※ 上部が新しい記事です
005 畳について(2012年5月4日)
004 LED照明について(2012年2月26日)
003 リフォームには「テーマ」が必要
002「インテリアプランナー」という資格
001 こころ落ち着く「長火鉢」

005 畳について(2012年5月4日)

 最近の日本家屋にも和室がない家庭が増えてきました。生活スタイルの変化がそういった傾向を生むと共に、<和室=予備室>といった考え方が現在の主流になっているのが現状でしょう。和室とも洋室ともつかない和洋室に琉球畳<風>の縁(へり)のない半畳の畳を敷いている例も多数見られます。

 疲れたときなど、和室の畳に仰向けに寝ると、木や畳のほのかな匂いが精神を落ちつかせてくれます。私たちのDNAの中には、畳に対する何かが潜んでいるような気がします。

畳の特性

高い断熱性と保温性

 畳床には、空気層が含まれています。主な物質の熱伝導率は、表(※1)の通りですが、空気には熱を伝えにくいという性質があります。畳は蓄えた熱を逃さない羽毛布団と同様に、暖かく心地良い性能があるのです。

優れた吸放湿性

 畳は、畳表のイグサを仲介して、畳床が湿気を吸収し、乾燥すればその湿気を放湿するという吸放湿性を備えています。夏は涼しく、冬は暖かく感じるのはそのためともいえます。高温多湿な日本の気候(北海道は違いますが)に向いた建材なのです。畳一畳分の自然吸湿能力は、約500mlあるといわれています。


桂離宮 松琴亭
2010年3月12日撮影

弾力性

 畳床の空気層などがクッションとなり、衝撃を和らげてくれます。転んでも、怪我をしにくいですね。

自然の素材

 最近の畳は化学製品もありますが、基本的には自然にある素材を使った製品が主なものです。人体にも優しいといえます。イグサの香りにも、鎮痛効果があることが知られています。

空気中の二酸化窒素を吸収

 東大工学部西村研究室の研究によって、畳には大気汚染の原因でもある空気中の二酸化窒素を吸収する作用があることが判ってきました。このことは、ネットでは随所に出てくるのですが、どうしても原典が見つけられませんでした。いずれにしても、呼吸器系への影響を防いでくれる効果があるようです。

吸音・遮音効果

 畳は、空気層により、吸音・遮音効果もあります。実際に、和室に座ると「落ち着き」を感じるのは、私だけではないでしょう。
物質 熱伝導熱
W/mk
0.582
2.2
アルミニウム 200
鋼材 50
370
畳床 0.11
乾燥空気 0.0241
乾燥木材 0.12〜0.19
フロートガラス 1
住宅用グラスウール16K 0.045

主な物質の熱伝導率 (※1)

畳の歴史

 畳は、日本古来の建材といわれています。あれほど影響を受けている中国や韓国には畳がありません。古事記にもヤマトタケルノミコトのところで、「菅畳」「皮畳」などと出てきますから、古事記が書かれた712年までには、畳の概念があったものと思われます。

 畳が、現在のような形態になったのは平安時代頃といわれています。その畳が部屋全体に敷き詰められるようになったのは、鎌倉時代からです。それまでは、部屋の一部に置かれていました。鎌倉時代の畳職人は、「畳差」「畳刺」などと呼ばれていますから、畳針で縫う形態が生まれていたことがうかがえます。
区分 記号 材料及び構造
稲わら畳床 WR 稲わらを材料として構成したもの
ポリスチレンフォームサンドイッチ稲わら畳床 PS ポリスチレンフォーム板を芯材とし、上下を稲わらで構成したもの
タタミボードサンドイッチ稲わら畳床 TB タタミボードを芯材とし、上下を稲わらで構成したもの

畳床の種類 (※2) JIS A 5901

 畳が一般の人たちに普及し始めたのは、江戸時代中期以降です。それまでは、貴族や僧侶や武士階級だけのものだったのです。畳表が古くなったときに、表替えや裏返しをやる風習は、戦後しばらくは続いていましたが、いつのころからかほとんど見ることはなくなりました。今では懐かしい思い出ですね。

畳の構造

 畳は、芯の部分にあたる畳床と、表面の畳表と畳の縁(へり)からできています。本来の畳床にはワラが使われていて、縦と横に並べて糸で締められています。最近ではワラ以外の素材が使われた畳床が普及しています。畳表も、本来はイグサなのですが、パルプや化学繊維を使用したものもあります。畳縁は畳を保護する役割をし、様々な模様や色を織り込んで、部屋の演出をしてくれます。

畳床

 畳床は、JISにより、表(※2)のように稲わら畳床、ポリスチレンフォームサンドイッチ稲わら畳床、タタミボードサンドイッチ稲わら畳床の3種類に分けられます。その他に、建材畳と呼ばれるタタミボード(TB)やポリスチレンフォーム板(PS)を主材とした畳床があります。それらのJISを含めてまとめたものが表(※3)です。ちょっと判りづらいですが、建材畳の畳床には稲わらが使われていません。最近のマンションでの畳は、ほとんどが建材畳でしょう。
区分 記号 摘要
稲わら畳 特級 WR−S JIS A 5901に規定する稲わら畳床特級品
1級 WR-1 JIS A 5901に規定する稲わら畳床1級品
2級 WR-2 JIS A 5901に規定する稲わら畳床2級品
3級 WR-3 JIS A 5901に規定する稲わら畳床3級品
ポリスチレンフォームサンドイッチ稲わら畳 PS-C JIS A 5901に規定するポリスチレンフォームサンドイッチ稲わら畳床
タタミボードサンドイッチ稲わら畳 TB−C JIS A 5901に規定するタタミボードサンドイッチ稲わら畳床
建材畳 T形 KT-T タタミボード(TB)を主な材料として構成したもの
U形 KT-U タタミボード(TB)とポリスチレンフォーム板(PS)を主な材料として、2層に構成したもの
V形 KT-V タタミボード(TB)とポリスチレンフォーム板(PS)を主な材料として、3層に構成したもの
K 形 KT-K ポリスチレンフォーム板(PS)を主な材料として構成したもので、裏面にかまち補強材を持つもの
N 形 KT-N ポリスチレンフォーム板(PS)を主な材料として構成したもので、裏面にかまち補強材がないもの

JISにおける畳床の区分 (※3)

 公共建築工事標準仕様書では、表(※4)のように、A種〜D種に種別されています。このように、畳床の種類は多彩なのです。表面に見えないだけに、注意を要します。

 タタミボード:木質繊維に接着剤を混ぜて熱圧成形した木質ボードの一種で、インシュレーションボードが使われます。JISにより、密度は0.35g/cu未満、難燃性の区分やホルムアルデヒド拡散量区分がされています。
種別 畳床
A種 JISA 5901 WR−1 (稲わら畳床、1級品)
B種 JISA 5901 WR−2 (稲わら畳床、2級品)
C種 JISA 5901 PS−C20(ポリスチレンフォームサンドイッチ稲わら畳床)
D種 JISA 5914 KT−U、U、V、K、N

公共建設工事標準仕様書の畳の種別(※4)

畳表

 表(※5)のように、JASにより、畳表の品質区分がされています。畳表に使われるイグサは、熊本、広島、福岡、岡山、高知などを中心に栽培される多年生の食物です。冬期に植えられた苗から、数度に分けて刈り取りされたものを泥染めすることにより、あの匂いと色艶が生まれます。使われるイグサの量は、畳1畳に4000〜5000本といわれています。高級品ですと、さらに多くなるそうです。最近は、中国、台湾、タイなどからもイグサが輸入されています。

 畳表の織り方も各種あり、普通目織り、諸目(もろめ)織り、目積(めせき)織り、大目織り、掛川織りなどがあります。

畳縁(たたみべり)

 畳縁は畳の長辺にのみ付けられる布です。畳を補強するためのものですが、色や柄により和室を演出する効果もあります。琉球畳には、この畳縁がありません。畳の縁は錦や麻、絹や化学繊維など、様々なものがあります。
区分 記号 摘要
畳表 畳表の縦糸が麻糸のもの 特等 JS 畳表の日本農林規格に定める特等のもの又は同等以上の品質のもの。
1等 J1 畳表の日本農林規格に定める1等のもの又は同等以上の品質のもの。
2等 J2 畳表の日本農林規格に定める2等のもの又は同等以上の品質のもの。
畳表の縦糸が綿糸のもの 1等 C1 畳表の日本農林規格に定める1等のもの又は同等以上の品質のもの。
2等 C2 畳表の日本農林規格に定める2等のもの又は同等以上の品質のもの。
3等 C3 畳表の日本農林規格に定める3等のもの又は同等以上の品質のもの。

