建築・その8 | <次の記事へ> |
080 錆びについて考える(2014年1月6日) |
■錆びと腐食 「錆び」は、金属が環境と化学的に反応して、部分的に金属以外のものに変わることですが、金属の「腐食」と「錆び」は同じことです。以下の説明でも腐食と錆びが混在しますが、ここでは同じことと考えて下さい。錆びが発生するためには、一般に「水」と「酸素」が必要になります。錆びの原因になる水は、見えるか見えないかに関わらず「液体の水」だけです。氷やふつうの蒸気では錆びは起こりません。海水によって錆びが起きるのは、海水の中に酸素が存在しているからです。タンクなどに入れた海水に窒素をぶくぶくと通しておくと、海水から酸素が追い出されてなくなってしまいますが、その中に鉄の釘を入れて、さらに酸素が入らないように閉じておくと、鉄釘は錆びません。 鉄は、濃硝酸や濃硫酸には溶けませんが、希硫酸や塩酸に鉄を入れると。水素を出しながら激しく溶けます。これも腐食の一種ですが、腐食作用を起こしているのは、酸の成分である水素イオンです。また、鉄を火で熱すると真っ赤になり、表面が空気中の酸素と反応して酸化鉄に変わり鉄が失われていきます。これを「酸化」といいますが、酸化も腐食の一種です。 |
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「鉄について」でも記述しましたが、鉄の原料である鉄鉱石は、赤錆びた色をしています。それは鉄が「酸化」した状態である「酸化鉄」として存在しているからです。その酸化鉄から、高炉などで酸素を取り除くことを「還元」といいますが、還元をすることによって鉄が得られます。ところが、鉄は還元されても、奪われた酸素を再び取り込もうとします。その過程で発生するものが錆びであるともいえます。 一般に腐食が起きるためには、水か酸素が必要になるのですが、自然環境や酸によって起こる腐食を「湿食」といいます。一方、酸化のように水が不必要な腐食を「乾食」といいます。乾食は酸素以外のいろいろな高温のガスでも発生することがあります。 「ステンレスについて」でも記述しましたが、ステンレスやチタンが錆びにくいのは、表面に「不動態皮膜」という特殊な酸化物で保護されているからです。銅や亜鉛も空気に触れると不動態皮膜ではありませんが、保護皮膜ができるため錆びにくくなります。亜鉛と銅の合金である青銅でできている10円玉は、流通するうちに亜酸化銅の保護皮膜ができて暗褐色になります。銅板でできた屋根は、大気中に置かれると時間の経過とともに緑青(ろくしょう)が形成されて保護皮膜となります。 ■湿食と電気の関係 乾電池は、マイナス電極となる亜鉛の筒の中心に、プラス電極となる炭素の棒を入れてこれらの間にマンガンなどを詰めたものですが、電球を繋ぐと直流の電流が流れて、電球が点灯します。そのとき電流は、 炭素棒(+)→ 電球→ 亜鉛の筒(−)→ マンガン→ 炭素棒 と流れます。一方、電子は電流と反対の方向に流れています。そのとき、電流が流れるにつれて亜鉛の筒から、亜鉛のイオンが発生して電子を生み出しています。言い換えると、直流の電流が発生することに伴って、電池の作用で腐食が発生しているのです。これは、食塩水の中で、鉄とステンレスを繋ぐと、ステンレスがプラスの電極となり、鉄がマイナスの電極となって電流が流れますが、電流が発生するとともに鉄が腐食していることと同じことです。 「鉄について」「アルミニウムについて」でも記述しましたが、電位が異なる2つの金属が接触すると、イオン化傾向の低い金属の腐食が助長され「異種金属接触腐食」が起きるのは、電位が低い(卑な)金属においてイオン化が促進されるからです。 |
乾電池の概念図 |
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■錆びを防ぐ方法 錆びを防ぐ方法は、大きく分けると次の4つになります。 @錆びにくい金属を使う ステンレスやチタンを使うことによって錆びの発生を防ぐことが できます。もちろん、ステンレスが錆びることもあります。チタンは 最も錆びにくい金属です。配管等にステンレスを使うことはありま すが、チタンを使うことは通常はありません。あるいは、錆びを 発生させないためには、金属を使用しないという方法もあります。 A表面を保護する 表面にメッキをしたり、塗装をすることによって錆びを防ぐことが できます。ただし、保護材が剥がれたり欠損するとそこから錆び が発生します。また、「腐食しろ」を考えることによって、錆びる ことを前提とした方法も一種の表面保護といえます。また、化学 工場の冷却水には、りん酸系の防食剤が使われることがありま すが、金属の表面に防食性がある皮膜を形成して腐食を抑制し ています。 博物館の陳列ケースの中は通常、温度20℃、湿度55%に保 たれていますが、ある程度の湿度を保つようにしてあります。もし、 これ以上湿度を下げて乾燥させると錆びが剥がれることになりま す。実は、一定の湿度を保って錆びが安定するようにしてあるの です。これも錆び自体による一種の表面保護といえます。 また、「鉄について」でも記述しましたが、耐候性鋼(コールテン鋼) という銅やクロム、ニッケルなどを添加した合金があります。表面に 一定の錆びを促しますが、その錆び層が保護層となり錆びの進行 を止めるという特徴があり無塗装で橋桁などに使用されています。 B錆びの原因となる酸素や水分を少なくする 錆びの原因となる水分を除くため、湿度を下げたり、水から酸素 を除去したり、水が溜まりにくくする方法などがあります。 C電流を流す 湿食は、金属から直流の電流が環境に流れ出すことによって 起こる現象ですが、より大きな電流を金属に流すことによって腐食 を防ぐことができます。これを「電気防食」と呼びます。海中の構造 物や土中のパイプラインなどに使われています。 |
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■大気中で鉄はどれくらい腐食するのか 鉄を大気中に野ざらしにして、どれくらい腐食が進むかといった試験が各地で行われています。「大気暴露試験」といいますが、看板を見たことがある方もいると思います。腐食量は、大気環境の状態によっても異なりますが、大雑把にいうと以下のようにいわれています。 <最初の10年間の腐食による厚さの減少> 臨海地帯 0.3〜0.8mm 工業地帯 0.1〜0.5mm 田園地帯 0.05〜0.2mm この数値はあくまでも目安に過ぎません。実は、錆びの予測は非常に難しいというのが現実です。大気中の鉄の腐食の因子は判っていますが、その定量的な影響についてのデータは、地域によっても異なるため明確には定まっていません。 また、ふつうの雨のpHは、空気中の二酸化炭素が溶けているため、やや酸性の5.6程度ですが、二酸化硫黄や酸化窒素などの酸性の大気汚染物質が雨に溶け込み、pHが低くなった「酸性雨」では、鉄の腐食はより進みます。ちなみに、降り始めの雨のpHは低い傾向があり、pHが3以下となることもあります。近年は、環境対策が進んだため大気汚染は非常に改善されてきましたが、大陸から運ばれてくる上空の汚染物質による影響を無視することができなくなってきました。 |
換気用の排煙窓が錆びている例 |
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■水中で鉄が腐食する理由 水中で鉄が腐食するのは、水に溶けている酸素があるためです。したがって、汚れた河川水のように酸素を消費する有機物を含む水では鉄の腐食が遅くなりますし、人工的に酸素を除いた水であれば鉄はまったく腐食しません。そのため、ボイラに供給される水では脱酸素処理が行われます。通常の水中で鉄が腐食する速さは、1年に0.1mm程度です。水中での鉄の錆び層はあまり下地を保護しません。そのため、大気中では保護能力がある耐候性鋼であっても、水中では腐食が進みます。 また、酸素濃度が一定の水であっても、流速が高いほど腐食が早くなります。流速が早いと、多くの酸素が供給されるためです。ただし、これには限度があります。一定の量の酸素を超えて、酸素が余るとその酸素が鉄の表面に酸化物の不動態皮膜をつくり、腐食を防ぐようになります。常温の普通の水では、数cm/秒を超えると腐食の速度が下がるといわれています。しかし、さらにある一定の速度を超えると、腐食ではなく乱流の摩耗により鉄が削られるという状態が発生します。 一般に水の温度が上昇すると、酸素の拡散速度が増大するため腐食が進みますが、約80度Cを超えると温度の上昇につれて酸素が追い出されるため、逆に腐食速度は低下します。ただし、水が完全に密封されている状態で酸素が逃げないときは、腐食速度は温度の上昇とともに大きくなります。 経験上、海水の方が水道水より腐食が進むと思われていますが、同じ条件で水中に漬けた鉄片であれば、海水も水道水も腐食の進行度合いはあまり変わりません。供給される酸素が同じだからです。海水中に漬けた金属が早く錆びると感じるのは、海水から出した後、塩分を付けたままにしておくと、塩分による吸湿性のために腐食が進行するからなのです。しかし、配管では海水の方が水道水よりも腐食が激しくなります。ある流速以上になると水道水では不動態皮膜ができるからですが、海水では塩化物イオンの影響で不動態皮膜ができません。 |
