093 二つの雑誌における「改正民法」の視点(2020年5月10日) |
■日経アーキテクチャーと日経ホームビルダー 私は10数年前からこの二つの雑誌を購読している。建築を学ぶ人で、日経アーキテクチャーを読んでいる人は多いものと思われる。一方、日経ホームビルダーはどちらかというと「住宅系」に比重を置いているため、工務店系の人の読者が多いものと推察される。 いずれも記事の傾向が異なることと、私自信が余り住宅系の経験が少ないこともあり、日経ホームビルダーの比較実験記事などに興味を持って購読していた。 ところが、数年前だろうか、日経ホームビルダーの記事の傾向が変わった時期があった。比較実験記事などは余りなくなり、まるで日経アーキテクチャーを読んでいるかのような記事が多くなったのである。編集方針が変わったなと思った時期であった。毎号、両雑誌とも同じような記事が並ぶのである。これでは、日経ホームビルダーを購読する意味が無くなったともいえる。どちらかの購読を止めようかなとも思っていた。 とはいえ、しばらくはそのまま両雑誌とも継続していたのだが、このところの日経ホームビルダーの内容が少しずつ変わってきたのである。比較実験記事の復活とともに、日経ホームビルダーの「欠陥」や「勘所」といった記事が充実してきた感がでてきたのである。 例えば、2020年4月9日号の日経アーキテクチャー「特集:改正民法で契約が変わる」と2020年5月号の日経ホームビルダの「いまさら聞けない改正民法」を比較してみる。 日経アーキテクチャーは、 ・ビジネスの基本ルールが変わる ・問われるのは「契約不適合」 ・時効改正で責任期間は延びる ・契約関係を打ち切りやすくなる ・設計・監理は準委任か請負か ・新たな争点に「帰責性」が浮上 ・契約書の重み受け止めよ ・4割強がトラブル増加を予想 ・契約解除のリスクに備えよ といった記事が22ページにも渡っている 一方、日経ホームビルダーは、 ・「瑕疵」から「契約不適合」に ・完成後の契約解除が可能に ・引渡から原則10年で時効に ・約款で制限しても譲渡は有効 ・限度額のない個人保証は無効 ・5%固定が当初3%の変動制に ・各団体が改訂版を続々公表 ・木造は引渡から2年に ・小規模用は建て主に配慮 ・新築との整合性を意識 ・「数量」も契約不適合の対象 とこちらも20ページの詳細版だ。 しかし、個人的感想で申し訳ないが、私から見て日経ホームビルダーの圧勝だったとの感が強かった。細かなことは別として、何が大きく異なったかと考えてみた、やはり、大きな違いは、記事の視点ではないかと私は考える。日経アーキテクチャーの記事は、法律を作った人の考え方をより伝えたいとの意向が働いていたのではないだろうか? それに対して、日経ホームビルダーの記事は、この法律によって、工務店を含む業界の人たちにどのような影響を与えるかという内容に比重が置かれていたような気がする。 ■「姉歯構造偽造事件」が起こったとき、建設業界に対する世論の追求は厳しかった。結果、確認申請の厳密化、あるいは構造計算に対する厳密化などの規制が強く掛けられた。それに対する建設業界の各団体は、いずれもなすすべが無かった。しかし、数年後から今日に至るまで、その規制は緩和の傾向が続いている。別に業界諸団体がその働きかけをしたとの認識は私には無い。いずれもが、厳密化のやり過ぎに対する、手続きに伴う簡素化が主な内容になっている。その詳細をここでは記さないが、余りにも、あるいは不必要以上に厳密化をしたための反省からその措置が取られてきたものと私は解釈している。 その理由は、明白である。「事件」の反省から生まれた「規制」の作成に主導したのは、「建築の実務を余り知らない」かつ「建築系の資格を持つ弁護士たち」だったからである。これらの人たちが、再び「民法改正」の関係部分に関与したのは疑いを得ないであろう。 前民法は、約120年前に制定されたものだが、部分的な改正はともかく、「契約に関する規定」の多くが今回の改正により、120年ぶりに改められたことになる。その改正に対して、業界諸団体がどれだけの力を発揮したのかは、私は知り得ないが、積極的に、何かをしていたとの認識も余りない。また、やってみて改めれば良いということにならなければと思う次第である。 ■今回のコロナ禍における憲法改正論議も問題だが、検察官の定年延長問題にも改めて、異論を述べておきたいところである。最近、ツィッターを始めたが、ハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」に早速投稿をした。 |
「日経アーキテクチャー」 2020年4月9日号 日経BP社 「日経ホームビルダー」 2020年5月号 日経BP社 |
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092「落日の建築家」/新庄宗昭(2019年5月11日) |
「落日の建築家」−建築家職能の終焉 新庄宗昭(しんじょうむねあき)著 新潮社/20180425発行/246頁/\780+税 ■【医者】が医療事故を起こしたとき、故意あるいはそれを秘匿したとしても『医師法』や『医療制度』に問題があると問われることはほとんど無い。【弁護士】がその業務において、犯罪を犯したとしても『弁護士法』や『弁護士制度』、ましてや『裁判制度』に問題があると問われることはまずない。しかし、【建築士】がその業務において犯罪を問われたときは、決まったように『建築士法』や『建築制度』に問題があると批難されるのは何故だろうか? さらには、『建築基準法』までが悪者にされてしまう。しかも、「その制度や法律」を改正(悪?)する主体となるのは、それらを元々制定したはずの行政となるが、それに「建築に詳しい?」といわれる弁護士や実務経験などあまりない学識経験者(?)たちがお墨付きを与えることになってしまい、建築士が主体とはならないことに私は不合理を感じている。 『姉歯事件』といわれる犯罪があった。2005年に発覚した事件だが、マンションやホテルの構造計算において、構造計算を専門とする一級建築士が構造計算ソフトウェアの計算結果を改ざんしたことにより、その建物に法律上最低限必要な耐震強度が保てなくなっていたことが問題となった。また、建物を建設する際には『建築基準法』により、『建築確認及び検査』が求められるのだが、確認審査機関が改ざんを見抜けなかったことが裁判で争われた。構造計算を改ざんした建築士は懲役5年(+罰金)の実刑判決を受けた。関係した建設会社やマンションを販売した会社の責任者も執行猶予付きの懲役刑を受けている。有罪の要因には、招致された国会における偽証なども含まれている。確認審査機関だったイーホムズは該当事件では無罪となったが、国土交通省からは確認機関指定を取り消される結果となった。その後その経営者は、東日本大震災の支援活動などをしているとネットには出ているが、ホームページなどは停止中であり、その実態はよく分からない。 『耐震偽装』は、姉歯事件にとどまらなかった。札幌や京都などでも同様な事件が発覚、表面には出ていないが、各地でも発生したことが巷間伝わっている。ネットで得た情報では、耐震偽装されたマンションの多くは、ほとんどがそのまま残っている。東日本大震災など複数の洗礼も受けたが、無傷で残っているものも多いという。機会があれば確認したいものと考えているが、該当物件は詳細には発表されていないので、確認は難しいかも知れない。少なくとも、札幌市内の該当物件が昨年の「北海道胆振東部地震」にて被害を受けたとの情報は得ていない。まあこれはまた別な問題かもしれないが。 姉歯事件を受けて、確認申請制度が大きく改訂され、厳しくなったが、その後少しずつ緩和されてきたのは、実務を余り理解していない人たちが主体となってその制度を作ったためとしか思えない。その詳細をここでは触れないが、少なくとも建築の設計や施工を実務として経験した人たちの意見が生かされた、あるいは積極的に提案をしたという気配はない。なんとなく、世の勢いにつられて作ってしまった法制度だったが、無駄な部分が多かったため、少しずつそぎ落としてきているといった風なのだ。そのような無駄が多い制度を作った人たちが批判されることはほとんどない。 ■この本の著者は、基本的に設計畑を歩んできた私より半世代上の人のようだ。巻末には日本建築家協会登録建築家との記載がある。建築系の団体は多数あるが、一級や二級・木造の「建築士」の資格を持つ人を主体とした『日本建築士会』、正会員は一級建築士としての設計監理を5年以上の経験が必要とされる「建築家」を自称する人たちの集まりである『日本建築家協会』、「建築士事務所」が会員主体となる『日本建築士事務所協会』、「学識経験者」を主体とするが学生も入ることができる『日本建築学会』などがある。最大の団体は建築士会であり、私も所属している。 姉歯事件の後、2005年11月25日、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会の三会が、建築会館において共同で記者会見を行ったが、「自らの責任を放棄し基準に満たない建築物を設計し、居住者等に対して多大な被害を生じさせ、国民を不安におとしいれる行為をとったことは、全く許されるべきことではなく、あってはならないことであります」との声明を発表した。しかし、その際に「姉歯建築士は当三団体の会員ではありません」との念を入れたことに、著者は痛烈な批判を行っている。この事件を起こしたのは、我々の仲間なのだから、積極的にお詫びをすべきであったというものだ。 著者は、同年11月30日に、所属する日本建築家協会の会長宛に、【建築家協会諸兄姉への緊急提言・被害者に義捐金を】を提出したが、まったく無視をされてしまったらしい。内容は同書にも入っている。余談だが、著者は、単なる技術資格のひとつとして誕生した「建築士」と、著者が属する「建築家」とは異なるとの考えを示しているが、私はその違いにそれほどの意味を感じない。無視されてしまった結果、素早く動いたのは、建築士や建築家の団体ではなく行政や法律家たちだった。 日本建築家協会の法律顧問でもあった五十嵐敬喜は、日本における「日照権」という権利を生み出したと知られている弁護士であり、都市政策の学者だが、姉歯事件を日本における建設システムそのものが生み出したものとして、繰り返し起きる可能性を指摘している。日本における建設システムとは、「一級建築士が構造計算を偽装する。続いて建築確認検査機関が合法であることを証明する。それを使って金儲けだけの施主・ゼネコンが建設する」というものらしいが、余りにも単純すぎる考え方といえよう。著者は、五十嵐敬喜著の「建築革命/偽装を超えて」に反論して、「姉歯事件は極めて異常性の高い特異な事件であり、建築生産システムの問題ではなかった」と断言している。五十嵐敬喜が言うようには事件は再生産されていないし、システムの問題などはなかったということだ。 かなり以前に読んだ本だが、「建築紛争/五十嵐敬喜・小川明雄著/岩波新書」が手元にあった。そこでも五十嵐は「偽装物件ばかりでなく、合法とされてきた建築物件のなかにも大量に危ない物件が存在していることだ(P.38)」と記して、さらに「耐震強度偽装問題は、建築基準法および同法と表裏一体の関係にある都市計画法をめぐる建築紛争のごく一部なのである。耐震偽装が質の偽装であるならば、数の偽装も横行しており、私たちの生活環境は悪化の一途をたどっている(P.39)」と続けている。これは暴論だろう。意図的に計算結果を変えた個人の行いは確かに犯罪といえるが、地震被害などを受けて耐震基準を強化してきた建築基準法をクリアしない過去の建物が存在していることが「数の偽装」とは私は考えない。新しく厳しい基準ができる度に、遡って耐震改修を義務づけるべきと氏は考えているのだろうか? ましてや、『私たちの生活環境は悪化の一途をたどっている』とも思えない。彼のようにステレオタイプに物事を極言する無責任な法律家たちが、私の感じる冒頭の「不合理」を生み出してきたといえる。 ■著者は、東日本大震災を受けた建築家の関わり方についても記している。巨大化した防波堤や盛り土が形成されてしまった責任の一端は建築家にあるというものだ。また復興に際して建てられた『仮設住宅』や『仮設小学校』という呼称にも問題を投げかけている。そこには、『仮設』などというからこその問題が内包されているともいえる。「仮設住宅での生活は仮の生活ではないのだ。生活が積み上がっていく人生の一部分なのだ」と著者はいう。ハーモニカ長屋とも称される仮設住宅での孤独死などの問題をあげて、「向かい合わせにするなど、少し工夫をすれば孤独死のような問題はなくなる」という山本理顕や、「空間がコミュニケーションを誘導する」とする伊東豊雄の復興施設の考え方を批判している。そこには、ネットワークが考えられていないからだという。空間を作れば自然と生活が生まれるということではないからだ。著者は、「公営無料定時循環バス」で仮設住宅の設けられている複数の地域間を走らせることを提案している。建築家は「もの」ではなく、「アクティビティ」を設計すべきとの著者の考え方には説得力があった。 ■奇抜な色彩や形態で何かと話題があった故荒川修作がデザインした「まことちゃんハウス」という建物が2007年ころに話題となった。漫画家の楳図かずおが吉祥寺の住宅を改築した際に、楳図かずおのトレンドマークともいう『赤白』の帯を外壁にめぐらしたことから近隣の一部の住民から「景観を損ねる」と訴えられたものだ。裁判の結果は「周囲の目を引くが、景観の調和を乱すとまでは認められない」として請求が棄却(一審で確定)された。 著者は、この問題に関しても2009年に日本建築家協会会長宛に書簡を出している。その内容を要約すると以下のようになる。 @裁判の結果が市民に「ああ、これぐらいは許されるのだ」という意識を植え付けること になると、どんどんまちは汚く猥雑になります。環境は損なわれてゆきます A施主はその建設行為において、まちの形成にかかわる責任と義務がある B施主の言いなりになって設計する設計者には建築の設計をする資格はない Cまちづくりは建築家の役割であること ちなみに荒川修作は建築士(家)ではない。いわゆるデザイナーであり、この建物を改築・設計したのは、大手の住宅メーカーともいえる住友林業だった。ただ、現在はその住宅に楳図かずおは住んでいないとのネット情報もある。グーグルマップで見てみると、閑静な住宅街だが、前面に木が生い茂った状態になっていて、それほど騒ぐ内容のものには見えなかった。まあ、実物を見てみないと分からないだろう。むしろ近隣に保育園が建つことに反対する住民意識の方に多くの問題があると私は考えている。 ■2020年のオリンピックに向けた国立競技場の経過については周知の通りだが、ザハ・ハディド案が撤回されて間もないころ、安藤忠雄の講演会が札幌で開催された。いつもの安藤の軽快さはそこにはなく、自分の知らないところでザハ案が撤回され、当時の文部大臣へのぼやきのみが繰り返されていた。その時は、これで安藤も終わったなと思った記憶があった。管轄だったあの文部大臣の調整能力のなさはいつものことだが、国立競技場の建設可否を一国の首相が最終判断を下さねばならないことに、一抹の不安を感じた。そしてまさかに、まもなくザハ・ハディドが亡くなる結果を迎えるとは思わなかった。 ザハ案に大きく反対を唱えたのは槇文彦だった。建築界のノーベル賞ともいわれる「ブリツカー賞」を日本人で受けているのは、古くから丹下健三、槇文彦、安藤忠雄、SANAA(妹島和代/西沢立衛)、伊東豊雄、坂茂、そして遅ればせながらの今年の磯崎新がいる。槇文彦が反対した内容は、ネット上にも掲載されているのでそこで読んでもらうものとして、最大の理由が、槇文彦が1980年代に設計した同じ代々木公園内の東京体育館の経験から、ザハ案の巨大さが限界を超えているとの指摘だった。 モダニズムの日本における騎手の一人でもあった槇文彦が反対したことに人々は驚いた。そして、その反対に日本における多くの建築家たちが賛同を示した。ザハ案の審査委員だった安藤忠雄や内藤廣は孤立してしまった感があった。「『いちばん』をつくろう」としたキャッチフレーズは泣いてしまったといえる。もっともまともな反論内容を出していたのは内藤廣だけだったように記憶している。 著者は、その反対論に賛同した建築家たちへの確認方法がほとんどが電話による了解と断りだったと指摘している。その事実を確認する方はないが、「たかだか100年ばかり前に出来上がった環境に対してそんなに緑・緑、環境・・環境と叫ばなければならないのか」とも記している。もっと前向きに今後の100年を考えるべきというものだ。 私は、槇文彦の反対論「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」に添付されている画像を見る限り、そのスケール感に大きな違和感を感じた事は否めない。しかし最大の問題は、当初の案に比して、その後、示された実施設計案のあの「亀」のような姿にさらなる違和感を感じた人も多いと思う。まるで別なデザインとしか思えないのである。磯崎新は「当初のダイナミズムがうせ、列島の水没を待つ亀のような鈍重な姿に失望した」とも語り、基の案に戻すべきとしていたが、多くの建築家からはそのような指摘はあまり聞かれなかった。そして一番の問題は、あの「鈍亀」を造っても、大きな負の遺産が残るというもっともバカバカしくもあり、最大の疑問についてであった。これについては、私は「別なものさし」が働いたと考えているが、ここでは記さない。 その問題よりも、そもそも私は、ロゴデザインの盗用問題に限らず、今回のオリンピックに対して、招致にあたる疑惑の送金を聞いたときから一気にトーンダウンしてしまい、何らの期待も失せてしまった感があるが、何のためのオリンピックなのだろうか? 復興オリンピックを否定するつもりはないが、招致の際の、安倍晋三の「原発はコントロール下にある」といった意識レベルの出発点から間違っていたのではないだろうか? あきれ果てるほどの無責任発言といえる。そして、格差問題と同様に、東京一局集中がより進む弊害や老害ばかりが目立っているのである。 ■著者の指摘は、「豊洲問題」「BIM/フ口ント口ーディング」「CIAM/近代建築国際会議」など多くのどちらかというと「日本建築家協会」内の問題を中心に、ゼネコンを含めた日本建築界に対する投げかけをしている。自費出版に近い発刊らしい。賛同できない部分も多いが、このような行為を抹殺するべきではないと考える。その意味で評価すべき一冊と考える。 |
「落日の建築家」 −建築家職能の終焉 新庄宗昭著 新潮社 「建築紛争」 −行政・司法の崩壊現場 五十嵐敬喜・小川明雄・著 岩波新書 |
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091 既存住宅の長期優良住宅認定制度(2016年5月22日) |
