが、標準仕様書の呼び名と通称を並べてみます。表(※3)

仕様書の呼び名 通称
複層塗材CE ポリマーセメントタイル
複層塗材Si シリカタイル
複層塗材E アクリルタイル
複層塗材RE エポキシタイルRE
複層塗材RS エポキシタイルRS

            複層塗材の種類 (※3)

 仕上の形状は、「凸部処理」「凸凹模様」「ゆず肌状」があり、こちらは吹付け・ローラー仕上のみで、こて仕上はありません。また、上塗り材の種類が表(※4)のようにあり、表の右側ほど耐候性があります。

樹脂 アクリル系 シリカ系 ポリウレタン系 アクリルシリコン系 フッ素系
外観 つやあり つやなし メタリック つやなし つやあり つやなし メタリック つやあり つやなし メタリック つやあり つやなし メタリック
溶剤系
弱溶剤系
水系

            複層塗材の上塗り仕上の種類 (※4)

軽量骨材仕上塗材
 軽量骨材仕上塗材とは、「吹き付け」て「砂壁状」に仕上げたものをですが、製品名では「パーライト吹付け」とか「ひる石吹付け」といいます。形状が「平たん」な仕上がりになる「こて塗」用の軽量骨材仕上塗材もあります。


 以上、説明した塗料の代表的な適用部位を表にしたものが(※5)です。参考にしてください。ただし、この表は公共建築協会発行の工事標準仕様書に掲載されている適用です。メーカーによっては、それ以外の適用を認めている場合もあります。

自然塗料

 公共建築協会の工事標準仕様書には出ていませんが、木製品などを中心に、植物や虫の分泌物などから成分を抽出して作られている「自然塗料」が、古(いにしえ)より使われてきました。デザイン的にも優れた塗料があります。また、木材が呼吸をしていると説明する人がいますが、死んだ細胞の集合体である木材は呼吸はしません。ただ、乾燥した木材には湿度の調節作用があります。自然塗料は、その湿度調節機能を損なわないといわれています。著名なものを列記してみます。

カシュー塗り
 インドやブラジルで採れる、カシュー樹の実を包む殻に含まれるフェノール性油(カシューナッツシェルオイル)を材料とする自然塗料です。塗膜外観や性能が漆によく似ていますが、漆ほどには硬化しません。ただ、需要が少ないという理由で、JIS規格から廃止されました。

柿渋塗り
 渋柿の果実を搾り、その果汁を発酵させて、数年間熟成させたものを「柿渋」といいます。日本では、木材の防腐及び紙や絹や木綿などの織物の防水や強度を高めるのに役立つものとして使用されてきました。渋紙、渋うちわ、番傘などがそれにあたります。建築では、松煙やベンガラなどの顔料に柿渋を混ぜて、下見板や、戸格子、板塀などに塗られてきました。
適用部位 木材 金属 コンクリート ボード類
錆止め塗料
合成樹脂調合ペイント(SOP)
クリアラッカー(CL)
木部ラッカーエナメル(LE)
フタル酸樹脂エナメル(FE)
アクリル樹脂系非水分散形塗料(NAD)
耐候性塗料(DP)
つや有合成樹脂エマルジョンペイント(EP−G)
合成樹脂エマルジョンペイント(EP)
合成樹脂エマルジョン模様塗料(EP−T)
ウレタン樹脂ワニス(UC)
オイルステイン(OS)
木材保護塗料(WP)
マスチック塗料
薄付け仕上塗材
厚付け仕上塗材
複層仕上塗材
軽量骨材仕上塗材

塗料の代表的な適用部位 (※5)

弁柄塗り(ベンガラ塗り)
 インドのベンガルに由来した塗料で、主成分は酸化鉄です。酸化鉄の結晶の形や大きさの違いで、黄・黄土・赤・紫・黒・などの種々の顔料になります。京町屋の外観をしつらえる紅殻格子(べんがらごうし)や滋賀県長浜地方の軸組などでは、防腐の目的で利用されてきました。

漆塗り
 漆の木の樹液を主成分とした天然樹脂塗料です。乾燥に時間が掛かりますが、硬く、アルカリや油に強く、光沢がある美しい仕上がりが得られます。蒔絵・沈金・螺鈿・彫漆などの技法が有名です。ただ耐候性が悪く、手入れに手間がかかります。

蝋(ロウ)
 採取方法から、下記のように色々な蝋があります。ちなみに蝋を英語名でワックスといいます。

  ハゼ蝋(木蝋):ハゼの実から抽出したもの
  
ウルシ蝋:漆の果実から抽出
  
蜜蝋:蜜蜂の巣から抽出したもの
  
カルナバ蝋:カルナバヤシの葉の裏から採取
  
イボタ蝋:イボタロウムシ(カイガラムシの一種)の分泌物

■塗料を溶剤により分類する

 塗料を溶剤により分類すると、「油性」、「水性塗料」、「弱溶剤塗料」、「強溶剤塗料」4つに分類されます。

油性塗料
 ボイル油などの油脂に顔料を混ぜたものです。合成樹脂調合ペイント(SOP)は、油性ではなく、溶剤形になります。

水性塗料
 水で希釈し、臭いが殆どなく、乾きが早く引火性がないことが特徴で、ホルムアルデヒドやVOCの放散量が殆どありません。また、消防法上、非危険物となるため火災の危険性が溶剤塗料より大幅に低くなります。一般的には、外壁や屋根、室内の天井や壁などに塗ることが多い塗料ですが、乾燥中に湿気が多いと、乾燥不良を起して、色むらや耐久力不足の原因になります。

弱溶剤塗料
 灯油と似た成分の石油系炭化水素で構成される塗料用の薄め液(塗料用シンナー)で希釈し、鉄部や木部に塗ることが多い塗料です。アクリル樹脂系非水分散形塗料(NAD)がこれにあたります。水性塗料に比べると臭いがあり、乾きも遅いですが、密着性や耐候性、仕上がり状態は水性塗料よりも優れています。一般的に市販されている油性塗料はこのタイプのものが多いです。

強溶剤塗料
 強い溶解力をもつラッカーシンナー、エポキシシンナー、ウレタンシンナーなどで希釈する塗料です。耐薬品性、耐水性等が特に求められる場所に塗装することが多いのですが、他の塗料に比べて非常に臭いため、住宅では殆ど使われなくなりました。しかし、塗料の性能としては他の2種類の塗料よりも上です。


室生寺の五重塔
古代の建物はベンガラに朱色の土や
黄土を混ぜて防腐効果も兼ねた
塗装をしていたといわれています

写真は2009年に撮影したものです




久能山 東照宮
権現造り総漆塗り極彩色の社殿
漆のことを英語では、
ラッカーまたはジャパンといいます
写真は、2009年に撮影したものです

塗装を仕上方法から分類する

つや
 つや有り、つや無し、半つや、七分つやなどといわれますが、つやの程度を表したものです。一般的につや有りの方が耐久性が良いとされています。また、つや有り塗装をしても、経年とともにつやは落ちてきます。あとは、好みの問題でしょうか?

無着色透明塗装
 木材の生地を生かした塗装方法です。代表的な塗装方法が次の3つです。

 ◇生地(木地)仕上
   ナチュラル仕上とも呼ばれますが、着色せずに、生地にそのまま透明塗料を着色するため、素材が丁度、水で濡れたようになって仕上がります。

 ◇白木仕上
   塗装による濡れ色を出さず、生地の色をそのままの仕上がりです。一見、何も塗っていないように見えます。

 ◇オイルフィニッシュ仕上
   マイクロフィニッシュ(浸透仕上)ともいいますが、オイルを染みこませて仕上げる方法です。素材色がオイルの濡れで強調され、一般に、生地仕上げよりも木質感が鮮明に表現されます。

透明着色塗装
 木材の生地を生かして、着色する塗装方法です。

 ◇ステイン仕上
   ステインとは「汚す」とか「シミ」の意です。素地着色、目止着色、塗膜着色などにより素材の持ち味を生かしながら、透明感を持たせたまま塗装する方法です。

 ◇トラディショナル仕上
   伝統式家具のように、クレージング(微細なひび割れを)やアンティーク技法を使用した塗装です。

不透明着色塗装
 ◇エナメル塗装
   不透明顔料着色剤により、下地が見えない仕上です。

 ◇ピアノ塗装
   エナメル塗装の一種ですが、ピアノの鏡面仕上げの様に、下塗りや磨きを繰り返して、光り輝く面を作り出します。

その他
 その他、塗装の表現方法は数限りなくあります。メタリック塗装、石目調塗装、パール塗装、スウェード調塗装、アンティーク塗装、ハンマートーン塗装、ちりめん塗装、クラッキング塗装、レザートーン塗装などは、名前を聞いただけでイメージが沸きますね。木材の導管が見える様に仕上げるオープンボアや、反対に導管を目止めでふさぐクローズドボアなどもあります。


公共建築工事標準仕様書
建築工事編
平成22年版
公共建築協会

下地処理について

 塗装工事には、各種の下地処理方法があります。すべての塗装で、すべての下地処理をするわけではありません。標準工事仕様書に基づいたり、設計図書に基づいたり、あるいは塗料メーカーの仕様に基づいたり、さらには現場の状況や予算によっても変わってくるのが下地処理です。しかも、ある意味、仕上塗装よりも大事な部分があります。特に、改修工事では、既存の塗装がどうなっているかで対応方法が変わってくることがあります。そのすべてを記述することはできませんが、下地処理の方法を列記してみます。

既存塗装の除去
 改修の場合、既存の塗装をどうするかが問題となります。除去するか、上に塗装をするかは、その状況により専門家が判断します。除去する場合は、ディスクサンダーやスクレーパーなどにより、全面除去を実施します。

汚れ・付着物・油類の除去
 素地を傷つけないように、ワイヤブラシ等で除去します。油類は、溶剤等で拭き取ります。

ひび割れ分の補修
 ひび割れ状態を残したまま塗装はできません。処理方法は下地の材料やひび割れの程度により、多様な方法があります。これについては、また機会を改めて書きたいと思います。

吸い込み止め/下地調整塗り
 ◇シーラー
   塗装前の下地強化や塗料の密着性を高めるための下地処理剤です。特に、改修工事など下地が劣化している場合は、必須です。溶剤(油性)タイプのシーラーと水性タイプのシーラーがあります。溶剤タイプは、速乾性に優れていますが、強烈な臭いを発します。どちらかというと、塗料の異臭よりも、シーラーの溶剤の異臭が問題になることが多いのです。また、それぞれに下地との相性があるので要注意です。

 ◇微弾性フィラー
   外壁のコンクリート面の吹付けタイル等の改修には、シーラーと同様な機能として、微弾性フィーラーを用います。フィラーは、防水性やひび割れ補修効果があり、シーラーよりも臭いが少ない特徴があります。

 ◇プライマー/バインダー
   吸い込みにくい下地の場合、塗装との付着性が落ちることになります。塗装との付着性を高めるために塗布するのがプライマーです。亜鉛メッキをした鉄部に塗装をする場合は、エッチングプライマー<JIS K 5633>が必須です。プライマーとは<初めに>という意味で、バインダーとは<結合する>という意味です。

 ◇サーフェーサー/プラサフ
   サーフェーサーとは、下地を均一な色にして上塗りの発色を良くしたり、下地を平たん化するなど、下地を整えることをいいます。プラサフとは、プライマーとサーフェーサーの両方の機能を指しています。

穴埋め・パテかい/パテしごき
  パテで処理ができると判定された下地のひび割れや穴を合成樹脂エマルジョンパテ(JIS K 5669>などで、埋めて不陸を調整します。パテ乾燥後、研磨紙ずりをした上で、全面にパテをしごき取り、平滑にします。

研磨紙ずり
 パテをかった後に、乾燥後、研磨紙で全面を研磨します。木部では、研磨紙P120〜220、鉄部ではP120〜320、コンクリート、モルタル、ALC版ではP120〜320を使用します。

逆プライマー
 シーリング材には塗料を変質される成分を含むものがあります。「シーリングについて」でも書きましたが、シーリングからその成分が塗装表面に出てくる「ブリード」を防ぐための下塗り材です。ブリードが生じない「ノンブリードタイプ」のシーリングもあります。

ウォッシュプライマー
 エッチングプライマー<JIS K 5633>のことです。塗装の付着が良くない鉄部、特に亜鉛メッキ部の下地塗装です。防錆効果もあります。アルミ用のウォッシュプライマーもありますが、アルミへの塗装はお勧めできません。また、ウォッシュプライマーは、表面をわずかに腐食させています。それで、付着性を良くしているのですが、厚塗りをしたり、湿度の高いときの施工は避けた方が良いでしょう。

寒冷紗(かんれいしゃ)張り
 各種のボードを塗装仕上げをする場合に、ひび割れを防ぐために、ボードのジョイント部に寒冷紗を張って、パテで止めます。その後、パテ付け、研磨を繰り返して平滑に仕上げます。ボードには、あらかじめ寒冷紗とパテの塗厚さを考慮して長辺部端部を薄く作ったジョイントボードというプラスターボードもあります。コンクリート面の塗装にも、ひび割れ防止を考慮して、寒冷紗を全面に張ることがあります。寒冷紗はもともと綿とか麻を利用しましたが、最近ではナイロン、ガラス繊維、カーボン繊維なども利用されています。