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■腐食性が大きい日本の水 日本の国土は幅が狭く急峻なため、降った雨は急流となって数日以内に海に出てしまうため、地表と触れている時間が短く、また火山国のため石灰石が少ないので、日本の河川の水は「軟水」となります。そのため、河川から取得した常温の水道水や工業用水は金属表面に炭酸カルシウムの皮膜をつくることがありません。 炭酸カルシウムが多く含まれる水を「硬水」といいますが、硬水に触れている金属の表面には、炭酸カルシウムの皮膜が付着しやすいため、水中の酸素が金属に供給されるのを防ぐようになります。炭酸カルシウムの皮膜が酸素を寄せ付けないため、腐食を防ぐ効果があるのです。ヨーロッパの国々は平野が多く、河川はゆっくりと流れ、また地質的にも石灰岩も多いため、多くの河川は硬水となっています。 そのため、パリの水道配管には炭酸カルシウムの皮膜が付着し、腐食を抑制しています。しかし、日本の水道配管では皮膜ができにくいため腐食速度が高いのです。日本でも、一部の井戸水は生物の影響で二酸化炭素が多く、石灰岩と溶かしている硬水となっているものがあります。これはあくまでも腐食性の問題であり、飲料水としての適否の問題ではありません。 |
※:希硫酸・塩酸自体には溶けないが、 酸に酸素が溶けていると腐食する 各種の金属と酸による腐食の関係 |
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■海水と錆びの関係 海水中の腐食も、海水に溶けている酸素の濃度によって変わってきます。海面に近い表層の海水は空気が飽和しています。また、海水温が低い方が酸素が良く溶けています。また、酸素濃度が一定であれば、温度が高くなるほど腐食が進みます。そのため、表層の海水では、北極と熱帯では腐食の速さはあまり変わりありません。 海水のような塩化物イオンを含む環境では、鉄の腐食は進みますが、ステンレスは不動態皮膜があるため抵抗力を示します。しかし、SUS304といったステンレスでは、孔食、すきま腐食、応力腐食われが発生します。クロム量やモリブデンの含有量を増やした耐海水ステンレスでは、孔食やすきま腐食に強くすることができます。チタンであれば、さらに不動態皮膜が強力なため、常温の海水に抵抗力を示します。 アルミニウムは種類によらず海水に強くありません。また、銅や銅合金は保護皮膜があり耐海水性がありますが、秒速が1m以上の海水と接すると保護皮膜が損傷を受けるため、衝撃腐食を生ずることになります。 |
海水に強い銅合金と主用途 |
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■土中における錆び 土の中の腐食も水と酸素の作用で進みますが、土自体はpHが中性に近く鉄の腐食に影響はありません。ただし、土の中にいるバクテリアには、腐食を促進するタイプがあり、硫酸塩還元バクテリアなどは通気の悪い土中や水の中に存在していますが、土中の硫酸塩を還元して硫化物を生み出し酸素と同じように電子を受け取る作用をします。 また、土の種類や性質は不均一になりやすく、距離がある場合が多いために、異種金属接触腐食と同じような通気差電池によるマクロ腐食電池が発生して孔食が起きることがあります。 土中配管(鉄管)が建物の基礎梁を貫通する場合、マクロ腐食電池により短期間に穴があくことがあります。それは、配管がコンクリート中の鉄筋に接触している場合です。通常の施工では、配管と鉄筋が接触することはあり得ないのですが、後から基礎梁などに貫通口をあけたり、コンクリートのかぶり不足がある場合に発生することがあります。実際、その被害例が過去には多く発生しました。コンクリート中の鉄筋には、コンクリートがアルカリ性のため不動態皮膜ができますが、土中にある配管は不動態皮膜ができません。鉄筋と配管が接触することにより、丁度、ステンレスと鉄とが接触したような状態になるためです。そのようなことを防ぐためには、貫通部にプラスチックのさや管などを使うか、絶縁継ぎ手を入れる必要があります。 直流の電車から漏れ出た迷走電流が、土中を走るパイプラインの腐食を促したということもあります。また、基礎杭には鋼管杭という製品があります。土中にある杭の状態が、土に対してぴったりと均一であれば、あまり腐食が発生しないといわれています。とはいえ、腐食はわずかでも発生しますので、一般には1〜2mm程度の腐食代(シロ)を想定することになっています。しかし、条件によっては腐食が速く進む可能性がありますので、設計には注意が必要です。 かつては、パイプラインではガス配管が使われ、アスファルト系やコールタール系の材料をガラスクロスやビニロンクロスで強化したもので被覆をしていましたが、現在では2〜3mmの厚いポリエチレンで被覆をした塗覆装鋼管が使われるようになってきています。 |
金属の標準電極電位 ※電位が異なる金属が接触すると電位が 低い金属のイオン化(腐食)が助長される |
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■再び、錆びを防ぐ 金属屋根は一般に亜鉛メッキ鋼板が使われますが、錆びを防ぐために、最近はガルファン(ガルタイト)が使われることが多くなってきました。ガルファンは、溶融亜鉛に5%のアルミニウムを加えた合金をメッキした鋼板のことです。ガルファンをガルバニウム鋼板という人もいますが、異なる製品です。ガルバニウム鋼板は、アルミニウム55%+亜鉛43.4%+ケイ素1.6%の合金をメッキした鋼板のことです。アルミニウムの含有量が大きく異なります。また、ガルファンの方が加工性が良く、価格も安いことが特徴です。錆びを防ぐためには、ステンレスやチタンを使用することが理想的です。ステンレスでは、塗装ステンレスを使うこともあります。 建物の金物部分やサッシにアルミニウムが多く利用されます。アルミニウムは不動態皮膜を持つ金属のため、良い耐食性を備えていますが、大気中に飛来塩分が多かったり、二酸化硫黄濃度が高い工業地帯では孔食が発生することがあります。また、酸やアルカリにも弱く、一番の問題はキズが付きやすいということです。表面にキズが付いたり、孔食が起きると、そこから腐食が進行します。 ステンレスの流し台は、多くはSUS304が使われています。ステンレスは耐腐食性に優れた金属ですが、まったく錆びないわけではありませんし、SUS304はステンレスの中でも耐腐食性に劣るランクにありますので、注意をしなければなりません。また、缶詰の空き缶などを流し台の上に置いたままにしておくと、空き缶の底が錆びて、ステンレスの上に丸い錆びが移ります。「もらい錆び」です。もらい錆びを放置すると、ステンレス表面の不動態皮膜の保持に必要な酸素の供給が損なわれるため、ステンレス自体が錆びることになります。油汚れなどを放置することも禁物です。ステンレスの表面は、いつも綺麗にしておく必要があります。 |
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■異種金属の接触に注意 亜鉛メッキ鋼板やガルバリウム鋼板の屋根に太陽光発電の架台などを固定する際に、ボルト等が利用されます。ボルトには、亜鉛メッキを施した製品やステンレス製品がありますが、防錆効果が高いステンレスボルトを使用するときには、屋根材との接触による異種金属接触腐食に注意しなければなりません。ボルトと屋根材の間に絶縁材を挟む必要があります。ステンレスボルト自体は良いのですが、一方の屋根材に被害を及ぼすことになります。もっとも、屋根にボルトを止めるために穴をあけること自体が問題になりますので、納まり等を良く検討する必要があります。 同様に、積雪地域では屋根に雪止めを取り付けることが一般化していますが、ステンレス製の雪止めを取り付ける際にも注意が必要です。また、銅線の避雷針ケーブルが屋根材に接触していたために、異種金属接触腐食が発生した例もあります。 |