JASによる畳表の区分 (※5)

 明治以前は、畳縁として生産はされていませんでした。普通の織布を一定幅に裁断して使っていました。畳縁といえば、良く見られる光輝縁は、大正から昭和にかけて開発されたものです。ネット上にも畳縁のサイトが複数ありますが、美しい柄が多いですね。

 畳縁の幅は、30mm程度を基本としていますが、好みで幅を変えることも可能です。また、畳縁の下紙にはハトロン紙が用いられます。

経糸

 糸は麻や綿の他、最近はポリプロピレン系やビニロンなど耐久性に優れたものが多く用いられています。経糸は主に麻糸と錦糸で、高級品にはマニラ麻糸が使われます。糸引き表(綿二芯)、麻引き表(麻二芯)、綿W表(綿麻四芯表)、麻W表(麻四芯表)などに分類されます。

畳の縫い方

 畳を製作する方法は、手縫いもありますが、現在は、機械縫いや手縫いと機械縫いの併用がほとんどです。オートメーションの機械もあるようですが、私は見たことはありません。基本的には、手縫いも機械縫いも製作過程は同様なようですが、タタミボードを主体とする畳は少し概念が異なるのではないでしょうか。ネットを見ると、手縫いや機械縫いによる畳の製作過程が動画で掲載されていますので、ご覧になると面白いと思います。

かまち縫い

 短辺方向に、畳表を畳床の裏面に巻き込んで縫っていくことです。

平刺し縫い

 長辺方向に、畳表を畳床に幅を揃えながら(切りながら)縫っていくことです。

隅縫い

 畳の隅部の縫い方です。機械縫いは、タッカーで留めるそうですが、手縫い隅縫いの場合は、糸で縫い上げますので型崩れがしにくくなります。

返し縫い

 平刺し縫いで縫い付けた畳縁の反対側を縫い付けることです。


修学院 寿月観
2010年3月12日撮影




修学院 窮邃亭
2010年3月12日撮影

針足

 縫い付けた針の間隔のことです。公共建築工事標準仕様書では、表(※6)のように針足の寸法が定められています。

板入れ畳

 畳の短辺に板を縫い込んだ畳です。使い込むことによって、畳の角がめり込んで行くのを防ぐための板入れです。高級畳にしかありません。
針足(mm) 縫い方 A種 B種、C種、D種
機械縫い 手縫い 機械縫い 手縫い
平刺し縫い 30以下 35以下 30以下 45以下
返し縫い 35以下 35以下 40以下 50以下
かまち縫い 45以下 45以下 45以下 60以下

公共建設工事標準仕様書に定める針足と縫い方(※6)

畳のいろいろ

縁あり畳と縁なし畳

 畳床、畳表、畳縁の構造で作られている畳は、縁あり畳です。ごくごく一般にあるものです。最近は、縁のない正方形の畳が良く使われます。格式は、縁がある方が高かったのですが、最近はフローリングの床に一部に敷いたりする使われ方が出てきました。もともとは、強度のある沖縄で生産されたイグサを使用したものを琉球畳といったのですが、最近は、縁がなければ琉球畳だとの乱暴な認識がはびこるようになりました。本来の琉球畳は、イグサを二つに分けて手で編んでいるため、畳表の断面が三角になっています。イグサの目が細かいのが特徴です。

床の間

 床の間や茶室には、龍髭(りゅうびん)畳表という独特な畳表が使用されるのが、本来の使われ方です。水洗いと天日乾燥を繰り返すため、太陽の光に当たると、渋い赤みが出るようになっています。現在では畳床を使わずに、薄縁と呼ばれる畳表に畳縁をつけただけのものが多く使われるようになってきました。
名 称 サイズ 寸 表示 面積 地  域
cm 表示 u
京間(本間) 6尺3寸×3尺1寸5分 1.824 京都を中心に関西地方
191cm×95.5cm
六一間 6尺1寸×3尺5分 1.711 岡山、広島、山口などの山陰地方
185cm×92.5cm
中京間(三六間) 6尺×3尺 1.656 名古屋を中心に中京地方
182cm×91cm
江戸間(五八間) 5尺8寸×2尺9寸 1.549 東京を中心に関東地方
176cm×88cm
団地間 5尺6寸×2尺8寸 1.445 集合住宅など
170cm×85cm

畳のサイズ (※7)

カラー畳

 化学繊維の畳に限らず、イグサを使った畳でも、最近はカラー畳が出ています。基本的には、落ちついた色が多いのですが、黒い畳があるそうです。こうなると、好みの問題ですね。

ミニ畳

 小物を飾ったり、花瓶などを飾るためのミニ畳があります。コースターなどもあります。まあ、インテリアの小物といったところでしょうか。

畳のサイズと厚さ

 畳のサイズは、地方や建物によっても異なります。表(※7)が代表的なサイズです。関西では、畳の大きさを基準にして家を造られましたが、関東では柱間を基準に家を造ったからと解釈されています。もっとも、最近の住宅やマンションでは、造ったサイズにあわせて畳のサイズを決定するといった傾向があります。いずれにしても、琉球畳を除いて、長辺と短辺の比率が2:1になっていることが基本です。ただし、現在の畳は敷方を変えると敷き込めません。部屋に合わせて、特殊な寸法で製作するからです。


栗林公園 掬月亭
2008年3月21日撮影

 畳の厚さは、仕上シロを60mm確保して、55mmの厚さの畳が基本と思っていましたが、最近は多様な厚さが出ています。バリアフリーのため、フローリングとの段差を無くすために、13〜18mmの厚さの畳も出ています。

 また、畳を良く見ると、断面が四角ではありません。逆台形の形をしています。これは、敷き込みをし易くするための知恵です。

畳の敷き方

 畳の敷き方には、しきたりがあります。縁起の良い敷き方や縁起が悪いといわれている敷き方もあり、部屋の大きさによって敷き方が変わってきます。

床の間がある場合

 床の間のある部屋では畳の縁を床の間に対して直角に敷いてはいけません。それは、床の間の前の真ん中は上座になるため、その上座の人が畳の縁に座らないようにするためです。(図※8)

出入り口に対して

 出入り口に対しては、横になるように畳を敷くのが基本です。畳の目の方向と足を運ぶ方向が同じになるようにするわけです。


床の間と出入り口
がある場合の敷き方
(※8) ▽は入口を示す

祝儀敷きと不祝儀敷き

 畳の敷き方には、祝儀敷き(図※9)と不祝儀敷き(図※10)とがあります。祝儀敷きは「吉」の敷き方とされています。昔は、普段は重ねて置いておき、祝儀や不祝儀があると部屋に畳を敷き、そのときの状況に合わせて敷き方を変えていました。祝儀敷きは、祝いことがあったときの敷き方です。このときも、出入り口の畳の向きに注意します。昔は畳の角が交わって十字になることを忌み嫌ったようです。

祝儀敷き (※9)

 一方、祝儀敷きとは反対に、不幸があったときに敷く敷き方が不祝儀敷きです。2枚以上の畳を並べて平行に敷く方法で、畳の角が交わって四辻になるために縁起が悪いとされてきました。寺院や旅館などで和室の大広間を持っているところは不祝儀敷きになっています。

 現在のように、部屋に合わせて畳の寸法を決める方法では、敷き方を変えることは不可能になっています。畳に合わせて部屋の寸法を決めた関西間でなければ、敷き方を変えることはできません。

不祝儀敷き (※10)

市松敷き

 縁なしの琉球畳などは敷き方を選ばないようですが、畳の向きを交互にすることで光の反射で色が若干変わって見えます。

茶室の敷き方

 茶室として使われる部屋はとても狭いので、基本となる形は中央に炉を置き、周りを4枚の畳で囲う敷き方です。4.5畳や6畳以上の茶室では、畳の一部が開くようになっていて、炉を置くようになっています。

7.5畳は「凶」

 7.5畳の和室は造ってはいけないことになっています。江戸時代に切腹をする部屋は、中央に半畳を敷いて、その周りに4畳の畳を巴状に敷いて、半畳の畳を裏返して4.5畳の部屋を構成していました。その部屋で切腹をするのですが、その奥に3畳の部屋を造って、切腹を確かめたそうです。そのため、合わせた7.5畳の部屋は「凶」とされました。どうしても、7.5畳のサイズになりそうなときは、畳のサイズを変えて畳数を変える必要があります。ところで、この4.5畳の敷方は今でも結構多いですね。