「長期優良住宅とインスペクター」でも記述しましたが、「スクラップ&ビルド」から「良質な住宅を将来世代に継承する」ために、2009(平成21)年6月4日に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行されました。そして、同法が2016(平成28)年4月1日に改正され、既存住宅へも対象が拡大される方向が示されました。また、今回の法律改正に伴い、既存住宅を「増改築」する際の補助事業も始まっています。 ■長期優良住宅とは @長期に住宅として使用するための構造と設備を有していること A居住環境等への配慮を行っていること B一定面積以上の住戸面積を有していること C維持保全の期間と方法を定めていること 新築の長期優良住宅は、@〜Cまでのすべての措置を講じて、着工前に所管行政庁に認定申請を受ける必要があります。その認定を受けることによって、ローン金利や税制面の優遇措置や、所得税等の特例措置の対象、中小工務店に対する補助などのメリットがあります。また、一戸建て住宅と共同住宅は含まれますが、店舗と住宅の併用住宅は該当しません。 それらの長期優良住宅が既に中古住宅市場に出回り始めていましたが、認定を受けていない中古住宅についても、今回、「増改築」を行う際に、融資・税制の優遇措置や補助制度の適用が可能となったのです。着工前に認定を受ける必要があることなど、基本的に新築に準ずる制度であることに変わりありません。 ■既存住宅の長期優良住宅の認定基準 国土交通省のホームページ http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000006.html を見ると、長期優良住宅(増改築)に係る認定基準の考え方の基本が示されています。 @既存住宅としての優良性を評価する A既存住宅の特性やリフォーム実施の難易度を踏まえ、その水準を定める Bリフォームでの対応が困難又は合理的でない場合については、その代替措置を設定する 下の表のように、新築と増改築の基準を比較してみました。居住環境や住戸面積は変わりません。耐震性や劣化対策、維持管理・更新の容易性、可変性、省エネルギー性、バリアフリー性については、原則、同様な基準を目ざしていますが、既存住宅であっても優良性があれば認めようとする意向が示されています。 |
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■長期優良住宅化リフォーム推進事業(補助事業) 補助を受けることができる事業主体と補助対象となる工事は以下の通りです。 (事業主体) @リフォーム工事の建築主 A共同住宅などの分譲事業者等 (補助対象) @特定性能向上事業 ・劣化対策 ・耐震性 ・維持管理・更新の容易性 ・省エネルギー対策 ・共同住宅における高齢者等対策 ・共同住宅における可変性 Aその他性能向上事業 ・事前のインスペクションで指摘を受けた箇所の改修工事 ・外壁・屋根の改修工事 ・バリアフリー工事 ・環境負荷の低い設備への改修工事 ・認定基準に達しない@の特定性能向上事業 B三世代同居改修工事 ・キッチン・浴室・トイレ・玄関の増設 したがって、認定基準に該当しない設備交換や内装工事、間取り変更等は対象になりません。 ■補助率と補助限度額 補助対象となる費用の1/3が補助となります。 (補助限度額) @100万円/戸 A200万円/戸:新設の認定長期優良住宅並とする場合 B 50万円/戸:三世代同居改修工事のみの場合 C150万円/戸:三世代同居改修工事と長期優良化住宅リフォーム工事を同時の場合 D250万円/戸:三世代同居改修工事で新設の認定長期優良住宅並とする場合 ■認定要件とインスペクション・維持保全計画 リフォーム工事等の前には、必ず「インスペクション(建物の調査)」を実施する必要があります。また、公示後に「維持保全計画」を作成する必要があります。インスペクション・リフォーム履歴作成・維持保全計画作成に伴う費用は、補助対象に含めることができます。 新築時に、長期優良住宅を取得した住宅を増改築する際も対象となりますが、その際の認定基準は新築時の認定基準となります。新築時に認定を取り下げた場合は、増改築認定基準となります。また、増改築時に認定を取得した物件を再び増改築する場合は増改築の認定基準が適用されます。 ■三世代同居改修工事について このところマスコミに叩かれている三世代同居改修工事ですが、キッチン・浴室・トイレ・玄関のすべてを増設する必要はありません。いくつかのパターンが示されていますが、少なくともキッチンとトイレは2ヶ所以上設置する必要があります。 三世代同居改修工事が叩かれている理由は、申請する可能性がある人が高額所得者が多いとの理由のようですが、そもそも認定を受けて補助申請をする人全体がある程度の所得を得ている人が対象となっていることも間違いありませんので、少しずれているような気がします。どうも、安倍総理が直接指示を出したことが引っかかっているような気がしないでもありません。 ■住宅性能表示制度の見直し 今回の法律改正や「建築物のエネルギー省エネルギー性能の向上に関する法律」の制定などに伴い「住宅性能表示制度」も見直しが図られています。 |
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090 建築物省エネ法が施行されました(2016年4月3日) |
建築物省エネ法が施行されました 「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(略称:建築物省エネ法)」が2015(平成27)年7月に交付されました。法の施行については、規制措置と誘導措置との2段階に分かれて実施されることになっています。 誘導措置 2016(平成28)年4月1日から 規制措置 2017(平成29)年4月1日から 要するに、2016(平成28)年4月1日から開始するが、1年間だけ緩和期間があるということでしょう。従来、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(略称:省エネ法」で規制されていた300u以上の建築物の新築に関わる措置が建築物省エネ法に移行されることになります。同時に、「住宅トップランナー制度」の措置も移行されることになります。上記の1年間の緩和措置期間においては、二つの法律が並立することになりますが、規制措置期間に入ると、省エネ法に移行した部分は廃止されます。2017(平成29)年からは、省エネ法で定められている定期報告も廃止されます。以上をまとめたものが(表1)です。 また、規制措置における施行内容は、今後の法整備によっては、部分的に変わることも考えられますが、あくまでも2016(平成28)年4月1日現在に予定されている内容をまとめたものが以下の記述です。 |
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■特定建築物と特定建築行為とは 省エネ法で定められている「特定建築物」には、第一種特定建築物と第二種特定建築物があります。表(2)のように、新築の場合、2,000u以上が第一種、300u以上2,000u未満が第二種に分類されていました。しかし、建築物省エネ法では、新築では非住宅部分が2,000u以上のものが「特定建築物」とされ、2017(平成29)年からの規制措置からは、適合性判定が必要となります。確認申請と平行した手続きが必要になるのです。 建築物省エネ法では、「特定建築行為」が定義され、非住宅部分が2,000u以上の新築はもちろん、特定建築物が非住宅部分の300u以上の増改築をする場合や、非住宅部分の増改築が300u以上で増改築後2,000uを超して特定建築物となる場合がこれにあたります。小規模や住宅については届出、大規模な非住宅については適合が義務づけられることになります。(表3) |
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■省エネ法における届出義務とは 省エネ法では、表(4)のように、第一種・第二種特定建築物においては、届出義務が課せられていました。著しく不十分な場合は、第一種の場合は指示・公表・命令・罰則、第二種の場合は勧告ができることとされていました。小規模住宅については、住宅トップランナー制度により、年間150戸以上の住宅事業建築主に対して、努力義務が課せられていました。 |
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■建築物省エネ法で何が変わる 建築物省エネ法では、表(5)のように、新築では、非住宅部分が2,000u以上の場合、特定建築物とされ、「確認申請」と平行して「省エネ基準適合性判定申請書」を提出して、「適合性判定通知書」を受理しない限り、「建築確認申請」の「確認済証」が交付されないことになります。 |
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■誘導措置と規制措置及び容積率特例 表(6)のように、「誘導措置」と「規制措置」の期間が定められています。要するに、2017(平成29)年4月から完全施行されますが、それまでは移行期間にあたるというわけです。 また、誘導措置期間において、誘導基準に適合しているとの認定を受けると、容積率特例を受けることができます。容積率特例は、省エネ性能向上のための設備について、建築物の延面積の10%を上限として、その設備のための床面積を通常の建築物の床面積を超える部分について不算入できるというものです。 太陽熱集熱設備や燃料電池設備、コージェネレーション設備、蓄電池設備等の床面積を、上限一杯に延床面積がある場合に不算入することができることになります。 |
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■適合性判定とは 規制措置期間、すなわち2017(平成29)年4月からは、非住宅部分の床面積が2,000u以上の新築など特定建築物や特定建築行為の場合は、確認申請と平行して適合性判定の審査を受ける必要があります。300u以上2,000u未満の非住宅や、300u以上の住宅の場合は届出が必要になります。 実際には、ほとんどの指定確認審査機関が建築物省エネ法の審査機関も受け持つはずですので、一緒に提出するのが通常となります。法的には、建築物省エネ適合性判定申請を受けた登録省エネ判定機関は、適合している場合は受理から14日以内に「適合判定通知書」を出さなければならないことになっています。建築主事又は指定確認検査機関は、省エネの適合判定通知書の提出を受けて、設計審査の後、確認済証を期日までに交付することになります。 また、適合性判定には、一次エネルギーのみが適用基準となります。外皮は規制措置期間に入ると適用基準から除外されることになります。外皮は、規制措置期間においては、住宅の特定建築行為の届出においてのみ使用されます 適合性判定において、省エネ基準では評価できない新技術を用いる建築物については、国土交通大臣が認定が行う「大臣認定制度」があります。国土交通省の参考資料では、自然通風利用のエコボイドや河川水利用などがイメージされています。 ■規制措置期間の適用除外 規制措置期間においても、居室を有しないことや高い開放性を有する建築物は、空気調和設備を設ける必要がないことから、基準適合義務や適合性判定義務及び届出義務が適用されません。 例えば、居室を有しない畜舎・自動車車庫・自転車駐車場や、高い開放性を有するスポーツ練習場・観覧場・屋外駐車場は適用除外の対象となります。また、文化財指定建築物や応急仮設建築物も適用除外の対象になります。 |
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■建築物省エネ法に基づく基準のレベル 国土交通省の資料によると、建築物省エネ法による基準のレベルが表(6)のように出されています。但し書きでは、一次エネ基準は「設計一次エネルギー消費量」/「基準一次エネルギー消費量」(家電・OA機器等を除く)が表(6)中の値以下になることを求めるとされています。また、住宅の一次エネ基準は、住棟全体または全住戸が図中の値以下になること、外皮基準についてはH25省エネ基準と同等の水準とされています。 計算方法は、建築研究所のホームページ上の「住宅・建築物の省エネルギー基準及び低炭素建築物の認定基準に関する技術情報」に掲載されている「住宅判定プログラム」により計算ができます。 |
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■「建築物省エネ法」に基づく「省エネ性能の表示制度」について 建築物省エネ法に基づく認定を受けると、図(7)のような認定マークを表示したり利用することができることになります。マークには、建築物の名称・建築物の位置・認定番号・評価年月日・認定行政庁・適用基準等が表示されます。マークだけの利用も可です。 ■「建築物省エネ法」を改めて考える エネルギーの消費量は、産業部門、民生部門、運輸部門の三つの部門に分けて論議されることが多いのですが、最も消費量の減少が立ち後れていたのが民生部門でした。2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減するためには、民生部門に注力の必要があったのです。特に、オフィスビル等の非住宅建築物については、床面積や建物の使用時間、冷房設備等の過剰設計が問題とされていました。住宅についても、核家族化に伴う世帯数の増加やエアコンに象徴される設備機器の増加が問題とされています。そうした状況のもとで、原発問題も含めた電力需要では、省エネルギーを進めたいという考え方も社会全体に浸透してきています。 例えばLED化は、省電力に対して一定の効果を示していると私は考えていますが、それだけでは限界があるのは明白です。最近の建築系の雑誌などでも、事務所ビルにおける照度の過剰設定や冷房設備の過剰設定が省エネルギー化を妨げているとの記事も見かけるようになりました。補助金を出す手法が良いとは限りませんが、ともすると入れ子状態になってしまう規制立法が、建築物については「建築物省エネ法」に集約されることは必要なことだと私は考えます。とはいえ、「低炭素法」や「品確法」などもあります。過度期とはいえ、もう少しすっきりして貰いたいと思うのは私だけでもないでしょう。 |
建築物省エネ法の 認定マーク 図(7) |
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089 卓越風を考える(2015年8月3日) |
■ひまわり8号の運用開始 次期気象衛星として試験中だった「ひまわり8号」が2015年7月7日午前11時から正式運用されましたが、鮮明な画像で黄砂や海氷、噴煙や雲との区別も可能になるなど解像度が飛躍的に向上しました。また、観測間隔も30分から10分になり、バンド数も増えたことなど、そのカラー映像の迫力に驚いた方も多いと思われます。来年には、「ひまわり9号」が打ち上げられ、8号と9号の交互体制が整えられることになります。 これらの静止気象衛星は地表から3万6千キロ上空を地球の自転速度に合わせて進むため、地上からは文字通り「静止」した状態に見えることになります。赤道と東経140度が交わる地点の上空にあるひまわり8号は、ユーラシア大陸東部からオーストラリア大陸までを網羅し、地球を常に観測しています。ネット上でその画像をほぼリアルタイムに見ることもできます。ちなみに国際宇宙ステーションは、1/100程度その内側、地上から約400キロ上空を一周約90分で地球を周っています。参考までに、月の軌道はひまわりから10倍強程度外側を周っています。 ■卓越風(たくえつふう)とは 以前、さるセミナーで国の研究機関の方の話を聴講することがありました。その際、建物を設計した建築家の人が描く風の通り道の矢印に「ウソ」が多いとの話に思わずうなずいてしまいました。私も建築家の端くれと思ってはいますが、本当かなと思うような「風の通り道」を描いた図面をたまに見ることがあります。図面で空気の流れを示されると、本当にその通りに空気が流れるような気がしますが、必ずしも、期待通りに風が流れるとは限らないからです。 風は空気の流れですが、空気は気圧が高いところから低いところに流れるのが基本です。それと異なる流れを求めようとするなら、扇風機の様に物理的に逆転現象を起こすしかないのであって、建築家が期待するように空気が流れるとは限らないのです。 私たちは、暖かい空気が上昇することは感覚的に知っていますが、それは、高温の空気が温められると、その膨張により低温の空気より密度が低くなり、浮力が生じるからです。すると、さらにその下にはより冷たい空気が入ってきます。これは、室内に限らず、地球規模の大気においても変わりがないのです。 陸は暖まりやすく冷えやすいのですが、海は暖まりにくく冷えにくいため、昼は暖まりやすい陸地では上昇気流が生じ、地表面付近では海から陸への海風となりますが、上空では陸から海への海風反流(かいふうはんりゅう)という風が吹きます。逆に、夜になって日射がなくなると、陸の空気は海よりも早く冷えていくため、空気密度が高くなって下降気流が生じ、気圧が高くなるとともに、地表付近では陸から海への陸風が吹き、上空では海から陸へ陸風反流(りくふうはんりゅう)という風が吹くことになります。 このように、上空と地上では空気の流れが反対になっていることが多く、空気の流れは立体的に考える必要があります。この風の循環を陸風循環(りくふうじゅんかん)といいます。一般に、海陸風の最大風速は、海風の方が陸風より大きいといわれています。一日のうち朝と夕方に、陸風と海風が切り替わる時間帯があり無風となる状態がありますが、それが「凪(なぎ)」なのです。車中泊などで、海岸近くに停泊していますと、夜中じゅう強い風が車を揺らしていますが、朝方になるとそれがピタッと収まることが多いのは、何度も体感してきたことです。 ところで、「卓越風」という風の流れがあります。卓越風とは、ある一地方で、ある特定の期間(季節・年)に吹く、最も頻度が多い風向の風のことで、「主風」、「常風」ともいわれています。卓越風を表示するために、風配図(ウインドローズ)が描かれるのですが、風配図については後ほど触れることにします。 地球上には、3種類・6つの大規模な卓越風があるといわれています。北半球・南半球にそれぞれ1組3つずつですが、赤道に近い低緯度地域では「貿易風」、中・高緯度地域では「偏西風」、高緯度地域では「極偏東風」が吹いています。 |
ひまわり8号による画像 |
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ひまわり8号による可視光線画像 |
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ひまわり8号による赤外線画像 |
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ひまわり8号による水蒸気画像 |