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■ガルバリウムの「水切り」とモルタルの接触腐食 外壁と土台部分の間に雨水が浸入するのを防いだり、外壁通気工法で通気を確保する目的で、外壁下端部に取り付ける金物を「水切り」といいます。錆びを防ぐ目的で、水切りにガルバリウムを使うことが多くなってきています。ところが、外壁にモルタル壁を採用すると、モルタルと水切りに含まれるアルミニウム成分との間で金属腐食を起こす被害が知られるようになってきました。水分があると、モルタル中に含まれるアルカリ成分が、ガルバリウムに金属腐食を及ぼすのです。絶縁テープなどで、接触腐食を起こさない入念な施工が求められるのです。通気工法を採用していないモルタル壁ですと、接触を防ぐことはほぼ不可能です。 外壁にモルタル仕上を採用することは古い工法のようですが、モダンなデザイン住宅などで採用されることを時々目にしますので、要注意ですね。同様に、水切りがコンクリートと直接接触することも防がなければなりません。また、通気工法の場合の水切り上端を誤ってシーリングをしたために、水の行き所がなくなり、室内に雨水が浸入してきたといった恥ずかしい施工例も目にしたことがあります。 ■ガルバリウムの「水切り」と防腐・防蟻処理をした製材における電位差腐食 防腐・防蟻処理のために、木材にクロスピリホスを使用することは2005年に禁止されましたが、現在、JAS(日本農林規格)で構造用木材には、ACQやCCAといった銅系の薬剤が使用されることが多くなっています。調べた限りでは、5割程度といった情報がありました。ところが、この銅系の防腐・防蟻処理をした木材が水分を含んだ状態になり、亜鉛やアルミニウムを含んだ水切りと接触すると、電位差による腐食が発生することがあります。可能性がある木材の部位は、胴縁、土台、下地材などです。 絶縁処理をすることはもちろんですが、水分がなければ腐食の可能性が低いということですので、シーリング等の欠損などによって、雨水が浸入しない注意が必要です。 |
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■コンクリートの中性化と錆び 鉄筋コンクリート造は、圧縮荷重には強いが引張荷重には弱いコンクリートを、引張荷重に強い鉄筋で補強した構造です。鉄筋が腐食すると、建物の寿命が短くなることは自明の理です。コンクリートはアルカリ性(pH約12.5)を示しますので、鉄筋表面には不動態皮膜が構成されステンレスに近い性質となり、腐食が防止されます。ところが、コンクリートが中性化したり、塩化物イオンが増えると鉄筋は腐食が進行します。 コンクリートは、空気中の二酸化炭素と反応すると中和反応が発生し、中性化が進みます。中和反応はコンクリート表面から次第に内部へと進むため、鉄筋までに達するためには数十年の年月がかかります。ところが、ひび割れがあったり、かぶり厚さ(鉄筋までのコンクリートの厚さ)が不足をすると、想定よりも早く鉄筋が腐食をすることになります。 また、中性化が起きていなくても、コンクリートの原料に良く洗わない海砂などが使われていたり、ひび割れなどからコンクリート内部に塩分が侵入することにより腐食が進行することがあります。 ■設備配管と錆び 産業界で最も多く利用されているのが炭素鋼管です。ガス溶接による製管法から由来していますが、ガス配管に多用されたことから「ガス管」の名称が一般化しました。腐食を防ぐ溶融亜鉛メッキをした「白ガス管」と一次防食塗料だけの「黒ガス管」などがあります。かつては、給水や給湯に使用されたこともありましたが、錆びの問題から現在では上水用途からは除外されています。空気調和設備が主力分野となっています。350度Cまでの温度で、高い圧力の配管に使われる炭素鋼鋼管をSTPG管もあります。樹脂で被覆したライニング鋼管には黒ガス管が使用されます。 ルーフドレンの縦管には通常、炭素鋼管や硬質塩化ビニル管が使われますが、築数十年を経た建物で、炭素鋼管内部が錆びのため有効径が半分以下になっていることがありました。メンテナンスが重要なのです。また、設備の配管は壁の内部や天井内部に隠れていることが通常です。長寿命な建物を建てるためには、配管の交換が可能な手法を選択するか、イニシャルコストは高くなりますが、ステンレス管などを使用することが有効な方法です。 |
設備配管の種類と主用途 |
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□参考図書 ・トコトンやさしい錆の本/松島巌(まつしまいわお)/日刊工業新聞社/2002年9月28日初版 ・トコトンやさしい配管の本/西野悠司(にしのゆうじ)/日刊工業新聞社/2013年5月25日初版 ・塗装/亜鉛系めっき鋼板の異種金属接触さび防止方法/日本鉄鋼連盟 ・保存処理の耐久性と耐久性能に関する検討/日本木材防腐工業組合 ・配管のすべてがわかる!「配管百科」/配管百科編集委員会/フローバル(株)/2010年4月16日初版 |
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079「あの日からの建築」/伊東豊雄と新国立競技場(2013年11月13日) |
■あの日からの建築/伊東豊雄/集英社/集英社新書 /20121022第1刷/189頁/\700+税 このところ、あまり聞かなくなった「遷都論」だが、2020年の東京オリンピックに沸く世相では、言い出し難いのであろうか? 別に、東京オリンピック不要論を唱えるつもりはないが、グローバリゼーションから地域回帰(リローカリゼーション)に転換しようとしている流れに逆行して、これでは東京一極集中がさらに進むのは間違いはない。安藤忠雄やノーマン・フォスターらが審査した結果、あの自転車競技のヘルメットのようなザハ・ハディドの新国立競技場案が選ばれた。そのコンペのスローガンは、 <「いちばん」をつくろう>だった。 しかし、景観問題や安全・費用などを大きな争点として、建築家の槇文彦らが中心になって、新国立競技場の計画案見直しを要望する動きがある。その見直しを提案するシンポジウム「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」の発起人に、伊東豊雄や隈研吾、哲学者の中沢新一らが名前を連ねていた。しかも、「日本建築家協会」や「東京建築士会」がシンポジウムを後援をしたということは、一つの大きな流れができているともいえる。 当初、総予算が1300億円といわれた新国立競技場だが、早くも3000億円程度になるとの報道もされている。少し方向性が見えたようだが、その費用負担を巡って、国と東京都のなすりあいまで起きていた。「国立」だからといってすべて「国」が負担すべきだという東京都の言い分はどうも納得ができない。将来の施設の需要を考えると、あのような巨大施設が必要とはとても思えないからだ。過剰分は東京都が負担すべきだろうし、仮設スタンドを併用すべきという槇文彦らの提言には説得性がある。予算を1800億円程度に抑えるといった検討案も出ているようだが、組み替えや付け替えの歴史を考えるとあてにはならない。いずれにしても、コストが肥大化していくことは間違いがないだろう。本当に必要なのだろうかと、改めて考えてみることは重要なことであり、計画を変える勇気があっても良いだろうし、世界に対して恥ずかしいことでもないだろう。 |
あの日からの建築 伊東豊雄 集英社新書 新国立競技場 国際デザイン・コンクール最優秀賞案 ザハ・ハディド アーキテクト(イギリス) |
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伊東豊雄は、現代日本を代表する建築家である。「せんだいメディアテーク」が代表作といえる。齢(よわい)70を超えた2013年に、建築界のノーベル賞といわれる「ブリツカー賞」を受賞したが、どちらかというと遅咲きの建築家ではないだろうか。今をときめく妹島和世は伊東豊雄事務所から巣立ったが、彼女は西沢立衛とともに「SANAA」として2010年にブリツカー賞を受賞している。新国立競技場の審査委員長だった安藤忠雄がブリツカー賞を受賞したのが1995年。ちなみに、女性としてブリツカー賞を最初に受賞したのが、2004年のザハ・ハディドで、妹島和世は二人目の女性受賞となった。そして、1993年に受賞しているのが槇文彦であり、日本人受賞者は、それ以外には、1987年の丹下健三の他にはいない。現在の国立競技場は、国立霞ヶ丘競技場、国立代々木競技場、国立西が丘競技場などから構成されているが、あの貝殻を伏せたような代々木競技場は丹下健三が1964年の東京オリンピック開催に合わせて設計したものだ。このように、ブリツカー賞と国立競技場が複雑に絡み合った様相を呈しているともいえる。 2013年の日本建築学会の北海道大会での記念特別講演が伊東豊雄だった。テレビなどで見るあのひょうひょうとした語り口が印象的だった。朴訥(ぼくとつ)として、詰まりながらの説明は決して聞きやすくはなかったが、西沢立衛の白いキューブの作品を外部と切り離された印象の作品として批判をしていた。もっと正確に言うと、批判をしていたというよりも、自分だったら設計しない建築の例として映像を紹介していたということだろう。他には、最近、伊東豊雄が進めている海外などの作品映像が興味を引いた講演だった。 伊東豊雄は、長野県で育ったが、本人の弁では、これといった目的も定まらないまま東京大学の建築科に進んだとのことだ。卒業してすぐに入ったのが菊竹清訓の事務所だった。菊竹清訓は、黒川紀章とともにメタポリズムを生涯を貫いて提唱し、「出雲大社庁の舎」「エキスポタワー」「江戸東京博物館」「島根県立美術館」「九州国立博物館」など多くの作品を残した建築家だが、2011年に亡くなっている。伊東豊雄は、菊竹事務所では大阪万博などを担当するが、大阪万博への懐疑を抱き始め、万博開催の前年に菊竹事務所を辞める。1971年に伊東豊雄建築設計事務所を設立すると、自邸「シルバーハット」や横浜駅西口の「風の塔」、また「ドミノシリーズ」などで注目を集めるが、時代を担う存在ではなかった。 |