如庵
2009年12月10日撮影

畳の上手な使い方

時々は、太陽に当てる

 畳はある程度の水分が必要なのですが、湿気を多く持続させるとカビが生えたりダニが発生したりします。梅雨の時期や夏場は換気をこまめにして掃除をする必要があります。昔は畳干しを良くしましたが、現在ではほとんど見ることがありませんね。いずれにしても、時々は、太陽の光に当て風を通して湿気を逃がす必要があります。

畳の上の絨毯

 畳の上に絨毯を敷いていることがありますが、ダニの温床になりますし、畳自体にも良くありません。畳の上に敷く上敷きや花ござなども決して良くありません。

カビやダニの対処法

 畳に出るダニはチャタテムシなどがいますが、畳そのものから湧いてくるとは限りません。湿度が多いとどこにでも発生しますので、換気をよくして部屋の中に湿気がこもらないようにする必要があります。また、畳の材料はイグサですから、湿気が多いとカビが生えてきます。消毒用アルコールなどで軽く拭き取ってから、ダニと同様に、湿気を逃し、掃除を心がける必要があります。

瀬戸内海にある生口島にある
耕三寺の潮聲閣
2009年11月26日撮影

畳のリサイクル

 昔の畳は、自然素材で構成されていましたので、ワラとして自然に帰したそうですが、現代ではそうもいきません。畳は古くなると分別して、処分するしかないようですが、リサイクルの方式が確立しているとはいいきれませんね。札幌市でも、FP板が入った畳は受け入れないとされています。FP板が入っていない畳は、500円で処分をしてくれます。後は、専門業者と相談するしかないのですね。
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004 LED照明について(2012年2月26日)

照明の歴史

 紀元前数千年前の遺跡から、松明の跡が発見されているそうですが、人類の歴史における照明の歴史は、恐らく更に遡るでしょう。古代エジプトでは、紀元前3世紀の王墓から燭台が発見されています。石油ランプというと、シャハラザードが毎夜、王に語ったアラビアンナイトの「アラジンの魔法のランプ」が余りにも有名ですが、石油ランプも有史以前に遡るかも知れません。ガス灯は1797年のイギリスにおいて始めて設置されています。日本においても、それほど遅れることなく独自に開発された記録があります。蝋燭も石油ランプもガス灯も未だに利用されていることが、素晴らしいですね。

 トーマス・エジソンが1879年に白熱電球をつくり、日本でも1882年に銀座で電灯が点けられたころから、人類の照明の歴史には、電気が必要不可欠な存在になりました。蛍光灯が私たちの生活に一大革命を起こしたことは記憶に新しいですが、現在では、多様な電気による照明器具が発明されています。特に、LED照明は、まだ歴史が浅いものの、この数年間の進歩はめざましいものがあり、近い将来には蛍光灯を凌駕するのは間違いないと思われます。照明用光源の簡単な歴史が図(※1)です。

照明の歴史 (※1)

光源の種類

 光源の種類は、いろいろな分け方があると思いますが、図(※2)の様に分けることができます。

 ●せん光電球
   船舶の信号灯や写真製版に使われるものです。大きなものでは、
  灯台にも使われます。

 ●白熱電球
   フィラメントに電流を通し,その放射熱による発光を利用した電球の
  総称です。ガラス球に白い塗料を塗ったシリカランプ(ホワイトランプ)
  や透明なクリプトンランプなどがあります。安価ですが、寿命が1,0
  00〜2,000時間程度です。白熱電球では、エネルギーのほとんど
  が熱となって放出されるため、エネルギー効率が良くありません。かつ
  ては、家庭の主流製品でしたが、徐々に消えていこうとしています。

 ●ハロゲンランプ
   ガラス球内に微量のハロゲン元素またはハロゲン化合物を封入した
  白熱電球の一種です。封入ガスにより、一般の白熱電球より50%程度
  明るくなり、寿命も長くなります。自動車のフォッグランプはハロゲン
  ランプです。太陽光に近い光を実現した4700Kの昼白色のデイライ
  トハロゲンランプは、屋内で洋服を選んだりする照明に最適といわれて
  います。

 ●水銀ランプ、超高圧・蛍光・安定器内蔵水銀ランプ
   ガラス球内の水銀蒸気中のアーク放電を利用した光源です。紫外線
  放射を伴うのが特徴です。点灯直後では、水銀の蒸気圧が低く輝度も
  低いことと、発光管が冷えるまでは再点灯できないという欠点がありま
  す。体育館などで利用されています。点灯中の水銀蒸気圧が100〜
  1,000kPa(1〜10気圧)のものを高圧水銀ランプといいます
  が、通常は水銀ランプとは、高圧水銀ランプのことをいいます。ガラス
  球内に蛍光体を塗布したものを蛍光水銀ランプといい、赤色光を強め


光源の種類 (※2)
  ることで演色性を改善しています。水銀蒸気圧が1〜10Pa程度のものを低圧水銀ランプといい、発生する
  紫外線を利用して殺菌灯などに使われます。1,000kPaを超えるものは、超高圧水銀ランプといい、
  瞬時点灯が可能です。安定器の働きをするバラストフィラメントを内蔵したものを安定器内蔵水銀ランプ
  (バラストレス水銀ランプ)といい、仮設照明など安定器の設置が難しい場合などに使用されます。

 ※HIDランプ(高輝度放電ランプ High Intensity Discharge)
   とは、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ
   の総称です。

 ●メタルハライドラン
   水銀とハロゲン化金属(メタルハライド)の混合蒸気中のアーク放電による発光を利用した高輝度ランプ
  です。水銀ランプの一種とみることもあります。省電力、長寿命、高輝度で効率もよいので、大規模な商業
  施設や高層ビルなどの吹き抜け部分、室内アトリウムのベース照明等に用いられます。水銀灯と比べると
  イニシャルコストが高いため、水銀灯とメタルハライドランプを併用するケースもあります。変わった例では、
  プラネタリウムでも、従来のハロゲンランプに代わって使用されています。ただし、ハロゲンランプよりは、
  発熱量が多いため、投影機内部の冷却には注意を要します。

 ●高圧ナトリウムランプ、低圧ナトリウムランプ
   ナトリウム蒸気中のアーク放電による発光を利用したランプのことです。特有のオレンジ色の暖かみのある
  光を出します。この波長は、虫を寄せ付けない特徴があります。蒸気圧により、高圧と低圧があります。低圧
  ナトリウムランプが道路やトンネルなどの照明に用いられましたが、演色性に劣るため、最近は封入蒸気圧
  を高くした高圧ナトリウムランプが開発されました。高圧ナトリウムランプは、水銀ランプの約2倍のランプ
  効率を誇り、道路・工場・商業施設などに省エネを推進する光源として広く普及しています。

 ●キセノンランプ
   白熱電球は、フィラメントに通電させることによって発光させていますが、キセノンガスを封入したガラス管
  の中に電圧をかけて、放電させることによって発光するランプです。フィラメント方式より消費電力が低く、
  また、理論上、球切れがない長寿命がキセノンランプの特長です。可視域は、色温度約6,000Kの自然昼光
  に極めて近い分布を持っています。非常に大きな光束が得られるため、屋内・屋外の広範囲を照明する用途
  に用いられるほか、レーザー励起光源や航空機誘導灯としても用いられます。小さいものでは、輝度の高い
  点光源として映写用、印刷用に、また、写真撮影用のエレクトロニックフラッシュとしても多用されています。

 ●蛍光ランプ
   起源は、1856年のドイツのハインリッヒ・ガイスラーによって作られたガイスラー管といわれていますが、
  1938年にアメリカのGEが、ジョージ・インマンの指導のもと、蛍光ランプを製品化しました。翌年には、
  日本の東芝がインマンの指導を受けて蛍光ランプを試作しています。日本で始めて電球色の蛍光ランプを
  製作したのは、1973年の日本電気シルバニア(日本電気とアメリカの照明器具メーカーシルバニアの
  合弁会社)です。電球型の蛍光ランプを製作したのは、1978年の日立製作所です。このように、蛍光
  ランプの歴史は、日本のものづくりの歴史と重なります。現在では、多様な蛍光ランプが製品として市場に
  出されています。蛍光ランプは、放電で発生する紫外線を蛍光体に当てて可視光線に変換する機構になって
  います。発光時の内部温度は、1万度に達しますが、気圧が非常に低いため(2〜4Pa)、ガラス管が
  溶ける様なことはありません。始動方式は、グロースタート(点灯管)方式、ラピッドスタート方式、
  インバーター(高周波点灯)方式があります。