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■地球大気に吹く風の力 地球上に吹く風は、4種類あるいは5種類の力が関係しています。「気圧傾度力」、「コリオリ力(転向力)」、「地表との摩擦力」、「遠心力」、それと「地球の引力(重力)」です。 気圧傾度力とは、気圧の高い方から低い方に向かって働く力のことですが、風を起こす力そのものといえます。天気図を描くと、同心円状に閉じた場所ができますが、周囲より中心の気圧が高くなっていれば「高気圧」となり、逆に周囲より低くなっていれば「低気圧」となります。気圧に差がなければ、基本的に風は発生しないことになります。 「フーコーの振り子」と呼ばれる現象をご存じでしょうか? 地球の自転を物理的に証明した実験ですが、初め振り子を南北方向に振らせたとします。すると、1回振れるごとにわずかにおもりの運動が、北半球では右に曲がり、振れる方向がずれていきます。そのずれは緯度によって異なり、北極点であれば24時間で1周して元に戻り、東京付近の緯度であれば40時間で一周して元に戻ります。 フランスの物理学者であるレオン・フーコーが1851年に、公開で地球の自転の証明のため行った実験です。実験自体はそう名付けられましたが、それ以前の1835年にフランスの科学者ガスパール・ギュスターヴ・コリオリが提唱していたため、この力は「コリオリ力(転向力)と呼ばれるようになりました。地球は東向きに自転していますので、北半球では、物体や空気の運動方向に直角で右向き、南半球では左向きに働く力となります。天気図の等圧線に対して直角に風が吹かないのは、このコリオリ力が関係しているからです。 上空に吹く風は、地表との摩擦が働きません。そのため、等圧線に対する風向きは地表とは異なり、摩擦が小さくなってゼロになったとき、風の方向は等圧線と平行に気圧が低い側を左手に見ながら進む流れ、即ち「地衡風(ちこうふう)」となります。地衡風となるのは、およそ高度1000m以上です。地球大気全体で見れば、摩擦が働くのは地表にごく近いところだけといえます。 また、等圧線が平行でなく湾曲しているときは、風は曲がりながら吹きますので、遠心力が働きます。これらの4つの力(気圧傾度力、コリオリ力、地表との摩擦力、遠心力)がつり合ったときの風向きは、等圧線に平行となります。地球の引力である重力は、密度の高い空気には影響が強く表れることがあります。 |
地上に吹く風における力のつり合い (「気象学入門」を参考に作成) |
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■貿易風とハドレー循環 太陽光の強い影響を受ける熱帯地方では、海水温が高くなると同時に海水面からの多量の水蒸気の補給を受けていますが、その力が収束し、強い上昇気流が生じて雲のかたまりが形成され、その際発生した凝結熱が上空を暖めて気圧を下げることにより熱帯低気圧が発生します。その熱帯低気圧が成長したものが、台風やサイクロンとなり、地球規模の大気の流れに沿って、日本列島などを襲ったりします。熱帯低気圧が発生するのは、海の上に限られるのはそのためです。 赤道付近には、赤道低圧帯と呼ばれる気圧の低い地帯ができていますが、赤道低圧帯の上空から中緯度の上空に向かって流れ出る風には、コリオリ力が働き、北半球では東の方に曲げられ西風となります。西風となったことにより、より高緯度に達することができなくなった結果、中緯度に空気が溜まり、地上の気圧が高まり亜熱帯高圧帯が形成されます。夏期の日本の天気に大きな影響を与える北太平洋高気圧も亜熱帯高圧帯のひとつです。 亜熱帯高圧帯では、上空から地上への空気の下降流が発生しますが、風が下降するときに断熱圧縮により温度が上がり、相対湿度が下がるため、熱く乾燥した空気を伴う高気圧を作り出します。それが、アフリカのサハラ砂漠や中東やオーストラリアに広がる砂漠の原因となるのです。日本の南にできる太平洋高気圧は、海洋上にあるため、高気圧の中心にある下降気流のもとでは乾燥した空気ですが、海上を吹き渡るうちに湿った風に変化していきます。 亜熱帯高気圧帯の地上では、上空とは反対に赤道付近の低圧部に向けて風が吹き込むようになり、やはりコリオリ力によって北半球では北東、南半球では南東の風となります。それが「貿易風」です。太平洋や大西洋では、1年中貿易風が吹いていますが、18世紀の帆船の重要なエネルギーとなりました。 亜熱帯高圧帯の上空に吹く西風は、秒速30m程度もあり、地球を一周していますが、この強い風を「亜熱帯ジェット気流」といいます。このように、亜熱帯高圧帯と赤道低圧帯では、一つの大きな循環が成り立っていますが、それを「ハドレー循環」といいます。ハドレー循環がある緯度は、熱が一様に混ざり温度差が余りありません。 |
豊頃町のはるにれの木 2013年6月18日撮影 |
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■偏西風とジェット気流と季節風 亜熱帯高圧帯からさらに高緯度側に吹き出る地上の風は、北半球ではコリオリ力によって右に曲げられ、西風となります。この中緯度に吹く大規模な西風を「偏西風」といいます。日本も偏西風帯に属しますが、地上の風は1年を通して西風というわけではありません。しかし、偏西風は上空ほど顕著になり、中緯度から高緯度にかけての上空では、ほぼどこでも西風となっています。亜熱帯高圧帯から吹き出る風は高温ですが、高緯度の冷たい空気とぶつかり、寒帯前線ができ、低緯度からきた暖かく軽い空気が高緯度の冷たく思い空気の上に上昇して、雲が発生しやすくなります。 寒帯前線の上空の強い西風を「寒帯前線ジェット気流」といいます。寒帯前線ジェット気流は、亜熱帯ジェット気流に比べて変化が激しく、南北にうねるように蛇行して、常に形を変えています。日本上空から北アメリカ西岸の上空にかけては、2つのジェット気流が接近して流れていて、風速が秒速100m以上に達することも珍しくありません。 ジェット気流は、第二次大戦中に、アメリカ軍がサイパンなどから日本への爆撃に向かう際に発見したとされていますが、それに先立つこと、日本の気象学者であった大石和三郎は、1920年に富士山付近から「測風気球」を飛ばすことで、上層の風の存在を発表していました。日本陸軍が開発した、気球に爆弾を搭載してアメリカ本土を狙った「風船爆弾」もまさにジェット気流を利用したものといえるでしょう。 日本からインドにかけての地域をみますと、冬には大陸から海洋に向かう風が吹いています。逆に夏には、海洋から大陸に向かう風が吹いています。このように北半球には、夏と冬とで風向きが逆になる地域がありますが、この風を「季節風あるいはモンスーン」といいます。海陸風の季節版ともいえるでしょう。南半球に季節風がないのは、中緯度にユーラシア大陸ほどの陸地がないためです。冬の季節風は、冷たいだけでなく、大陸上から吹く風のため非常に乾燥しています。しかし、日本の場合、大陸との間に日本海があるため、南からの暖流(対馬海流)の影響を受け、冷たい季節風の下層を温め、水蒸気が供給され、列島の中心を走る山脈に季節風がぶつかって生じる上昇気流などから大気が不安定となり、積乱雲が発生しやすくなり、世界でも有数の多雪地帯を形成しています。 |
大気の大循環のモデル 地上に吹く大規模な風と地上の気圧分布の模式図 (「気象学入門」と「科学技術振興機構のホームページ」を参考に作成) |
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■極偏東風と局地風 気温が非常に低い高緯度では、冷たい空気が地表面に溜まり極高圧帯を形成していますが、極高圧帯から低緯度側に向かって風が吹き出し、コリオリ力の影響で西向きに曲げられ東風となっています。それを「極偏東風」といいます。 このように、地球大気における風の流れは、赤道付近から緯度30度付近における「ハドレー循環」、緯度30度付近から緯度60度付近における「フェレル循環」、緯度60度付近から極までの「極循環」といわれる北と南でそれぞれ3つの大きな流れがあり、それぞれが相反する大きな流れとなっているのです。ただし、フェレル循環については、両側の2つの循環による2次的な流れに過ぎないという見方もあるようです。 地球大気の風の流れ全体をシミュレーションした画像が科学技術振興機構のホームページにありました。 (http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0160/archive/ms_01.html) 良くできていますので参照されると良いでしょう。 また、ある一定の地域だけに吹く風を「局地風」といいます。農業や漁業など人々の暮らしに大きな影響を与えるものもあり、昔から特別な名前が付けられています。山から吹き下ろす強風を「おろし」といいますが、「六甲おろし」や「赤城おろし」などが知られています。また、狭い谷間などから平野や海に向かって吹き出す強風を「だし」といい、「清川だし」や「荒川だし」「肱川(ひじかわ)あらし」などがそれにあたります。北海道や東北などで夏に吹く北東の湿った冷たい風のことを「やませ」といいますが、やませが1週間以上続くと、冷害を引き起こすとされています。 |
積丹半島の襟裳岬 2011年6月19日撮影 |
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■風配図とは 風配図(ウィンドローズ)とは、ある地点のある期間における風向きと風速の頻度を示した図のことですが、卓越風を含めた、その地域の風の傾向を知ることができます。建物を建てる場合に、その地域ではどの方向からどれだけの風が吹いてくることが多いのかを知ることによって、開口部の位置や換気口の配置を計画する重要な資料となります。逆にいえば、これを無視した計画は、「ウソ」の風の通り道を描いていることになります。ネット上にも世界各地の風配図のデータが掲載されています。 一般財団法人建築設備・省エネルギー機構のホームページ (http://www.jjj-design.org/technical/meteorological.html) には、日本各地で自然風を利用する自律循環型住宅への設計ガイドラインとしての風配図等のデータが掲載されています。財団法人日本建築学会編「拡張アメダス気象データ1981−2000」を基に作成したものです。日本各地の地域別の「開口面設置に適した方位判定表」や「季節ごとの起床時、就寝時の風上側、風下側に面する頻度」や「風配図」「月毎気象データ」などが一目瞭然となっています。地域特性を考慮することによって、絵に描いた何かになることを避けることができるのです。 このデータは転載禁止ですので、それぞれで見て頂くことしかできませんが、明らかに風の方向には地域特性があることが良く分かります。「自然風を利用して、冷房エネルギー削減効果を検討するために利用すること」は認められていますので、ぜひご覧頂きたいと思います。 ■札幌のデータを見る どの地域でも良いのですが、取りあえず私が住む札幌のデータを見てみます。札幌は、北緯43.1度、東経141.3度、測定点は標高17m、風速計の高さは31.3mとなっています。 ●平均風速(6月〜9月の平均値) 起居時 2.0m/s 就寝時 1.45m/s 終日 1.8m/s ●開口面設置に適した方位の判定表 6月〜9月のデータで、風が来る方向の確率が40%以上を◎、30〜40%を○としたとき (風上) 起居時 ◎東南東、南東、南南東 ○北、西北西、北西、北北西 就寝時 ◎東、東南東、南東、南南東、南 ○なし (風下) 起居時 ◎西北西、北西、北北西 ○北、東南東、南東、南南東、南、西 就寝時 ◎北、西、西北西、北西、北北西 ○なし |
霧多布岬(湯佛岬) 2013年6月17日撮影 北海道 襟裳岬「風の館」入り口 2010年7月9日撮影 |
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●その他図表 ・開口部が風上側、風下側に面する頻度を方位別にグラフ表示 ・4月〜11月の平均風速と平均気温 ・4月〜11月の月別風配図 ・4月〜11月の気象データ などを、読み取ることができます。夏場の自然風を利用するためには、札幌では風の取り入れ開口部の方向は東から南側、風を出す開口部の方向は西から北側が良いことが分かります。 ■他の地域の場合には 地球規模で考えると、例えば、札幌と函館ではほとんど違いがありませんが、夏場の自然風を利用するには、函館では北から南南西が風上、南西から北西が風下となるなど少しの違いが出てきます。それは、日本全国のデータを比較してみると、さらに多様性が際立ってきます。大きい大気の流れもありますが、地域性を踏まえたその土地特有の風の流れがあることが分かります。ぜひ、いろいろな地域のデータをごらんになって下さい。 ■卓越風を考える 卓越風とは、「貿易風」や「偏西風」「極偏東風」といった地球規模の大気の流れのことですが、「海陸風」や「局地風」といった地域性がある風の流れも含まれるといえます。地勢的な影響もあるでしょう。一般論で判断するのは危険ともいえます。 また、風は必ずしも一方向に向かって吹いている訳でもありません。街中で発生する「ビル風」もあります。風は何かにぶつかったり、通り道を狭められたりすると、複雑な流れを呈することがあります。また、地上とは反対に流れる上空の風の存在も忘れることはできません。卓越風を考えるときには、地域性にねざした、それらすべての空気の流れを考える必要があるのです。そして当たり前のことですが、「北風は南に向かって吹く風」のことです。ぜひ、「ウソ」の風の通り道に惑わされないようにしたいものです。 |
「風の館」 風速25m体験ゾーン 2010年7月9日撮影 |
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■参考にした図書等 ○気象学入門/古川武彦・大木勇人著/講談社/2011年3月20第1刷 ○偏西風の気象学/田中博著/成山堂/2007年4月28日初版 ○天気の大常識/武田康男監修/ポプラ社/2004年7月第1刷 ○自然風を利用する自律循環型住宅への設計ガイドライン/ 一般財団法人建築設備・省エネルギー機構のホームページより (日本建築学会編「拡張アメダス気象データ1981−2000」を基に作成) ○地球大気の風の流れのシミュレーションした画像/科学技術振興機構のホームページ ○ひまわり8号撮影データ/気象庁のホームページより |
宗谷岬 2014年6月16日撮影 |
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088 長期優良住宅とインスペクターについて(2015年3月22日) |
東日本大震災前年、2009(平成21)年6月4日に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行され、「スクラップ&ビルド」から「良質な住宅を将来世代に継承する」方向に、大きく舵が切られたました。環境負荷の低減を図りつつ、長期に住宅を使用するための維持保全が求められるようになったといえます。その数ヶ月後に民主党政権が生まれましたが、その後のさらなる政権交代を経ても、省エネルギー政策を初めとして大きな流れは変わっていません。 表(※1)は、既存住宅流通と新築着工戸数の推移を国土交通省のホームページから引用したものですが、赤色の折れ線グラフのように着実に既存住宅が流通し始めていることが判ります。表(※2)は、同じく2008(平成20)年度のアメリカ、イギリス、フランスとの国際比較を国土交通省のホームページから引用したものです。アメリカにおける既存住宅の比率の高さが際立っています。住宅に対する思想の違いを感じざるを得ませんが、少しずつ日本における既存住宅の流通比率も高まっていくことは間違いありません。また、表(※3)は、同じく国土交通省のホームページから引用したものですが、人口減少とともに居住者のいない住宅が増え始めた状況を示しています。 ■長期優良住宅とは @長期に住宅として使用するための構造と設備を有していること A居住環境等への配慮を行っていること B一定面積以上の住戸面積を有していること C維持保全の期間と方法を定めていること D@〜Cまでのすべての措置を講じて、着工前に所管行政庁に認定申請を受ける必要があります 現時点では、認定申請の対象は新築住宅のみですが、すでに新築で認定を受けた中古住宅が、流通市場に出回り始めています。また、一戸建て住宅か共同住宅は問われませんが、店舗と住宅の併用住宅は該当しません。 ■長期優良住宅の認定を受ける 住宅の着工前に認定申請をする必要があります。また確認申請と同時に申請することもできますし、事前に、登録住宅性能機関で長期優良住宅の技術的審査を行ってから、確認申請を出すこともできます。 また、計画の認定を受けた長期優良住宅の計画を変更しようとするときは、軽微な変更を除き、所管行政庁の認定を受ける必要があります。 分譲住宅などで、長期優良住宅計画の認定を申請した時点で購入する人が決まっていなかった場合でも、購入者が決定した時点で、分譲業者とともに計画の変更申請を行う必要があります。 長期優良住宅の認定を受ける流れを表したものが図(※4)です。住宅性能表示制度の評価項目と長期優良住宅の評価項目が統一されていますので、性能評価書を用いて長期優良住宅の申請が原則として可能になっています(一部、所管行政庁を除く)。 ■長期優良住宅の認定基準 以下の9つの項目が定められています。品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づく住宅性能表示制度の基準を準用しています。主な基準は以下の通りです。 @劣化対策(等級3以上+α) 等級3以上に加えて、木造住宅では、次の措置を講じなければ なりません ・床下及び小屋裏の点検口を設置 ・床下空間に330mm以上の有効高さを確保 また、等級3のレベルとは、構造躯体が3世代(75〜90年)に 渡って耐える程度とされていますが、一般のハウスメーカーの 標準仕様は、ほとんどがこれをクリアしているか、不足があって もそれほど難しい対策は必要ありません。その他、鉄骨造では 鋼材の厚さや防錆措置の基準、鉄筋コンクリート造ではコンク リートの水セメント比などの基準があります。 A耐震性 次のいずれかの措置を講ずる必要があります ・耐震等級(倒壊防止)の等級2以上とすること (等級2は、建築基準法の1.25倍) ・免震建築物であること ・大規模地震時の地上部分の各階の安全限界変形の当該 高さに対する割合をそれぞれ1/100以下とすること (層間変形角を確認)などの基準があります。 B可変性(戸建て住宅適用外) 共同住宅のみが適用されますが、居室の天井高さを 2,400mm以上確保する前提で、躯体天井高さが 2,650mm以上が求められます C維持管理・更新の容易性(等級3以上) 等級3は、専用配管をコンクリート内に埋め込まないことや 、さや管方式を選択することなどが求められます。 D高齢者対策(戸建て住宅適用外) 住宅性能表示に基づく高齢者対策の等級3以上が基本です が、手すり、段差、高低差の基準は除外されます。 E省エネルギー性(等級4以上) 等級4は、平成25年省エネルギー基準 (2015年3月31日までは、H11年基準) 「住宅性能表示制度の見直しについて」を参照して下さい。 ただし、対象は5−1の断熱性能等級だけで、5−2の一次 エネルギー消費量等級は対象となりません。 F住戸面積 75u以上、かつ、住戸内の1つの階の床面積が40u以上 ただし、地域の実情に応じて引き下げが可能ですが、 55uを下限としています G居住環境 居住環境の維持及び向上に配慮されたものであること H維持保全計画 構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分及び 給水・排水設備について点検の時期・内容を定めること。 少なくとも10年ごとに点検を実施すること。さらに、地震時 及び台風時に臨時点検をすることも定められています。 以上をまとめたのが表(※5)です。見やすくするために敢えて順序は変えてあります。 ■長期優良住宅のメリット @住宅性能が高く良質な住宅の基準が判る Aローン金利や税制面の優遇措置がある ・住宅金融支援機構が支援しているフラット35 ・住宅金融支援機構の優良住宅取得支援制度フラット35S (フラット35、35sについては、「トップランナー基準とは何か」 や「住宅金融支援機構のホームページ」をご覧下さい ・所得税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税に対する 特例措置 詳細は、国税庁のホームページをご覧下さい B中古市場でも高い評価を受けることを期待している ■長期優良住宅のデメリット @建築コストがアップする A申請手数料が掛かります(15〜30万程度といわれています) B必ずしもデメリットとはいえませんが、定期的なメンテナンス が義務づけられます。また、その記録が必要になります。 ■長期優良住宅の認定を受けると 長期優良住宅の認定を受けることが目的ではありません。むしろ、認定を受けてからが肝要だともいえます。 @建築完了後は、計画に基づいてメンテナンスを行う Aまたメンテナンスの記録を作成して保存すること B認定を受けた計画を変更するときは、所管行政庁の認定を 受ける C維持保全に関する部分を変更する時も、所管行政庁の認定を 受ける D相続・売買等により認定計画実施者の地位を引き継ぐ場合は 、所管行政庁の承認が必要 E所管行政庁から報告を求められることがあります。その報告を しなかったり、虚偽の報告をした者は、30万円以下の罰金に 処せられることがあります F上記のことを実施しない場合は、所管行政庁から認定を取り 消されることがあります。 ■長期優良住宅先導事業(旧・超長期住宅先導モデル事業) 住宅の長寿命化に向けた提案をして認可された事業(工務店・協議会・NPOなど)の住宅に対して、国から200万円を上限とする補助金が出ました。事業者向けの補助金ですが、住宅を建てようとした人に、事業者から還元する形で売り出されました。 事業の募集自体は、2008(平成20)年〜2011(平成23)年の4年間にわたって実施されましたが、現在は終了しています。2011年の募集では、全国から97件の応募がありましたが、建築研究所の評価の結果、25件の事業者の提案が認可されました。ハードルは、そこそこ高かったようです。 2012(平成24)年度は、以前に認可された事業に基づく住宅新築への補助事業が継続されました。 ■長期優良住宅普及促進事業 中小工務店に長期優良住宅を普及させる目的で、直近3年間の平均棟数が54棟未満の事業者を対象とした補助金でしたが、2012(平成24)年3月をもって終了しました。1棟当たり建設費の1割以内かつ100万円を上限とするものでした。 |