せんだいメディアテーク外観 2000年竣工 せんだいメディアテークのホームページより せんだいメディアテーク内部 2008年1月10日撮影 |
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1980年代のバブルに沸く世相のなか、伊東が目指していたのは、ヒラヒラと宙に舞う一枚の布のように存在感のない建築を作りたいと考えていたという。そして、2000年の「せんだいメディアテーク」など、特徴的な構造で内・外部空間を形成する作品が高い評価を受け、また彼の薫陶を受けた後進たちが時代の先頭に踊り出すと共に、一躍、日本建築界を代表する存在となった。現在は、台中の「メトロポリタン・オペラハウス」でコンクリートのチューブ構造が内と外に複雑に交差をくり返す空間を建設しているが、国内の東日本大震災の復興プロジェクトなどにおいてもその存在感を高めている。 「あの日からの建築」の「あの日」とは、「3.11」のことだが、巨大資本による東京の建築に夢もロマンも感じることができなくなっていた伊東は、「みんなの家」などの被災地・東北での復興の仕事にワークショップなどを通して携わるうちに、人と自然が一体化された世界を、さらには自分の故郷に帰ってきたと感じるようになっていたという。そこでは、自然の猛威に屈伏しても、決して自然を怨むことはないし、自然への信頼を失うこともない人々が住んでいたという。それは、「あの日」から変わったというよりも、自分が抱いてきた思いをそこに確認できたということでもあった。伊東は言う、「いつも東京へ向かっていた私の旅は、一巡して自然の地に帰り着いたのかもしれない」 2011年には、若い世代に建築を教える「伊東建築塾」を立ち上げる。彼は大学で教職に就かないことをモットーとしているが、客員として行く大学での教育に常に満たされない思いを抱いていた。 大学の建築教育を含めて、建築家が設計をするときは「コンセプト」を大事にするが、それが問題だという。例えば、学生が集合住宅を設計するときに、住民同士が共有できるコミュニティスペースが大切だと指導される。そうすると学生は、理想的なコミュニティスペースを設計してくるが、それを指導する先生は「コンセプトが良い」と評価を与える。しかし、現実の集合住宅では、スペースをつくったからといって、コミュニティが成立するとは限らないのだ。それはコンセプト自体が建築という枠組みのなかだけでしか成立しない抽象的な論理でしかないからだ。現実社会では成立しないものを問題にしているともいえる。特に、いまの若い建築家たちは、「スペースさえ用意すれば、コミュニティの実現は誰かがやってくれるでしょう」と思い込んでいるという。鳴り物入りで建設された著名建築家の作品が、数年を経て人影がまばらになることは良くあることだ。しかし、その原因を建築家のせいだけにできない公共建築物などもまた多くある。 また、日本ではゼネコンの設計部や大型の組織設計事務所があったため、自治体にとっては要求に忠実に従い、あまり問題を起こさない相手として好まれることとなった。ヨーロッパでも同じような組織事務所のような大組織はあるが、彼らはコンサルタントとして、建築家をサポートするエンジニアリングを中心とした企業にしか過ぎない。あるプロジェクトで、著名建築家が設計していたが、言うことを聞いてくれないため費用が掛かると嘆いていた役人がいたことを思い出した。役人にとっては、言うことを聞いてくれる組織事務所などの方が有り難いのだろう。 |
菊竹清訓設計 九州国立博物館 2005年竣工 2009年11月18日撮影 伊東豊雄設計の 福岡市アイランドシティ中央公園のぐりんぐりん 2005年竣工 福岡アイランドシティ地域情報サイトより ぐりんぐりん内部 2009年11月19日撮影 |
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社会的なプロジェクトから外された建築家たちは、そのエネルギーを小住宅の設計に発散させるようになった。つまり批評性を美しさに置き換えた斬新な建築を提案するのだ。建築は本来は、アートのように個人の表現に終始するものではなかったはずだという。しかし、若手の建築家たちの振る舞いを見ていると、ますます社会的行為から離れてアート作品に近い建築をつくることで評価されている。しかも、個人住宅では施主との関係だけで進められることが多く、極小な土地に無理を承知で建てようとする「特殊解」となるケースが多い。一方、日本の建設会社は極めて高い技術力を持っているので、それが達成されると、その斬新さゆえに海外の評価も上がる。海外からは多様な計画の声が掛かるが、日本の社会にはあまり組み込まれないこととなっていった。結果、復興のアドバイスでも建築家に声が掛かることは少なかった。 ところが、ヨーロッパでは若い建築家が個人住宅でデビューすることは滅多にない。公共施設はコンペティションで決めることになっているから、若い建築家でも参加する機会が多い。しかも、コンペティションの参加フィーだけでも、取りあえずの最低限の生活は保障されるのだ。こうして何度も挑戦する内に、限られたチャンスではあるが、鍛えられて社会的な提案ができる素養が磨かれるという。社会的な能力を磨くというステップを踏まないという問題が日本の建築界には存在している。それは、スクラップ・アンド・ビルドが当然だった日本社会が抱えていた問題とも繋がっている。 あの日からの世論の動きを見ていても、津波や原発事故が起こした本質的な問題をうやむやにしたまま、取りあえず今までと同じように科学技術に頼っていこうとしていると伊東は危惧する。ある条件を設定して、それに安全率を掛ければ解決するという合理主義思想がそのまま継続され、機械を設計するように設計条件をまず設定し、そのとおりにハードをつくることが求められているというのだ。 アメリカにしろ、日本にしろ、建築界はガラパゴス化している。ヨーロッパでは、近代以降、社会と建築家は相互の信頼関係をつくってきていたが、最近はアメリカ化してきているという。そのため、フランク・O・ゲーリーのような、きわめて特異なアート作品を生み出す建築家が高く評価されるようになってきた。日本でも、1960年代ころまではヨーロッパ型で、建築家が市民のための公共建築をデザインするという枠組みのなかで建築を考えていたが、70年代以降、メタボリストを中心とする前衛的建築家は、国家や公共との良好な関係を維持できなくなってしまった。結果、建築家は社会から期待されない存在となってしまった。社会のなかでの自らの居場所を失ったともいえる。 |
フランク・O・ゲーリー設計の スペイン ビルバオのグッゲンハイム美術館 1997年竣工 伊東豊雄設計の 銀座mikimoto 2005年竣工 構造設計:佐々木睦朗+大成建設 2枚の鋼板の間にコンクリートを充填 2008年11月24日撮影 |