公共建築改修工事標準仕様書
建築工事編
平成22年版
公共建築協会

特殊な機能

 塗料は、建設現場で使われる資材のうちでも、特に変遷が早い材料です。かつてはよく使われた塩化ビニル樹脂塗装(VP)は、環境問題を主因として、限られた用途でしか使われなくなってきました。公共建築協会の標準工事仕様書からも消えています。一方、特殊な機能を持たせた製品が多数、出てきています。

遮熱塗料
 太陽光の反射率を高めることにより、遮熱効果を持たせたものです。一般の塗料の反射率は20〜30%ですが、30〜50%程度(色調により反射率が異なる)の反射率を持たせたものです。白では、70%台の反射率をカウントする製品も出ています。

耐熱塗料
 耐熱塗料自体は、古くから存在しています。熱伝導率が低い顔料を使用して、耐熱性が高いシリコーン樹脂などにより硬化膜を形成する塗料です。煙突やボイラー、プラントの配管等に使われてきました。温度300〜600℃程度までの耐熱性がある塗料から、800℃に耐える塗料が出ています。

断熱塗料
 塗装をすることにより、微細な中空層を形成し、断熱効果を発揮するというものです。ただ、遮熱塗料や耐熱塗料と混在した使われ方も見受けられます。

低汚染性塗料
 塗装面の上にコーティングすることにより、自然の雨を利用して、壁の汚れを落とす機能を持たせた塗料です。陶磁器タイルとの付着性能を向上させた製品も出ています。また、UVプロテクト機能も持たせた製品もあります。

皮脂軟化対策水性塗料
 面白いと思った塗料です。室内で、手が触れるところでは、皮脂により「汚れ」が付きやすくなり、「剥がれ」の原因にもなります。その皮脂がなじみにくく、浸透しにくくした塗膜を形成する塗料です。木部だけでなく、鉄部にも対応した製品が出ています。

その他
 光触媒塗料、耐酸塗料、遠赤外線放射塗料、高効率輻射塗料、防火塗料、抗菌塗料、脱臭塗料など、いろいろな付加機能を持たせた製品が出ています。


木造建築工事標準仕様書
平成22年版
公共建築協会

住宅の外壁の塗装

 住宅の外装には、タイル、木、モルタル、コンクリート、サイディングなどがありますが、サイディングにも金属製と窯業系があります。タイルは、通常、塗装はしません。木製の外壁は、デザイン的な観点から各種の塗装が考えられますので、ここでは記述しません。コンクリートやモルタル面の既存塗装が、複層仕上塗材(吹付けタイル)等の場合で、同じ塗装をかけるのであれば、同様の塗装方法を選択します。

 金属製のサイディングを塗装するのは、意外と難しいですね。鉄やガルバリウムのサィデングであれば、耐候性塗料(DP)が可能ですが、アルミニウムやステンレスのサイディングの場合、塗料の付着力が問題となります。ステンレスであれば、塗装をしないという判断もありますが、アルミニウムであれば、どうでしょうか? メーカーが認める塗料を塗るしかないのでしょうが、長期の保証は難しいでしょうね。逆にいうと、アルミニウムのサイディングは、塗り替え向きではないことになります。

 木造住宅では窯業系サイディングが最近は多く使われていますが、塗り替えには耐候性塗料(DP)を使用することになります。モルタルやコンクリートの外壁が平滑な塗装だった場合も、耐候性塗料(DP)が良いでしょう。塗り替えの判断基準は、新築後あるいは塗装後、10年前後となります。チョーキング(外壁を手で触ると塗料が粉になって付く状態)の発生があれば、再塗装が必要となります。再塗装をせずに放置すると、サイディングが劣化して、部分的に剥落することもあります。また、風呂の換気扇の排出口など蒸気が発生している付近の劣化も、進度が速いので注意が必要です。

 耐候性塗料(DP)のところでも記述しましたが、以下の塗装があります。


札幌市内の豊平館
1880年完成
1986年改修

塗装の極致ともいえる佇まい
ウルトラマリンブルーが鮮やかです
写真は、2007年のお色直しの後、
2008年に撮影したものです

  ◇ポリウレタン樹脂塗料    耐用年数 6〜9年程度

  ◇アクリルシリコン樹脂塗料  耐用年数 7〜13年程度

  ◇フッ素樹脂塗料       耐用年数 13〜20年程度

といわれていますが、あくまでも目安でしかありません。気象条件等によっては、もっと短くなります。他に、
  ◇アクリル樹脂塗料      耐用年数 4〜6年程度

がありますが、使用しない方が良いでしょう。逆にいうと、単価の安い業者が使ってくる可能性があります。

 サイディングの塗装でも、下地処理は重要な要素です。必ず高圧洗浄で汚れやチョーキングを落とす必要があります。その上でシーラーを塗り、付着性を高めておく必要があります。もし、サイディングに割れや欠落がある場合は、交換等の補修をしておく必要もあります。

 また、サイディングの場合、必ずシーリングがあります。シーリングの耐用年数は、塗装より短いのが通常です。フッ素樹脂塗料の耐用年数が長くても、その前にシーリングの劣化により、足場を架けてシーリングを打ち直す必要が出てくるのです。

 改修をする場合は、シーリングも再施工を検討する必要があります。塗装のタイミングとシールの施行順序の考え方は各種あります。古いシーリングを撤去したときに雨が降ると、雨漏りが発生します。当たり前ですね。既存のシーリングの状態を考えながら、施工順序を検討する必要があります。
JIS番号 一般名称 廃止理由
K5431 セラニックス類 需要が少ない
K5511 油性調合ペイント 需要が少ない
K5538 ラッカー系シンナー VOCを多く含む
K5554 フェノール樹脂系雲母状酸化鉄塗料 生産者が少ない
K5555 エポキシ樹脂系雲母状酸化鉄塗料 生産者が少ない
K5562 フタル酸樹脂ワニス 需要が少ない
K5581 塩化ビニル樹脂ワニス 需要が少ない
K5583 塩化ビニル樹脂プライマー 需要が少ない
K5591 油性下地塗料 需要が少ない
K5622 鉛丹さび止めペイント 有害重金属の鉛を多量に含む
K5624 塩基性クロム酸鉛さび止めペイント 有害重金属の鉛・クロムを多量に含む
K5627 ジンククロメートさび止めペイント 有害重金属の鉛・クロムを多量に含む
K5628 鉛丹ジンククロメートさび止めペイント 有害重金属の鉛・クロムを多量に含む
K5639 塩化ゴム系塗料 廃棄焼却時ダイオキシン発生のおそれ
K5641 カシュー樹脂塗料 需要が少ない
K5646 カシュー樹脂下地塗料 需要が少ない
K5653 アクリル樹脂ワニス 需要が少ない
K5654 アクリル樹脂エナメル VOCを多く含む
K5664 タールエポキシ樹脂塗料 発ガン性物質混入のおそれ
K5667 多彩模様塗料 需要が少ない
K5673 安全色採用蛍光塗料 需要が少ない

JISから廃止された規格 (※6)

住宅の屋根の塗装

 住宅の屋根が鉄製あるいはガルバリウム製の場合も、耐候性塗料(DP)を塗装します。外壁と異なるのは、錆の処理があることです。錆が発生していない場合は、問題ありませんが、錆が発生している場合は、錆を落とし、錆止め塗装をかけてから、耐候性塗料(DP)を塗ります。錆がひどい場合は、屋根材の補修が必要になってきます。また、前述した遮熱塗料などの選択も良いと思います。

最後に、塗装について

 JIS規格が改定されたと前述しましたが、廃止となったものの多くは、VOCや有害物質を含むものです。需要が少ないとの理由で、廃止されたものもあります。廃止とされた規格表(※6)をあげておきます。また、暫定継続となっているものも同様な問題を含んでいます。いずれ淘汰されていくでしょう。暫定継続の規格表(※7)もあげておきます。
JIS番号 一般名称 規格の問題点
K5531 ニトロセルロースラッカー VOCを多く含む
K5533 ラッカー系シーラー VOCを多く含む
K5535 ラッカー系下地塗料 VOCを多く含む
K5582 塩化ビニル樹脂エナメル 廃棄消却時ダイオキシン発生のおそれ
K5623 亜酸化鉛さび止めペイント 有害重金属の鉛を多量に含む
K5625 シアナミド鉛さび止めペイント 有害重金属の鉛を多量に含む
K5629 鉛酸カルシウムさび止めペイント 有害重金属の鉛を多量に含む
K5668 合成樹脂エマルション模様塗料 生産者が少ない

JIS暫定継続となっている規格 (※7)

 駆け抜けた説明でしたが、塗装は本当に難しいと思います。そして日々、変わっています。また、施工単価が、官庁工事と民間工事での乖離(かいり)が一番大きいのが、私は塗装工事だと思っています。逆にいうと、施工方法に幅があるのです。そして、各種の建築材料の表面に現れてくる工事なのです。適不適の判断も単純ではありません。建築士でも塗装を熟知している人はどれだけいるでしょうか? 専門の施工店もいろいろなレベルがあります。そうしたなかで、デザイン性にも優れて、コストパフォーマンスが良く、より耐久性がある塗装を選択する必要があります。そして、一番大事なことは、「住まい」をしている人の日々の管理だと私は思っています。もちろん、塗装だけの問題ではありませんね。
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046 津波に対する建造物の設計法を見直し(2011年12月11日)

「津波に対し構造耐力上安全な建築物の設計法等に係る追加的知見について」

 なんとも長い文章で、しかも一見して意味が良く判らないのが特徴ですが、これは2011年11月17日に、国土交通省が都道府県に対して通知したものの標題です。要するに、東日本大震災の被害を受けて、津波に対する従来の設計法を見直したということです。まだ暫定指針ということですが、通知文章の他に、次の資料が添付されています。

 ・津波に対し構造耐力上安全な建築物の設計法等に係る技術的助言について(概要)
 ・想定される設計用浸水深に耐えうる建築物の規模(例)
 ・津波危険地域における建築基準等の整備に資する検討」中間報告書
 ・津波危険地域における建築基準等の整備に資する検討」中間報告書その2

 下の2つの中間報告書には、津波被害の調査分析が詳細に出ています。特に、転倒したRC造(鉄筋コンクリート)建築物の主因が「浮力」であることや、「層破壊」「洗屈」、「漂流物による影響」などの検証が出ています。非常に、興味深い資料だと思います。

津波避難ビル等の構造上の要件に係る暫定指針の概要より(※1)

 津波浸水が予想される地域において、地域住民が一時的に緊急避難・退避する施設のことを「津波避難ビル」といいます。今回の津波でも、津波避難ビル自体にいて、残念ながら被災した例があったようです。その津波避難ビルの構造設計の際の、荷重設定が見直されました。表(※1)のように、従来は、一律に浸水深の3.0倍の静水圧を設定していましたが、今回の震災の被害状況を踏まえて、以下のように見直されました。一部軽減された内容になっています。

  @ 堤防や前面の建築物等による軽減効果が見込まれる場合   2.0倍
  A @のうち、海岸等からの距離が500m以上離れている場合  1.5倍
  B @、Aに該当しない場合                       3.0倍

 現在、各市町村等でハザードマップ等が策定(策定中の場合も含めて)されていますが、その指針となるものです。さらに、今回の震災の浸水被害を受けた建築物の約半数は、浸水深に相当する階の上階が被害を受けている例はあるものの、2階上の階が被害を受けたと確認できる例がなかったことから、想定浸水深に相当する階に、2を加えた階に、津波避難ビルの「避難スペース」を設定するように指導もしています。要するに、津波の高さが例えば、2階程度の高さで浸水してくる場合は、4階以上に逃げる必要があるとのことです。プラス2階以上の高さに、逃げて欲しいということです。

災害危険区域における建築制限に係る追加的知見より(※2)

 建築基準法では、都道府県や市町村は、津波・高潮・出水等により危険が著しいと予想される区域を「災害危険区域」として指定することができます。指定された地域では、建築物の制限等を受けることになります。その建築制限の考え方も表(※2)のように見直されました。従来の学校・庁舎・公会堂等に、医療施設や社会福祉施設等も建築制限の対象となりました。

 また、想定される設計用浸水深に耐えうる建築物の例示も出されました。RC造などのビルの場合は、図(※3)のように津波深が5m、10m、15mに対して、それぞれ3階建て(高さ11m)、5階建て(高さ18m)、7階建て(高さ25m)などとされています。木造の戸建て住宅の場合は、図(※4)のように、堤防などによる軽減効果を前提として、海岸からの距離が500m以内と以遠に分けて例示されています。

 また、同日の通知には、「海岸堤防等の復旧に関する基本的な考え方」なども出されています。

想定される設計用浸水深に耐えうる建築物の規模/RC造(※3)

想定される設計用浸水深に耐えうる建築物の規模/木造(※4)
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045「サービス付き高齢者向け住宅」が施行されました(2011年12月7日)

「高円賃」「高専賃」などが廃止

 2011年4月に「高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)」が改正され、2011年10月20日より、「サービス付き高齢者向け住宅制度」が施行されました。『サ高住』と略称されています。東日本大震災の直後の法律改正でしたが、「高円賃(高齢者円滑入居賃貸住宅)」や「高専賃(高齢者専用賃貸住宅)」、「高優賃(高齢者向け有料賃貸住宅)」の三制度が廃止され、「サ高住」に一本化されました。有料老人ホームについても、任意ですが、「サ高住」の登録をすることができます。その概念図が図(※1)です。