(※1) 国土交通省のホームページより |
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(※2) 国土交通省のホームページより |
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(※3) 国土交通省のホームページより |
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長期優良住宅認定の流れ (※4) |
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長期優良住宅認定基準 (※5) |
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■既存住宅の長期優良住宅認定制度とインスペクター 2013(平成25)年度から始まった「長期優良住宅化リフォーム推進事業」がこれにあたります。既存の戸建住宅や共同住宅の性能を一定の基準まで向上させる工事が対象となり、S基準(新築の長期優良住宅と概ね同程度の水準)では最大200万円/戸、A基準(一定の性能向上が見込まれる水準)では最大100万円/戸の補助金が出ますが、時限のある事業となっています。 補助を受けるために必要な要件が3つあります。 @一定の要件を満たすインスペクション(検査)を実施すること A次のa〜fに関する性能のいずれかを向上するリフォーム工事であること a.劣化対策 b.耐震性 c.維持管理・更新の容易性 d.省エネルギー対策 e.可変性(共同住宅のみ) f.バリアフリー性 Bリフォーム履歴及び維持保全計画を作成すること 上記の@、A(いずれかの工事)、Bと@のインスペクションで指摘を受けた箇所の改修工事の総額の費用の1/3の補助が出ます。上限は、前述したとおりです。また、長期優良住宅化リフォーム推進事業を申し込むことができるのは、リフォーム工事の施工業者又は発注者のいずれかとなっています。 ところで、インスペクションとは聞き慣れない言葉ですね。中古不動産の流通が最も盛んなアメリカの不動産業界は、物件の査定・鑑定をするアプレイザー、物件の調査をするインスペクター、物件の名義書換や引き渡しの仲介・保証をするタイトルカンパニーなどの専門業者に完全に分かれています。日本では「不動産屋」がこれらの業務を行いますが、アメリカでは不動産屋はリアルターと呼ばれていて、より狭義の業務しか担当しません。 この物件の調査すなわちインスペクションを実施するのが「インスペクター」です。長期優良住宅化リフォーム推進事業のインスペクションを実施できるのは、「一定の講習を受け、修了考査に合格した建築士または建築施工管理技士」となっています。またまた外郭団体の資金集めにならなければ良いのですが。建築士だけでは、何故ダメなのでしょう。(2016年に実施された「建築士会インスペクターの講習会+修了考査」を受講し、私もインスペクターに登録しています/2016年6月追記) ■長期優良住宅の設計を行う事務所の登録 一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会が主催する講習会を受講して、登録を申請した事務所が、同連合会のホームページに「登録事務所情報」として掲載されています。ちなみに弊事務所も登録済みです。 ■長期優良住宅について、改めて考える 最大のデメリットがコストアップといわれています。業者によっては、2割アップするとみています。また、その費用対効果から、お勧めをしない業者もいるようです。しかし、新設住宅着工戸数の1割程度の戸数が認定を受けている事実も見逃すことはできないでしょう。逆にいえば、2割もコストアップする前の住宅の品質はどうだったのかということも考える必要があります。 住団連(住宅生産団体連合会)が、「長期優良住宅に係る標準的な性能強化費用」として、木造住宅では床面積1uにつき33,000円のコストアップになると試算しています。床面積120uの住宅ですと、約400万が性能強化費用だというのです。どのような計算をするとこの価格になるのか理解に苦しみますが、2割アップの根拠はおそらくこの当たりなのではないでしょうか。実態は、次世代省エネルギー基準をクリアしているハウスメーカーの仕様であれば、それほど難しくないレベルだと私は思います。比較の元になっている基準仕様がお粗末なのでしょう。 長期優良住宅のポイントは、性能アップだけではありません。定期的な調査と維持管理が必要になるからです。その記録、すなわち履歴も残さなければなりません。住宅に限らず、多くの建築物の定期報告や調査をやってきましたが、履歴のみならず、確認申請の副本や検査済証がどこにあるか判らないといったケースや、10年くらい前に増築をしたのだがその際の設計図や竣工図がない、建築図面はあるが設備図面がないといったケースが多々あるのです。建築物のライフサイクルが長いことに所以していますが、長期優良住宅は100年程度のライスサイクルを考えた思想で成り立っていることを改めて認識なければなりません。 また、中古市場でも高い評価を受けることを期待されてスタートした長期優良住宅ですが、必ずしも高い評価を受けているとは限らないようです。長期優良住宅をプラスアルファと考えない不動産屋さんがいるのです。建物自体の評価が極端に低い、かつての土地神話の感覚から抜け出せないでいるといえます。ここはやはり、古い体質から転換できない不動産業界にもメスを入れる必要があるでしょう。 |
札幌市郊外の 滝野すずらん丘陵公園の ヤドリギ 2015年1月15日撮影 豊頃町のはるにれの木 2013年6月18日撮影 |
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087 省エネ住宅ポイントと補助金について(2015年3月1日) |
■省エネ住宅ポイント制度とは 大臣が所管する補助金を交付した企業から献金を受けていたのに、知らなかったなどといったことがまかり通るとは思えませんが、返金すれば良いというものでもないでしょう。我が国における政治家の脇の甘さは今に始まった事ではありませんが、同じ「知らなかった」といっても、こちらは返金はしてくれません。時限的な補助金制度を常に監視するシステムなどありませんから、専門家等を利用するなり、新しい情報にいつも触れている必要があります。 「復興支援・住宅エコポイント」の対象となる工事の期間は、2012(平成24)年の10月31日を持って終了していますが、新たに、「省エネ住宅ポイント制度」が2014(平成26)年12月27日に閣議決定され、2015(平成27)年2月3日の補正予算成立によって始動しました。 |
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■対象となる住宅 ○エコ住宅:自らの居住を目的として新築する住宅ですが、販売会社が発注する「分譲住宅」も対象となります。 ○エコリフォーム:所有者が発注するエコリフォーム等(耐震改修も含む)で、リフォーム瑕疵保険への加入も対象となっています。 ○完成済新築住宅の購入:新たに参入された、自らの居住を目的として購入する完成済み住宅(2014年12月26日までに検査済証が発行されたもの) ■従来制度との違い 国土交通省の制度説明資料から抜粋したものが表(※1)ですが、赤く表示された部分が従来制度と異なるものです。完成済新築住宅の購入や、借家はリフォームのみが対象となりました。また、設備におけるエコ改修は3種類以上の改修が求められています。供給されるポイントも若干変わっています。 |
「復興支援・住宅エコポイント」と「省エネ住宅ポイント」の違い (※1) 国土交通省のパンフレットより |
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■対象期間 ○契約:2014(平成26)年12月27日以降の契約ですが、契約済みの工事の変更契約も含みます。 ○着工:2014(平成26)年12月27日〜2016(平成28)年3月31日 ○工事の完了:2015(平成27)年2月3日以降 ○ポイント発行の受付開始:2015(平成27)年3月上旬 ○ポイント発行申請の終了:予算の執行状況によりますが、遅くとも2015(平成27)年11月30日には終了 ○ポイント交換申請の終了:2016(平成28)年1月15日 ○完了報告の期限:新築の場合/2016(平成28)年9月30日 (階数が10以下の共同住宅は2016(平成29)年3月31日) (階数が11以上の共同住宅は2017(平成30)年3月31日) リフォームの場合/2016(平成28)年6月30日 (耐震改修を伴う、階数が10以下の共同住宅は2016(平成29)年3月31日) (耐震改修を伴う、階数が11以上の共同住宅は2017(平成30)年3月31日) |
札幌市内の 滝野すずらん公園にて 2013年3月8日撮影 |
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■性能要件 表(※2)の要件が求められます。2013(平成25)年の省エネ基準見直し等により、住宅性能表示制度の改正がされています。従来あった基準(5−1)省エネルギー対策等級は2015(平成27)年3月末で使用できなくなります。新しい基準との比較は、「住宅性能表示制度の見直しについて」にも掲載しましたが、図(※3)の様になっています。省エネルギー対策等級を断熱等性能等級(5−1)として、基準の指標が熱損失係数(Q)と日射取得係数(μ)から外皮平均熱貫流率(UA)、冷房期の平均日射熱取得率(ηA)に変わっています。地域も変わりました。また、一次エネルギー消費量を評価する基準(5−2)を導入して、低炭素建築物認定基準相当が最上位等級に設定されました。 一方、トップランナー基準とは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律/省エネ法のこと」に基づく「住宅事業建築主の判断の基準」に適合する住宅が該当しますが、これだけでは判らないですね。従来の住宅性能表示の等級4である次世代省エネ基準(平成11年基準)をクリアして、さらに設備機器の一次エネルギー消費量が、2008年時点における一般的な住宅と比べ、10%削減する機能や性能を有した住宅のことをいいますが、例えば、住宅金融支援機構の「フラット35Sの金利Aプラン」が適用される基準などが該当します。「トップランナー基準とは何か」や国土交通省のホームページ(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/toprunner.html)をご覧下さい。 |
対象住宅の性能要件 (※2) |
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■発行ポイント ○エコ住宅の新築 1戸あたり 30万ポイント ○エコリフォーム等 30万ポイントを上限 (下表を参照) (耐震改修を行う場合は、 さらにポイントが加算) ○リフォーム瑕疵保険への加入 /既存住宅購入(下表を参照) |
住宅性能表示制度の改正 (※3) |
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■ポイントの利用方法 大きく分けて、以下の3つの方法があります。 ○商品との交換 <ポイントの交換期限は、 2016(平成28)年1月15日> ・省エネ・環境配慮に優れた 商品(エコ商品、エコ商品券等) ・地域振興に資するもの (地域商品券、地域商品、復興支援) ・商品券・プリペイドカード ○環境寄付・復興寄付 様々な環境保全活動等を実施している団体への寄附や、復興支援のための寄附 ○即時交換 <ポイントの交換期限は、 2016(平成28)年2月15日> |
※2部分改修の場合の発行ポイント数を示す。 発行ポイント数 (※4) |
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エコ住宅の新築、エコリフォームにより発行されたポイントを、当該工事を行う工事施工者が追加的に実施する工事の費用に充当(『ポイント発行申請』と同時に即時交換申請をする必要があります。また、即時交換で申請されたポイント相当の代金支払いは、『工事完了後』となります)。 注意点としては、 ・ポイントの発行対象となった工事費用への充当はできません ・工事を分離発注する場合、即時交換は利用できません ・即時交換の申請は申請窓口のみで、郵送はありません |
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■省エネ住宅ポイント制度を考える 消費税が5%から8%に上がったことによって、住宅市況は一気に落ち込みました。消費税アップ直前の駆け込みの反動もありました。そのため、政府は住宅ローンの切り下げや省エネルギーに優れた住宅の新築やリフォーム等に対して支援を行うことにより、住宅市況を活性化しようとしているわけですが、「省エネ住宅ポイント」は「住宅エコポイント」の復活ともいえなくはありません。また、住宅取得などへの贈与税の非課税措置の延長・拡充などの税制改革も始まっています。 国土交通省の省エネ住宅ポイントの説明会では、「少額のリフォームは省エネ住宅ポイントが良いが、一定の高額を求めるならば長期優良住宅リフォーム推進事業活用が良い」との発言もありました。長期優良住宅リフォーム推進事業の2015(平成27)年度の募集開始は4月から5月ころが予定されています。また、地方自治体によっては、さまざまな補助制度が出されています。これらの制度を活用しない手はないでしょう。 |
白滝水流橋から白老岳を望む 2011年6月16日撮影 |
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■2015年の住宅関連予算(国土交通省・経済産業省・林野庁) 国の補助関連だけでも色々な制度があります。予算案の段階のものもありますが、多くの住宅関連予算が計上されています。また、それらが知らないところで使われてしまわないように注視することも大事です。以下に列記してみましたが、すべてを網羅しているわけではありません。 ○省エネ住宅ポイント:決定した補正予算で805億円、さらに1月14日の2015年度の予算案では100億円が計上されています。 ちなみに「復興支援・住宅エコポイント」は1,446億円でした。予算枠を使い切った段階で、補助金は利用 する事ができなくなります。 ○耐震対策緊急促進事業:耐震診断・耐震改修への支援強化で180億円 ○密集市街地総合防災事業:防災対策の推進や生活支援機能の整備に24億円 ○防災・省エネまちづくり緊急促進事業:適用期限を2020年3月まで延長で58.29億円 ○空き家管理等基盤強化推進事業:取組推進に1.5億円 ○住宅確保要配慮者あんしん居住推進事業:空き家リフォームなどに25億円 ○東日本大震災復興関連事業円滑化支援事業:金利引き下げなどの継続に2.65億円 ○スマートウェルネス住宅等推進事業:サービス付き高齢者向け住宅の整備などに320億円 ○長期優良住宅リフォーム推進事業:既存住宅ストックの長寿命化には、60〜70億円を想定 (見込予算19億円+補正予算130億円から一部) ○住宅ストック活用・リフォーム推進事業:既存住宅の活用に向けたモデルなどに10.49億円 ○多世代交流型住宅ストック活用推進事業:0.32億円 ○インスペクションの活用による住宅市場活性化事業:インスペクション技術の開発などに3億円 ○地域型住宅グリーン化事業:地域における木造住宅の生産体制強化と省エネ性や耐久性優れた整備などに110億円 ○環境・ストック活用推進事業:住宅・建築物の断熱性能等の省エネ化等の推進に60.75億円、さらに補正予算で130億円 ○優良住宅整備促進等事業費補助:中古住宅・リフォーム市場の活性化のため、フラット35でリフォームを含む中古住宅の取得費用 などに254.25億円とフラット35等の金利引き下げや住宅融資保険の保険料率の引き下げなど に2014年度の補正予算で1150億円 ○住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業費補助金:7.6億年と2014年度の補正予算で150億円 ○定置用リチウムイオン蓄電池導入支援事業:130億円 ○民生用燃料電池(エネファーム)導入支援補助:222億円の補助が2014年度補正予算に組み込まれています。 今後は、「燃料電池」に注目です ○木造住宅等需要拡大支援事業:2014年度の補正予算で20.7億円ですが、国内産の「木材」の動向にも注目です |
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086 トップランナー基準とは何か(2015年2月22日) |