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しかし、これから考えるべき技術とは、よりソフトなものが必要だと伊東は訴える。例えば、建築を設計をする作業でも、最初にイメージモデルを提案すると、それに対して構造や設備のエンジニアがシミュレーションで問題点を見つけ、まずい部分を修正してくれる。現実の設計では、そうしたシミュレーションを50回、60回とくり返して最適な解答を導きだしている。最初にすべてを決めてしまうのではなく、もっと柔軟に考えるための手段としてシミュレーションの技術が生きている。建築は、決してアート作品や科学合理主義でつくられるものなどではなく、構造や設備のエンジニアも含めて多くの人の収斂によって創りあげられるものなのだ。伊東は、「みんなの家」をつくる過程においても、つくり手と住まう人が心を一つにすることができたことを重要視している。 建築に限らず、都市デザインも同じように、すべてが相対的に動いている状況をシミュレーションをくり返しながら決定することが必要だという。しかし、現実には、これまでは一本の防波堤だったのを三本にすれば多重防災が可能になるといった短絡的な発想がまかり通っている。あるいは、津波を避けるためには高台に移転するしかないといった単純な発想が優先されているが、もっと柔軟な発想が求められているはずだというのだ。技術が技術だけで終わってはいけないという。科学技術は未来への夢を語る力が必要なのだ。「新国立競技場案」は、乗り越えなければならない建築の技術が多様に含まれているプランだが、その夢が<「いちばん」をつくろう>では、あまりにも貧相な発想だといわざるを得ないのではないだろうか。やはり、もう一度考え直すべきであるし、今ならまだ間に合う。 |
東日本大震災の津波により破壊されたインフラ 相馬海岸にて 2011年4月29日撮影 |
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078「てりむくり−日本建築の曲線」/立岩二郎(2013年11月3日) |
■てりむくり−日本建築の曲線/立岩二郎/中央公論社 /中公新書/20000125初版/220頁/\740+税 福井県越前市に、719年に創建された「大瀧神社」がある。現在の社殿は1843(天保14)年の建立と伝わるが、『千鳥破風』と『唐破風』が複雑に絡みなった異様な形態に驚嘆した記憶がある。少しやり過ぎの感もあった。 『破風(はふ)』とは、屋根の切妻部分などにできる三角部分をいう。ウィキペディアに著作権フリーの画像があったので転載するが、入母屋破風と千鳥破風などが出ている。これらの破風は全て頂点が尖った形状を示している。また、この絵の様に尖った部分から下に向かう屋根の線は歴史的建築物では直線を示すことは少なく、ほとんどの場合は下に膨らんだ円弧曲線を描く、それを『てり』というらしい。 |
福井県越前市の「大瀧神社」 2009年11月12日撮影 |
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一方、同じウィキペディアの著作権フリーの画像だが、頂点が尖らずに上に膨らんだ円弧曲線(それを『むくり』という)になっていて、さらに下側が反転曲線を描いた『てり』に繋がる一体型になった形状を『唐破風(からはふ)』と一般にいうが、それを著者は『てりむくり』と呼んでいる。私は、この『てりむくり』という言葉(建築用語?)をこの本で始めて知った。ところで、この『唐破風』だが、『唐』即ち『中国』とは何の関係もないことが知られている。後述するが、この言葉にブルーノ・タウトは騙されている。 著者は、韓国や中国、インド、東南アジアからイスラム、ヨーロッパ、ユーラシアなどの建物を調べて(実際に行ったかどうかは不明だが)、『唐破風』が日本独自の形態だと結論づけている。わずかに、ジャワ島の「イジュク葺き」の屋根にその可能性を見ているが、年間降雨量の多さからも『てりむくり』を生み出す条件が揃っていないとしている。「イジュク葺き」というものを私は知らなかったが、転載可能な画像が見つからなかったので、ネットで検索してご覧頂きたいと思う。 『唐破風』は、再建された「歌舞伎座」でも復元のメインイメージに使われていたり、銭湯の玄関に使われていることが多いのだが、どうも私は『唐破風』には余り良いイメージを持っていなかった。著者には申し訳ないが、まったく個人的な嗜好の問題である。私は『千鳥破風』を含めて『てり』だけの屋根の方が好きなようである。 著者は、「富士山や北海道の羊蹄山は薄い溶岩流出を繰り返して成長した平滑な円錐火山である。その山頂は尖り、稜線は照りながら長い裾野を描く。富士山のシルエットが千鳥破風だとすると、男体山のシルエットは唐破風である」と書いているが、やはり私は「富士山」に引かれてしまう。 著者の説では、『てりむくり』の起源は「早ければ9世紀末、遅くとも10世紀初頭だと推定する」としている。現存する『てりむくり』がある一乗寺の三重塔が12世紀の後半だが、それ以前からある絵画などから推測をしている。一乗寺の三重塔は、写真で見ても、わずかに「むくり」が見られる程度の膨らみである。ネット上で見ることができるが、ただ見ただけでは判らないだろう。 |
「破風(はふ)」/ウィキペディアより転載 「てりむくり(唐破風)」/ウィキペディアより転載 |
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ところで、日本独自の形態である「多宝塔」がある。「多宝塔」の大型のものを「大塔」ともいうが、その起源は空海没後に建立された毘盧遮那法界体性塔(びるしゃなほっかいたいしょうとう)といわれているから、8世紀後半が多宝塔の起源とされている。その形態は、初重(下部)が平面方形、二重(上部)が平面円形の二重塔という複雑な形態を示している。二重の屋根はいずれも「てり」といえるが、初重の屋根は、屋根自体は「てり」だが、宝塔本体の曲面である「むくり」と合体し、合わせて「てりむくり」の形状を示しているともいえるのではないだろうか。私は、『てりむくり』の起源は「多宝塔」にあるのではなないかと推測しているのだが、となると『てりむくり』の起源は8世紀後半以前ということになる。どうだろうか? | 石山寺の多宝塔 (2009年12月8日撮影) |
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著者の『てりむくり』論は大きく広がり、日本列島の形状も反転すると『てりむくり』だし、古墳や沖縄の亀甲墓、器、瓢箪から、神仏習合、母の乳房までなどと、『てりむくり』の多様な広がりを示した出したころから、少し食傷気味になってくる。 そして、「日本は外交、安全保障、ODAの基本理念に関して明確な意思表示をせずに、他の国から『顔の見えない国』であり、意志決定の在りかの見えない『異質なシステム』を持つ国だとされているが、このシステムも『てりむくり』に見立てると理解しやすい」とまで言い切るのだ。それは、『てりむくり』にあるのは点ではなくて面だからであるという。「先端が明確でビラミッドのような形態が国家や集団の意志決定機関の正当なモデルだとする側にしてみれば、『てりむくり』的な組織の在り方は、意志決定を放棄し、責任の所在をはぐらかそうとしているとしか思えないのは道理である」というのだ。 少し荒唐無稽の感もあるが、『唐破風』は中国とはほとんど関係もないことがよくわかる。著者は、「日光東照宮」が好きなようだが、それを極評したブルーノ・タウトが『唐破風』を「シナ建築の模倣である」とした間違いを指摘している。また、長野県の開智学校では、正面玄関のファサードに『てりむくり』が使われているが、1896年の改築の際、一時期、千鳥破風に替えられていたことを軍国主義との関連から説明していることは非常に興味深い。 著者は、建築設計事務所などを営んでいた私と同年代の人だ。この本を契機として著作活動に入ったということだが、その後の著作を私は目にしない。わずかに、1999年の週間ダイヤモンドの「自分史」大賞で佳作となった人が同一人物だと思われるが、それ以上のことは判らない。 |
「てりむくり」より転載/元出典・旧開智学校沿革概要1988 現在の開智学校のファサード(2009年11月8日撮影) |
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077 家庭用の蓄電池システム(2013年10月13日) |