 廃止された「「高円賃」「高専賃」「高優賃」の条件等は、図(※2)のようになっていました。「高円賃」「高専賃」は、任意の登録制度でしたが、「高優賃」は認定制度だったことに特徴があります。また、法律の改正に伴って「高齢者居住支援センター(指定制度)」も廃止されました。

 「高齢者等居住安定化推進事業」は、「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」と「高齢者・障害者・子育て世帯居住安定化推進事業」との2本立てとなっています。


サービス付き高齢者向け住宅の概念図 (※1)

「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」の登録制度とは

 「サ高住」も、「高円賃」や「高専賃」と同様に任意の登録制度になっています。

【登録基準】(※有料老人ホームも登録可)

 《入居者》
    ・単身高齢者
      (高齢者:60歳以上、または要介護・要支援認定を受けている)
    ・高齢者+同居者

    ※東日本大震災の発生により、被災者への優先という事項が付加されています

 《ハード》
    ・床面積は原則25u以上
      (共同利用の居間、食堂、台所等が十分な面積を有する場合は18u以上)
    ・構造・設備が一定の基準を満たすこと
      (居住部分に台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えている)
    ・バリアフリー(廊下幅、段差解消、手すり設置)
区分 高齢者円滑入居
賃貸住宅
高齢者専用
賃貸住宅
高齢者向け優良
賃貸住宅
略称 高円賃 高専賃 高優賃
入居条件 一般 高齢者
(概ね65歳以上)
60歳以上の高齢者
規模・戸数 規定なし 5戸以上
専有面積 住戸専有 原則25u以上(設備共用の場合は、18u以上可)
設備 原則 各戸に台所、水洗便所、浴室
バリアフリー 規定なし バリアフリー対応
整備費助成 なし 支援あり バリアフリーも含めて助成あり
家賃助成 なし 助成あり
融資制度 制度あり

高円賃・高専賃・高優賃の比較 (※2)

 《サービス》
    ・サービスを提供すること
      (サービスの例:食事の提供、清掃・洗濯等の家事援助等)
    ・安否確認・生活相談サービスを提供
    ・社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所等の職員
     または医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援
     専門員、ヘルパー2級以上の資格を有する者が少なくとも
     日中常駐し、サービスを提供する
    ・常駐しない時間帯は、緊急通報システムにより対応

 《契約内容》
    ・長期入院を理由に事業者から一方的に解約はできない
      (居住の安定が図られた契約であること)
    ・敷金、家賃、サービス対価以外の金銭を徴収しないこと
    ・前払金に関して入居者保護が図られていること
      (初期償却の制限、工事完了前の受領禁止、保全措置・返還ルールの
       明示の義務付け)


 その他、契約前には、書面の交付による説明が必要などの要件が定められています。いずれにしても、ハード的には、従来の「高円賃」「高専賃」にバリアフリーが付加された上で、ソフト的には、従来明確でなかったサービスが整備されたといったところでしょうか。


サービス付き高齢者向け住宅 パンフレット

(国土交通省/厚生労働省)
<画像をクリックすると情報提供システムのホームページへ行きます>

「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」に登録するメリット

○建設・改修費に対する補助

 <補助率>
   新築1/10(上限100万円/戸)
   改修1/3 (上限100万円/戸)


  また、高齢者生活支援施設を合築・併設する場合は新築・改修費
  にも補助がでます
   新築1/10(上限1,000万円/施設)
   改修1/3 (上限1,000万円/施設)


   ※高齢者生活支援施設の例:デイサービス、訪問介護事業、
    居宅介護支援事業所、診療所、訪問看護事業所、
    食事サービス施設、生活相談サービス施設等

○住宅金融支援機構による融資

 建設・改修に必要な資金や中古住宅の購入に対する融資

  (融資条件)次の@〜Dの全てに該当する賃貸住宅

   @高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条第1項に規定する
   「サービス付き高齢者向け住宅」としての登録を受ける賃貸住宅
   A省エネルギー対策等級3以上の性能を有すること
   B融資対象となる賃貸住宅部分の延べ面積が200u以上
   C敷地面積が165u以上であること
   Dその他機構が定める技術基準に適合すること
○新築・取得した場合の税制の優遇

 ・所得税・法人税5年間割増償却40%(耐用年数35年未満28%)
    床面積要件: 25u/戸(専用部分のみ)
    戸数要件: 10戸以上

 ・固定資産税5年間税額を2/3軽減
    床面積要件: 30u/戸(共用部分含む)
    戸数要件: 5戸以上
    補助受給要件:国又は地方公共団体からサービス付き高齢者
    向け住宅に対する建設費補助を受けていること

 ・不動産取得税の減額
   家屋:家屋課税標準から1200万円控除/戸
   土地:家屋の床面積の2倍にあたる土地面積相当分の価額等を減額
    床面積要件: 30u/戸(共用部分含む)
    戸数要件: 5戸以上
    補助受給要件:国又は地方公共団体からサービス付き高齢者
            向け住宅に対する建設費補助を受けていること
 
   ※期限 2013.3.31までに新築または取得した場合
   ※新築(新築後まだ人の居住の用に供されたことのないものの
    取得を含む)であって、入居者と賃貸借契約を結ぶもの

  ※各地におけるサービス付き高齢者住宅の普及は、目をみはるものがあります。
   2013(平成25)年においても、募集は継続されています。
   詳細は、国土交通省の平成25年度サービス付き高齢者向け住宅整備事業
   をご覧下さい。(2013年4月12日追記)


法律改正の背景

 2010年から2020年の10年間で、日本の高齢者人口は、約2,900万人から約3,600万人、高齢者単身・夫婦世帯は、約1,000万世帯から約1,245万世帯に増加すると見込まれています(図※3)。

 要介護度の低い高齢者も特養申込者となっている現状(図※4)と、諸外国と比較(図※5)しても、高齢者住宅の不足は顕著なため、今後10年間をかけて、全高齢者に対する高齢者住宅の割合を3〜5%にするのが、今回の高齢者住まい法改正の目的となっています。

 国土交通省では、2011年度予算で、前年度から倍増の325億円を計上、今後10年間で60万戸を整備する方針です。

 また、従来は、「高円賃」や「高専賃」などは、国土交通省の所管でしたが、「サ高住」の整備には、介護保険との組合せにより、厚生労働省との共同所管としています。それに伴い、介護保険制度の改正も2012年4月から施行されます。


高齢者と高齢者世帯の推移予想 (※3)
(情報提供システムのホームページより)

背景にあった問題点

 例えば、「高専賃」は、国土交通省が所管していました。この制度ができたのは、高齢者の入居を敬遠する賃貸住宅解消が当初の目的でした。高齢者の入居を拒まない賃貸住宅を指定機関に登録することで、高齢者の住居探しを容易にしようとしたわけです。従って、住宅のグレードも付帯サービスもバラバラだったのが実態でした。国土交通省が付帯サービスなどを余り考えていなかったともいえます。

 また従来からある厚生労働省所管の「有料老人ホーム」は、居室の広さなどの条件を満たせば、かなり「サ高住」に近い形態だともいえますが、居室面積の狭い有料老人ホームもあったり、前払金、契約内容を巡るトラブルも多数発生していました。


特別養護老人ホーム申込者数と要介護認定度 (※4)

(情報提供システムのホームページより)

 高齢者施設といわれるものを考えてみるとよく判ります。厚生労働省所管の福祉施設というと、養護老人ホーム・生活支援ハウス・軽費老人ホームA/B・ケアハウスがあります。同じ、厚生労働省所管の介護施設としては、特別養護老人ホーム・老人保健施設・療養病床、そして各種の有料老人ホームがあります。それらの違いが縦割り行政のなか、どれだけの人が理解できていたでしょう。

 介護療養病床については、2012年3月31日までに、老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護施設等に転換し、制度が廃止されることになっていました。しかし、2010年6月現在、約8.6万床が未転換の実情から、法改正により、現在存在するものについては、6年間の転換期限延長が認められました。当初から、無理だろうといわれていた法改正が、実態に屈したことになったわけです。

 今回の法改正は、国土交通省と厚生労働省の共通所管として発足したことに意義があります。共同所管となったことにより、共に一歩引いては何にもなりません。今後の介護保険制度のあり方を見直すきっかけになることを期待しています。


諸外国における介護施設と高齢者住宅の定員数の割合 (※5)

(情報提供システムのホームページより)
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044 既存住宅の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)について(2011年11月25日)

      ※品確法が改正されています。(参照:085住宅性能表示制度の見直しについて

既存住宅に対する品確法とは

 品確法(旧宅の品質確保の促進等に関する法律)は、2000年に施行されましたが、対象は新築住宅に限られていました。当然、住宅性能表示制度も新築住宅だけを対象としていました。それが、2002年のからは、既存住宅を対象とする住宅性能表示制度がスタートしたのです。既存住宅とは、新築住宅以外のすべてを対象としています。また、新築時に性能表示制度を利用した建物も、経年と共に既存住宅となりますので、既存の制度を利用することができます。

既存住宅の性能表示制度の流れ (※1)
国土交通省 住宅性能表示制度ガイドより

既存住宅性能表示制度とは

 新築と既存では、性能表示制度の流れも基準も異なります。評価の流れは、図(※1)のようになっています。既存ですから、<設計性能>はなく、<現況検査・評価書>というものが出てきます。また、表示マーク(※2)も異なります。

 登録住宅性能評価機関は、国土交通省のホームページから「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の登録機関一覧を参考にしてください。これは、新築と同じ機関が対応するようです。紛争処理についても、新築と同様な対応になります。

既存住宅性能評価の表示マーク
(※2)

既存の住宅性能表示の評価書

 新築にはない以下の内容が示されます(登録住宅性能評価機関によって、表現の差はあります)。また、戸建て住宅は問題ありませんが、共同住宅では「住戸部分」と「共用部分」をセットで評価する必要があります。

 1)住宅に関する基本的な事項に関すること
 2)現況検査により認められる劣化等の状況に関すること
 3)建築設備に関する基本的な事項に関すること
 4)個別性能評価に関すること

「住宅に関する基本的な事項に関すること」とは

 概ね、以下の内容になっています。
   ・当該建物の概要
   ・新築の時期
   ・新築時の建築主、設計者、工事監理者、工事施工者、販売業者など
   ・確認申請書などの建築関係図書の有無
   ・住宅性能表示の有無(新築・既存)
   ・増改築の履歴
   ・被災の履歴
   ・耐震診断・劣化診断の履歴
   ・その他不具合等の記録

「現況検査」とは

 検査は、目視による非破壊検査(内部等を調べるために、一部を破壊したりしない)を原則としています。したがって、調査のため危険な部位とか調査が難しい部位には立ち入りません。戸建て住宅の現況検査のイメージは、図(※3)のようになります。基礎コンクリートや外装材のひび割れ、欠損等と、木造であれば小屋組などの割れ等が主な検査項目です。また、オプションで「特定現況検査」があり、木造の「腐朽等」と「蟻害」を調査することもできます。

既存住宅の現況検査のイメージ (※3)
国土交通省 住宅性能表示制度ガイドより

「建築設備に関する基本的な事項に関すること」とは

 住宅設備関連の目視等による確認と修繕・改善・取り替え等をヒアリングで記録します。住宅設備は、給水管・排水管・給湯管・給湯器・暖冷房設備・浄化槽などです。また、換気システム・電化厨房・ディスポーザー・浴室暖房乾燥機・セキュリティシステム・情報通信設備・複層ガラスを用いた窓なども特記すべき内容があれば、記録します。

「個別性能評価」に関すること

 新築住宅の性能評価基準は、10分野32事項が定められていましたが、既存住宅については、11分野29事項の性能評価基準が定められています。前掲の「現況検査」が11番目の分野として付け加えられます。新築住宅の性能評価とあわせてまとめたものが、図(※4)です。

 既存住宅の場合は、すべて選択項目となっています。また、新築時に建設住宅性能評価を交付されていなければ、性能表示の評価を受けられない事項もあります。

 基本的には、等級の設定は新築と同じですが、「構造の安定に関すること」などの性能表示事項には、等級1を下まわる”等級0”が設定されている事項があります。「高齢者等への配慮に関すること」でも、等級2と1の間に、”等級2−”が設定されています。