 ●ネオンランプ、ネオン管
   ネオンランプの定義は、いろいろあります。ネオンガスやアルゴンガスなどを低圧で封入して、一対の電極
  でグロー放電させる電子管をネオン管。検電ドライバーなどのように、ガラス管に鉄、あるいはニッケルで
  できた電極を1mm程度の間隔で取り付け、負グローの発光を用いたものをネオンランプと分ける定義が一般
  的です。ネオンサインなどに使われる管内壁に蛍光物質を塗布して、様々な光色を演出する各種ガス放電管
  もネオン管と呼ばれることもあります。

LEDランプの売り場


LEDランプの売り場


多彩なLEDランプ


多彩なLEDランプ

 ●エレクトロルミネセンス(EL)
   有機物に電圧をかけることにより、有機物自体が発光するシステム
  です。有機EL(エレクトロルミネセンス)による照明機器は、既に
  製品化が始まっており、「点発光」であるLED照明に対して、「面
  発光」や「形状に制約がない」などの特長もあり、LEDを超える可能
  性を秘めています。今後の動向に注目する必要があるでしょう。

 ●発光ダイオード(LED)
   青色発光ダイオード(LED)の開発はすっかり有名になりました
  が、赤色、青色、緑色のLEDが揃ったことにより、多彩なLED照明
  が開発されています。電球形LEDランプの種類と対応する白熱電球は
  図(※3)のようになっています。

 ●レーザー
   レーザーの原理そのものは、アインシュタインまで遡ります。光の
  「共振」と「増幅」による発振原理を応用して開発されました。CD
  やDVDの読み取り装置にも半導体レーザーが使われていますし、
  レーザーの細いビームラインと高密度エネルギーを利用したレーザー
  メスや皮膚・目の治療など、私たちの生活の中になくてはならないもの
  になってきました。レーザーの媒体には、半導体の他に、固体・液体
  ・金属・ガスなどがあり、その多様性に驚きます。また、レーザー光
  も可視光領域に限らず、紫外線やX線などの短い波長や赤外線などの
  長い波長のものがあります。ミリ波より波長の長い電磁波のものを
  メーザーと呼びます。


電球形LEDランプの種類と対応するLEDランプ (※3)
日本電球工業会のホームページより

光で使われる単位など

  光で使われる単位は、各種あります(※4)。良く出てくる言葉を含
 めて、列記してみます。

 ●照度(Luminance)単位:lx(ルクス
   光源によって照らされている面の明るさを、照度(ルクス:lx)
  といいます。一般に直射日光が約10万ルクス、部屋の窓際で2000
  ルクス程度、明るいオフィスで400ルクス程度の照度があります。
  満月の明かりは0.2ルクス程度です。読書のためには、300〜
  750ルクス程度の照度が必要です。あくまでも、照らされた面の
  明るさを指した指標です。
SI単位 記号 備考
照度 ルクス lx 放射量における放射照度
光束 ルーメン lm 放射量における放射束
光度 カンデラ cd 放射量における放射強度
輝度 カンデラ毎平方メートル cd/m2 放射量における放射輝度
光束発散度 ラドルクス rlx 放射量における放射発散度
発光効率 ルーメン毎ワット lm/W ランプ効率とも呼ぶ
光度エネルギー ルーメン・秒 lm・s 放射量における放射エネルギー

光で扱う単位の例 (※4)

 ●光束(Luminous Flux)単位:lm(ルーメン
   光源が放つ光の明るさを光束(ルーメン:lm)といいます。ルクスは、照らされる場所によって変わってきますが、ルーメンは光源となる照明器具
  の能力を示す値になります。光度1カンデラの光源が1ステラジアンの範囲に放射する光束が1ルーメンと定義されていますが、かえって判りづらく
  なりますね。全光束とは、全ての方向に対して放出する光束の和を指しますが、基本的に表示される光束と同じことです。一般的には、ルーメンの
  値が高い光源ほど明るい光源となります。

 ●光度(Luminous Intensity)単位:cd(カンデラ
   発光体が放つ光の強さを表す単位です。直径2cmのろうそくの光度が約1cdです。自動車のヘッドライトなどは、光度規制をうけています。
  車幅灯で300カンデラ以下、2灯式の主走行ビームで15000カンデラ以上などとなっています。

 ●輝度(Luminance)単位:cd/u(カンデラ毎平方メートル
   単位面積あたりの光度(カンデラ)を輝度(カンデラ毎平方メートル)といいます。パソコンの液晶ディスプレイの輝度は、250〜500
  cd/u程度です。

 ●光束発散度(Luminous Radiance)単位:lm/u
   光束発散度とは、人間の感じる心理的な物理量のひとつで、光源の単位面積あたりの光束(ルーメン)で示されます。同じ光束を放射する照明
  器具でも、大きいものほど光束発散度は小さくなります。

 ●発光効率
   ルーメンを照明器具の消費電力で割ると、1W当たりのルーメンが出ますが、この値を「発光効率」といいます。ランプ効率ともいいます。この値
  が大きいほど、より少ないエネルギーで、明るく光を得ることができることになります。 光源の省エネ性能を表す際に使われます。

 ●視感度(Luminosity Factor)
   人間の目が最も強く感じる波長555nm(ナノメートル)の光を1として、他の波長の明るさを感じる度合いを比較したものです。逆にいうと、
  他の波長では、大きくても小さくても、人間の目では弱く感じます。国際照明委員会(CIE)が、標準比視感度を定めています。人間の目は同じ
  エネルギーの光でも波長によって明るさが変わるため、波長ごとに比視感度で重みづけされています。

 ●演色性
   照明を語ると良く出てくる言葉です。同じ照度や輝度でも、光源の種類によっては、見え方が異なってきます。一般に、自然に近い状態に見える
  ことを演出性が高いとされています。白昼の太陽光を最大のRa(平均演色評価数)100として、指数で表されることがあります。白熱電球の
  演色性はRa100程度、電球型蛍光灯の演色性はRa84程度です。

 ●明るさ感
   空間全体の明るさの程度を表現することばです。同じ照度であっても、演出性や照明器具の取付方法・位置によっても明るさ感は異なってみえ
  ます。一般に、壁面が明るいと明るさ感が高くなるといわれています。

 ●色温度
   光源が発している光の色を、熱力学的温度のK(ケルビン)を使って定量的に表します。普通の太陽光線は5000〜6000K、朝日や夕日は
  2000K程度です。色温度の概念では、温度が低いときはオレンジ系になり、温度が高くなるにつれて黄色みを帯びた白になり、さらに高くなると
  青みがかってきます(図※5)。照明では、色温度3000Kは温かみがある色で、4200Kは落ち着きのある色、5000Kは活動的な色といわ
  れています。

 ●ワット
   電力=電圧×電流の式は、小学校で習いましたね。日本の家庭で使
  われているのは、100Vの交流電源です。60Wの照明器具であれ
  ば、電流=電力/電圧ですから、0.6A(アンペア)の電流を使用す
  ることになります。電気料金は、電力使用量によって変わってきます。
  当たり前ですが、ワット数の少ない照明器具ほど省エネルギーになり
  ます。


色温度 (※5)

LEDは半導体、その発光域は

 LEDとは、発光ダイオード(Light Emitting Diode)と呼ばれる半導体のことです。物質に与えた電気エネルギーが直接、光に変わる固体光源のことで、照明の歴史では第四世代にあたります。LEDの最大の特徴は、耐久性が高いことです。また小型化することが容易で、消費電力が少なくて済みます。

 LEDは、いろいろな素材を使用することにより、さまざまな色の発光ダイオードを作り出すことができます。赤色LEDはガリウムヒ素リン、青色LEDはインジウム窒素ガリウムなど、多彩な発光ダイオードが開発されています。

 また、LED照明は、直管形LEDランプや電球形LEDランプなどに限らず、ダウンライト、ミニランプ及び投光器など従来の照明器具全般に渡った製品が開発されています。

 LEDの発光域は、380〜780nm(ナノメートル/百万分の1ミリ)の可視光域にあり、780nm超過の赤外線域の光をほとんど含まないため、展示商品の熱劣化を抑えることができるので、生鮮食品等の照明器具としては最適といえます。また、380nm以下の紫外線域の光もほとんど含まないため、紫外線劣化を嫌う美術品などの照明器具としても最適です。虫が集まりやすい光は、250〜420nm間の紫外線領域に多く分布しているため、誘虫性が低い照明としても注目されています。(※6)