■家庭用蓄電池システムとは 家庭用の省エネルギーの注目技術の一つとして「蓄電池システム」があります。家庭用の「太陽光発電」「エコキュート」「エネファーム」「エコウィル」「コレモ」などと併用することが考えられます。例えば、太陽光発電システムでは日中の太陽が照っている時しか発電ができないため、夜間は電力会社からの供給を受けなければなりません。しかし、蓄電池システムがあれば、夜間であっても自力の電気を利用することが可能になります。日中に発電した電気を蓄えているからです。それはエネファームでもエコウィルやコレモでも同じ事です。発電のピークと電力使用のピークは一致しないからです。エコキュートが需要が少ない時間帯の深夜電力を利用することも同じ考え方といえます。 蓄電池とは、電気を蓄えることができる技術ですが、二次電池・充電池・バッテリーとも呼ばれることがあります。鉛、リチウムイオン、ニッケル・水素などの種類があります。家庭用の蓄電池システムとしては、蓄電池容量で数kwh〜十数kwh程度のリチウムイオン蓄電池が各メーカから発売されています。しかし、あくまでも補助電源としての用途が主体となっています。現状では、まだまだ補助電源あるいは非常時(停電時)の緊急対応としての容量しかありません。停電時のバックアップとしては、数時間から最大で24時間程度を想定したものが事実上の限界となっています。 写真(※1)は、家庭用としては最大級の12kwhの定格容量を持ったフォーアルエナジーのリチウムイオン蓄電池<EHB-240A020>です。定格出力としては3KVAの能力がありますが、価格は数百万円はかかると思います。実績が少ないため、応相談というところでしょう。大きさは、本体で1,050mm×1,100mm×310mm(約250kg)あります。ちなみに、フォーアールエナジーは、日産自動車と住友商事の出資による会社で、2010年に設立されたメーカーです。蓄電池自体の寿命は10年程度といわれています。また、満充電には5〜6時間かかるようです。 写真(※2)は、パナソニックのリチウムイオン蓄電池<VBBA216LB>です。蓄電容量は1.6kwhですから、あくまでも補助電源としの機能しかありません。これは満充電に約12時間かかるそうです。大きさは、蓄電池本邸で490mm×607mm×270mmと小型です。本体のメーカー希望小売価格が71万円です。 また、電気自動車のバッテリーを家庭用の停電時補助電源として利用することがCM等でも宣伝されていますが、最大で20数kwhを搭載した自動車であれば、補助電源としては数日の停電時対応が可能になります。もっとも、その間は基本的に自動車に乗ることはできません。電気自動車自体は、1回の充電による走行距離の課題からまだまだ開発途上といったところでしょう。実際、日産などの電気自動車は普及していません。 |
フォーアルエナジーのリチウムイオン蓄電池<EHB-240A020> (※1) パナソニックのリチウムイオン蓄電池<VBBA216LB> (※2) |
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■家庭用蓄電池に対する補助と将来性 「住宅の省エネルギー関連の補助金」でも記述しましたが、家庭用の蓄電池システムに対して、機器の1/3(最大で100万円)の補助が2014年の3月末まで行われていますが、「復興予算」を流用しているとマスコミ等により叩かれています(2013年9月8日朝日新聞)。容量1kwh当たり30〜40万円という初期費用を考えると、まだまだ開発途上の技術といえますが、これから期待しなければならない技術であることも間違いありません。現状では、一般家庭で利用するコストメリットは厳しいでしょう。 ネットで調べると、家庭用蓄電池のレンタルがありました。ONEエネルギー(オリックス、NECなど)が容量5.5.kwhのリチウムイオン蓄電池を10年契約でレンタルするというシステムです。月額4,900円(東京都の場合2,900円)で初期費用が不要になるというシステムです。東京都が安いのは補助金が異なるからですが、自分で導入するケースに比べて半額以下になるとの触れ込みでした。しかし、これは太陽光発電システム等の創エネ技術とセットでなければメリットは少ないでしょう。関東地方が中心のようですが、メンテナンス料金がかからないのは魅力ですね。 家庭用蓄電池は、リチウムイオン蓄電池によるシステムがほとんどですが、リチウムイオン電池は、充放電を繰り返すと電池容量が低下する特性を持っています。しかし、最近の製品では満充電と放電を8千回繰り返しても、初期容量の70%以上を保持する高性能なリチウムイオン蓄電池も発表されています。耐用年数が10年程度といわれることも含めて、まだまだ開発途上の技術といえます。国際市場の競争環境も激しくなってきているようですが、これからのソフトも含めた技術開発に期待したいと思います。 |
2013年9月8日朝日新聞 |
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076 家庭における二酸化炭素排出量を計算する(2013年9月29日) |
■地球温暖化、東日本大震災といったキーワードからも、省エネルギーは今日、避けることはできない課題となっています。日本における消費エネルギーの推移は、図(※1)のように、2000年前後をピークとして、暫減傾向にあります。一方、家庭において最も二酸化炭素を排出しているものは、全国平均では図(※2)のように電気がほぼ半分を占めています。さらに、最も電力を使用しているのが図(※3)のように電気冷蔵庫であることが判ります。 日本における最終エネルギーの推移 (※1) |
家庭における二酸化炭素排出量の割合(2011年) (※2) |
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しかし、「燃料電池」と「ヒートポンプ」にも掲載しましたが、家庭における省エネルギー技術はこの数年で大きく変わってきています。10年前の技術が、今日では時代物となっている例はいくらでもあります。電化製品で見ても、資源エネルギー庁の「省エネ性能カタログ 2013年夏版」によると、図(※4)のように、1日あたりの平均視聴時間4.5時間とした液晶テレビの年間電力量は、2006年度では161kwhでしたが、2012年では67kwhになっています(各年度の省エネ性能カタログの単純平均値)。6年間で6割ダウンしているのです。 日本における液晶テレビによる年間消費電力の推移 (※4) 電気冷蔵庫(401〜450L)の場合は、同資料(元出典は日本電気工業会)によると、図(※5)のように、2002年度には700kwhだった年間消費電力量が、、2012年には200kwh程度までに下がっています。10年間で7割以上もダウンしているのです。これは、年間にすると電気代が1〜1.3万円程度下がったことになります。 日本における冷蔵庫による年間消費電力の推移 (※5) |
家庭における機器別エネルギー消費量の内訳(2009年) (※3) |
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とはいえ、電気代が安くなるからといって、製品を次々に買い換えることも現実的ではありません。自分の家庭がどれくらいの電力を使用しているか、あるいはどれくらいの二酸化炭素を排出しているかをまずは知ることも必要なのではないでしょうか? 「トコトンやさしい省エネの本/山川文子/日刊工業新聞社」に興味深い記述がありました。家庭における二酸化炭素排出量を簡易計算する方法です。上下水道は東京都の「家庭の省エネハンドブック」、それ以外は環境省の「CO2みえ〜るツール」に出ている二酸化炭素排出係数を採用しています。家庭における二酸化炭素排出量の簡易計算です。他に生ゴミ(可燃ゴミ)の排出量を計算する場合もありますが、今回は省略しました。生ゴミの二酸化炭素排出量は、kg当たり0.34程度の係数を掛けます。 早速、わが家の二酸化炭素排出量の簡易計算をしてみました。2012年度は約10.9トンでした。また、2011年度を調べてみると、約11.5トンでしたから、少し(5.5%ダウン)頑張っているようです。夫婦2人の家庭ですから、一人当たり年間5トン程度の二酸化炭素を排出していますね。わが家では、暖房(セントラルヒーティング、床暖なし)と給湯を灯油に頼っています。表には入れていませんが、生ゴミの排出量を仮に週2回に2kgとしますと、<2kg×2回×52週×0.34=約70kg/年>程度の二酸化炭素排出量になります。 日本の一世帯の二酸化炭素排出量の平均値は、約4.8トンだそうです。一方、「トコトン・・・」の著者は、ある年の年間排出量が約1.6トンだったそうです。凄いですね。見習わなければなりません。私の家庭は遙かにそれをオーバーしていることになります。データを見ると、私の住む北海道は寒冷地ですので、暖房に使う灯油による排出量が半分以上を占めていますね。全国平均では電気がほぼ半分でしたから、少しハンディを背負っているのでしょう。また、ガソリン代も一般家庭よりは少し多いと思っていましたが、それほどではないようです。できるだけ公共交通機関を利用するようにはしています。 そこで、少しデータは古いのですが、札幌市の調査による二酸化炭素排出状況調査をネットで見つけましたので、その一部を掲載してみます。それによると、2005年の札幌市の一般家庭の二酸化炭素排出量は全国平均の1.3倍の約6.9トン(図※6)だったことが判ります。やはり、灯油使用の影響が大きいようです。とりあえずの目標値をここにおかなければならないようです。 札幌市における家庭1世帯あたりの二酸化炭素排出量(2005年度) (※6) |
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2012年度の二酸化炭素排出量と円グラフ |