図(※1) 資源エネルギー庁のホームページより |
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■トップランナー基準とは トップランナー基準とは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律/略称:省エネ法)」により、各種の機械器具の製造業者等に、省エネルギー型の製品を製造するように課した基準のことです。 1979年に制定された省エネ法ですが、トップランナー基準は1999年に追加されました。謳い文句は「世界最高の省エネルギー機器の創出に向けて」とあります。 トップランナー基準を上回ることによって、さまざまな優遇を受けたり、要件に該当するメーカーや製造業者等の製品が基準に達しない場合にはペナルティが科せられます。また、罰則規定もあります。その他、似たような名称を使っている場合もありますが、あくまでもここで触れるのは、省エネ法に定められたトップランナー制度のことに限ります。 ■住宅におけるトップランナー制度の対象品目 図(※1)は、資源エネルギー庁の資料から転載したものですが、2010年時点の23品目のトップランナー製品の図案です。その後順次、対象品目が追加されて来ました。2012年には26品目、その後も増え続けています。乗用自動車や貨物自動車なども対象ですが、建築や住宅に関係する対象品目としては、エアコンディショナー、テレビジョン受信機、蛍光灯ランプ、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、ストーブ、ガス調理機器、ガス温水機器、石油温水機器、電気便座、ジャー炊飯器、電子レンジ、電気温水機器(ヒートポンプ給湯器)などがあります。 2013(平成25)年12月の省エネ法の改正では、機械器具ばかりではなく、自らエネルギーを消費せずとも、エネルギーの消費効率の向上に資する住宅・建築物の「断熱材料」がトップランナー制度の対象となりました。 2014(平成26)年11月には、対象の建築材料が追加され、熱損失防止のための建築材料である「窓(サッシ及び複層ガラス)」が対象となりました。対象となる製造事業者等は、サッシについては94,000窓以上、複層ガラスについては110,000u以上の生産量又は輸入量です。 ■さまざまな基準の考え方 最低基準値方式、平均基準値方式、最高基準値方式などの基準がありますが、日本では最高基準値方式が採用されています。 ○最低基準値方式:対象とする機器の全ての製品が基準値をクリアすることを目標 (アメリカなど多くの国が採用している) ○平均基準値方式:対象となる機器の全てが平均値としてクリアすることを目標 ○最高基準値方式:基準値策定時点で最も高い効率の機器の値を超えることを目標 (トップランナー基準のこと) |
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■トップランナー基準の概要と効率化の経過 機器の範囲、判断の基準となるべき事項、表示事項、エネルギー消費効率の測定方法などで基準は構成されています。また、判断の基準となるべき事項として、対象の区分、目標年度、目標基準値及び達成判定方法が規定されることになっています。 ペナルティが科せられる達成の評価方法は、個々の製品で判定するわけではなく、製造業者における出荷台数の加重平均で達成すれば良いとされています。 次の図(※2)も資源エネネルギー庁からの転載ですが、右の当初見込みに対して、中央の数値のように大幅な改善効果が達成されてきました。住宅関連では、エアコン、電気冷蔵庫の効率改善が目立っています。これは、ヒートポンプの能力アップが大きな効果を生んだともいえます。この図には出てきませんが、照明におけるLED化の効率も最近では大きいですね。(電球形LEDランプがトップランナー基準の対象になったのは、2013(平成25)年です。 |
図(※2) 資源エネルギー庁のホームページより |
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■住宅事業建築主の判断の基準とは 省エネ法において、定められた基準のことですが、この基準に該当する仕様がトップランナー基準となります。詳細は、下表のようになっています。地域区分は、「省エネルギー機構のホームページ」などをご覧下さい。 全国を8地域に分けて、それぞれの地域別に断熱性能等級、換気システム、暖房設備、給湯器などの条件を満たすと、トップランナー基準に該当することになります。対象となるのは、住宅事業建築主、建売戸建住宅を新築・販売する事業者です。要するに、住宅を建設する場合に、その性能・仕様を決定する権限を持っている人が判断するということです。 |
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※1:顕熱交換効率が65%以上の設備をいう。なお、断熱性能の確認を熱損失係数及び年間暖冷房負荷の計算によって行う場合、熱交換換気による空調負荷の低減効果を熱損失 係数及び年間暖冷房負荷の計算に盛り込んではならない ※2:比消費電力(消費電力を送風量で除した値)が0.2W/(m3/h)以下のものとする ※3:開口部(玄関・勝手口ドアを除く。)の熱貫流率がT及びU地域にあっては1.9以下、V地域にあっては2.91以下とする。なお、断熱性能の確認を熱損失係数の計算によって行う 場合、設計施工指針に定める仕様の開口部*が設置されているものとして計算した熱損失係数が、建築主の判断基準に適合することを確認する。次に、その際の躯体の断熱 仕様を用いたうえで、実際に設置される開口部(玄関・勝手口ドアを除く。)の熱貫流率が、T及びU地域にあっては1.9以下、V地域にあっては2.91以下であることを確認する *ここでいう設計施工指針に定める仕様の開口部とは、当該開口部の熱貫流率が、T及びU地域にあっては2.33、V地域にあっては3.49であることを指す ※4:パネルラジエーター*とは以下のどれかに該当するものをいう。 ・石油温水式パネルラジエーター ・電気温水式(ヒートポンプ式) パネルラジエーター(温水暖房専用の電気ヒートポンプ式熱源機に限る。給湯機能と温水暖房機能を有する電気温水器(ヒートポンプ式)は適用しない) ・ガス温水式(潜熱回収型)パネルラジエーター(エネルギー消費効率が87%以上の場合) *温水配管に「断熱被覆」を行う ※5:高効率給湯器とは以下のどれかに該当するものをいう (Ta、Tb、U、V地域) ・ガス瞬間式(潜熱回収型)給湯器 ・石油瞬間式(潜熱回収型)給湯器 ・電気温水器(ヒートポンプ式)で温水暖房機能を有さないものであって、年間給湯効率(APF)3.0以上の場合に適用 (Wa、Wb、X、Y地域) ・ガス瞬間式(潜熱回収型)給湯器 ・電気温水器(ヒートポンプ式)で温水暖房機能を有さないものであって、年間給湯効率(APF)3.0以上の場合に適用 ※6:主たる居室とは、居間を含むダイニングや台所との一体空間をいう ※7:その他居室とは、主たる居室以外の代表的な居室をいう ※8:ルームエアコン(高効率型)とは以下のものをいう (主たる居室) 暖房:エネルギー消費効率(暖房能力(kW)を暖房消費電力(kW)で除した数値)が4.6以上のものをいう 冷房:エネルギー消費効率(冷房能力(kW)を冷房消費電力(kW)で除した数値)が3.7以上のものをいう (その他居室) 暖房:エネルギー消費効率(暖房能力(kW)を暖房消費電力(kW)で除した数値)が5.9以上のものをいう 冷房:エネルギー消費効率(冷房能力(kW)を冷房消費電力(kW)で除した数値)が5.4以上のものをいう ※9:節湯器具を採用とは以下の条件をすべて満たす場合である ・台所において「節湯A」「節湯B」「節湯AB」のいずれかを採用 ・シャワーにおいて「節湯AB」を採用 ・配管に小口径配管(配管がヘッダー方式であり、給湯器の給湯口からできるだけ近い地点においてヘッダーにより配管が分岐され、かつヘッダー分岐後の配管の内径が 13mm以下のもの)を採用 ※10:床暖房の敷設率が60%以上、配管は「断熱被覆が有るもの」を設置し、床の上面放熱率が90%以上の場合に適用とする ※11:床暖房の敷設率が60%以上、配管は「断熱被覆が有るもの」を設置し、床の上面放熱率が90%以上の場合に適用とする。ただし、温水暖房専用の電気ヒートポンプ式 熱源機に限る給湯機能と温水暖房機能を有する電気温水器(ヒートポンプ式)は適用しない |
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■建材トップランナーの対象となる断熱材(特定熱損失防止建築材料) 住宅等に使用される断熱材は、図(※3)のように多数の種類がありますが、現在、トップランナーの対象となっているのは、グラスウール、ロックウール、押出法ポリスチレンフォームです。2022(平成34)年までに達成すべき性能とされている目標基準値は、図(※4)の通りです。トップ値の効率改善後の数値は、今後の技術開発の限界を予想させますが、高付加価値品を増やし、高気密高断熱の住宅を全国的に普及させることにより、省エネルギー化を進めることができます。高気密高断熱に対して、未だに反対する見解もありますが、もう後戻りはできないでしょう。 |
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■サッシとガラスのトップランナー基準 新しく設定されたトップランナー基準の対象建築材料です。2022(平成34)年までに達成すべき性能とされている目標基準値は、図(※5、6)の通りです。「普及品アルミサッシ(単板ガラス)、アルミサッシ(複層ガラス))」「付加価値品(アルミ樹脂複合サッシ)」「高付加価値品(樹脂サッシ)」に分けて、それぞれに現在のトップランナー製品の性能値を求め、目標年度のシェアを推計により算出して、乗じた加重平均値が最終的に目標基準値をクリアすることが求められます。 |
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■トップランナー基準と長期優良住宅 トップランナー制度は、「省エネ法」に基づいて規定されています。一方、長期優良住宅は、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて規定されています。したがって、直接の関係はありません。トップランナー制度は経済産業省、長期優良住宅は国土交通省が主管ですね。 |
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■トップランナー基準と「フラット35S」 住宅金融支援機構が民間金融機関と提携する、住宅における長期固定金利住宅ローンを「フラット35」といいます。35年間の固定低金利とする住宅ローンを担保として、債権を発行(証券化)して資金を生み出すという、金融資本主義の魔法による資金調達方法です。不良債権を組み込んだため破綻したのが、サブプライムローンでした。 それはともかく、「フラット35」から、さらに上の省エネルギー性、耐震性などの技術的基準を満たした住宅を取得する場合は、期間は限定されますが、金利をより引き下げる制度があります。それが「フラット35S」です。「フラット35」の技術基準に適合し、さらに「フラット35S」の技術基準に適合する必要があります。 |
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「フラット35S」には、当初の10年間に金利が「フラット35」より▲0.3%程度引き下げられる「金利Aプラン」と、当初5年間に▲0.3%引き下げられる「金利Bプラン」があります。詳細は、住宅金融支援機構のホームページで確認して下さい。 この「金利Aプラン(※7)」に該当する技術的基準の条件の一つに省エネルギー性でのトップランナー基準があります。前述した、「住宅事業建築主の判断の基準」の条件をクリアする必要があるのです。ただし、表のように「金利Aプラン」を利用するためには、(1)から(5)までのすべてを満たす必要はありません。いずれか一つ以上の基準を満たせば良いとされています。したがって、必ずしもトップランナー基準である必要はないことになります。 その際、トップランナー基準に適合する住宅という認定を受けるためには、次のいずれかの書類の交付を受ける必要があります。 1)「省エネ法」に規定する登録建築物調査機関の発行する「住宅事業建築主に係る適合証」を受けた住宅 2)「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に規定する登録住宅性能評価機関が発行する「エコポイント対象住宅証明書」又は「エコポイント対象住宅証明書(変更)を取得した住宅。ちなみに「復興支援・住宅エコポイント」は終了していますが、その証明書があればそれを利用、なければ取得する必要があります 技術的基準をクリアするためには、 A)あらかじめ設定された仕様から選択する「仕様基準」 B)外皮平均熱貫流率(UA)、冷房期の平均日射熱取得率(ηA)を「計算して仕様を決定」 2つの方法があります。B)の方法が、多少複雑ですが、建設コスト的には有利に働くのは間違いがありません。 |
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■改めて、トップランナー制度を考える 「世界最高の省エネルギー機器の創出に向けて」とされるトップランナー制度ですが、基準値策定時点で最も高い効率の機器の値を超えることを目標としていることからも、ヒートポンプなどのように、めざましい技術開発が進んだ製品群に対しては著しい効果を生んでいますが、技術開発がそれほど進んでいない製品群に対しては疑問を感じることもあります。新しく指定されたサッシなどに対しては、もっと刺激的な目標を課しても良いと私は考えています。 また、トップランナー制度には、消費者に対する視点が欠けているという意見もあります。製造業者における経済効率性が優先されているといった指摘がそれに当たります。経済産業省が主導したことにも起因しているのかも知れません。技術開発が主眼であった発想が、「省エネ法」に盛り込まれ、そこに「地球温暖化対策」としての「二酸化炭素排出削減」に換骨奪胎してしまった結果だともいえます。 さらに、トップランナー制度は、最低効率基準の縛りはありません。その製造業者の出荷製品が加重平均で基準値を達成すれば良いとされているからです。単純に言えば、基準値よりも低い効率の製品が出荷されても、全体として目標をクリアしていれば良いということになります。そのうえ、目標値をクリアすることで、さらなる効率改善の達成意欲が削がれるといった指摘もあります。 そして、これが一番問題なのかも知れませんが、古い製品の部品供給がストップする可能性が高くなるのです。トップランナー制度は、消費者が従前から使用していた製品には何らの効果も発揮しません。こよなく愛する古い製品を使用したくても、メーカー等がいつまでも従前の部品を保持するとは思えません。特に、最近はその傾向が強くなっています。 以前、30年近く使ったソニーのブラウン管テレビの部品を問い合わせたところ、メーカーは誠に廉価でその部品を送ってくれました。その後、10年近く利用させて貰いましたが、綺麗に映っていたにも関わらず、地上デジタル化の波に沈んでしまいました。できれば保存しておきたい製品でした。建設市場におけるスクラップ&ビルドに対する反省の考え方が盛り上がっていますが、それとは逆の志向がトップランナー制度だともいえなくもありません。 とはいえ、トップランナー制度を否定する気もおきません。重要なことは、一度、原点回帰を考えてみることだといえます。経済効率性、省エネルギー性、二酸化炭素削減といったキーワードを改めて整理してみる必要があるといえます。このところ少し下火になったような気がしますが、入れ子・積木状態となった建築基準法関連を統合し、建築基本法から作り直すべきといった議論と同様な段階に来ているのではないでしょうか。 |
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085 住宅性能表示制度の見直しについて(2015年2月4日) |
※住宅性能表示制度は、2016年4月1日施行の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律:略称/建築物省エネ法」に伴い、
部分的に改正がされています。その他既存住宅についても基準等の見直しがされています。(2016年4月1日追記)
■省エネ法の改正 日本における最終エネルギー消費の推移は、図(※1)のようになっています。このように、業務・家庭部門における最終エネルギーの消費が確実に増えてきました。 省エネ法とは、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」の略称ですが、東日本大震災を受けて電力需要の逼迫という事態を招いた結果、エネルギー消費量が特に大きく増加している業務・家庭部門における住宅・建築物や設備機器の省エネ性能の向上を強化する必要に迫られました。 このような背景から、省エネ法の改正が2013(平成25)年5月31日に公布されました。また、それぞれの措置を具体化するための政令・省令・告示等も改定されています。主な内容は次のとおりです。 1)電気需要の平準化推進/2014(平成26)年4月1日施行 ・2015(平成27)年度提出の定期報告制度の様式が変わります。 2)トップランナー制度の建築材料等への拡大 /2013(平成25)年12月28日施行 ・建築材料のトップランナー制度の対象として「断熱材」が指定 3)その他 ・ISO5001の発行を契機とした判断基準の見直し ・省エネ法に基づく各種提出書類のオンライン申請の簡略化 ・エネルギー消費機器等のトップランナー制度の対象として、 「LED」などが指定され、省エネ基準が策定された |
※(1) |
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■低炭素建築物認定基準の制定 一方、地球温暖化対策として、都市レベルで低炭素化を進める必要性から、2013(平成24)年9月5日に公布されたのが、「都市の低炭素化の促進に関する法律/略称:エコまち法」です。市街化区域等における民間投資の促進を通じて、都市・交通の低炭素化・エネルギー利用の合理化と、その普及を図るとともに、住宅市場・地域経済の活性化を図ることが目的とされています。2013(平成24)年12月4日に施行されました。主な内容は次の通りです。 1)民間等の低炭素建築物の認定 ・所得税の軽減や、容積率不参入といった施策が取られています 2)市町村による低炭素まちづくり計画の策定 ■住宅性能表示制度の見直し 以上の2つの法律の改正と制定により、日本住宅性能表示基準及び評価方法基準の省エネルギー基準に関する部分が改正されました。改正点としては、「5.温熱環境に関すること」について、 (従来までの住宅性能表示は、043新築住宅の品確法と044既存住宅の品確法を参照) 5−1/温熱環境に関する省エネルギー対策等級 から、 5−1/断熱等性能等級 5−2/一次エネルギー消費量等級 |