白色LEDの分光スペクトル (※6)
LED照明推進協議会のホームページより

白色LEDについて

 LEDでは、純粋な意味での白色LEDは実現できていません。そのための白色に見せるための代表的な方式が次の4種類です。

 1)青色LEDとその補色の黄色の蛍光体を組み合わせる方式
    現在の主流ともいえます。演色性に劣る問題がありましたが、
   赤色や青緑色を補った改良型が出てきています。

 2)近紫外または紫色のLEDにより、赤色、緑色、青色の蛍光体を光
   らせることにより白色光を得る方式

    演色性が高いのですが、赤色蛍光体の効率が悪いことと、寿命
   の改善が課題となっています。

 3)赤色、緑色、青色のLEDを組み合わせる方式
    各色のLEDのバラツキに問題があり、物の見え方が不自然に
   なることがあります。物を照らす照明用途には不向きですが、
   三原色を制御してさまざまな光を演出する用途には向いています。

 4)青緑色LEDと赤色LEDを組み合わせて白色光を得る方式
    3色のLEDと同様な特性があります。

発光効率の向上

 白色LEDは、1996年の実用化以来、急激に発光効率を向上させています。図(※7)の様に、蛍光灯のレベルに達しようとしています。さらに、今後も図(8)の様に、2020年には、ナトリウムランプを超える200lm/Wに達すると予想されています。ただし、これはLED素子単体の値です。照明器具に組み込んだ場合は、温度上昇により効率が低下するため、LED素子単体の発光効率の半分程度まで低下するといわれています。ちなみに、白熱電球の器具組込時の低下率は3割程度です。

 LEDのカタログ等には、発光効率をLEDモジュールで表記している海外メーカーもあります。器具本体の発光効率が出ていない場合は、注意を要します。

 また、調光をして低出力にした場合、蛍光灯では効率が低下するため、必ずしも期待する省エネルギー効果が得られないのですが、白色LEDでは、駆動電流が減少すると、逆に発光効率が向上する特性があります。省エネルギーに適した照明器具といえます。


LEDの発光効率 (※7)
パナソニック電工のホームページより

LEDの発光効率の今後の予想 (※8)
パナソニック電工のホームページより

 とはいえ、わずかな電圧変動でも電流値が大きく変動するのがLEDチップといえます。LED器具に含まれる制御装置の品質が大きく作用するわけです。LEDメーカーが多数輩出していますが、まだまだ発展途上の製品だということも留意しなければなりません。

LEDの温度特性について

 LEDは、温度上昇により効率が低下する傾向があります。逆にいうと、温度が低下すると効率が向上する特性があります。蛍光灯は、温度が下がると効率が低下するというLEDと逆の特性があるため、LEDは冷蔵庫や冷凍庫等の低温場所向け照明器具の開発が進むとみられています。また、LEDには、熱対策のために通気性を確保する必要があります。密閉タイプでは劣化が早いのです。結露対策、防湿・防水性能を含めた開発が求められています。LEDはコンパクトなため、狭い空間への取付が可能ですが、放熱対策が必要だということです。

LEDの応答性と耐衝撃性

 LEDは、半導体の電子と正孔の再結合に伴う発光現象を利用しています。応答時間は、数十〜百ナノ秒と非常に短いため、さまざまな付加回路を備えた蛍光灯や応答時間が0.1秒程度の白熱電灯よりも遙かに早い応答性を備えています。特に、蛍光灯に顕著なチラツキがほとんどありません。

 また、LEDモジュールは半導体素子と樹脂でできているため、ガラス管を用いた白熱電灯や蛍光管に比べて、振動や衝撃に強い特徴があります。振動が激しい製造機械等への応用範囲が期待されています。

LEDの寿命

 LEDチップは、熱対策がなされた場合は、基本的に半永久的な寿命を持つといわれています。通常のLEDモジュールで4万時間の寿命とされていますが、白熱灯の約10〜20倍、蛍光灯の約3〜4倍の寿命があることになります。

 LEDの寿命は、発光素子自体よりも、その周りを構成する樹脂材料が熱などにより劣化することが主な原因といえます。初期製品では、エポキシ系樹脂が使われていましたが、シリコーン系の樹脂の製品が多くなり、少しずつ改善されています。

 蛍光灯は、低い光量で点灯すると発光寿命が短くなるという欠点がありますが、LED照明は、低い光量で点灯するとむしろ発光寿命が長くなる特性があります。応答性の良さからも、調光に向いているといえます。

 LEDは、他の照明に比べて、全光束の劣化速度が遅いのが特徴ですが、日本照明器具工業会が定める基準では、点灯時間又は初期の明るさ(光束又は光度)が70%になった時をLEDの寿命としています。ただし、開発されて間もないLEDです。本当の意味での寿命になったという現象は、これからの検証によるでしょう。

LEDの配光特性

 LED照明の光は直進性が強いために、光を抑制することにより、必要とする場所だけを照らすことができます。これは、空間全体を覆う明るさ感がないともいえます。その特性を理解した照明計画が必要になります。これは逆にいうと、平均水平面照度のみを算出する現在の照明計画法では、LED照明の適正を導き出すには限界があることになります。

 むしろ、最近の傾向としては、その特性を活かした照明デザインが展開されています。さらに、水平に近い角度で発光するワイド配光型LEDも開発されて、面発光に近い演出をした製品も出されています。

 白熱電球と電球形蛍光ランプと電球形LEDランプの光の広がり方は、図(※9)のように、異なります。電球形LEDランプは、下方向主体に光が出ていることがわかります。

 電球形LED照明には、配光形により図(※10)の様な形状があります。光の広がり方を留意して使い分ける必要があります。白熱電球、蛍光灯を含めた配光のイメージ図(※11)と配光図/光の広がり方(※12)です。

白熱・蛍光灯・LED電球の光の広がり方比較 (※9)
日本電球工業会のホームページより


電球形LEDの配光形による種類 (※10)
日本電球工業会のホームページより


配光のイメージ (※11)
日本電球工業会のホームページより


配光図/光の広がり方 (※12)
日本電球工業会のホームページより

LEDの演色性

 LED照明では、図(※13)のように発光効率と演色性は相反する関係にあり、高効率タイプで演色性を満足させるLED照明は、これからの課題です。現状では、演色性を優先させたLED照明器具と発光効率を優先させたLED照明に別れているといった方が良いかもしれません。メーカーによっては、発光効率の高さを誇っている場合もありますが、演色性も重要な要素なのです。

 白色LEDの4種類の方式の項でも記述しましたが、青色LEDとその補色の黄色の蛍光体を組み合わせる方式ではRaが70程度ですが、赤色蛍光体を追加することによってRaを80以上にするなど、さまざまな改良版が出てきています。
光色タイプ 演色性(平均演色評価数) 発光効率(光出力)の比較
白色タイプ 色温度:約5000K Ra70程度 100
Ra80程度 約90
Ra90程度 約75
電球色タイプ 色温度:約3000K Ra70程度 約70
Ra80程度 約65
Ra90程度 約55
LEDランプの演色性と発光効率の関係 (※13)
パナソニック電工の資料より

 日本電設工業協会の「LED照明器具に関する課題と施工標準化の検討報告」を見ると、複数メーカーの演色評価数が出ています。そのグラフに、図(※14)の様に、演色評価試験色を貼り付けてみました。この色は、あくまでも近似値と思ってください。これは、ある物体を照らしたときに、基準光と比較してどれだけ色を忠実に再現できているかをR1〜R15までの15試験色毎に評価したグラフです。

 このグラフをみると、LEDランプでは、R9(Strong red)付近の演色評価が低いことがわかります。高演色LEDランプ(グラフでは赤線)は、かなり検討していることもわかります。メーカーによっては、演色性を改善するために、赤色蛍光体を混ぜて是正しているのは、このためです。

 演色性を定量的に評価する方法は、「色の見えの忠実性」と「色の見えの好ましさ」の2つの方法があるといわれています。後者は、定まった評価方法が決まっていませんが、前者の「色の見えの忠実性」を表すのが、平均演色評価数(Ra)特殊演色評価数(Ri)です。Raは、R1〜R8までを平均した数値です。通常、こちらが使われます。Riは、R1〜R15までの一つ一つを評価して、定められた計算式で表した数値です。