「既存住宅の性能評価」を受けるメリット

 一つの法律の基にある住宅の性能評価ですが、「新築」と「既存」の間には、かなり異なる内容があります。まして、新築時に性能評価を交付されている場合はともかく、性能評価を交付されていない場合は、何かメリットがなければ、評価を受ける意欲が出てこないともいえます。それでは、どんなメリットが考えられるでしょう。
性能表示事項 等級数 新築住宅 既存住宅
一戸建 共同住宅等 一戸建 共同住宅等
1 構造の安定に
  関すること
1−1耐震等級(構造躯体の倒壊等防止) 3+
1−2耐震等級(構造躯体の損傷防止) 3+
1−3その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) -
1−4耐風等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) 2+
1−5耐積雪等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) 3+
1−6地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法 -
1−7基礎の構造方法及び形式等 -
2 火災時の安全に
  関すること
2−1感知警報装置設置等級(自住戸火災時) 4
2−2感知警報装置設置等級(他住戸等火災時) 4
2−3避難安全対策(他住戸等火災時・共用廊下) 3
2−4脱出対策(火災時) -
2−5耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部)) 3
2−6耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部以外)) 4
2−7耐火等級(界壁及び界床) 4
3 劣化の軽減に
  関すること
3−1劣化対策等級(構造躯体等) 3
4 維持管理・更新へ
  の配慮に関すること
4−1維持管理対策等級(専用配管) 3
4−2維持管理対策等級(共用配管) 3
4−3更新対策(共用排水管) 3
4−4更新対策(住戸専用部) - ●1 △1
5 温熱環境に
  関すること
5−1省エネルギー対策等級 4
6 空気環境に
  関すること
6−1ホルムアルデヒド対策(内装及び天井裏) 3
6−2換気対策(居室の換気対策) -
6−2換気対策(局所換気対策) -
6−3室内空気中の化学物質の濃度等 -
6−4石綿含有建材の有無等 -
6−5室内空気中の石綿の粉じんの濃度等 -
7 光・視環境に
  関すること
7−1単純開口率 -
7−2方位別開口比 -
8 音環境に関すること 8−1重量床衝撃音対策 5
8−2軽量床衝撃音対策 5
8−3透過損失等級(界壁) 4
8−4透過損失等級(外壁開口部) 3
9 高齢者等への配慮に
  関すること
9−1高齢者等配慮対策等級(専用部分) 5+
9−2高齢者等配慮対策等級(共用部分) 5+
10 防犯に関すること 10−1開口部の侵入防止対策 -
11 現況検査により
   認められる劣化等
  の状況に関すること
11−1現況検査により認められる劣化等の状況 -
11−2特定現況検査により認められる劣化等の状況(腐朽等・蟻害) -
●:必須評価事項、○:選択評価事項、△:新築時に建設住宅性能評価が交付された住宅だけ選択評価事項
●1・△1:共同住宅及び長屋のみ適用   等級数で+表示は、既存独自の等級あり     2007年4月1日より施行

新築及び既存住宅の性能表示事項 (※4)

 国土交通省のパンフレットを見ると以下のメリットが例示されています。

  1)住まいの劣化や不具合が分かります
  2)住まいの性能が分かります
  3)安心・納得して既存住宅の売買ができます
  4)適切な維持管理や修繕・リフォームに役立ちます
  5)申込は、誰でもが可能です。買う人、売る人、仲介する人、住んでいる人、所有している人
    、管理している人、誰でもが可能です。(所有者等の同意は必要)
  6)第三者機関の評価員が性能をチェックするので安心
  7)万一のトラブルにも専門機関が対応してくれるので安心(新築と同じです)

既存の住宅性能評価の費用

 新築に比べて、調査項目が多いため、費用はアップします。これも登録住宅性能評価機関によって差異がありますが、ある会社の料金を見てみます。

 一戸建ての住宅の現況検査(税込)

   設計図書がある場合      94,500円
   設計図書がない場合     126,000円
   特定現況検査(腐朽・蟻害)  47,500円
      構造種別・規模によっても、多少異なります。

 また、現況調査をして問題が見つかって、修理をして再検査を依頼すると、31,500円の費用がかかります。以上は、現況検査だけの費用ですから、個別性能評価には、さらに、1事項あたり数千円から数万円の費用がかかります。新築時に建設性能評価が交付されている場合は、その半額程度のようです。さらに、耐震等級で図面がない場合は、別途見積となっています。

 共同住宅等の場合も、新築時よりは高額になるのは、当然です。このように、一戸建ての場合でも、設計図書がある場合とない場合では異なりますが、20〜40万円程度の費用がかかるとなると、評価を申請する人がどれほどいるか疑問が沸いてきます。国土交通省のホームページには、利用状況のデータが開示されていませんので推測するしかありませんが、かなり少ないことは間違いないでしょう。競争原理を働かして、費用を安くすると考えるのも簡単ですが、ちょっと争点が異なるような気がします。

 批判するのは簡単ですが、まだ歩き出したばかりの基準です。今後の中古住宅の動向を考えると、手法がより、洗練されて行くことで、大事な基準になっていくのではないでしょうか。注視したいと思います。

新築住宅の
住宅性能表示制度ガイド
国土交通省のホームページより


既存住宅の
住宅性能表示制度ガイド
国土交通省のホームページより
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043 新築住宅の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)について(2011年11月18日)

      ※品確法が改正されています。(参照:085住宅性能表示制度の見直しについて

品確法の目的

 品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)は、
  

      @住宅の品質確保の促進
     
A住宅購入者等の利益の保護
     
B住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決


を目的として、2000年に制定された法律です。したがって、品確法の対象は「住宅」に限られています
 当初は、新築住宅だけを対象としていましたが、2002年からは、既存住宅(中古住宅)を対象とした住宅性能表示制度もスタートしました。

   新築住宅:建物完成後、1年以内の建物をいいます

品確法の概要

 ○瑕疵担保責任の特例
   :新築住宅において、瑕疵担保責任の義務づけ等が定められた

 ○住宅性能表示制度
   :住宅の性能(詳細は後述)に関する共通ルールが定められた

 ○住宅に係る紛争処理体制の整備
   :トラブルを迅速に解決するための「指定住宅紛争処理機関」
    が整備された

品確法の主要構造部分 (※1)
国土交通省のホームページより

瑕疵担保責任の特例とは

 従来、新築住宅の取得契約(請負/売買)では、瑕疵担保(修補責任等)については、「特約」として契約書に添付されるのが通常でした。防水は10年とか、シーリングは2年とかいった特約が有効になっていました。しかし、品確法が定められたことにより、基本構造部分については、完成引渡しの日から10年間の瑕疵担保期間が義務づけられました。したがって、特約書が仮にあったとしても、この法律の方が優先することになるのです。

 ただし、基本構造部分とは、図(※1)のように、基礎や壁・柱などの構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分を指しています。例えば、窓周りのシーリングに瑕疵があり、8年目に漏水したようなケースは瑕疵担保責任の対象になります。したがって瑕疵担保保証期間10年以内ですから、販売(施工)した業者の責任で修補しなければなりません。と書くと簡単なようですが、一般の方には分かりづらいケースがあります。例えば、内装のボードに亀裂が6年目に入ったとします。ボード自体は、基本構造部分ではありませんから、瑕疵担保責任の対象にはなりませんが、原因を調べると、基本構造部分に異常があったから、ボードに亀裂が入った可能性もあるのです。その場合は瑕疵担保責任の対象になるのです。やはり、専門家に相談するのが良いのかも知れませんね。

 また、取得契約において、基本構造部分以外も含めた瑕疵担保責任を、特約を結ぶことによって、20年まで伸長が可能になることも定められました。

 瑕疵担保責任によって、請求できる内容も定められています。修補(修理)請求や損害賠償請求ができるのは当然として、売買契約で修補不能な場合は、契約の解除も認められています。

新築住宅性能表示制度とは

 品確法の制定に伴い、住宅の性能を表示する共通ルール(日本住宅性能表示基準と評価方法基準)が法律により定められました。この評価を受けるのは、「任意」です。したがって、評価を受けていなければ、対象とはなりません。評価の流れは、図(※2)のようになっています。

 客観的な評価を実施する第三者機関として、「登録住宅性能評価機関」が登録されています。登録住宅性能評価機関は、申請に基づき、評価方法基準に従って、住宅の性能評価を実施し、その結果を「住宅性能評価書」として交付します。

性能評価の流れ (※2)
国土交通省 住宅性能表示制度ガイドより
 住宅性能評価書には、設計段階に評価を実施した<設計住宅性能評価書>と、施工段階と完成段階の検査を経た評価結果をまとめた<建設住宅性能評価書>の2種類があり、それぞれ法律に基づきマーク(※3)が表示されます。任意の申請ですので、いずれも料金がかかります。

 住宅性能評価書(写しを含む)を契約書に添付することにより、住宅性能評価書の記載内容を契約に生かすことも出来ます。なかなか素人が判断できなかった品質・仕様等が、性能評価として保証されることになるのです。住宅購入者側に立った契約ができるようになった訳です。その他、いくつかのメリットについては、後述します。

性能評価の表示マーク (※3)

 登録住宅性能評価機関は、国土交通省のホームページから「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の登録機関一覧をご覧下さい。大臣登録及び各地方整備局毎の登録機関が掲載されています。

住宅の紛争処理体制について

 住宅性能評価書が交付された住宅は、国土交通大臣が指定する「住宅紛争処理機関」に紛争処理を申請することが出来ます。紛争処理機関への申請料は、1件あたり1万円ですが、裁判によらずに、住宅の紛争を円滑・迅速に処理することができます。また、住宅性能評価書の記載内容以外にも、請負契約・売買契約に関する当事者間のすべての紛争の処理を扱うことになっています。

 全国にある各単位弁護士会(全国52会)が、指定住宅紛争処理機関となっています。また、東京都にある住宅紛争処理センターは、そのバックアップを行うことになっています。

住宅性能表示基準とは

 新築住宅については、10分野32事項が定められています。10分野には、2005年からは、「防犯に関すること」が増えて、以下のようになりました。

   1.構造の安定に関すること
   2.火災時の安全に関すること
   3.劣化の軽減に関すること
   4.維持管理への配慮に関すること
   5.温熱環境に関すること
   6.空気環境に関すること
   7.光・視環境に関すること
   8.音環境に関すること
   9.高齢者等への配慮に関すること
  10.防犯に関すること

 たとえば、1の分野の「構造の安全に関すること」には、次の7つの事項があります。

    1−1 耐震等級(構造躯体の倒壊防止)
    1−2 耐震等級(構造躯体の損傷防止)
    1−3 その他(地震に対する構造躯体の倒壊防止及び損傷防止)
    1−4 耐風等級(構造躯体の倒壊防止及び損傷防止)
    1−5 耐積雪等級(構造躯体の倒壊防止及び損傷防止)
    1−6 地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法
    1−7 基礎の構造方法及び形式等

 1−1の耐震等級(構造躯体の倒壊防止)は、地盤に対する構造躯体の倒壊、崩壊等のしにくさを等級で表示することになっています。

    等級3 極めて希に(数百年に一度程度)発生する地震による力の1.5倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度
    等級2 極めて希に(数百年に一度程度)発生する地震による力の1.25倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度
    等級1 極めて希に(数百年に一度程度)発生する地震による力に対して倒壊、崩壊等しない程度

          数百年に一度の地震とは、震度6強から7程度に相当するとされています。


 また、1−3その他(地震に対する構造躯体の倒壊防止及び損傷防止)は、免震構造の建築物か、否かの2択で表示されます。免震構造と確認された場合は、1−1と1−2の評価は行いません。

 また、5の分野の「温熱環境に関すること」には、1つの事項があります。

    5−1 省エネルギー対策等級

 これについては、「熱損失係数について」でもふれましたが、図(※4)の様に、等級が4段階あり、「省エネ法」に定められた基準に準拠して評価されます。
温熱環境性能 省エネルギー基準 地域区分によるQ値(熱損失係数)
T U V W X Y
等級4 次世代省エネルギー/1999(平成11)年基準 1.6 1.9 2.4 2.7 2.7 3.7
等級3 新省エネルギー/1992(平成4)年基準 1.8 2.7 3.3 4.2 4.6 8.1
等級2 旧省エネルギー/1980(昭和55)年基準 2.8 4.0 4.7 5.2 8.3
等級1 旧省エネルギーに満たないレベル
省エネルギー基準の段階と温熱環境性能 (※4)

 新築の住宅性能表示基準を、一覧にしたものが、図(※5)です。詳しい説明は、国土交通省のホームページから「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の「住宅性能表示制度(新築住宅)の解説」をご覧下さい。

住宅性能評価を受けるメリット

 1.住宅性能評価を受けた住宅は、地震保険料が優遇され、耐震性能の等級に応じて地震保険料率の割引を受けることができます。

 2.2009年10月1日から施行された「住宅瑕疵担保履行法」による「住宅瑕疵担保責任保険」の加入の際に、住宅性能表示制度をセットで利用すると、優遇されます(各保険法人で内容は異なります)。

 3.民間金融機関の住宅ローンや住宅金融支援構提携フラット35などの優遇を受けられます。
フラット35の場合は、設計・中間現場検査の手続を省略し、竣工現場検査・適合証明の申請手続きのみで、適合証明書の交付を受けることができるようになりました(竣工後であっても申請可能)。