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の2つの等級が設定され、内容も変わっています。 また、2015(平成27)年4月からは、必須/選択範囲の見直しも施工されます。 |
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■5−1/断熱性能等級の改正点 従来の等級は、図(※2)のような等級になっていましたが、この対策等級は、2015(平成27)年3月末で使えなくなります。また、等級4の基準が、平成11年基準相当から平成25年基準相当に変わっています。地域区分が6地域から8地域に変わり、基準の指標が熱損失係数(Q)と日射取得係数(μ)から外皮平均熱貫流率(UA)、冷房期の平均日射熱取得率(ηA)に変わっています。 |
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■5−2/一次エネルギー消費量等級の追加 新しく導入された基準ですが、設備を含めた一次エネルギー消費量が評価されるようになりました。図(3)のように、等級4の上に低炭素基準相当の等級5が設定されました。等級2と3はありません。 |
住宅性能表示制度の改正 (※3) |
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■必須/選択項目の見直し 新築住宅では、現在必須項目となっている9分野27項目について、4分野9項目に変わります(※4)。併記した長期優良住宅に揃えたともいえますね。要するに、新築してからの期間を経た場合に、調査が難しい項目が必須となったようです。 |
必須科目の変更 (※4) |
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■液状化に関する参考情報の提供 同時に、東日本大震災などで大きな問題となった「液状化対策」については、把握されている情報を「参考情報」として記載することになりました。現在も裁判などで争われていますが、被害者側にとっては、厳しい判決が多く出ています。しかし、参考情報とはいえ、記録が残ることにより、問題が発生した場合の有力な資料となることは間違いありません。 |
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084 建築物における天井脱落対策(2014年6月8日) |
■天井の脱落対策とは 過去の地震による災害の例として、 ・2001年の芸予地震による体育館の天井落下 ・2003年の十勝沖地震による空港ターミナルの天井落下 ・2005年の宮城県沖地震によるスポーツ施設の天井落下 など、多数の落下被害が報告されましたが、東日本大震災でも、多くの天井落下が発生、東京の九段会館などでは死亡事故も発生しました。そのため、2013年7月に交付された建築基準法の改正では、「建築物における天井脱落対策に係る技術基準」が規定されました。 今回の改正では、「特定天井」が定義され、特定天井は定められた基準で検証することが必要となりました。ただし、この基準は、新築の場合に適用されますが、既存建築物には遡及しません。既存の建築物については一定規模以上の増改築が行われる場合には、新築時と同様の技術的基準、若しくは落下防護措置を講じなければならないことになっています。落下防護措置とは、ネットやワイヤー等で、仮に落下をしても、人などに甚大な被害が起きないようにしようというものです。とはいえ、多くの人を収用する施設などでは、既存の天井の状態を確認する必要があることはいうまでもありません。 ■特定天井とは 6m超の高さにある、水平投影面積200u超、単位面積重量2kg/u超の吊り天井で、人が日常利用する場所に設置される天井です。この条件に該当しなければ、特定天井ではないことになります。 立上り壁等で6m以下の部分があっても特定天井に含まれるとか、高さ6m超の部分が梁や垂れ壁で分割されていても一続きの天井として扱うといった、細かな既定が定められています。 単位面積重量には、天井面を構成する天井板、天井下地材及びこれに付属する金物の他、自重を天井材に負担させる照明設備等も含むとされていますので、ほとんどの天井が2kg/u超だと思って間違いないでしょう。十勝沖地震によって天井が落下した釧路空港ターミナルなどでは、復旧方法として膜状の天井を設置していますが、その場合は2kg/u以下になっていると思います。一般に、石膏ボード(9.5mm)の天井でも、下地材を含めると7.1〜10.0kg/uの単位面積重量があるとされています。 |
東日本大震災で天井の大部分 が崩落したミューザ川崎 幸いにけが人はいなかった 産経ニュースより |
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国土交通省の「建築物における天井脱落対策の全体像」より |
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■特定天井を新設する場合の留意点 ・斜め部材を吊り材の下端に取り付けることは避ける ・野縁と野縁受けの接合部であるクリップについて、ネジ留め等の措置 ・野縁受けと吊り材との接合部(ハンガー)についても、開き留めやネジ留め等の措置 ・野縁、野縁受けのジョイントの設置位置は千鳥にする ・吊り材は十分な剛性及び強度を有する構造耐力上主要な部分又は支持構造部分にボルト等で接合する ・特定天井の吊り元には、接着系アンカーを使用しない ・吊り長さは3m以下とし、おおむね均一とする ・吊り材は、天上面に垂直ではなく、勾配等に関係なく鉛直に設置する ・段差がある天井の場合、鉛直方向に1cm以上のクリアランスを確保する ・2段ブレスは原則として採用しない ・天井面と壁面のクリアランスは6cm以上とし、天井同士が隣接する場合のクリアランスは12cm以上とする |
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といったことが規定されています。 ■特定天井の構造計算ルート 特定天井の構造計算が規定されました。大きく分けて4つの方法があります。 1)仕様ルート法 2)水平震度法 3)応答スペクトル法及び簡易スペクトル法 4)時刻暦応答計算 建築物本体の構造計算の方法により、特定天井に対する確認審査・構造適判の判断が異なってきます。簡単な表にしてみました。 |
国土交通省の「建築物における天井脱落対策の全体像」より |
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■仕様ルート法による斜め部材の配置設計 仕様ルート法では、斜め部材の配置がもっとも重要なポイントになります。専門的になりますが、以下の計算によって斜め部材の組数を設計する必要があります。 仕様ルート法はそれほど難しくない計算ですが、条件により斜め部材の数が厖大になってしまうことがあります。私もある物件で検討した際に、斜め部材が多くなってしまうため、再検討が必要となりました。また、簡易スペクトル法などを利用すると、条件によっては水平震度をより小さく設定することができます。これは、耐震診断における一般診断法と精密診断法の関係と同じことです。次の表は、「日経アーキテクチュアの2014年4月10日号」に掲載されていた、仕様ルートと簡易スペクトル法の比較を引用させて頂いたものです。 |
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仕様ルートと簡易スペクトル法による水平震度の比較例 (日経アーキテクチュア 2014年4月10日号より) |
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■今後の問題 法律が規定されましたが、実際の設計や施工には多数の問題が残っています。各メーカーの天井下地材も開発途上に近いのが現実です。また、クリアランスを作る必要がありますが、音響や湿度等の透過の問題もあります。新素材による軽量の天井材も提案はされていますが、現実の製品はこれからでしょう。既存天井の落下防止対策もゼネコン等からもいろいろと提案されています。とにかく法律を先行させて、メーカー等の開発意欲を促すというのが、行政の従来のやり方なのでしょうが、改めて日本の建設業界の凄まじさを見る思いがします。 2014年6月3日の朝日新聞記事では、「つり天井 耐震3%のみ」と報道がされました。文部科学省では、今回の建築基準法の改正に先駆けて、新耐震基準の建物も含め、屋内運動場、武道場、講堂、屋内プールなどの大空間を持つ施設を一定の基準で調査を実施しています。全国の公立小中学校の校舎の耐震対策割合が92.5%の状態まで来ているにも関わらず、全国の公立小中学校のつり天井の耐震対策を実施した比率が3%しかないという記事でした。全国には、体育館などがある公立小中学校が3万3703棟、そのうちのつり天井がある小中学校が19%、しかし耐震対策を実施したのは200棟だけだったというものです。 耐震改修促進法では、「病院、店舗、旅館等の不特定多数の者が利用する建築物及び小中学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する建築物のうち大規模なもの等」の耐震化率を2015年度までに9割にするとしていますが、これ以外の多くの施設も存在しているのが事実です。多くの建物が十分なメンテナンスもされないまま、現存していることに目を向けないわけにはいきません。十数年前に会った開発業者のある担当の人の言葉が思い出されます。「この建物は、20年持てばいいんだ。だから、安く造ってくれ」。定期借地権付きの開発計画でした。その計画には、参加することはできませんでしたが、その後、その建物がどうなったかは判りません。コストカッターと異名を取った人もいました。その会社が現在は、どうなっているでしょうか。その人は年収が10億前後と聞いています。彼は、大きな間違いを犯していたのではないか、そしてその間違いを今も続けていると私は考えています。 |
2014年6月3日の朝日新聞 |
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083 真北と磁北の違い(2014年4月27日) |
地図は一般的には北を上にして描かれます。国土地理院の地図でも垂直方向で上の方向が北になっています。その方向を「真北(しんぽく)」といいます。「日影規制」や「北側斜線制限」などに利用される北は真北を基準としています。実際の建築行政では、市役所等で真北を表示した「現況図」などが販売されていたり、市町村ごとに統一した値が出されていますので、それらを利用することになります。 また、国土基本図(1/2500)や都市計画図等は「平面直角座標系」という座標で方眼に区画された地図が使われます。日本で利用される平面直角座標系は、平成14年の国土交通省告示第9号で、図(※1)のように第T系から第XTX系までの19区画に分けられています。この座標系で示される基準線(中央子午線)に沿った北を「方眼北」といいます。平面直角座標系の基準は経度と緯度で表されていますが、それぞれの基準線上では方眼北と真北は一致しますが、東側では真北に対して右、西側では左に傾きます。ちなみに、札幌市の場合、第XU座標系(経度142度15分0秒、緯度44度0分0秒)が基準となっています。詳細は、「国土地理院」のホームページなどに掲載されています。 一般的に方位を調べるときには、方位磁石が使われますが、方位磁石のN針が示す方向を「磁北(じほく)」といいます。この磁北と真北にはかなり大きなずれがあり、磁北で日影規制や北側斜線制限を検討することはありません。最近では、方位磁石の代わりに利用されるデジタルコンパスなど、磁北を真北に補正する機能を持ったものも販売されていますし、iPhoneの電子コンパスには補正するオプションもあるようです。札幌市では、日影規制には@現況図、A道路台帳、B方眼北からの補正、のいずれかで設定することになっています。確認申請に磁北を利用することはありませんが、調査段階では方位の確認のためによく利用されています。 このように、いろいろな「北」があることになります。 真 北:地球の地軸を基本とした「北」で日影規制や北側斜線制限 の基準となる 方眼北:平面直角座標系で表される「北」で「真北」を計算する 基準にも利用される 磁 北:方位磁石の「北」で「真北」とは「ずれ」がある この真北と磁北のずれは、地域により異なりますがその差異も決して小さな値ではありません。例えば札幌では、1km進むと160m程度のずれですが、同じ条件で東京ですと120m程度のずれになりますから、登山などでは注意をしなければなりません。ちなみに、方眼北と真北のずれは、磁北と真北のずれよりも1桁以上小さくなります。札幌市では、第XU座標系の方眼北からの補正角度を東に30〜40分偏っているとしていますので、1km進んで10m程度のずれがあることになります。 地球の地軸の北端部が北極であり、その方向を示すのが真北ですが、真北を夜空に向かって延長した地点近くに「北極星」があります。そのため、北極星はほとんど動かないように私たちには認識されます。また、「太陽光発電」でも真北を基準に考える必要があります。磁北で計算する訳にはいきません。 地球には、磁場がありますが、地球は北がS極、南がN極の磁性を持っています。そのため、方位磁石のN針は磁力によって北を示しますが、その方位が「磁北」ということです。そして、この磁北と真北のずれの角度を「偏角(へんかく)」といいます。日本の偏角は、磁北が真北に対して西側にずれているため、「西偏(せいへん)」となっています。 磁北の方位は日時を追って少しずつ変化していますが、最新のデータは、国土地理院のホームページ(2010年度版)に掲載されています。日本では、偏角が6度から10度程度の範囲にありますが、代表例を簡単な表(※3)にしてみました。磁北は、地球の歴史のサイクルでみると大きく変化することがあって、南北が入れ替わったことも幾度となくあるそうです。 西偏を「θ」とすると、磁北と真北のずれの距離は、表(※3)のように「tan(θ)」で表すことができます。表では、北へ1km進んだときの磁北と真北のずれも計算しています。 地球は太陽を中心として公転していますが、地球が自転する軸、すなわち地軸が傾いていることは良く知られています(※4)。地球の地軸は公転面の法線に対して、約23.4度(約23度26分)傾いています。この傾きのことを赤道傾斜角(黄道傾斜角)ともいいますが、太陽自体も動いていますし、厳密には年々変化しています。この赤道傾斜角と、真北と磁北のずれは、直接の関係はありませんが、赤道傾斜角によって日本では四季が生まれます。 北回帰線あるいは南回帰線というのは、この地軸の傾き分だけ赤道と平行に北と南に緯度を設定した線になります。北回帰線上では夏至の日に、また南回帰線では冬至の日に、太陽の南中高度が90度、すなわち太陽光線が地球に直角にあたります。 地球の赤道は、地球の中心を通って自転軸に垂直な平面が地球を輪切りにした円周ですが、地球を北と南に分ける大円となっています。全周は約4万キロありますが、赤道によって緯度が決められています。赤道の緯度が0度、北極と南極が90度となっていて、それぞれ北緯(+)と南緯(−)で表されます。 一方、経度は赤道に対して、地球の中心を通って垂直に切断した大円になります。この大円は子午線とも呼ばれますが、北極と南極を結ぶ線でもあります。ロンドンの旧グリニッジ天文台を通る子午線(経線)が0度となり、東側を東経、西側を西経で表されます。東経180度と西経180度が地球のロンドンの丁度反対側でぶつかりますが、経度180度の子午線が概ねの国際日付変更線となっています。 表(※5)は、日本の東西南北の緯度経度を国土地理院のデータから引用したものですが、日本は北半球の中央以南、ロンドンとは地球のほぼ反対側に位置することが判ります。
日本は小さな島国と思われがちですが、広大な海域を有しています。世界の排他的経済水域ランキングでは、6位から7位に位置するといわれています。国土面積では、62位前後ですから、その違いは一目瞭然です。ちなみに日本が現在、承認している国の数は日本も含めて195ヶ国ありますが、最小国土の国はバチカン市国です。 日本の領海と排他的経済水域を併せた面積は約447万平方キロですが、中国は約88万平方キロしかありません。中国が海洋進出を焦る理由がそこにあるともいえます。 |
平面直角座標系 (※1) |
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真北と磁北のずれは地域により異なる (※2) |
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日本における地域による西偏と移動によるずれ (※3) |
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地軸の傾き (※4) 地球はグーグルアースより |
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082 日影規制における発散方式と閉鎖方式(2014年4月14日) |
2014年3月19日のさいたま地裁による判決が興味を引きました。近隣住民が建築確認の取り消しを求めた訴訟で、地裁段階とはいえ、検査機関(ビューローベリタスジャパン)の建築確認を無効とする判決が出たのです。ソフトバンクモバイルがデータセンターとして建設中の地上8階建て事務所ビルに対する確認申請の日影算定方法に問題があるとされました。 日影規制では、日影を生じる側に道路等が接する場合の規定が、建築基準法第56条の2第3項や施工令135条の12などにあります。「日影規制について」でも触れましたが、敷地が道路、水面、線路敷その他これらに類するものに接する場合のうち 1)道路幅員が10m以下の場合、幅員の1/2だけ敷地境界線が外側にあるとみなす 2)道路幅員が10mを超える場合、反対側の境界線から当該敷地側に水平距離で5m接近したライン を敷地境界線とみなす ということになっています。公園や広場は緩和されません。言い方を変えると、日影が生じる側に道路がある場合、一定の条件で緩和されることになります。 さいたま地裁判決の例では、建設地は商業地域ですが、隣接地は第一種住居地域でした。日影規制は、基本的に建設をする土地の規制ではなく、影響を与える側の用途地域の規制を受けます。2014年6月の完成を目指して工事が進んでいたようです。 ところで、今回、問題となったのが、日影を算定するみなし境界線の設定方法でした。隣接する道路におけるみなし境界線の算定方法には、「閉鎖方式」と「発散方式」があります。発散方式は、昭和52年建設省住指(住宅局建築指導課長)発第778号の通達の参考資料「日影規制における測定線の設定方法について」に示されたものですが、ほとんどの行政庁や確認機関がこの方式を認めています。 |
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閉鎖方式による日影規制図(道路幅は10m以上) |
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文章にすると表現が難しいのですが、単純化した閉鎖方式と発散方式の例が図です。閉鎖方式では常に道路と境界に対して平行に距離を測定しますが、発散方式では角度に関係なく敷地から延長したラインで距離を測定します。図のように閉鎖方式に比べて、発散方式のみなし境界線が広がっていくことから、発散方式の方が緩和域を広く確保することができます。 |