LEDと色温度

 LED照明は、モジュールの構成を変えることにより、自由な色温度を作ることができます。演出性と並んで、多彩な色彩計画を可能としています。

LEDランプの演色評価数グラフと演色評価試験色 (※14)
「LED照明器具に関する課題と施工標準化の検討報告」/日本電設工業協会
のグラフに演色評価試験色を貼り付けたもの

LED照明の明るさ(照明効果)

 白熱電球と蛍光灯との比較です。LED照明の場合は、全体照明と部分照明によって器具が変わってきます。購入の際の目安としてください。図(※15と※16)は、社団法人日本電球工業会の資料を基に作成しました。

LEDの省エネルギー性と環境性

 LEDを最も特徴付けるのが省エネルギーだといえます。

 簡単な計算をしてみましょう。毎日5.5時間ずつ1年間使用したとします。北海道電力は、281KWh超は24.15円/KWhです。(電力会社や使用量によって、値段は異なります。使用量が大きい場合は、21.26円〜27.25円程度です)
全体照明
白熱電球 電球形蛍光ランプ LED電球
E26口金 E17口金
W型 W型 全光束(ルーメン)
100W型 25W型 1520lm 1430lm
60W型 15W型 810lm 760lm
50W型 640lm 600lm
40W型 10W型 485lm 440lm
25W型 230lm

白熱電灯、蛍光灯、LEDランプの照明効果比較/全体照明 (※15)


    5.5×365日=約2,000時間/年間

  60Wの白熱(シリカ)電球の消費電力は54W程度ですから
    54W×2,000h=108,000Wh=108KWh
                        → 2,608円/年間

  電球形蛍光灯60W相当の消費電力は12W程度ですから
    12W×2,000h=24,000Wh=24KWh
                        →   580円/年間

  電球形LEDランプ60W相当は、810lmで、消費電力は10W程度ですから
    10W×2,000h=20,000Wh=20KWh
                        →   483円/年間

  電球形LEDランプの消費電力は、製品によってかなりバラツキがあります。
  消費電力が5.8WのLEDランプを使用すれば、
    5.8W×2,000h=11,600Wh=11.6KWh
                        →   280円/年間

 最近の高演色性を誇るLEDランプの場合、消費電力が蛍光灯とあまり変わらない製品も多く出ています。<演色性が高い=明るい=消費電力が高い>という傾向は当然でしょう。白熱電球との差は歴然ですが、蛍光灯からの省エネ効果は期待以上はないと認識した方が良いかもしれません。
部分照明
白熱電球 電球形蛍光ランプ LED電球
E26口金 E17口金
W型 W型 全光束(ルーメン)
100W型 25W型 760lm
60W型 15W型 405lm
50W型 320lm 300lm
40W型 10W型 240lm 220lm
25W型 115lm

白熱電灯、蛍光灯、LEDランプの照明効果比較/部分照明 (※16)


 ただし、LEDランプは寿命が40,000時間といわれていますから、20年近く寿命があることになります。一方白熱電球は、1,000〜2,000時間程度ですから寿命は半年〜1年です。電球形蛍光灯は6,000時間程度ですから、3年は寿命があります。後は、家電量販店などで電球が幾らで売られているかの比較を合計することになります。

 ちなみにわが家は、家を建てた十数年前から、ほとんどの照明を蛍光灯にしていますので、今後は蛍光灯の寿命を見計らってLEDに交換していくことになると思います。参考に、日本における2010年度の照明器具の出荷状況表(※17)を掲載しておきます。これをみても、LED照明が急激に伸びてきているのがわかります。
区分 出荷数量 出荷金額 インバータ化率
千台 前年比 百万円 前年比
蛍光灯器具 34,439 104.0% 298,719 102.3% 75.4%
白熱灯器具 10,819 82.4% 39,775 80.1% -
防災用 2,607 105.6% 71,338 104.7% -
高圧放電灯器具 1,198 94.3% 27,875 96.0% -
LED器具 3,913 308.2% 53,983 295.4% -

照明器具の出荷状況 (※17)
日本照明器具工業会の自主統計より

 電気料金だけが省エネルギーではありませんが、一般照明用ランプを高効率LEDランプに置き換えた場合の電力削減は、日本の照明用電力の40%にあたる227億KWhになるとの試算(日本電球工業会)もあります。日本全体の年間電力消費量は、10兆KWhですから、2.3%の削減ということになります。お金で換算すると5,000億円近いことになります。まあ、これは関連業界の計算ですから鵜呑みにはできませんが、原発問題を考えると無視はできませんね。

 また、「建設リサイクル法と建築物の解体等(改修)に伴う有害物質について」でも記述しましたが、蛍光管内部にあるアルゴンガスなどには微量の水銀が封入されています。蛍光管を破損させると、その水銀が大気中に排出されることになります。そのため、蛍光管は適正な処分をしなければなりません。しかし、メーカーのホームページをみると、LEDランプの処分は、各自治体の処分方法によるとなっています。これだけでは、環境にやさしいとはいいきれません。ちなみに札幌市では、有料の燃やせないゴミに該当するようです。蛍光管は回収リサイクルシステムが確立していますが、LEDランプの処分方法は未整備に近いのが実態です。いずれは出てくる訳ですから、整備を急ぐ必要があるでしょう。

LEDランプの注意点

使用条件

 LEDランプの使用条件は、表(※18)の範囲で使用することになっています。従って、これに該当しない場合は、注意が必要です。ただし、日経アーキテクチュアの2012年1月10日号を見ると、冷蔵庫にマイナス40℃対応という特注品の低温用LEDを52台設置した例が出ています。使用条件を大幅に変える製品が開発されているのです。低温下でも高性能を発揮するLED照明の特性を活かし、さらに必要な明るさになるまで蛍光灯では20〜40分もかかるのに対して、瞬時に明るくなるLED照明を導入したのです。省エネルギー効果ももちろんですが、メンテナンスにも有効といえます。
電源電圧 定格電圧±6%
周波数 50Hz・60Hz
器具周囲温度 5℃〜35℃
相対湿度 85%以下

LEDランプの使用条件
(※18)

 また、LED照明はカバー部分が樹脂なので、耐衝撃性には優れていますが、屋外で使用する場合は耐候性に問題があります。器具の上に防水カバーを付けるなどの対応が必要になってきます。浴室用に使用する場合も、防水対応品を使う必要があります。ただ、浴室などは、照明を常時点灯する場所ではありません。すべてをLED化する必要はないのです。

直管形を既設の照明器具に付ける

 直管形LEDランプには、従来の蛍光灯ランプと構造的に互換性を持つタイプと、新たに規格されたL形口金付直管形LEDランプなどがあります。前者は、既設の蛍光灯にそのまま装着することを前提にしていますが、後者は装着できません。しかも、前者も既設の蛍光灯の始動方式によっては、使用できないものがあります。

 また、直管形に限りませんが、照明器具は10年程度で、安定器や内部結線が劣化するといわれています。10年以上を経た蛍光灯器具の内部を見てみると、放熱が不十分な密閉タイプでは、熱により焼けたような跡があることがあります。そのような経年劣化した既設照明器具に、寿命が10〜20年といわれるLEDランプをつけて、大幅に寿命を延ばすことには問題があります。いずれにしても、既設照明器具の点検は交換時も経過後も必要なのです。

放熱対策

 LED照明は、LEDモジュールと制御装置から発熱があるため、放熱を考慮した計画が必要になります。特に、LEDは上向きに熱が流れるため、断熱工法で施工される天井のダウンライトに注意しなければなりません。製品のカタログに、断熱工法対応と表示されていないLED照明は使うべきではないでしょう。既存の白熱灯のダウンライト自体が断熱工法に対応していない器具を使用していたという例もありますので、これも注意点だと思います。その場合の対応方法としては、器具を取り替えるか、決して良い方法ではありませんが、天井の断熱を照明器具の周りだけ、離隔を確保するために切除するといった方法があります。

調光スイッチ>

 最近は、かなり改善されてきましたが、白熱灯専用の調光回路に設置されている器具でLEDランプに取り替えた場合、スムーズな調光動作が得られないことがあります。LEDは、一定電圧に達しないと電流が流れない特性をもっているからです。非発光領域が広いのです。照明器具の調光スィッチのタイプも各種あり、メーカー間の違いもあるため、使用するメーカーに問い合わせるしかありません。