「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)」とは

 瑕疵が発見されたときその建設業者(または販売業者)が倒産していた場合、消費者は瑕疵の対応を受けることができませんでした。「担保責任の履行の確保に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)」が施行されたことにより、建設業者(または販売業者)が倒産して補修等を受けられない場合になったとしても、消費者は保険会社等からその補修費用を受け取ることができるようになりました。
新築住宅の性能表示事項 等級数 一戸建 共同住宅等
1 構造の安定に
  関すること
1−1耐震等級(構造躯体の倒壊等防止) 3
1−2耐震等級(構造躯体の損傷防止) 3
1−3その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) -
1−4耐風等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) 2
1−5耐積雪等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止) 3
1−6地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法 -
1−7基礎の構造方法及び形式等 -
2 火災時の安全に
  関すること
2−1感知警報装置設置等級(自住戸火災時) 4
2−2感知警報装置設置等級(他住戸等火災時) 4
2−3避難安全対策(他住戸等火災時・共用廊下) 3
2−4脱出対策(火災時) -
2−5耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部)) 3
2−6耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部以外)) 4
2−7耐火等級(界壁及び界床) 4
3 劣化の軽減に
  関すること
3−1劣化対策等級(構造躯体等) 3
4 維持管理・更新への
  配慮に関すること
4−1維持管理対策等級(専用配管) 3
4−2維持管理対策等級(共用配管) 3
4−3更新対策(共用排水管) 3
4−4更新対策(住戸専用部) - ●1
5 温熱環境に関すること 5−1省エネルギー対策等級 4
6 空気環境に関すること 6−1ホルムアルデヒド対策(内装及び天井裏) 3
6−2換気対策(居室の換気対策) -
6−2換気対策(局所換気対策) -
6−3室内空気中の化学物質の濃度等 -
6−4石綿含有建材の有無等 -
6−5室内空気中の石綿の粉じんの濃度等 -
7 光・視環境に
  関すること
7−1単純開口率 -
7−2方位別開口比 -
8 音環境に関すること 8−1重量床衝撃音対策 5
8−2軽量床衝撃音対策 5
8−3透過損失等級(界壁) 4
8−4透過損失等級(外壁開口部) 3
9 高齢者等への配慮に
  関すること
9−1高齢者等配慮対策等級(専用部分) 5
9−2高齢者等配慮対策等級(共用部分) 5
10 防犯に関すること 10−1開口部の侵入防止対策 -
●:必須評価事項  ○:選択評価事項  ●1:共同住宅及び長屋のみ適用   2007年4月1日より施行
新築住宅の性能表示事項 (※5)
 住宅瑕疵担保履行法は、住宅を建設(または販売)した業者に対して、保険加入(または供託)が義務付けられています。ただし、その費用は住宅の販売代金に上乗せされていると考えた方が良いでしょう。

新築の住宅性能評価の費用

 登録住宅性能評価機関によって、費用に多少の差異があります。また、評価機関と申請建物が離れている場合は、出張旅費と日当が加算されます。

 ○一戸建ての住宅の場合
   設計住宅性能評価 40,000〜60,000円程度
   建設住宅性能評価 80,000〜100,000円程度
   構造種別によっても、多少異なります。
   建物規模が大きかったり、地階や階数が多い場合も加算されます。
   温熱環境測定や化学物質濃度測定も加算されます。

 以上を見ると、設計と建設の両方を取得すると、構造種別に関わらず、20万円弱の費用がかかると見た方が良いでしょう。

 ○共同住宅等の場合
   費用計算は、構造種別、規模、戸数等によって、大きく変わりますが、概ね一戸建てよりは、廉価になるのは間違いないでしょう。
年度 設計住宅性能評価
交付戸数(A)
着工戸数(B) 割合(A/B)
2001年度 61.671戸 1.173,170戸 5.3%
2002年度 93,645戸 1,145,553戸 8.2%
2003年度 137,214戸 1.173,649戸 11.7%
2004年度 163,238戸 1,193,038戸 13.7%
2005年度 195.294戸 1,249,366戸 15.6%
2006年度 255.507戸 1,285,246戸 19.9%
2007年度 217.450戸 1.035.598戸 21.0%
2008年度 200,097戸 1,039,214戸 19.3%
2009年度 148.457戸 775,277戸 19.1%
2010年度 193,581戸 819.020戸 23.6%
住宅着工戸数と設計住宅性能評価交付戸数の割合 (※6)


住宅性能評価交付状況と傾向

 国土交通省のホームページをみると、2001年から2010年度の住宅着工戸数と設計住宅性能評価交付数の推移(※6)がでています。この数年間は、2割程度が実勢のようです。やはり、性能評価を受けるためのコストアップが、障害になっているともいえます。

 また、2009年度の一戸建てと共同住宅等の普及率は、図(※7)の通りです。同じデータの2009年度の統計の詳細を見ると、傾向がよく判ります。設計住宅性能評価の交付率は、戸建てで19.9%、共同住宅等で18.4%です。建設住宅性能評価の交付数が受付数を上まわっているのは、前年度以前の受付が含まれているからです。

 それでは、<一戸建て>と<共同住宅等>での傾向を、いくつかの性能表示事項でみてみます。

住宅性能表示の普及率 2009年度 (※7)
<一戸建ての場合> <共同住宅等の場合>

 図(※8、9、10)では、性能評価を受ける住宅の9割近くが、<1−1耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)>及び<1−2耐震等級(構造躯体の損傷防止>で「等級3」を選択しています。しかし、<1−3その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止>の免震を選ぶ住宅は1%にも満ちていません。しかし、東日本大震災の影響からこの数値は、アップしていくでしょう。今後の動向に注目したいと思います。

 図(※17、18、19)のように、耐震関連では、一戸建てとは逆に「等級1」が9割を占めます。一方、免震構造は、戸建てよりは大きい数値ですが、1割近くがやっとです。これは、性能評価の等級を選択するのが、販売する側だということも影響しています。

1-1 耐震等級の割合(戸建て) 2009年度 (※8)

1-1 耐震等級の割合(共同住宅等) 2009年度 (※17)

1-2 耐震等級の割合(戸建て) 2009年度 (※9)

1-2 耐震等級の割合(共同住宅等) 2009年度 (※18)

1-3 その他で免震の割合(戸建て) 2009年度 (※10)

1-3 その他で免震の割合(共同住宅等) 2009年度 (※19)

 2−1の「自住戸への感知警報装置設置等級」をみると(※11)のように、かなりバラツキがあることが判ります。2006年度の消防法の改正により、寝室と階段室の住宅用火災警報器が義務付けられました。市町村により台所が付加されたり、東京都ではすべての居室の取付が義務づけられています。

 2−1の「自住戸への感知警報装置設置等級」をみると(※20)のように、一戸建てとは異なり、等級4が100%に近い数値を示します。これは、販売戦略上の費用対効果が大きいからだともいえるでしょう。

2-1 感知警報装置設置等級(戸建て) 2009年度 (※11)

2-1 感知警報装置設置等級(共同住宅等) 2009年度 (※20)

 2−6の「耐火等級」は、図(※12)のように、等級2を選択する住宅が7割を超えています。

 2−6の「耐火等級」は、図(※21)のように、等級4を選択する住宅が8割近い数値です。一戸建ての「等級2が7割超」と比較するまでもありません。1戸建ては、どうしても木造主体となるため、等級が押さえられるともいえます。

2-5 耐火等級/開口部(戸建て) 2009年度 (※12)

2-5 耐火等級/開口部(共同住宅等) 2009年度 (※21)

 省エネルギーでは、図(※13)のように、「等級4が8割近く」を占めています。また、シックハウス対策では、等級3が100%(※14)、機械換気も100%(※15)と顕著な数値を示しています。

 省エネルギーでは、図(※22)のように、一戸建てが等級4が7割を超えていたのに対して、等級3が7割超になっています。戸建て住宅の省エネ対策がかなり進んでいることの反映ともいえます。シックハウス対策(※23)と機械換気(※24)は、一戸建てとも同様な傾向です。

5-1 省エネルギ対策等級(戸建て) 2009年度 (※13)

5-1 省エネルギ対策等級(共同住宅等) 2009年度 (※22)

6-1 ホルムアルデヒド発散量対策(戸建て) 2009年度 (※14

6-1 ホルムアルデヒド発散量対策(共同住宅等) 2009年度 (※23)

6-2 換気対策(戸建て) 2009年度 (※15)

6-2 換気対策(共同住宅等) 2009年度 (※24)

 一方、高齢者等への配慮では、図(※16)のように、最低限の基準である「建築基準法」程度が7割を占めています。

 バリアフリー対応は、共同住宅の方が進んでいると思っていたのですが、余り変わりありませんね。(※25)

9-1 高齢者等配慮対策(戸建て) 2009年度 (※16)

9-1 高齢者等配慮対策(共同住宅等) 2009年度 (※25)
<一戸建ての場合> <共同住宅等の場合>

 この他にも、他の性能評価のデータも出ていますので、傾向がよく判りますし、どの程度の等級を検討すると良いかの判断材料にもなると思います。
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042 シーリングについて(2011年11月4日)

 シーリングは、コーキングともいわれます。使い分ける考え方もありますが、実際の建設現場では区別されていません。部材と部材のすき間を、防水や気密を目的として充填することをいいます。デザイン的な処理に利用されることもあります。元々は、コーキングとは木船建造時の板のすき間を埋めることで、シーリングとは蝋で封印することを指していたそうです。

 1成分形2成分形があり、1成分形は工場で撹拌されて出荷されますが、2成分形は基本的に基材と硬化剤に分けて出荷されます。量販店で販売されているコーキングガン用の円筒に入ったコーキングは1成分形です。

 シーリングの材料には、それぞれ一長一短があり、適用する被着体(シーリングをする建物側の部材)にも適正があります。用途と使用場所に応じた使い分けが必要なのです。

 また、シーリングとシーリングの接触にも相性があります。打ち継ぎや重ね打ちなどで、相性の悪い選択をすると、変色・変質などの問題を起こすことがあります。これは調べてみると、諸説が入り乱れています。メーカーの成分にもよる可能性がありますので、メーカー仕様等を確認して、判断をする方法がよいでしょう。専門職人に聞いて、判断するのは避けたいものです。


ずらりと並んだシーリング売り場

シーリングの種類

シリコーン系
 半導体材料としてよく知られる元素の一つケイ素(Si)のことを英語でシリコン(Silicon)といいますが、シリコーン(Silicone)とは、ケイ素をもとにつくり出された人工化合物のことです。混同されがちですが、異なるものです。
 コーキング材としては、もっとも耐熱・耐寒・耐候性に優れています。しかし、塗装ができないことや、付着力が強いためALC板など被着体の強度が弱い材料には適していません。また、静電気をおびやすく、未乾燥の時はホコリがつきやすいなどの欠点があります。表面硬化は早いといえます。オイルが出るため、外壁を汚すとの評価も多く、石材には向いていません。
 酢酸型のタイプは、鉄などの金属を腐食するため網入りガラスには不適、またオキシム型も銅・銅合金に注意が必要です。使用に当たっては、メーカーの仕様を確認する必要があります。

変成シリコーン系
 シリコーンの一種ともいえますが、ケイ素からつくられる人工化合物の置換基(ちかんき)を変えたものということですが、正直よく判りません。シリコーンの特性を生かして改良したものと思ってください。
 耐熱・耐寒・耐候性に優れています。また、防カビ材が配合されている製品は、カビの発生が少ないといえます。適用する被着体の範囲も広く、一番大きな特色は、塗装することもできることです。現在、建築現場における使用量が最も多い材料です。製品として市場に出てきたのは割と最近ですが、現在では価格面でもシリコーン系よりも高い値段を付けているようです。

ポリサルファイド系
 チオコールともいわれます。硬化後にゴム弾力性を持ち、耐油性、耐溶剤性、耐酸性、耐アルカリ性など長期の耐久寿命をもっています。塗装をかけることも可能ですが、変色等の可能性があるため、基本的には不向きです。ムーブメント(動き)が大きい個所には使用できません。変成シリコーンが出てくる以前の建物には良く利用されていました。石、タイル、銅、亜鉛には影響を与えないため、現在でも使用されています。
 また、可塑剤として、PCB(ポリ塩化ビフェニル)が使用されていた時期がありますが、国内では1972年に生産・使用禁止になっています。逆にいうと、それ以前のポリサルファイド系シーリングには、PCBが含まれている可能性があります。

    ※可塑剤:柔軟性を付与するために用いられる材料

ポリウレタン系
 硬化後でも、もっともゴム弾力性を持つのが特徴です。比較的ムーブメントが大きいところにも利用できます。耐摩耗性や耐油性には優れていますが、耐光性や耐熱性には劣ります。コンクリート、スレートなどに対し影響が少ないといわれています。素地のままだと紫外線に弱く、ホコリも吸い付けるため、塗装をかけるのが標準です。また、施工時の気温が高いとき、発泡することがあるので注意を要します。

アクリル系
 硬化後、弾性体となり、湿った面にも使用可能です。価格も安く、耐久性も低く、塗装をかける必要があります。また、経年により肉やせもします。特別な指示をしない限り、ALC板の目地には、アクリル系が使用されます。コスト面では、若干高くなりますが、ポリウレタン系に変更する事をお勧めします。もちろん、改修時も同様です。


被着体の組合せとシーリングの種類 (※1)
「公共建築工事標準仕様書/公共建築協会発行2010年版」より
油性系
 建設現場では、現在、ほとんど使われることがなくなりました。耐久性も低く、使用するメリットはないでしょう。表面は硬化しますが、内部はほとんど硬化しません。塗装をかけることもできません。ところが、近くのホームセンターに行ってみると、しっかり売られていました。まだ、利用するところがあるのですね。

ボンドコーク
 シーリングの種類には入りませんが、内装のすき間やひび割れ補修、塗装下地に使われます。耐候性もなく、経年で肉やせというよりは、ほとんど消失してしまいますので、シーリングではないという理解をしておく必要があります。
種類 塗料付着 塗料変色 硬化速度
シリコン系 ×
変成シリコン系
変成シリコン系 (低モジュラス)
ポリサルファイド系
ポリウレタン系
アクリル系
油性コーキング系 ×