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発散方式による日影規制図(道路幅は10m以上) |
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今回の地裁の判断は、発散方式による算定方法を否定した結果となりました。今後の裁判の行方は判りませんが、工事は完成間近まで進んでいるようです。ネットで調べると、建物自体は、高さ39mですが、その上に51mの電波塔が建つ計画になっています。埼玉副都心駅から数百メートルの再開発物件ですが、現地に行ったことがありませんので、グーグルストリートで見てみました。ネット上には工事中の画像もありました。データセンターの機能だけでしたなら、もう少し辺鄙な所でも良かったような気がしますが、他の機能があったのでしょう。その機能の一つが電波塔だったのでしょうが、日影にも大きく影響する結果となりました。ネットで見ると、電磁波の問題もあったようですが、それ以上は判りませんので、意見は差し控えておきます。 発散方式も敷地・道路条件によっていろいろなケースがあります。図は、道路幅が10m未満の道路が2面ある場合のケースです。1977(昭和52)年から継続されて適法と判断されてきた算定方法が違法と判断されたのですから、今後の影響が気になるところです。今後の裁判の行方を注視したいですね。 |
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道路幅が10m未満の道路が2面あるケース |
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このところ、憲法や法律解釈を巡る論議が多くなってきました。裁判所が違憲判決あるいは違憲状態といった判決を出しているにも関わらず、さっぱり国政を預かる人達の動きが鈍い国会議員定数の問題や、集団的自衛権の問題など多くの問題があります。建築に関わる建築基準法とその関連も、度重なる改正が行われてきた結果、それでなくても判りにくい条例文が、入れ子のようになっています。条文だけ読んで理解できる人がいるとは思えません。敢えて判りにくくしているのではないかとも勘ぐってしまいます。 民主党政権時、建築基本法を制定して、一連の法体系を整理するという考え方も出されていましたが、その後の動きはトーンダウンしてしまったのでしょうか? 判りにくくすることが、法解釈の自由度を上げるとするならば問題といわざるを得ませんが、そんな勘ぐりをしたくなる今日このごろです。 |
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081 省エネルギーについて考える(2014年1月26日) |
■省エネルギーは我慢をすること? 海水面の上昇はもちろん、台風や竜巻、集中豪雨などによる被害が大きくなったり、地域によって極端に雨が少なくなるなどの影響は、地球温暖化が原因とされています。そして、地球温暖化の主要因が、大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)濃度の増加にあることから、如何に二酸化炭素の排出量を削減するかといったことが問われるようになってきました。二酸化炭素を多く排出する化石燃料の使用を削減し、さらに消費するエネルギー自体を削減することが現代を生きる重要な課題となっているわけです。 一方、原子力発電は、化石燃料の使用削減という一面からは、有効な手段と見なされていました。私たちが「ヒロシマ/ナガサキ」という悲惨な戦禍を受けていたにも関わらず、日本でも原子力発電をクリーンエネルギーとまで唱える人たちも存在していました。イギリスの科学者ジェームズ・ラブロックは、地球を一つの生命体と見る「ガイア理論」で有名な環境主義者ですが、地球温暖化を防ぐには原子力発電しかないとまで発言し、多くの環境保護活動家とは袂を分かちました。 ところが、2010年3月に発生した東日本大震災は、原子力発電に対する信頼を木っ端微塵に打ち砕いてしまいました。というよりも、4年近くを経ても、未だに収束しない甚大な被害が起きたことによって、「真実」が啓示させられたのだともいえるでしょう。依然として安全神話にしがみついている学者や政治家の存在にも驚きますが、核燃料を利用した原子力発電が、人類が制御し得ないものだったことを思い知らされたのです。今再び、人類は消費するエネルギーを削減することはもちろん、自然のエネルギーを如何に利用するかといった課題を突きつけられているのです。 ところで、省エネルギーとは我慢をすることでしょうか? 確かに、ある程度の我慢も求められるかも知れませんが、必ずしもそればかりではないはずです。省エネルギーとは、生活のスタイルを再認識した上で、無駄を省き効率を上げることなのです。省エネルギーを実施したために、体調を崩してしまっては本末転倒になります。江戸時代の人々が省エネルギーな生活をしていたからといっても、私たちの生活スタイルを江戸時代に戻すわけにはいきません。 日本においても、2012年から、地球温暖化対策としての低炭素建築物の認定制度や住宅や建築物の省エネルギー基準の改正などが始まっています。特に、2013年10月の省エネルギー基準の改正・施行は、14年ぶりとなる大がかりなものになりました。2015年3月までは経過措置期間となっていますが、新たに1次エネルギー消費量などの指標が加えられることになりました。あるいは、住宅や建築物における省エネルギー化のための、断熱や気密性の向上といった構法の変化もこの10年の間に驚くべきスピードで進んでいます。さらに、住宅や建築物で使用される設備機器や家電製品の効率化も目覚ましいものがあります。 そこには、単にエネルギー効率を改善したといったことばかりではなく、「家庭用の給湯・暖房の省エネルギー技術を考える」に記述したように、新しいエネルギー技術の開発や、それまで捨てていた排熱を再利用するといった発想の転換も多く含まれています。 ■家庭におけるエネルギー消費 右の上のグラフと表は、経済産業省/資源エネルギー庁が作成した、家庭におけるエネルギー消費の動向を示したものです。エネルギー消費自体が、1965年度から2009年度までに約2.2倍になっていることが判ります。また、用途別消費量も地域によって異なりますが、日本全体では、給湯と暖房及び動力・照明がそれぞれ1/3程度を示していることになります。私の住む北海道では、さらに暖房の比率が上がります。 もう一つの下のグラフと表は、同じ経済産業省/資源エネルギー庁が作成した、家庭におけるエネルギー源の推移を示したものです。かつては石炭が1/3程度を占めていましたが、現在では過半を電気が占めていることになります。 ■使用量を減らす ○シャワーヘッドを交換する 家庭における給湯用のエネルギーを減らす方法として、消費する給湯量を減らすことが考えられます。例えば、節水対策のシャワーヘッドに交換するといった方法があります。お湯が出る穴の数を減らし、穴の大きさを工夫することで、体に当たる感覚を変えずに給湯量を約20〜30%程度減らすことが可能になります。最近は、節水型の便器や手洗い付き小便器も出ています。このようなことを積み重ねることで、省エネルギー効果を図ることができます。 ○風呂の残り湯を活用する 水資源に恵まれている日本においては、無駄に水を使ってしまいがちですが、お風呂の残り水を洗濯に活用することは、多くの家で行われています。間違いなくそれは省エネルギーなのですが、衛生面からは問題があります。可否はともかく、テレビのコマーシャルでも、殺菌をテーマにした商品が多く宣伝されているような時代で生活をしている私たちから見ると、確かに問題があります。人の垢や細菌が多く含まれた残り湯を、庭に撒くことさえも問題があるとの意見まであります。少なくとも、室内の鉢植えなどに撒くことは避けた方が良いようです。結論は、それぞれの方の生活スタイルによるということにしておきましょう。 ○冷房時のエアコンの設定温度を上げる エアコンの設定温度を上げて、着衣量を減らすといった「クールビズ」も、電気の使用量を減らすことができます。照明では、できるだけ部分照明を利用することも電気の使用量を減らすことになります。また、屋上の緑化や壁面緑花も植物が持つ蒸散作用や遮蔽効果を利用して使用するエネルギーを減らしているといえます。 ○「冷房」と「除湿」はどちらが省エネか? エアコンの「冷房」と「除湿」のどちらかが電気代が高くなるかといった話題もよく聞きますね。エアコンの「除湿」には、「再熱除湿」と「弱冷房除湿」の2種類があります。メーカーによって表現は異なりますが、「カラッと除湿」は「再熱除湿」、「涼快」は「弱冷房除湿」と同じです。弱冷房の場合は、温度を下げた空気をそのまま部屋に戻しますが、再熱冷房の場合は、温度を下げた空気を排熱を利用して適温まであたため直してから部屋に戻します。 そのため、電気代だけを見ますと、再熱除湿>冷房>弱冷房除湿といった関係式になっています。ただこれは電気代だけの単純な比較ですので、季節や部屋の状況や体調により使い分けた方が良いと私は思います。メーカーによっても、多様な除湿が設定できる機種もありますので、あくまでも一般論だと思って下さい。 ○扇風機を併用する エアコンの設定温度を上げて扇風機を併用すると、清涼感が得られて冷房エネルギーを減らすことができます。また、暖房時にも部屋の中に空気の流れをつくることも重要な要素です。温かい空気が天井付近にのみ溜まって、人が生活をしている空間の温度が低いとエネルギーの使用量が増えることになります。最近は、特に住空間やオフィスにおける風の通り道を考えることが重要なポイントとなってきました。特に、温度ばかりでなく、湿度の調節という意味からも、室内の風の流れを計画・管理する必要があります。 |
世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費の推移 (単位:(単位:106J/世帯) 経済産業省/資源エネルギー庁のデータより
家庭部門におけるエネルギー源の推移 (単位:(単位:106J/世帯) 経済産業省/資源エネルギー庁のデータより |
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○気流止めの効果 ただし、木造住宅では、断熱ラインを超えて壁体内で風が流れることは、結露の点から非常に問題があります。そのため、寒冷地を中心として、最近は気流止めが重要な要素となっています。これは、通気層工法の通気層のことではありません。壁体そのものの中のことです。一部の専門家では、未だに、壁体内を空気が流れることは良いことだと誤解をしている専門家もいるようですが、寒冷地住宅を知らない人の見解です。断熱ラインを超えて壁体内を空気が流れることで、熱が奪われてしまうとともに、床下や室内の湿気を含んだ空気のために壁体内結露の原因となってしまうのです。 ○断熱や気密性の向上から発生する問題 断熱や気密性の向上による省エネルギー化は、そのまま使用するエネルギーの省力化に繋がっています。外気の暑さや寒さを室内に伝えないことによって、あるいは室内の熱を外部に逃がさないことによって、必要とするエネルギーを少なくしているのです。高気密・高断熱は、寒い地方の寒さ対策ばかりではなく、暑い地方の暑さ対策にも有効なのです。南の地方で正しく施工された高気密・高断熱住宅では、冷房負荷が少ないことも実証されています。 最近では、本州以南でも、気密・断熱性を向上させた住宅や建物が増えてきていますが、断熱のレベルが上がると結露が発生しやすくなるという問題があります。結露は、高断熱化を図ると欠陥部分や断熱が弱い部分に多く発生し易くなるからです。また、生活習慣からも多く発生することもあります。 結露問題は、結露対策先進地方である北海道(東北の一部)の知恵を学ぶべきです。この20〜30年程度の間に、北海道は結露対策が大幅に進んでいます。その知恵を学ぶべきでしょう。書籍を読んだり、ネットを拾い読みすると、本州方面の専門家の人たちの知識不足が気になります。あるいは、気候が異なる諸外国との単純比較も目に付きます。それは、建設業界ばかりでなく、アカデミックな世界にもあるのではないでしょうか? その結果がメーカーの怠慢を生み出しているような気がします。 例えば、前述した気流止めが住宅金融公庫の仕様に入ったのは2012年の秋でした。とはいえ、「断熱工法について」でも記述しましたが、日本列島は南北に大きく伸びているため、ある地方で正しいとされた工法が、他の地方では間違っていることもあるということを良く考えなければなりません。 |
気流止めが必要になる箇所の概念図 |
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○空調の稼動時間を短くする オフィスでも、業務終了時の30分前に空調を止めたところ、約3%の省エネルギー化ができたという例があります。大型店舗でも、顧客が少ない平日は冷暖房の間欠運転を実施している例があります。また、外気量の導入の設定をギリギリまで下げるといった、ちょっとした工夫で省エネルギー化を図ることができるのです。せっかく設置されているブラインドがほとんど利用されていないといったことも良くありますよね。オフィスのブラインドといえば、夏場は、退社時に東側のブラインドを下ろしておくことも効果があります。理由は簡単ですね。 ○契約アンペア数を下げる 照明の照度を落としたり、電球を間引きするといった省エネルギーは一般に良く行われていますが、このような電気の使用量を減らすこととは少し異なる方法があります。家庭における電気料金は通常、従量制となっています。従量制の場合、基本料金が決まっていますが、最大使用電力で契約をすることが基本です。ビルにおけるデマンド(最大需要電力)を見直すこともほぼ同じことです。 一般には新築時に契約をしたアンペア数で継続をしていることが多いと思いますが、基本料金を見直してみる必要もあります。一般住宅では、10Aダウンした契約をしますと、月に300円強の基本料金を下げることができます。使用する電気料に変わりはありませんから、省エネルギーではないという見解もあると思いますが、省エネルギーとはそういった小さなものの積み重ねなのです。ただし、家電製品の同時使用が多くなり、アンペア数をオーバーしますと、ブレーカーが落ちることになります。最近は、ブレーカーが落ちると、家電製品の設定が変わったりと面倒なこともありますね。 |
分電盤で契約アンペア数を確認 |
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○照明の間引きに注意 また、オフィスなどで蛍光灯を間引きしていることが良くあるのですが、廊下や階段などの蛍光灯照明の一部が非常用照明になっているケースは要注意です。見た目は、通常の蛍光灯照明と非常用照明はほとんど変わりませんので、非常用照明の蛍光管を外していることがあるのです。非常用照明は、建築基準法で火災等で停電が発生したときに、避難のために、一定の時間、一定の照度を確保する設備です。その蛍光管が外されていては困りますね。 ○電気製品は起動時に最大の消費エネルギーとなる 蛍光灯は、始動時にフィラメントに最大の負担がかかります。点滅をくり返すと寿命が短くなってしまうといわれています。一般に蛍光灯では、消灯する時間が5分以内であれば消灯しない方が良いとされています。 また、機種によっても異なる思いますが、パソコンでは1時間以内に再使用するのであれば、電源を切るよりもスリープの設定の方が省電源になるといわれています。パソコンは、起動時に多くの電気を消費するからですが、実際に私のディスクトップで使用電力量を測定してみました。測定して判ったことですが、スリープ時でも思った以上の電力(14W程度=1時間で0.4円弱の電気料金)が使用されていました。一般稼働時は180W程度、起動時で平均200W/秒程度ですから、起動時間が2〜3分程度とすると、スリープ時の電力使用がバカになりません。どうも、1時間というのはノートパソコンにのみいえることのようです。 待機電力とスリープの差は、スリープが0.5W程度多いという説も聞きましたが、これもノートパソコンに限った話のようです。実際に測定してみると、私の場合はスィッチ付きのケーブルタップを使っていますので、待機電力は0KWHでした。試しにスィッチを入れて見ると、何と待機電力は15kwhとなり、スリープ時より1W程、待機電力の方が多いことになります。最も、これは許容誤差でしょう。要するに、パソコンはディスクトップの場合は、こまめに電源を切った方が間違いがないようです。ちなみに、私のディスクトップは省電力化が図られているといわれているWindows7です。もちろん、省電力設定を実施しています。 |
非常用照明の蛍光管を外してはいけません |
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■効率を上げる ○ヒートポンプとインバーター ヒートポンプは効率向上の代表格です。エアコンや冷蔵庫に使われるシステムですが、小さなエネルギーで大きなエネルギーを得るという技術が使われています。また、電気製品に使われるインバータは効率化の代表選手です。インバータでは、交流電流をいったん直流電流に変換してから、自由な周波数の交流電流に変換するシステムですが、立ち上げ時はハイパワーで運転して、その後はロウパワーで運転をするといった調節が可能になりました。 ○家庭における省エネルギー技術を生かした給湯・暖房 詳細は、「家庭用の給湯・暖房の省エネルギー技術を考える」を見てもらうものとして、ヒートポンプを利用して給湯・暖房以外にも発電をするシステムがエコキュート、燃料電池を利用して給湯・暖房・発電をするシステムがエネファーム、給湯に排熱を利用する際にガスを利用するのがエコジョーズ、灯油を利用するのがエコフィール、また、ガスを利用して給湯・暖房の他に少しだけ発電をするシステムがエコウィルやエコジョーズ+コレモです。似たような名前が多く、それらのハイブリッドシステムもあり単純比較も難しいですが、それぞれ検討をする価値があります。 ○床下暖房の効果 朝鮮半島や中国の一部で普及している「オンドル」があります。台所のかまどの煮炊きなどによる煙を、床下に通したパイプに入れることによって、床を暖めるシステムです。最近では、地熱や温泉の蒸気を床下に通したり、暖房機の排熱を床下暖房に再利用するなどの多様なシステムが出ています。 |
ワットチェッカー(節電エコタイマー) 消費電力量、積算CO2排出量、積算使用料金などを計測することができます。 基本的にはプログラム機能が付いたタイマーです。 ホームセンターなどで2千円程度で売られている商品です。 |