ノイズ障害

 LED照明には、電源回路に高周波の駆動部分があるため、ノイズ(雑音)が多く出る可能性があります。特に、その障害対策をしていない製品は要注意です。とはいえ、これは使用してみないと判りませんね。宮城県の商店街に設置された街路灯136基に計272個をLEDランプに取り替えたところ、テレビやラジオに受信障害が発生した報道がありました。

 国内で販売されている電気機器製品は、電気用品安全法で定められている雑音端子電圧及び雑音電力の基準値を満足しなければならないとされていますが、LED照明は電気機器製品でありながら、照明器具全体としては規制対象外となっているため、メーカーの自主規制に任せているのが実態なのです。別に、大手メーカーの宣伝をするわけではありませんが、現状は海外メーカーを含めて、多数のメーカーが乱立していますね。

色のバラツキ

 かつて、HIDランプの出始めのころ、色のバラツキが目立っていました。その後の改良により、現在ではほとんど問題がなくなっています。同じような傾向が、現在のLEDランプにもあります。特に、白色を得るための蛍光体の塗布量によってバラツキがかなりあるようです。製品改良が急激なことも原因しているでしょう。そのうち改善するだろうと割り切るしかないと思います。

補償責任の範囲

 既存の白熱灯や蛍光灯のランプをLEDに交換した場合は、器具の製造者責任を問うことはできません。改造にあたるからです。大規模に交換する場合などは、メーカーや施工業者との協議記録を書面に残して置いた方がよいでしょう。

LED照明の危険性

 特定の使用条件下で、高い輝度を持つLEDランプに起因するグレアの危険性と青色光で引き起こされる光生物的な危険性を指摘する考え方があります。欧州ランプ工業会がこの指摘を分析して、2010年11月9日付けでQ&Aを作成しています。

 日本電球工業会のホームページでは、このQ&Aを翻訳したものを掲載していますので、参考にされると良いと思います。日本人は、ほとんどの人の眼は黒っぽい虹彩ですが、多様な虹彩を持つ西洋では、自然昼光を含めた光の危険性に敏感なのですね。

 とはいえ、LED照明器具は、従来の照明器具に比べて、指向性が強く、光束が拡散しにくいため、不快なグレア(高輝度)が起こり易いのは事実です。これを防ぐためには、拡散性の高いカバー等を採用する必要があり、JIS Z9110:2010でも、不快グレアの算出式を定めて、改善されてきています。

LED照明とJIS

 LED照明器具は、従来の照明器具とは考え方が大きく異なるため、現行のJISで適用範囲等を定めることが難しくなっています。既存光源を含めた、整合性がある測定方法・安全基準・性能要求等の整備は、後追いとなっているというのが実情でしょう。特に、LED照明の性能表示において、「白熱電球○○W形相当」などの表示方法が各社まちまちであったため、これについては、2010年の7月に「電球形LEDランプ性能表示等ガイドライン008:2010」などが制定されています。

 電気用品安全法に定めるPSEマーク(表示例:※19)についても、電源装置や制御装置などの一部が規制対象となっているだけで、LED照明器具全体では規制対象外となっています。インターネットで閲覧した際にも、海外メーカーですが、PSEマーク対応品と表示している製品がありましたが、現時点ではそのような製品はありません。しかし、適用対象にするという方向が出ていますので、近々に法整備がなされると思います。

LED照明に対する補助制度など

 LED照明に対する補助制度が多数あります。経済産業省の「建築物節電改修支援事業補助金」、環境省の「家庭・事業者向けエコ・リース促進事業」や各自治体からも出ています。器具が多い場合は、要チェックでしょうね。

 持続的発展が可能な社会の構築のために、国等の公的機関が率先して環境負荷低減商品の調達を推進するという「グリーン購入法」においても、2011年度より、LED照明器具及びLEDを光源とした内照式表示灯が加えられています。

特定電気用品

特定電気用品以外の電気用品
PSEマークの例 (※19)

LED照明の価格と今後の普及

 かつては、蛍光灯に比較して10倍近い価格をしていたLED照明ですが、このところ急激に値段が下がっています。価格の安い海外製品も入ってきています。20年を経過した青色LEDチップなどの基本特許が、2010年以降に切れることもあり、さらに値段が下がっていくことが予想できます。開発メーカーも大手に限らず、多数あります。粗悪品もあるでしょう。これまでは、CSR(企業の社会貢献)の手段として利用されてきた感がありましたが、東日本大震災を契機として、一気に普及期に入ったというのが現実ではないでしょうか。

 演色性の指数を表示している製品もあります。量販店などでは、実際に点灯して販売しています。私も店舗で見ましたが、たくさんのLED照明が点灯している状態の陳列から、実際の場面での照明効果を判断するのは至難の業です。やはり、1つずつ確かめて見るのが間違いないといわざるを得ませんね。

 2010年1月に出された(社)照明学会 北海道支部発行の「札幌市LED街路灯 導入実証実験報告書」を見ても、照度、明るさ感、まぶしさ、色合い印象、視認性などいずれのテーマでも、既存街路灯(高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプ)と比べて、遜色ないとされています。しかも既存ランプが寿命を迎えているといいます。公共においても、家庭においても、順次、LED照明に切り換えていくというのが時代の流れだと思います。

 また、面発光源である有機EL(エレクトロルミネセンス)の製品化も始まっています。有機ELの最大の特徴は、薄さと透明化が可能なことです。そのような特性を活かした新しい器具デザインも発表されています。恐らくは、従来の評価要素であった演色性そのものの概念を変える可能性を秘めているような気がします。いずれにしても、次の展開を注視していきたいと思います。

 私たちの住んでいる世界が陰翳(いんえい)で覆われていた時、蝋燭などの第一世代の照明は希望の光を生活の中に灯してくれました。続く、白熱灯などの第二世代の電気による照明は、科学の力を私たちに教えてくれました。そして、蛍光灯の時代になると、明るく全てを照らす照明は、私たちに驕りを起こさせたような気がします。しかし、LEDによる照明は、その特性から、再び陰翳を思い出させてくれる照明なのではないでしょうか? とはいえ、第一世代に戻るはずもありません。明るさ、色温度、配光性、演色性、省エネルギーなどなど、多くの可能性をLED照明は秘めています。照明に対する新しい概念を作る可能性があると私は思います。「陰翳礼賛」と「新・陰翳礼賛」という本があります。谷崎潤一郎の時代には、LEDは存在しませんし、石井幹子もLEDのことはここではあまり触れていません。しかし、私たちの中にある「陰翳を感じる感性」を生活の中に浮かび上がらせてくれた2冊だったと思います。

陰翳礼賛
谷崎潤一郎
中公新書



新・陰翳礼賛
石井幹子
祥伝社
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003 リフォームには「テーマ」が必要

■10年くらい前のことになります。今ほどリニュ ーアルやリフォームを人々が認識していなかったころ、「住宅リフォーム推進協議会」の体制整備委員会の委員をやっていました。悪質リフォーム業者が世にはびこり始めたころの話です。「住宅リフォーム市場の環境整備と需要喚起」を目的として、発足した組織でした。その組織が発行する「リフォームよもやま話」という小冊子があり、掲 載を依頼されて、寄稿した一文です。
----------------------------------
 さる病院のリフォームをした話です。もう20年 以上も昔のことですが、増築と既存の改修工事 でした。すべてが完成すると100床を越える程度の、地方都市の中核個人病院です。病院の増築とリフォームの「テーマ」は『明るさとやわらかさ』 でした。とにかく明るい色使いでした。基本設計 は建築家がプランを練っていましたが、色使いが一部、幼稚園のように見えたと言ったならば、想像できるでしょうか?