コーキングの種類と特徴 (※2)
その他
 アクリルウレタン系、ブチルゴム系、ポリイソブチレン系、変成ポリサルファイド系などの種類が各メーカーから出されています。使用するに当たっては、各メーカーの仕様を参考にしてください。ただし、後述する「公共建築工事標準仕様書/公共建築協会」の適用組み合わせには掲載されていませんので、注意を要します。

シーリングと被着体の組合せ

 公共建築協会発行の「公共建築工事標準仕様書」では、シーリングとその相手である被着体の組合せを図(※1)のように定めています。また、各メーカーも自社製品の使用適正をネット等で開示していますので、
種類 目地幅の許容値
最大値 最小値
シリコン系 40 10 (5)
変成シリコン系 40 10
変成シリコン系 (低モジュラス) 40 10 (5)
ポリサルファイド系 40 10
ポリウレタン系 40 10
アクリル系 20 10
(5)はガラス周りの寸法
目地幅の許容値 (※3)
参考にすると良いでしょう。また、主なシーリングの特徴をまとめておくと、図(※2)のようになります。ただし、メーカーの製品によっては、汎用性の高いものもあり、目安として見てください。

目地の大きさ

 シーリングを施す目地の大きさは、非常に大切な要素です。時々、大きな目地幅を見かけますが、ムーブメントの限界を超えるとシーリングの破断が発生します。基本的な目地幅及び深さの許容範囲は、図(※3、4)を基準としています。また、コンクリートの打継ぎ目地及びひび割れ誘発目地は、幅20mm以上、深さ10mm以上とされています。ガラス周りの目地も特殊な場合を除き、5mm以上とされています。

種類 目地深さの許容値
最大値 最小値
シリコン系 20 10
変成シリコン系 30 10
変成シリコン系 (低モジュラス) 30 10
ポリサルファイド系 30 10
ポリウレタン系 20 10
アクリル系 20 10

目地深さの許容値 (※4)
モジュラス

 モジュラスとは、物体に一定のひずみを与えたとき、物体が原型を保つために抵抗しようとする反発力のことです。シーリングでは、50%のひずみ、すなわち50%モジュラスに対して、図(※5)の抵抗値(N/mu)の範囲で高・中・低モジュラスと区分されています。低モジュラスのシーリングほど、ムーブメント(動き)が大きく、広い目地に対応できるといえます。
低モジュラス 2N/mm2未満
中モジュラス 2N/mm2以上4N/mm2未満
高モジュラス 4N/mm2以上

モジュラスの種類 (※5)

プライマーとは

 シーリングの機能を左右するのがプライマーだといっても過言ではありません。シーリングが使用される目地等の被着体は、多種多様であり、無数の組合せが考えられます。その被着体に、シーリングをしっかり接着するための下地材がプライマーなのです。日本シーリング材工業会の建築用シーリング材ハンドブックをによると、プライマーの機能は以下のようになります。

 1)シーリング材と被着体間の接着性の付与及び向上
 2)表面強度の脆弱な被着体の表面の強化
 3)多孔質物質の表面を被覆し,接着面積をアップすることと、
   内部からの水、アルカリ成分などの浸出の防止
 4)被着体からの可塑剤などの移行防止

 このように、ともすれば見落としされがちですが、非常に重要なものがプライマーなのです。同一のシーリング材でも、プライマーの使い分けが必要になることもあります。前述のハンドブックによれば、プライマーの主成分は図(※6)のようになっています。各メーカーは、プライマー選定表等を開示していますので、確認をする必要があります。
プライマーの系統 主成分
合成ゴム系 合成ゴム/溶剤(1成分形)
アクリル系 アクリル樹脂/溶剤(1成分形)
ウレタン系 ウレタン樹脂/溶剤(1,2成分形)
エポキシ系 エポキシ樹脂/溶剤(1,2成分形)
シリコーンレジン系 シリコーン樹脂/溶剤(1成分形)
シラン系 オルガノシラン/溶剤(1成分形)

プライマーの種類と主成分 (※6)

ボンドブレーカーと2面接着

 目地にシーリングを施工したとき、シーリングは目地の両側面と目地底面の3面に面していることになります。単純に考えると、3面ともしっかり接着していることが良いように思えます。しかし、ムーブメント(目地の動き)が比較的大きい場合(ワーキングジョイント)は、その動きにシーリングが対応できず、亀裂や剥離を起こしてしまうことがあるのです。そのため、ワーキングジョイントのシーリングにおいては、底面部分は接着させず、両側面の2面のみを接着させることを基本としています。そのことを2面接着といいます。

 このようなワーキングジョイントの場合に、目地の底面部分に施工する材料をボンドブレーカーといいます。ボンドブレーカーは、目地自体の深さは、図(※7)を目安にして、絶縁テープやバックアップ材を選定します。一方、ノンワーキングジョイントの場合は、3面接着も可能ですが、目地
目地の種類 バックアップ材の種類 バックアップ材幅
コンクリート目地 角型・丸型ポリエチレン独立気泡発泡体 目地幅×1.1〜1.3
金属目地 角型ポリエチレン独立気泡発泡体 目地幅×1.1〜1.2
ガラス目地 ポリエチレン独立気泡発泡体 目地幅×1.1〜1.2

バックアップ材の種類と適用 (※7)
横浜ゴムのホームページより
深さを考慮する必要があります。シーリングも、決して厚ければ良いというものではありません。

 また、シーリング材によっては、ボンドブレーカーの適不適があります。横浜ゴム(株)のホームページを見ると、ボンドブレーカーとしてのバックアップ材の種類(図※7)と、絶縁テープの基準(図※8)が掲載されていますので参考にしてください。
シーリング材の種類 ボンドブレーカーの種類 ボンドブレーカーの幅 -
シリコーン系 ポリエチレンテープ 目地幅×0.8〜0.9 シリコンテープは、シーリングに付着する場合がある
ポリイソブチレン系 ポリエチレンテープ 目地幅×0.8〜0.9 シリコンテープは、シーリングに付着する場合がある
変成シリコーン系 ポリエチレンテープ 目地幅×0.8〜0.9 シリコンテープは、シーリングに付着する場合がある
ポリサルファイド系 シリコーンテープ・ポリエチレンテープ 目地幅×0.8〜0.9 -
ポリウレタン系 シリコーンテープ・ポリエチレンテープ 目地幅×0.8〜0.9 -

ボンドブレーカーの種類と適用  (※8)
横浜ゴムのホームページより

  
※ワーキングジョイント:木造住宅の外壁、ALC板、乾式工法の石・タイルなど
  ※ノンワーキングジョイント:RC造の窓周りや打継ぎ等、湿式工法の石・タイルなど

ブリードとノンブリード

 シーリングには、ブリードとか、ノンブリードとかの種類があります。ブリードとは上塗装に粉ふき、にじみなどのトラブルが発生することをいいます。その原因となるものが、可塑剤、つまりシーリングの柔軟剤にあります。ブリードを防ぐためには、ブリードを抑止する下塗り材を塗る方法もありますが、ノンブリードタイプのシーリング材を利用するのが一番よいでしょう。

シーリングの色

 シーリングの上に塗装をする前提であれば、それほど問題はないのですが、シーリングを素地でみせるケースもあります。シーリングには、クリア、白、乳白色、グレーや、メーカーにより茶系などと各種の色があります。また、メーカーにより色調が異なることも多いようです。こだわる場合は、シーリング自体を調色する方法もあります。

品確法とシーリング

 品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、2000年以降に契約された新築住宅は、シーリング防水を含む10年の瑕疵担保期間が義務づけられました。ただし、これは、屋根・外壁・開口部からの雨水の浸入がある場合に限られます。ですから、雨水の浸入がない場合や、屋根・外壁・開口部と関係がない部位のシーリングは該当しません。とはいえ、非常に重要な要素にシーリングがあるということです。

シーリングとシックハウス対策

 現在のところ、VOC(揮発性有機化合物)の対象としては規制がありません。シーリングは、「面」でなく「線」で施工されるため、対象面積が少ないということでしょう。しかし、プライマーの溶剤はトルエンや酢酸エチルなどが含まれたものが多く使用されています。取扱も含めて、注意を要するといえます。


ガラスと共にシーリングで
覆われた建物

釧路市こども遊学館
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041 ガラスについて(2011年10月16日)

ガラスの成分と着色

 ガラスは、珪酸が主成分の珪砂(けいしゃ)に、溶解温度を下げるためのソーダ灰(Na2O)を加えて溶かすことにより生成されますが、さらに水に溶けないガラスにするために石灰(CaO)が加えられます。その構造は、結晶構造ではなく、むしろ液体に近い状態といわれています。熱を加えれば、ドロドロの液体になり、冷やすと固まります。主成分は、珪酸が70〜74%、ソーダが12〜16%、石灰が6〜12%です。

 着色をする場合の添加剤は、
   グリーン:酸化鉄(Fe2O3)
   ブロンズ:酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(Fe2O3)
   グレー :酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(Fe2O3)/ブロンズとは配合を変える

 また、酸化鉄(Fe2O3)を減らすことにより透明度を上げることができますが、アワなどが発生しやすくなるという欠点をもっています。自然にある黒曜石(※1)は、天然のガラスともいえます。

(※1) 天然のガラス 黒曜石

ガラスの種類

フロートガラス(単層透明板ガラス)
 溶融したスズが入っているフロートバスの上に、熔解したガラスを流すことにより成形するため、フロートガラスと呼ばれます。スズよりもガラスの比重が軽い性質を利用しています。ごく一般的に窓に使用されます。開発されたのが1950年代ですから、意外と最近の手法なのですね。それまでは、各種の製法がありました。古い建物を注意してみると、表面が波打っている透明ガラスにお目にかかることがあります。また、厚さは、3〜19mmがあります。

すりガラス
 フロートガラスの片面に、砂などの研磨剤で表面にスリ加工をして、不透明で白く見える様にしたつや消しの板ガラスです。

 研磨剤ではなく、フッ酸により表面処理をして、ガラス表面に凸凹を構成したフロストガラスというものもあります。

型板ガラス
 ガラス成形時に、凸凹の型に入れて表面処理をしたガラスです。スリガラスよりは、透明感があります。2mm以上のものを梨地、4mm以上のものを霞(カスミ)といいます。

網入りガラス(線入りガラス)
 火災などでガラスが割れたときに、破片の飛散・脱落を減少するために、金属線を入れて成形したガラスです。縦線のみのユニワイヤー(線入り)縦横線のクロスワイヤー(網入り)斜め線交差のヒシワイヤー(網入り)があります。ユニワイヤーは、防火認定がとれません。また、いずれも防犯性能はまったくありません。6.8mmと10mmが代表的な厚さです。

 ガラスに網が入っているため、熱収縮率が異り、熱割れが発生しやすい欠点があります。さらに、シール等の劣化などにより内部に水が浸入すると、網が錆びることがあります。錆による膨張により、割れが発生することもあります。

複層ガラス
 2枚のガラスの間に、乾燥空気などを密閉した窓ガラスです。ペアガラス、ペヤグラスなどとも呼ばれます。遮音性・断熱性に優れています。乾燥空気の代わりに、アルゴンガスを入れて、断熱性能を向上したものがあります。省エネの勧めと共に一般に普及してきました。

 複層ガラスの中間にある空気層は、封着材によって密閉されていますが、封着材の劣化により空気層の密閉が保てなくなると、中間空気層で結露が発生します。それは、複層ガラスの寿命だと思って下さい。封着材を長持ちさせるためには、ガラスとサッシの納まり部に使用されているシーリング材の打ち直しが有効です。シーリング材が劣化することにより、水が滲出したことにより、封着材を劣化させるからです。

 中間の空気層は、4mm、6mm、9mm、12mmがありますが、6mmと12mmが主流です。中間層が増すほど断熱性は高まりますが、12mmを超えると対流が発生するため、12mm以上の中間層はありません。中間層をさらに広くとるために、中間層にガラスを入れて3枚複層ガラスにした製品もあります。

 2枚のガラスの間隔を保持しているのがスペーサーですが、高性能樹脂に乾燥剤を練り込んで、断熱性能を向上させたものもあります。

 複層ガラスに耐熱強化ガラスを利用する場合は、破損時の破片落下対策を考えて、室内側に使用することが基本です。

 また、中間層を0.2mmの真空層にした真空ガラスがあります。0.2mmの真空にすることで、熱の伝導と対流を防いでいます。同じガラス厚の一般複層ガラスと比べると、断熱性能は2倍以上、耐風圧強度は1.5倍程度あります。LOW−e膜を組み合わせた製品や真空ガラスをさらに複層にしたり、合わせガラスにした製品も出ています。

 特殊な例として、複層ガラスの間にブラインドや格子を組み込んだ製品もあります。

Low−e複層ガラス
 最近話題のLow−e(ロー・イー)ガラスですが、単体で使用されることはありません。他のガラスと組み合わせた複層ガラスとして使用されますので、これも複層ガラスの一種といえます。Low Emissivity(ロー・エミシビティー:低放射)の略です。特殊金属膜(銀などが使用される)をコーティングしたガラスでつくられた複層ガラスです。