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2011年度の二酸化炭素排出量と円グラフ |
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それと、わが家では灯油を燃料とするロードヒーティング(約70u)が設置してあります。しかし、数年前からはほとんど稼動することはなくなりました。サラリーマン生活を退役したため、家にいることが多くなったので、運動を兼ねた自力での除雪作業を実施しているためです。もしこのロードヒーティングを稼動すると、恐らくあと数トンは二酸化炭素排出量が増えることは間違いないでしょう。そうすると、6〜7割が灯油による二酸化炭素排出量となってしまいます。 ちなみに、わが家では2011年の途中に、LPガスによる調理を止めました。IHヒーターに交換したのです。総アンペア数を替えませんでしたので、電気代はほとんど増えないまま、LPガス代がなくなったことになります。電気代が減ったのは、節電努力とLED化が影響していると思います。最もわが家は蛍光灯が主体でしたから、LED効果は少ないと思います。常夜灯も白熱灯からLEDに替えたのですが、常夜灯も最近は状況によりスイッチを切っていることが多くなりました。やはりこまめにスィッチを切る方が効果は大きいでしょう。とはいえ、電気代だけで年間3トンも消費していますので、20年使った冷蔵庫を買い換えることにしました。その効果を数値で見るには、再来年まで待たなければなりませんが、数ヶ月先にはある程度の予想をすることができるでしょう。 |
あくまでも簡易計算ですし、多少異なる係数による計算をしているケースもあります。でも、こういった計算をすることにより、削減努力が目に見えて現れるのは、大きな効果があると思います。HEMS(ヘムス/Home Energy Management System/ホーム エネルギー マネジメント システム)もよいですが、このような簡易計算でもある程度は体感することができます。また良くいわれますが、待機電力(機器をコンセントに繋いでいたり、主電源を入れたままにしていることにより消費する電力)は、家庭全体の全消費電力量の約5.1%あるそうです。資源エネルギー庁の「省エネ性能カタログ 2013年夏版」を見ると、
ぜひ、これを参考に、二酸化炭素排出削減を努力してみましょう。 |
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■2013年の二酸化炭素排出量(2014年3月9日追記) 2013年の結果は、右表のようになりました。二酸化炭素の総排出量は、前年から約4%ダウンができました。毎年、少しずつ効果が出ていますね。ちなみに、冷蔵庫を買い換えたのは9月ですから、年間では目に見えた結果は出ていませんが、毎月の電気の使用量を見ると約15%程度の省電力化が図られているようです。 |
2013年度の二酸化炭素排出量 |
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075 家庭用の給湯・暖房の省エネルギー技術を考える(2013年9月15日) |
■私の住む北海道に限らないでしょうが、現在もほとんどの家庭では、暖房、給湯、調理、あるいはロードヒーティングといった燃焼設備は家の内外で別々に設置することが多いのではないでしょうか?エネルギー源も、暖房は灯油、給湯はガス、調理はガス、ロードヒーティングは電気といったようなことが当たり前に計画されていました。それぞれにボイラーなどの燃焼器具が付いていたわけです。当然、排熱設備はそれぞれに付いていましたから、排熱を効率的に利用しようと思っても限界があったのです。しかし、「低炭素社会」を目指すためにはそれでは問題があることになります。「オール電化住宅」は、エネルギー源を電気にまとめることによりそれらのロスを少なくするという明確な論理がありました。灯油などの石油製品の高騰もオール電化住宅への追い風となっていました。 ところが、東日本大震災を契機として、電力供給への不安が起きるとともに、オール電化住宅への非難が少なからずいわれるようになってきました。しかし、原子力発電は電気を供給する側の問題です。それは太陽光発電を初めとする再生エネルギーや火力・水力・地熱などと一緒に考える必要がある課題です。オール電化住宅自体が問題なのではなく、電気ですべてをまかなっていることによる電力不安がそこにあるからです。今回は、供給する側の問題と使用する側の問題を切り離して、使用する側の問題を考えてみたいと思います。 |
何もオール電化住宅を擁護しようと思っているわけではありません。家庭における低炭素社会を目指すために、高気密高断熱な住宅も重要なキーワードですが、同様に家庭における設備機器も忘れられない課題なのです。 ■家庭用の給湯と暖房の省エネルギー技術である「エネファーム」や「エコキュート」といった製品がCMなどでも流れていますが、その違いをすぐに説明できる人はそうはいないと思います。文字自体に意味がないカタカナ語であることもその原因となっています。カタカナによるイメージ戦略が、親近感を抱かせるとともに、似たような名前の乱立によって、内容を不明にしてしまったといったジレンマもあるのでしょう。また、それらの技術は、発売当初は高額だったためなかなか手の出るものではありませんでしたが、国の補助金や技術革新とコストダウンなどにより、少しずつ手が届くものになってきています。繰り返しますが、今回は、電気を生むだけの技術である原子力発電や、太陽光発電を初めとする再生可能エネルギーなどについては触れません。家庭における給湯や暖房などを行う製品の省エネルギー技術について考えてみました。 |
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■エネファームとは、「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」のことですが、「燃料電池について」でも触れたように、燃料となる水素を都市ガス・LPガス・灯油などから改質器を利用して取り出して、空気中の酸素と反応させて電気を発生させる「創エネ技術」です。発生させた電気をそのまま利用するとともに、熱回収装置により排熱を利用して給湯することから、コージェネレーションシステムの一つとなっています。畳1.5畳程度の設置スペース(燃料電池ユニット+貯湯ユニット+メンテナンススペース)が必要になります。隣家に接して屋外に設置した場合は、稼働時のみですが、騒音トラブルが発生することがあります。貯湯ユニットは、北海道でも屋外に設置可能となっています。「燃料電池について」でも触れましたが、燃料となる水素をガスなどの化石燃料からではなく、地球上に膨大にある海の水から低価格で取り出すことができたなら、無限の可能性があるシステムです。もっとも、そのときはガス会社とは関係なくなっているかもしれません。 エネファームとして販売が開始された2009年の設置費用は300〜350万円でした。その時の国からの補助金は、140万円もありましたが、実質200万円前後の負担金額がネックとなっていました。その後、補助金額も下がり、2013年現在は45万円まで下がっています。しかし、本体価格も下がり、200万円を切っているといわれています。また、地方自治体からの補助制度もあり、自治体により金額は異なりますが、例えば札幌は上限10万円、東京都は上限22.5万円です。実質負担額は、120〜150万円といったところでしょうか。 |
エネファーム 北海道ガスのホームページより |
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■エコキュートとは、「ヒートポンプ」を利用して給湯するシステムのことですが、正式には関西電力の登録商標です。給湯だけでなく、冷暖房や調理などにもヒートポンプ技術による電気を利用するオール電化住宅も可能です。ちなみに、オール電化住宅とは、給湯、冷暖房、調理、家電などすべてを電気でまかなうシステムのことですが、ヒートポンプを利用するかどうかは関係ありません。冷媒として二酸化炭素を使用していますが、エネルギー源は電気です。深夜電力を利用することから低周波による騒音トラブルが発生することもあり、貯湯タンクが必要となります。 エコキュートの設置価格は、設備の規模等により異なりますが、50〜60万円程度です。国の補助金は、2009年度をもって終了しています。地方自治体の補助金がありますが、0〜数万円といったところでしょうか。ちなみに札幌市は2013年度は上限5万円です。エコキュートは、単体で考えるよりも、太陽光発電システムといった再生可能エネルギーとセットで考えなければ、補助金によるメリットはあまりないともいえます。 |