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○リサイクルは省エネルギーか? 省エネルギーとはいえないかも知れませんが、リサイクル自体も再利用するという発想自体は省エネルギーだといえなくもありません。しかし、実際の判断は難しいですね。時代物の冷蔵庫を使い続けたり、再利用することは、電気製品の省電力化の進歩を考えると、省エネルギーとはいえそうもありません。ただし、スクラップ&ビルドからストック利用に移りつつある建設業界全体については、方向性は省エネルギーといえるでしょう。 ○インテリアの工夫で また、省エネルギーを実施したために、部屋が暗く感じてしまうことが多々あります。実は、人間の眼は入ってくる光の量、正確には周りの物体から反射してくる光の量によって明るさを感じるのです。ですから、明るさを感じるためには、照明による照度の問題だけではなく、壁や天井の仕上材を明るい色に変えたり、反射率の高いものに変えることでも明るさを感じることができるのです。改修工事を実施する際には、考慮すべきポイントだといえます。 ○調湿効果がある建材を使う 加湿器や除湿器に頼った調湿は、エネルギーを消費していますが、内装の建材に、調湿効果があるものを使うことで、室内の湿度が高いときに吸湿、温度が低いときに放湿して湿度を調整することができます。一般に多孔質な建材がそれにあたります。珪藻土や無垢の木材が良く知られていますが、床下にシリカゲルマットや木炭を入れたりすることも効果があります。 |
高所の天井照明 高い位置にある照明器具の交換では、仮設費の方が費用が高くなります。 |
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○冷熱蓄熱槽の冷水を効率良く使う 例えば、深夜電力を利用した冷水蓄熱槽を持った空調システムでは、昼間の冷房時間帯にそのエネルギーを利用しています。ところが、人が感じる暑さ感は必ずしも一日を通して一定とは限りません。午前中は意外と多少の気温の上昇でも不快感を感じることはないといわれています。それは季節の違いによっても同じことがいえます。貴重なエネルギーを朝からどんどん消費するのではなく、タイマーとインバーター制御によって、時間帯にあわせて供給する冷水流量を変えてやることで省エネルギー化を図ることができます。この考え方は、冷水蓄熱槽による空調システムだけに限らないといえます。 ○冷蔵庫は大きいほど消費電力が少ない 冷蔵庫は大きいほど消費電力が少ないといわれています。冷蔵庫の代表メーカである日立冷蔵庫のカタログを調べてみました。年式によっては、多少の違いがありますが、定格内容積と年間消費電力量の比較は右表のようになっています。年間消費電力量は、JIS C 9801(2006年版)で決められた測定方法と計算方法でメーカーが計測したものです。これをみると、441リットルから517リットルの容積のものが一番、消費電力が少ないようですね。それ以下の容積でも、それ以上の容積でも消費電力が多くなります。特に265リットル容積の冷蔵庫の年間消費電力量がもっとも大きいですね。小型の冷蔵庫は、開け閉めのたびに冷気の大部分が排出されてしまうことも影響しているようです。 |
日立冷蔵庫の定格内容積と年間消費電力量比較 日立のホームページより抽出作成 |
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○LED照明のメリット 照明器具を白熱灯や蛍光灯からLED照明に変える省エネルギー化が進んでいます。特に、白熱灯からの交換は多大な電気料金の削減に繋がります。また、意外と知られていないのですが、誘導灯のLED化があります。シミュレーションをやってみますと、電気料金が1/10以下になることが知られています。ただし、非常用照明には電球タイプのLED照明の製品は出ていません。(これを掲載したときには、LEDの非常用照明はありませんでしたが、2015年から発売されました) もっとも、非常時や点検時以外は電球タイプの非常用照明が点灯することは基本的にありませんので、電気料金にはあまり影響しないでしょう。蛍光灯タイプでは、平常時はLED光源が点灯し、非常時には蛍光灯が点灯するといった誘導灯兼用非常用照明といった製品もあります。 LED照明のメリットは電気料金ばかりではありません。一般的な使い方であれば、LED電球の寿命は約4万時間程度、電球形蛍光灯の寿命は約6千〜1万2千時間程度、白熱灯は約1〜2千時間程度です。価格が下がってきたLED電球の優位さがこれでも判りますね。詳細は、「LED照明について」を参考にして頂くものとして、寿命が長いことは交換をする手間が少なくなることを意味しています。特に、倉庫やホールなどを内蔵する建物では、天井が高いため、電球の交換に足場が必要になることがあります。交換する電球よりも、仮設費の方が高額になるのです。 ○ショートサーキットに注意 住宅や小規模ビルでは、エアコンの室外機の置き場所や設置方法が問題になります。ショートサーキットの問題です。狭いところなどに室外機を置くことによって、室外機から吹き出した熱風をそのまま吸い込んでしまい排熱ができなくなる現象です。室外機のフィルタが目詰まりしていても同様な現象が起きてしまいます。実は、意外とこのようなフィルタ詰まりの状況になっていることが多いのです。室内のガラリを見ることはあっても、外部に設置してあるフードのフィルタを見ることは少ないのです。建物調査をすると、目に付くことがあります。 同様なことに、冷蔵庫周りの空間も大事な注意点です。昔の冷蔵庫は背面に放熱機が付いていましたが、最近の冷蔵庫では、本体や扉から放熱をしています。冷蔵庫の後・横・上の隙間が重要なのです。これもショートサーキット回避のポイントといえます。良く、冷蔵庫の上に物を置いていることがありますが、それは省エネルギー効果からみると厳禁なのです。 また、今回、省エネルギーを調べていて知ったのですが、エアコンには必ず除湿した水を排水するドレン管が出ています。ドレン水は基本的に外部に垂れ流すのが通常です。これを室外機に掛けるようにすれば、冷房効率が上げられるということを知りました。実施例を見たことはありませんが、メーカーは取り組んでいませんね。要調査となりました。実際、このドレン水は勿体ないなと、私も以前思っていましたので、ジョウロで受けておいて、庭の花に掛けたりしています。 |
外気に面する排気ガラリが目詰まりを起こしている例 |
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■エネルギーを創る ○太陽光発電と太陽熱温水 「太陽光発電について」にも記述しましたが、太陽光を利用する発電システムには、現在主流となっている太陽電池を利用する太陽光発電と、集光させた熱を利用する太陽熱発電の2つの方式があります。 また、太陽光を利用するシステムとしては、より以前から利用されている太陽熱温水システムもあります。熱源をポンプ等で強制循環するソーラーシステムや、水温の上昇による自然循環を利用する太陽熱温水器などがあります。かつては、屋根の上に貯湯槽と一体に設置するタイプが多かったのですが、寒冷地における凍結の問題などから、集熱器だけを屋根の上に設置して、貯湯槽を屋内に設置するタイプの製品も出されています。自治体によっては、太陽熱温水システムにも補助金が出されています。 他には、地熱発電や風力発電、バイオマス燃料などがありますね。とはいえ、家庭においてはまだまだ補完するシステムとしての存在です。 ○太陽光や風を多く取り入れる 暖房という視点では、開口部を大きくして、太陽日射をよりたくさん取り入れることもエネルギーを創っているともいえます。さらには、窓を開けると、風が通り清涼感が得られることがありますが、これ自体も自然のエネルギーを利用しているといえます。パッシブ住宅などでは、冬期間の暖房にも室内の風の流れを利用しています。ただし、開口部が大きいということは、断熱性からは問題があります。方位による影響も検討しなければなりません。 |
風力発電の風車が並ぶ北海道の厚沢部(あっさぶ)町 2011年6月15日撮影 |
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■エネルギーを貯めておく 前述した冷水蓄熱槽は、安い深夜電力を利用して冷水(氷)を作ることにより、冷房に使用するエネルギーを貯めておくシステムですが、同様に、オール電化などにおける夜間の貯湯槽の考え方は、深夜料金を利用して貯湯槽に温水、即ち熱エネルギーを貯めておくという発想が基になっています。最近は、太陽光発電に押されて目立たなくなりましたが、太陽熱利用システムもこの考え方です。太陽熱利用システムは、給湯ばかりでなく、高温の空気を床下に送り込み、蓄熱材としての機能があるコンクリートに熱を貯めるといったシステムもあります。 清掃工場における排熱を利用して、温水プールを運用する施設が各地にあります。また、温水プールでは、プール自体の保温力が利用されています。その他、冬期間に降った雪を貯めておいて、暖期間の保冷に利用するシステムが既に各地で利用されています。 ■省エネの「見える化」をする 「住宅の省エネルギー関連の補助金」でも記述しましたが、HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)には導入に対する補助金があります。前者は家庭用、後者は一般民生用のエネルギー管理システムを導入した際の補助金です。補助金ですから、永遠に継続することはありません(2013年度分の交付申請は、10月31日をもって終了しています)が、IT技術を利用したネットワークでつなぎ、エネルギー使用量や機器の動作・使用量を計測・表示するばかりでなく、自動制御をするシステムです。表示するばかりでなく、設定に応じて、自動で省エネを制御することができるわけです。 |
省エネナビ 中国計器工業(株)のCK-5型 分電盤に取り付けたセンサーから無線でデータを取得 使用電力量、二酸化炭素排出量、使用電力料金などの見える化をしてくれます。 |
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広報で知ったのですが、私が住む札幌市では、約1ヶ月間無償で「省エネナビ」を貸してくれます。早速、申し込むと、中国計器工業(株)のCK−5型の1セットが送られてきました。家庭のメインの分電盤に計測器を取付けると、別置きの表示器が毎日の電力使用量・二酸化炭素排出量・電気料金などを表示してくれます。個別センサーも1個付いていましたので、冷蔵庫、暖房ボイラ、パソコンなどの個別の使用状況を数日毎に測定してみました。わが家は、LED化と20年使った電気冷蔵庫の買い換えをしたばかりでしたので、目に見える省エネを達成することは厳しかったのですが、このように「見える化」をすることは、省エネに対する現状把握に役立つと思います。もちろん、省エネナビを個人でも購入することができます。また、一般に売られている「ワットチェッカー」などでも、電気の消費量を把握することも可能です。 省エネルギーの「見える化」をして判ったことは、一般に書かれている標準的な電気使用量の比率はあてにならないということです。冬期と夏期でももちろん異なりますが、実態を理解した上で省エネルギーをしなければ実効を伴わないということでしょう。例えば、冷蔵庫ですが、一般には15%程度といわれていますが、わが家は20年振りに入れ替えたこともありますが、5〜9%程度(冬期暖房時)の比率でした。1年前の使用量から推測しますと、冷蔵庫の交換による効率化は、約15%程度のダウンとなっています。このように電化製品の省エネルギー化率向上は目をみはるものがありますので、実態を把握することが重要なのです。 以上は、主に電気についての省エネルギー化です。しかし、家庭や建物のエネルギーは電気ばかりではありません。灯油やガス、ガソリンといったエネルギーがあります。それぞれの省エネルギーも重要ですが、それらを総体的に明示してくれるのが二酸化炭素排出量なのです。「家庭における二酸化炭素排出量を計算する」にも例を示しましたが、それぞれの家庭や建物における二酸化炭素排出量を把握することが、省エネルギーの具体化に繋がるともいえます。 |
省エネナビへデータを送る個別センサー 個々の電化製品のデータを取得できます。 |
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■エネルギーの単位 エネルギーの単位には、仕事量としてジュール(J)が使われます。かつては、カロリーが使われたこともありましたが、現在では、カロリーは食物の熱量を表す単位です。家電製品などの消費電力にはワット(W)が使われますが、ジュールとワットには 仕事量(J)=電力(W)×秒(s) の関係があります。逆にいえば、電力(W)=仕事量(J)/秒(s)ともなります。例えば、1000ワットのドライヤーは、1秒間に1000ジュールの仕事をするということです。 |
仕事量(J)=電力(W)×秒(s) 電力(W)=仕事量(J)/秒(s) カロリー(cal)≒4.2×仕事量(J) 仕事量(J)≒0.24×カロリー(cal) 電力量(KWh)=電力(KW)×3600×秒(s)=3600×仕事量(J) 1MJ=1000kJ=1000000J |
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■エネルギーとは何か ここで改めてエネルギーとは何かを考えてみたいと思います。エネルギーとは、何らかの活動を成し遂げるための源(みなもと)のことです。物理学的には、仕事をなし得るための熱量のことでもあります。 例えば、火力発電所で発電した電力を利用した電気式給湯器のエネルギーは、 化石燃料の燃焼(熱エネルギー)→タービンを回す(運動エネルギー)→電力に変換する(電気エネルギー)→給湯器で熱をつくる(熱エネルギー) といったように、さまざまな運動エネルギーに姿を変えていきますが、それらはすべてエネルギーなのです。そのため、前述したように、エネルギーの単位は、仕事量としてのジュール(J)が使われることになっています。そして、それらのエネルギーの源となるのが、この場合は化石燃料といえます。化石燃料は、自然界に天然の状態で存在するものですから、エネルギー資源ともいえます。 現在、大きな問題提起がされているのが、このエネルギー資源です。そのエネルギー資源を右図のように、枯渇性エネルギーと再生可能エネルギーとに分けることがあります。議論はともかく、日本から永遠に廃棄すべきといわれている核エネルギー自体も枯渇性のエネルギーです。しかし、核燃料廃棄物自体は、夢の燃料サイクルが破綻した現在、枯渇しえない物質として、「原発ゼロ世界へ」でも触れましたが、その存在自体が問われているといえます。原子力発電のエネルギー源は枯渇しますが、危険な廃棄物は残ってしまうという、それだけでも問題があるエネルギー資源なのです。 ■一次エネルギーと二次エネルギー 2012年12月に交付された「低炭素建築物の認定基準」や2013年1月に交付された「住宅・建築物の省エネルギー基準」では、建物全体の省エネルギーを評価する指標として、外皮性能や一次エネルギー消費量という考え方が採用されました。ここでいわれている一次エネルギーとは、エネルギーの源となる枯渇性エネルギーと再生可能エネルギーをあわせたものといえますが、現実には枯渇性エネルギーの削減がその目的となっています。現段階では、再生可能エネルギーを削減することは重要視されていません。一方、二次エネルギーとは、一次エネルギーから転換・加工されたもののことをいいます。具体的には、電力・灯油・都市ガス・プロパンガス・ガソリンなどのことになります。私たちの生活では、目に見えるエネルギーとしては二次エネルギーを消費していますが、それに伴って一次エネルギーも消費していることになるのです。 |
エネルギーの分類 |
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■二酸化炭素排出量の計算方法 二酸化炭素などの温室効果ガスでは、一般に排出量が問題となりますが、実際に排出する二酸化炭素の量を測定しているわけではありません。使われた燃料の量を発熱量に換算して、燃料の発熱量当たりの排出係数を掛けて算出します。家庭での計算例は、「家庭における二酸化炭素排出量を計算する」に記述した通りです。 炭素(C)と酸素(O2)が酸化反応を起こして二酸化炭素(CO2)を発生することは、式で表すと、<C+O2=CO2>となりますが、炭素の原子量は12、酸素の分子量は32(原子量16×2)ですから、C02全体の分子量は、12+32=44ということになります。したがって、炭素の発生量を1とした場合、44/12≒3.67ということになります。また、二酸化炭素の排出量は以下で計算されます。 (二酸化炭素の排出量)=(燃料の使用量)×(単位使用量当たりの発熱量) ×(単位発熱量当たりの炭素発生量)×3.67 実際には、使用したエネルギー源ごとに二酸化炭素排出係数がありますので、使用量に排出係数を掛けると、二酸化炭素の排出量が計算できるわけです。ただし、電気の場合は、計算に使用する電気の事業者ごとに、また時期ごとに係数が異なります。発電に使用した燃料の使用量が異なるからです。環境省が出している排出係数 (http://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran.pdf) がありますので、参考にして下さい。 ■パッシブデザインという考え方 パッシブデザインといった概念があります。パッシブデザインの定義はいろいろな考え方がありますが、「自然エネルギーをできるだけ利用して快適性を得るデザイン」だと私は考えています。自然エネルギーをできるだけ利用するわけですから、自ずから二酸化炭素排出量を削減することになります。すべてを自然エネルギーだけでまかなうことが理想ですが、最低限の現代生活を営むならば、かなりハードルが高いでしょう。 自然のエネルギーには、太陽の光による明るさや日射熱、室内外の空気の流れである風といった要素がありますが、それらを効率的に利用したり、遮ったりすることで、自然以外のエネルギーの使用を控えることがパッシブデザインの基礎なのです。また、快適性の概念も人によって異なります。同じ環境であっても、インテリアを変えることで人の感じ方に変化が出てきます。それらを総合的にプランニングすることがパッシブデザインだということもできるでしょう。 |
虹がかかった和歌山県の「那智の滝」 2009年12月6日撮影 ※本文とは関係ありません |
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□参考資料 ・トコトンやさしい省エネの本/山川文子(やまかわあやこ)/日刊工業新聞社/2011年8月17日初版 ・誰も教えてくれない家づくりのすべて/新井聡・勝見紀子/エクスナレッジ/2011年6月23日初版 ・すぐに役立つ”節電・省エネ”104項目/省エネルギーセンター編/2012年6月8日初版 ・省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル/野池政宏編・著/エスクナレッジ/2011年2月23日初版 ・節電住宅−自然エネルギー利用の家づくり/白岩且久(しらいわかつひさ)/同時代社/2011年5月3日初版 ・新住協の家づくり2013/鎌田紀彦監修・新木造住宅技術研究協議会編集/札促社/2013年3月1日発行 ・断熱・防湿・防音が一番わかる/柿沼整三監修/技術評論社/2013年5月15日初版 ・最高の省エネ・エコ住宅のつくりかた くらしかた/中山繁信/エクスナレッジ/2011年11月2日 |
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