 特殊金属膜は、グリーンとシルバーがあります。断熱性能は、どちらもほぼ同じレベルですが、グリーンの方が夏期の冷房負荷低減に優れた効果を発揮します。

 また、特殊金属膜は、室外側ガラスの中空層側にコーティングしたタイプと、室内側ガラスの中空層側にコーティングをしたタイプがあります。前者は「遮熱高断熱」と呼ばれ、波長の短い太陽の熱を遮り、波長の長い室内の熱を逃がさないという特徴があり、後者は「高断熱」と呼ばれ、太陽の熱を取り入れ、室内側の熱を逃がさないという特徴があります。後者が寒冷地向きといえます。あるいは、建物の面に応じて使い分けるといった考え方もあります。

合わせガラス
 飛散防止の用途が主でしたが、最近は防犯ガラスとしての需要が増加しています。2枚のガラスをPVB(ポリビニルブチラール)膜を挟んで製作したものです。ガラスの温度が70℃を超えると、中間膜に発泡現象を生じることがあります。膜の特殊処理をすることにより、以下の製品があります。

 遮音中間膜合わせガラス:従来のPVB膜の中間に遮音性の高い特殊PVB膜を挟んだ3層構造の膜
                 を持つ遮音中間膜合わせガラス

 遮熱中間膜合わせガラス:赤外線吸収剤を混入させたPVB中間膜を挟んだ赤外線を遮る特性を持つ
                 合わせガラス

 着色中間膜合わせガラス:PVBに顔料を混ぜて、着色しています。乳白膜を使用した合わせガラスは、
                 型板ガラスに代わる視線制御ガラスとして需要が増えています。

特殊な合わせガラス

 中間膜に、色々な光学特性を持たせたものです。各種の機能を持つ商品が開発されています。いくつかの例をあげます。

 視野選択ガラス:特殊な光学特性を持つ高分子膜を挟み込んだガラスです。入射角の違いで、
           光の透過状態が変化し、見る角度によってガラスが透明・不透明になります。
           上下、左右、正面と視野をコントロールすることができますので、用途によっては、
           面白い利用方法が考えられます。

 瞬間調光ガラス:中間膜が通電により、不透明の効果を出すものです。通常は、透明ガラスですが、
           スィッチを入れると不透明ガラスになり、映像スクリーンとして利用できるなど、
           各種の用途が考えられます。

 自立応答型調光ガラス:直射日光が当たって温度が上昇すると、透明だったガラスが自然に白濁して、
             光や熱を遮り、室内の温度上昇を緩和する高分子を挟んだガラスです。
             白濁開始温度を5〜50℃の範囲で調整もでき、ガラス面内でも部分的に
             白濁開始温度を変えることも出来ます。

強化ガラス
 ガラスは、圧縮応力には意外と強く、引張応力には弱いという性質をもっています。ガラスを約700℃に加熱して急速に冷やすと、ガラスの両表面に圧縮応力層ができます。ガラスに圧縮応力が掛かったときに、その反対側の圧縮応力層が抵抗することにより、ガラスは割れにくくなります。強化ガラスの強度は、普通ガラスの約3.5倍の強度を持っています。

 耐風圧強度と熱割れ強度をさらに約2倍の強度を持たせた倍強度ガラスという板ガラスもあります。これも強化ガラスの一種です。

 このように強度に優れた強化ガラスですが、破損するときは、瞬時に全面破砕をする特徴を持っています。強化ガラスが破損した場合、粒状になった破片が一斉に落ちることになります。強化ガラスだからといっても、ガラス表面に疵や、ガラス中に残存する不純物がある場合も破損することがあります。特に高層階に使用する場合は、飛散防止フィルムを貼るか、強化合わせガラスなどを利用する必要があります。

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「水の宇宙船」を見上げる

熱線反射ガラス
 板ガラスの表面に、チタン、ステンレス、すず、クロムなどの金属をコーティングすることにより、さまざまな性質や色調を持ったガラスが生まれます。コーティングの方法は、金属物質にガスイオンを高速で衝突させるスパッタリング法などがあります。

 日本板硝子の技術資料をみると、フロート板ガラス6mmの日射熱除去率は、再放射を含めて15%ですが、熱線反射ガラス6mmの日射除去率は34%となっています。日射除去率78%という高性能タイプもあります。

熱線吸収ガラス
 ガラスに微量の金属成分を添加することにより、グリーンやブロンズ、グレーなどに着色したガラスです。着色効果のため、熱吸収率が高くなります。しかし、ガラス自体の熱吸収率が高いため、熱割れが発生しやすいという欠点があります。

 日本板硝子の技術資料をみると、フロート板ガラス6mmの日射熱除去率は、再放射を含めて15%ですが、熱線吸収ガラス6mmの日射除去率は37%となっています。

ガラスカーテンウォール

 世界最初のカーテンウォールは、1851年のロンドンで開かれた第一回世界万国博覧会の水晶宮(クリスタルパレス)といわれています。写真等でご覧になったかとも多いかと思います。長さ563m、幅124mという巨大な施設だったそうです。最近の都市部の商業施設を中心として、ガラスで覆われた建物を良く目にするようになりました。基本的に建物の荷重を直接負担しないカーテンウォール(帳壁)構造になっていて、その主体がガラスで構成された場合はガラスカーテンウォール、アルミ枠主体で構成されている場合はアルミカーテンウォールと呼ばれますが、厳密に区別するのが難しい場合があります。写真(※2)の仙台メディアテークは、ガラスカーテンウォールですが、写真(※3)のプラダ(東京都青山)や(※4)の九州国立博物館はアルミカーテンウォールでしょう。異論もあるかも知れません。

 ガラスを支持するためには、マリオン(方立:ほうだて)と呼ばれる枠材を縦・横に渡して、ガラスを固定します。初期のマリオン方式のカーテンウォールでは、ガラスはマリオンの室内側に取り付けられていましたが、マリオンの前面(室外側)にガラスが取り付けられる構法が発達してきました。それをバックマリオン方式といいます。

 また、通常、ガラスは、サッシ枠の溝にガラスを嵌めて、シーリングやガスケットで固定していますが、SSG(Structural Silicone Glazing)構法という、建物の外側にサッシ枠を見せないで、シリコンシーリングでガラスを支持する手法があります。また、大きなガラス面にガラスでリブを付けてガラス面を保持しているガラスリブ構法も良く見受けられます。その他、ガラスの四隅あるいは辺を円盤状の金物で支持するMPG(Metal Point Glazing)構法、ガラスの隅に開けた穴を金物で支持して構造体に留めるDPG(Dot Point Glazing)構法、さらには、張弦ロッドをガラスの内か外側に取り付けてガラスを支持している構法もあります。

 同じ表情に見えるガラスカーテンウォールでも、よく見ると、色々な支持方法をとっていることが判ります。

(※2) 仙台メディアテーク

(※3) 九州国立博物館

(※4) 東京青山 プラダビル

ガラスと熱貫流率

 「熱損失係数について」でも掲載しましたが、内外の温度差が1℃あったときに、1時間当たり1uの面積を通過する熱量をワットで表したものが熱貫流率(U値:W/u・K)です。ワット・パー・ヘーベ・ケルビンと呼びます。各種の代表的なガラスの熱貫流率は、表(※5)の通りです。数値が小さいほど断熱性が良いことになります。

 表を見ると判るように、中空層が大きいほど断熱性が高いことが判ります。ただし前述しましたが、12mmを超えると中空層内で対流が起こり、断熱性が向上しないため、複層ガラスの中空層の寸法は、12mmが最大となっています。

 ある冬の日、外気温が0℃で室温が22℃(温度差22℃)だったとします。ガラス面積が7uの時、日中7時間暖房をして、室温を一定にした場合、単板FL5(U値5.9W/u・K)とLOW−e複層ガラス3+A12+FL3(U値1.7W/u・K)の窓から逃げる熱量を比較してみます。

 FL5(U値5.9W/u・K)の場合
  5.9W/m2・K×7u×22℃×7hr ≒ 6,360W

 LOW−e複層ガラス3+A12+FL3(U値1.7W/u・K)の場合
  1.7W/m2・K×7u×22℃×7hr ≒ 1,833W

 その差は、5,027Wもあることになります。LOW−e複層ガラスを使用すると、窓から逃げる熱量を30%に押さえることができることになります。
品種(板厚構成) 熱貫流率 U値
(W/m2・K)
単板FL5 5.9
フロートペアガラス FL3+A6+FL3 3.4
フロートペアガラス FL3+A12+FL3 2.9
LOW-e複層ガラス Low-e3+A12+FL3 1.7
ガス入りLOW-e複層ガラス Low-e3+Ar 12+FL3 1.4
※ FL:透明フロート板ガラス  A :空気層  Ar :アルゴンガス層

(※5) 代表的なガラスの熱貫流率

ガラスと遮音

 音の大きさの単位は、dB(デシベル)です。空気振動が大きいほど強く、小さいほど弱くなります。また音の高さの単位は、Hz(ヘルツ)です。空気の波が、1秒間に何回振動するかの数値です。周波数ともいいます。高い音ほど周波数が多くなります。人が聴くことができる周波数の範囲は、20Hz〜20,000Hzですが、周波数が小さいほど耳の感覚が鈍くなります。例えば、1,000Hzで50dBの音と同じ大きさに聞こえる音は、80Hzで63dB、20Hzで96dBといわれています。

 音源からの距離が遠いほど、音は「距離減衰」により小さくなります。また、音は風や温度の影響を受けます。風上よりも風下の方が聞こえ易かったり、昼間よりも気温の下がった夜間の方が聞こえ易くなるのは、このためです。

 遮音性能は、材料を透過したときに減衰する音の量で示されます。これを「透過損失」といいdB(デシベル)で表します。

 ガラスの遮音性能は、単一の材料でできたガラスの場合、厚さが大きい(重量が大きい)ほど遮音性能は高いことになります。また、同じ板厚(重量)ならば、高い周波数ほど遮音性能は高くなります。これを「質量則」といいます。

道路騒音の騒音レベルと周波数特性    単板ガラスとペアガラスの透過損失

(※6) 道路騒音と周波数特性 及び 透過損失
(旭硝子のホームページより)

 板ガラスのような均質で単一の板状材料では、特定の周波数域で、透過損失の低下現象が発生します。これを「コインシデンス効果」といいます。板厚が薄いときは高音域に生じ、厚くなるにつれて中音域に下がっていきます。固体に入射する音波と、その固体上を伝わる屈折振動がある周波数で一種の共振を起こすため発生する現象です。

 ガラスのコインシデンス限界周波数(コインシデンス効果が表れる周波数)は、以下の式で簡易的に求められます。

  コインシデンス限界周波数 fc ≒ 12,000/板厚(mm) (Hz)

例えば、FL5であれば、コインシデンス限界周波数は、2,400Hzということになります。

 表(※6)をみると判るように、道路騒音は低い周波数の音圧レベルが高くなっていますが、ガラスの透過損失は高い周波数ほど遮音性能が上がります。逆にいうと、低い周波数ほど遮音性能が下がり、音が透過しやすいという性質がガラスにはあります。

 また、複層ガラスのように中空層がある場合、単板ガラス同士が中空層の空気をバネにして共鳴が生じ、低温域において透過損失が低下する周波数域があります。それを、「低温域共鳴透過」といいます。マンションの戸境壁に両面ともにGL工法でプラスターボードを貼った場合にも発生する現象と同じです。

 表(※7)は、単板ガラス、複層グラス、合わせガラスの透過損失を比較したものです。遮音効果を考えるならば、同じ厚さの複層ガラスよりも、厚みの異なる合わせ複層ガラスの方の効果が大きいことが判ります。ただ、ガラス単体で考えるのではなく、サッシ全体で考える必要があります。本格的な防音対策となると、二重サッシが有効でしょう。

 複層ガラスの中空層に、低温域共鳴透過現象を防止する防音構造を内蔵したガラスも出てきています。


(※7)各種ガラスの透過損失比較
(旭硝子のホームページより)

ガラスと遮熱

 窓から入る日射熱を遮るには、カーテンやブラインドなどが有効ですが、カーテンやブラインドに吸収された熱が室内に再放射されるという欠点もあります。真夏に、カーテンを触ると暑くなっていることが判りますね。室内への日射熱を押さえるには、ガラスで遮熱することも有効なのです。ただ、ガラス自体にも熱が吸収されますので、ガラスからの再放射があります。

 旭硝子のホームページをみると、LOW−e複層ガラス(Low−e3+中空層6+単板3)と複層ガラス(単板3+中空層6+単板3)の比較が、表(※8)のように出ています。これは、太陽光を100%としたとき、透過する日射量がLow−e複層ガラスでは38.1%ですが、ガラスからの再放熱が5.3%あり、合計43.4%の熱が室内に放射され、一方普通の複層ガラスでは透過する日射量が75.7%、ガラスからの再放熱が4.1%で、合計79.8%の熱が室内に放射されるとしています。Low−e金属にの、遮熱効果が倍近いことが判ります。旭硝子では、Low−e複層ガラスをエコガラス・サンバランスと名付けています。


(※8) Low−e複層ガラスと一般複層ガラスの遮熱比較
(旭硝子のホームページより)