 今では時効ですが、2Fロビーの天井の仕上げをどうしようか悩みました。思いついた場所が問題でした。ある夜のことです。一人、スナックで水割りを傾けていました。本当に、一人寂しく飲んでいたんです。その時、見上げた天井の仕上げが問題だったのです。岩面吸音板のキューブ(四角)が何とも言えず落ち着いて見えたのです。これが2Fのロビーの天井向きだなとその時は感じました。落ち着いた壁のクロスと共に静かなたたずまいを演出できると思いました。

 しかし、病院が完成した時、完全にその空間だけが異質でした。失敗したと思いました。でも、もう遅かったのです。病院側からは、何ら注文は出ませんでした。むしろ病院側からは、誉め言葉ばかりでした。柔らかいグリーンを基調とした病室、標準的な仕上げの診療部門、そして所々幼稚園を思わせる明るい派手な空間。。。。もっとも、院長を感 動させたのは白を基調とした外壁にブル
ーのライン。外装の足場をバラした時の院長の感動の涙が忘れられません。しかし、ロビーはどこかのスナックかクラブみたいなんです。赤面ものでした。

 それから16年近く経てのことです。完成後、数年間は時々行ったのですが、2Fのロビーはいつみても異質な空間に感じました。その後、しばらく足が遠かったのですが、久方ぶりに行く機会がありました。基本的には完成時のままの状態が保たれていました。16年の歴史がそのまま感じられました。そして、2階のロビーに行ってみました。入院患者達がなんとも言えない良い雰囲気を醸し出していました。老人達がゆったりと団欒しているんです。不思議ですね。何故か、以前ほど違和感が感じられませんでした。建物全体を覆っている16年間の年輪が違和感を消し去っていました。そして、「テーマ」であった『明るさ』がまったく無くなっていました。新たなリフォームの必要性を感じた次第です。

 新築でも良いのですが、リフォームをする前提には、そこに生活をする人の思想を見極める必要がありますね。こういうリビングが欲しい。ああいった寝室が欲しい。といった考え方はどこにでもありますが、どういう生活をしていたのか?これからどういう生活をするのか?これを会話の中からつかみ取っていく必要があります。リフォームをするきっかけもあるはずです。家族構成が変わったとか、定年退職して生活スタイルが変わった、あるいは不意のお金が手に入って家を改装したい。なんでも良いと思います。そのきっかけから、リフォームをする必要性が出てきたはずです。

 そして、リフォームをするためには、共通認識としての「テーマ」が必ず必要です。「テーマ」と「生活のスタイル」は一致していなければなりません。リフォームに関わる人たちの方向性が「テーマ」から見えてくるでしょう。建主、設計者、施工者、そ
れぞれが自分勝手な想いを描いて失敗した例はいくらでもあります。先に書いた病院の例でも、新たな「テーマ」を見つけだすことがまず必要となります。共通の「テーマ」が生み出されなければ、リフォームはスタートしません。
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■今、私が設計をしている、さる印刷工場の改修工事でも、テーマを「自然」と決めさせて頂きました。「テーマ」があることによって、施主・設計・施工者等と立場が異なっても、例えば色彩計画を考えた時、共通の認識が感じられると私は信じています。

  広島の世界平和記念聖堂のステンドグラス
     (村野藤吾設計/1954年竣工)
       2009年11月25日撮影
      ※本文とは関係ありません
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002「インテリアプランナー」という資格

■世界三大建築家というとフランク・ロイド・ライト、ル・コルビジェ・ミース・ファン・デル・ローエが通常挙げられるが、コルビジェのシューズロングやミースのバルセロナチェアは余りにも有名だ。またイームズチェアで有名なチャールズ・イームズは、元々は建築家として出発している。これは、建築と家具デザインの関係だが、建築とインテリアに関しても、両者の間の垣根はもともと明確にはない。2009年の秋、明治村のライトの旧帝国ホテルを堪能する機会を得たが、ディテールに至るまで、ライトのデザインに充ち満ちていた。ファサードしか残っていないライト館だが、ここで1時間以上、ライトを味わっていた記憶がある。

■ここがインテリアプランナーという資格の曖昧さの原因となっているのだろう。インテリアプランニングの仕事は誰がやってもよいのである。建築家であろうが、家具デザイナーであろうが、インテリアコーディネーターでも誰でも構わないのが現実なのだ。それを国が資格を作り、お金を取って発行したからおかしくなった。

■問題なのは安全であり、品質・機能が一定のレベルに達しているかなのだろう。「資格」を作っても良いが、そのメンテナンスとフォローアップをして貰いたいものである。締め付けだけを余り強くして貰っても困るが。。。

■元々は誰でもが、建築もインテリアもプランニングが可能だった。やがて建築には、安全・品質などのライン引きとして「資格」ができた。「建築士」である。一方、インテリアには資格がなかった。そ
れで資格を作ろうということになって、できた資格が「インテリアプランナー」だ。ところが、「建築」の資格を出しているところが、「インテリア」の資格も出してしまった。それが、「インテリアプランナー」という資格が「まま子」扱いされる所以となる。私はそう考えている。一方、「インテリアコーディネーター」という資格は、まったく異なった思想から、旧通産省の支援の元で、インテリア産業協会が発行している資格だ。異なるところが作った資格であれば、異なった成長を遂げる可能性があったのである。

■そして、インテリアのプロから見ると、稚拙なインテリアでなんとかしのいでいる建築家もいる。以前、ある著名な建築家のセミナーがあった。同席したのは、照明デザイナーだった。その時、映像に映し出されたのは殆どがインテリアだったが、その建築家は、照明は照明デザイナーに任せているので、照明効果の説明には、言葉を詰まらせていた。しかし、同席した照明デザイナーの説明は、見事に室内を演出していた。要するに、インテリアデザインは照明デザイナーが最終決定していたのである。ある別な建築家のセミナーで、照明デザインは自分が決めているとの説明があったが、それはなるほどとうなずけたインテリアだった。これは、建築家の実力と経験の差なのだろう。

■インテリアを決定するのは必ずしも建築家とは限らない。その建築家の実力がインテリアプランナー(インテリアデザイナーでも家具デザイナーでも照明デザイナーでもよい)を凌がない限り、その
建築家にインテリアを任せるべきでないということである。デティールばかり拘る建築家も多い。大事なところは、異なるところにある。

■「建築はプランだ」という考え方も一つの真理がある。「プラン」よりも「空間」が大事といいながら、稚拙な空間を演出されても困る。著名な建築家に依頼すると「雨漏り」が多くて困るとの意見も良く聞く。そんな建築家にそう言うと、それを解決するのが「ゼネコン」なり、「施工者」だろうとくる。そんな「建築家」も多いのである。(これは私が以前、所属していた「ゼネコン」の立場の意見)

■さて、インテリアプランナーに話は戻るが、このかつては建設大臣認定だった資格を取得するのは、かなり難易度が高い。学科試験はそれほどではないが、設計製図試験のハードルは高い。年々、設計課題の規模が小さくなって来ているので、取得し易くなってきてはいるのだろうが、C&G全盛時代に、手書きで限られた時間内に平面図とパースを描くのは、慣れていないと、逆に言うと、良く練習をしなければ、描ききれないといえよう。私が受験した時に感じたのも、完成していない人が過半を占めていたことである。完成していなければ、合格ラインに到達しないことは明白とも言える。

■そんなハードルが少し高いインテリアプランナーだが、建築家を凌ぐデザインも私は可能だと思っている。ぜひ、インテリアを目指す人に挑戦して貰いたい資格である。少なくとも、建築士よりは受験条件の”しばり”が格段に少ない資格といえる。
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001 こころ落ち着く「長火鉢」

■我が家の和室には「長火鉢」があります。オークションで購入した欅(けやき)の安物ですが、何とも言えない雰囲気があります。静かに、炭の火を眺めていると落ち着いてきます。しかし、北海道の高気密住宅のため、いっぺんに多くの炭を熾(おこ)すのは危険です。熾すときは、一本だけにしています。かといって、窓を開けて換気を良くして炭に火を入れる訳にもいきません。また、「灰ならし」で、灰をならす味わいも趣があります。こんな句がありました。
 手をおいて心落つく大火鉢  五十嵐播水


■「灰」は、紀州産の雑木類を燃やしてふるいにかけた灰を使っています。非常に軽い、明るい灰です。紀州備長窯の灰には土が混じっていると聞きましたので、こちらを選択しました。しかし受け売りですので、事実はわかりません。古い灰にはアスベストが混じっていることもあるらしいですね。札幌市内の専門店も探しましたが、気に入った灰に出会

うことができず、インターネットで調べて購入しました。灰の下には、珪酸カルシウム板を敷くのがお勧めですが、手元になかったので、大きなタイルを敷いています。砂利を敷く例もあるようですが、これは勧められませんね。単なる上げ底でしょうし、せっかくの灰が砂利と混じってしまいます。

■我が家では、画像のように「五徳」の爪を下に向けていますが、上に向けるのが本当らしいですね。しかし、鉄瓶を置くときは、この方が安定しています。

■この「長火鉢」は、我が家の和室には少し大きすぎるためか、部屋とのバランスが良くありません。6畳の和室が狭いともいえます。しかし、心落ち着くことは間違いありません。機会があれば、ぜひ導入して下さい。「灰」と「炭火」にたしなむと心落ち着きますよ。そして日本家屋の「趣」がでてきます。

         我が家の「長火鉢」
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