ガラスと耐風圧

 一般的に風速とは、10分間の平均風速を毎秒当たりに換算したものをさします。ですから、最大瞬間風速とは異なる値になります。最大瞬間風速は1966年の宮古島で85.3m/秒の記録があるそうです。私も約60m/秒の最大瞬間風速を経験しましたが、体全体が持続して殴られている感覚でした。真っ直ぐに立っていることは、無理でした。危険を感じました。その時でも、平均風速は30m/秒程度だったと記憶しています。

 ガラスの耐風圧計算に用いる設計風圧力は、建物の高さ、形状、支持条件、地域等により計算されます。板硝子協会では、建築学会の建築物荷重指針を参考にして、風圧力を加算するように指導しています。つまり、より安全側の計算をするようにしているようです。計算式は、少し面倒なので省略させて貰いますが、各メーカーのホームページにも詳しく掲載されていますので、参考にしてください。その他、ネット上には、数値、条件等をを入れるだけで、耐風圧の計算から、適用するガラスの選定まで一連計算してくれるソフトが出ています。

 ガラスの許容耐力は、これも計算式がありますが、その際に使用する係数の表(※9)をみると、ガラスの種類による強度の目安が判ります。
ガラスの種類 強度係数
k1
網入、線入磨き板ガラス 0.8
網入、線入型板ガラス 0.6 0.6
フロート板ガラス 熱線吸収板ガラス 熱線反射ガラス 8ミリ以下 1.0
8ミリ超、12ミリ以下 0.9
12ミリ超、20ミリ以下 0.8
20ミリ超 0.8
倍強度ガラス 2.0
強化ガラス 3.5
型板ガラス 0.6
色焼付ガラス 2.0
(※9) 代表的なガラスの許容耐力係数 k1

ガラスと積雪

 天窓や庇(ひさし)に使用されるガラスは、風圧力だけでなく、ガラスの自重と積雪にも耐える強度を持っている必要があります。耐風圧計算と同様に積雪強度計算を行います。

ガラスの熱割れ

 日光がガラスに当たると、ガラスの中央部とサッシに呑み込まれている周辺部に温度差ができます。日光が当たった部分は膨張しますが、周辺部は固定されていることになります。これは、周辺部にガラスの弱点である引張力がかかっていることになります。そのため、ガラスに亀裂が入ることがあります。これを熱割れといいます。ガラスの納まり状態が悪い場合や、ガラスに小さな疵が入っていた場合でも起こりやすい現象です。一般に、冬期の晴れた日の午前中に発生しやすいといわれています。

 さらに、日影の状態、カーテン・ブラインドの影響、サッシの取付状態、ガラスの大きさなど、複数の原因が複合することもあります。窓際に箱等を置いておいたことや、ガラスに張り紙をしたり、ペンキを塗ったこと、エアコンの冷気が直接当たっていたために起きたケースもあります。これらは、ガラス近辺に冷暖気がこもらないようにすることにより防ぐことができます。カーテンやブラインドは、ガラスから10cm以上離すことをガラスメーカーは推奨しています。熱線吸収または反射フィルムを貼っていると、日射吸収率が高くなり、熱割れの危険性が高くなるともいわれています。

 また、網入りガラスでは、ガラス内に封入している網が膨張して熱割れが発生することが知られています。網が膨張するということは、水分を吸収した網がガラスエッジで酸化(錆び)することを原因としています。それを防ぐためには、シーリングの劣化や雨水が滞留しないような処置が必要なのです。
材料・物質名 熱伝導率(λ)
W/m・K
370
アルミニウム合金 200
鋼材 35
ステンレス鋼 15
コンクリート 1.60
ガラス 1.00
シリコン 0.35
ブチルゴム 0.24
石膏ボード 0.22
ボリカーボネート 0.19
PVC(塩ビ) 0.17
ALC(軽量気泡コンクリート) 0.17
木材 0.12
グラスウール 24K 0.038
空気 0.024
(※10) 代表的な材料の熱伝導率

 事前に、使用環境等の条件を検討して、発生する「熱応力」を推定することで、熱割れの危険性があるかどうか検討をすることができます。ただし、あくまでも推定であるということを考慮する必要があります。

ガラスと結露

 「熱損失係数について」でも掲載しましたが、代表的な材料の熱伝導率は表(※10)の通りです。数値が低いほど熱を伝えにくい性質を持っています。意外なことに、ガラスはコンクリートよりも熱伝導率が低いのです。しかし実際に結露が発生しているのは、窓ガラスの方ですね。それは、厚さのせいなのです。コンクリートと同じガラスがあるとすれば、コンクリートの方が結露しやすいことになります。でも、実際にはそんなことはあり得ません。さらに熱を伝えにくい性質を持つ空気を挟んだペアガラスが有効なことがよく判ります。

 快適な室内環境は、室温20〜23℃、湿度50〜60%程度といわれています。では、外気温0℃、室温20℃の時の単板ガラス、ペアガラス、Low−Eペアガラスの表面温度を比較してみます。室内ガラス表面温度は、以下の式で求められます。

   室内側ガラス表面温度 tgi=ti−U×(ti−t0)/ai

         ti:室温(℃)
         t0:外気温(℃)
         U :熱貫流率(W/u・K)
         ai:室内側熱伝達率(W/u・K)=8.6

 以上を元に、計算すると、表(※11)の飽和水蒸気量の数値から、結露が発生する湿度が表(※12)のようになります。これをみると、Low−eガラスが優れているのが判ります。

 また、複層ガラスでは、内部結露が発生することがあります。ガラスとサッシを密着して、雨水などの浸入を防ぐためのゴムのことをグレージングチャンネル(通称グレチャン)といいますが、その内部やサッシ
温度 (℃) 飽和 水蒸気量(g/m3) 温度 (℃) 飽和 水蒸気量(g/m3)
0 4.8 20 17.3
1 5.2 21 18.3
2 5.6 22 19.4
3 5.9 23 20.6
4 6.3 24 21.8
5 6.8 25 23
6 7.3 26 24.4
7 7.8 27 25.8
8 8.3 28 27.2
9 8.8 29 28.8
10 9.4 30 30.4
11 10 31 32
12 10.7 32 33.8
13 11.4 33 35.7
14 12.1 34 37.6
15 12.8 35 39.6
16 13.6 36 41.7
17 14.5 37 43.9
18 15.4 38 46.2
19 16.3 39 48.6
(※11) 温度と飽和水蒸気量
枠内に滞留した水が中空層内に浸入することがあります。その水分が飽和水蒸気量に達すると、結露となってガラス中空面に付着します。これが内部結露です。本来は、グレチャンやサッシの排水機能が確保されていなければなりません。メーカーによっては、10年間の品質保証をしています。

 真空ガラスは、厚みがないことから、単板ガラス用サッシに装着できることが多いため、サッシを取り替えない既存住宅の窓のリフォーム用として利用されています。真空ガラスとLow−eガラスを組み合わせた製品も出ています。
ガラスの種類 熱貫流率 室内側ガラス表面温度 結露の始まる湿度
(W/u・K)
単板 FL5 5.9 6 42%以上で結露発生
透明ペア FL3−6−FL3 3.4 12 61%以上で結露発生
LOW−eペア 3−12−3 1.7 16 78%以上で結露発生
(※12) 結露が始まる湿度

ガラスと紫外線

 空に見える虹は、日本では一般的に七色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)と言われています。これらを総称して可視光線といいます。波長の長さによって色が違って見えるのです。しかし、実際これらの可視光線以外の波長の電磁波が宇宙には存在しています。波長の長い方から、電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線などと呼び分けられているのです。即ち、可視光線より波長が短く10−380nm(ナノメートル)の範囲にある電磁波を紫外線といいます。英語の Ultra Violet からUVと略されています。紫外線は、タンパク質を変性させるため、皮膚へのダメージが大きいことが知られています。一方、ヒトの体に必要なビタミンDを作るという有効性も知っておく必要があります。

 単板3mmのガラスでも、約26%の紫外線をカットするといわれていますが、中間膜にPVB(ポリビニルブリラール)を使用している合わせガラス(単板30mm+PVB30ミル+単板30mm)のカット率は99.9%といわれています。これは、PVBに、紫外線の吸収剤が混入されているからです。残念ながら、ガラス自体に紫外線吸収剤を入れると、ガラスが黄色になり、製品として成り立たなかったそうです。

ガラスと防犯

 前述しましたが、一般の網入りガラスには、防犯効果はまったくありません。防犯の用途に対応できるのは、合わせガラスです。強化ガラスと組み合わせたり、中間膜の強靱さを上げることにより、より効果を高くした防犯ガラスもあります。中には、複層ガラスの中間にポリカーボネート板を入れたり、さらに真空ガラスやLow−eガラスを組み合わせた商品も出ています。2002年の警察庁や国土交通省、民間団体などによる官民合同会議にて、防犯性能の試験基準が制定され、合格したものに2004年から「CPマーク」(※13)が表示されるようになりました。試験基準とは、建物への侵入に5分以上かかることが条件となっているようです。

ガラスとフィルム

 防犯、UVカット、断熱、遮熱、飛散防止、目隠し、着色などを目的としたフィルムが市場に出ています。ステンドグラス調に演出するフィルムもあります。素人が簡単に貼ることは難しいでしょう。基本は、室内側に貼るものですが、室外側に貼る製品も出てきています。フィルムにより熱を吸収して、周辺部との温度差が大きくなり、熱割れの原因となることもあります。部分貼りは、特に危険です。

 防犯性からフィルムの厚みの問題が良くいわれますが、50ミクロンから600ミクロンなどと、メーカーによりかなり幅があります。メーカーも色々な厚さの製品を出して、値段もさまざまです。厚ければ、防犯性が高いといえなくもありませんが、最低でも200ミクロン程度は必要なようです。できれば、300ミクロン以上といったところでしょうか?

 型板ガラス等の表面が凸凹の面にフィルムを貼ることは通常出来ませんが、最近では、専用フィルムも出ているようです。また、フイルムを貼った面をから拭きすることは、疵を付ける可能性があります。中性洗剤を薄めた水を含ませた柔らかい布でやさしく拭き取るのが基本です。



(※13) CPマーク

※ 貼付、刻印その他の方法により製品に直接表示する場合に限り、「2004」の文字を表示しないものを用いることができます。

ガラスの映像調整

 写真(※14)を見て下さい。これは、札幌市内で撮影したものですが、熱線反射複層ガラスに映る景色がかなり歪んで映っています。逆方向の建物から見た写真が(※15)です。最近は、反射公害の影響もあり、スケルトン風に内部をうっすらと見せる建物が増えてきましたので、あまり見かけられなくなりましたが、一時期、反射ガラスの建物が多かったときに、気になった映像です。ガラス自体にも製造過程で微妙な反り、ねじれ、表面の凸凹があります。ガラスの厚さも影響することがあります。また、施工による微妙な誤差や、複層ガラスを用いると中空層内の気体が温度差により膨張収縮することもあります。それを防止するため、施工時に全体の見え方を調整することを「映像調整」といいます。ただ、特定の位置を重視すると、異なる位置では歪んで見えるなど、完璧を期すことは難しいでしょう。私は経験がないのですが、コストがかかるために、最近では映像調整をしないケースもあると聞きます。

(※14) 反射ガラスの反射映像

(※14) 実際の映像

ガラスのクリーニング

 特別な汚れは、中性洗剤等により汚れを落とす必要がありますが、それ以外は、ぬるま湯に浸した雑巾を固く絞って、ガラス全体を拭き、乾いた新聞紙で輪を描くように拭きます。新聞紙が良いのは、新聞紙の表面のインク成分がガラスの表面に薄い膜を作るからだといわれています。

 外部に特殊コーティングをして、光触媒効果により、付着した汚れ(有機物)を分解し、雨によって流れ落ちる機能を備えたセルフクリーニングガラスもあります。

 浴室や排気口周辺などのガラス表面が水分の濡れと乾燥が繰り返される箇所で、ガラスから溶け出す成分と空気中の炭酸ガス(CO2)や亜硫酸ガス(SOX)などの酸性ガスが反応してガラスの表面を白濁させることがあります。これを一般的に「ガラスのやけ」と呼んでいます。これは、拭き取りことが困難ですので、日頃からの管理が求められます。

ガラスと省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律)

 省エネ法により、ガラスの省エネ建材等級は4区分(表※16)になっています。低放射複層ガラスとはLow−e複層ガラスのことです。国内の建築用板ガラスメーカーで構成される板ガラス協会では、等級3以上のガラスを「エコガラス」と名付けて、表示シールの上部に「エコガラス」と表示しています。表には出ていませんが、合わせガラスを用いたエコガラスも各メーカーから出されています。
表示内容 ★★★★ ★★★ ★★ -
省エネ等級 区分 等級4(最高位) 等級3 等級2 等級1
表示シール 表示なし
断熱区分 熱貫流率 (W/uK) 2.33以下 2.33超 2.70以下 2.70超 4.00以下 4.0超
JIS断熱区分 U3−2 U3−1 U2・U1 -
該当商品 遮熱低放射複層ガラス 遮熱低放射複層ガラス 一般複層ガラス 単板ガラス
低放射複層ガラス 低放射複層ガラス
真空ガラス (中空層6ミリ)※
※遮熱低放射複層ガラス、低放射複層ガラスの中空層5ミリ以下は等級2になることがあります。
(※16) ガラスと省エネ等級区分
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