エコキュート パナソニックのホームページより |
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■エコジョーズとは、給湯や暖房において排熱を再利用するガスシステムのことです。東京ガスのホームページを見ると、従来の給湯器では約80%が限界だった給湯熱効率が、排気熱・潜熱回収システムにより約95%まで向上させることができたと掲載されています。また、貯湯タンクが不要になることを謳い文句にもしています。設置スペースは、従来の給湯ボイラーと暖房ボイラーを2つ合わせたよりもコンパクトになりますが、高さがあります。貯湯タンクは必要ありません。エコジョーズは、給湯と暖房だけの技術ですから、電気を生み出すことはできません。また、日本ガス石油機器工業会では、2013年3月までにすべてのガス給湯器をエコジョーズに切り換えたようです。 エコジョーズの設置費用は、30〜40万円程度です。国の補助金は、2009年度まで2.2万円ありましたが、現在はなくなりました。地方自治体で数万円程度の補助金が出ているところがあります。ちなみに札幌市は、2013年度で3.5万円の補助金があります。電気料金、灯油代などとの比較でコストメリットを考える必要がありますが、判定は難しいですね。ただし、従来型のガス器具からのエネルギー削減率が13%程度あることは、従来型の暖房器具等の更新時には検討すべきでしょう。それは、二酸化炭素削減にも繋がることになります。 |
エコジョーズと他のシステムのボイラの大きさ比較 北海道ガスのホームページより |
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■エコウィルとは、都市ガスやLPガスを燃料として電気を発生させ、その排熱を利用して給湯する、ガスによるコージェネレーションシステムのことです。電力会社のエコキュートは電気によるオール電化住宅を提唱していますが、それに対抗してガス会社はエコジョーズやエコウィルを発売しました。その後、ガス会社は「燃料電池」を利用するエネファームというコージェネレーションシステムを発売しましたが、設置費用が高額なためなかなか普及しません。そのため、ガス会社の主力製品は、未だにエコジョーズやエコウィルとなっています。エコウィルには、排熱を利用する小型の貯湯タンクがありますので、エコジョーズよりは広い設置スペースを必要とします。エコウィルによる発電量は、給湯や暖房などのガスエンジンが稼動してるときのみしか期待ができない「部分的な創エネ技術」ため、太陽光発電システムとのセットなどが推奨されています。また、停電時は自動停止します。<少しだけ>発電することができて貯湯タンクを備えたエコジョーズがエコウィルといったところでしょう。 エコウィルの設置費用は、70〜90万円程度です。国の補助金は、2009年度までで終了しています。地方自治体からの補助金が出ているところがあり、札幌市は、2013年度で6万円の補助金があります。東京都などでは、0〜20万円と区や自治体によって異なります。 |
エコウィル 東京ガスのホームページより |
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■コレモというガスエンジンによる家庭用ガスコージェネレーション/発電システムがあります。寒さが厳しい環境にある北海道では、暖房期の排熱エネルギーを有効活用するために、北海道ガスが「コレモ」という名称でハイブリッド型の給湯システムを2011年から販売を始めました。コレモ単体もありますが、コレモによる排熱をエコジョーズに利用するシステムとして「エコジョーズ+コレモ」があります。このシステムでは、発電は暖房期が主体になりますが、停電時もコレモによる発電ができる自動運転が可能になっています。エコウィルの北海道仕様ともいえるでしょう。しかも、貯湯タンクを置かないコンパクトな設計になっています。価格等は、コレモだけで40〜50万程度といわれていますが、まだ始まったばかりですので情報不足ですね。以前は、北海道ガスのパンフレットにもエコウィルが掲載されていたのですが、ホームページを見るとエコウィルがなくなっています。 |
コレモ 北海道ガスのホームページより |
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■エコフィールは、エコジョーズと同じ潜熱回収型のシステムですが、燃料にガスではなく、灯油を使います。約200度C程度の排熱を再利用して給湯の補助に利用しています。排熱を利用していますので、排気ガスの温度は下がり、給湯器の熱効率は従来型の80%から95%程度に向上します。ガスを使うエコジョーズとのランニングコスト差は、灯油の方が有利といわれていましたが、石油関連製品の高騰により価格差が縮まっています。従来型から交換する場合は、サイズが少し大きくなりますので注意を要します。 従来型との価格差は、数万円程度ですから、現時点では補助金も可能ですし、ランニングコストを考えると一考の余地があります。 |
長府製作所のエコフィール(EDB-1510RGF) |
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■以上の6つの製品を比較したものが上の表です。金額や削減率は、データにより差異がありますので、目安と考えてください。ガス関連の削減率は日本ガス協会のデータを参考にしました。また、設置費用は耐用年数を考慮していません。現実には、ランニングコストとともに、耐用年数を考える必要がありますが、表の耐用年数はいずれも10年程度となっています。エコジョーズ+コレモのエネルギー削減率は、北海道ガスのホームページに掲載されている数値から推定、二酸化炭素削減率は同様に1トン程度の削減ということですから、札幌市の家庭の電気・灯油・ガスの年間平均排出量4.5トン(2005年度/家庭全体は6.9トン)から算定しました。 保証期間もそれぞれに微妙な差異があります。例えば、最も高額となるエネファームのメーカー保証ですが、発電4万時間もしくは発電回数4千回のいずれか早い時点までで最長10年間となっています。最長10年間はフルメンテナンスなのです(東京ガス、北海道ガスなど)。しかし、いずれもそれ以降はすべて有償となりますし、使用開始から20年を経過すると継続使用ができなくなります。 一方、エコキュートの耐用年数は10年程度となっていますが、ヒートポンプの耐用年数が根拠となっています。ヒートポンプ以外の部分は15年程度の耐用年数とされていますが、保証期間も部品毎に2〜5年程度に設定されています。それ以外は、有償のサポートとなります。メーカーによる品質の差もあるでしょう。コストだけでは判断ができないといえます。 |
また以前、出荷時の設定のまま利用していたならば、省エネ効果がほとんど得られていなかったとの報道がされたこともあります。これはエコキュートに関する報道でしたが、それ以外の省エネ技術でも同様なことが考えられます。何事も人任せにするなということなのでしょう。それぞれの家庭におけるエネルギーの消費を自分で常に管理する必要があるということです。逆にいえば、専門家といわれる人たちのアドバイスが如何に重要かともいえるのではないでしょうか。 ■結論がない比較になってしまいましたが、実際には、発売開始後、経過時間が少ないものが多く、現実の耐用年数の判定は難しいでしょう。LED電球の耐用年数が4万時間程度といわれていますが、現実に耐用年数に達したものがほとんどないことと同じなのです。地域性もありますし、利用する家庭の条件によっては、判定が変わってきます。長期でみるか、短期でみるかの違いもあります。現実には、建物のプランが設定された段階で、それぞれのシステムをランニングコストも含めて検討をする必要があります。一方のシステムのみを推奨する業者の説明を鵜呑みにすることなく、各種の見積を取るとともに、公正な判断ができる専門家の意見を聞くべきでしょう。また、補助金等も毎年のように変わっていることも留意する必要があります。 |
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074 ヒートポンプについて(2013年9月1日) |
■ヒートポンプとは 水は高いところから低いところに流れるのが自然ですが、電気を利用したポンプを使うと水は低いところから高いところに汲み上げることが可能になります。同じように自然界では、熱は温かいものから冷たいものへと移動しますが、ヒートポンプの技術を使うと、熱が冷たいものから温かいものに移動することが可能になります。熱を移動させるポンプということで、ヒートポンプと名付けられました。ヒートポンプとは、何らかのエネルギーを利用して熱を移動させる技術のことなのです。 例えば、冷凍機があります。冷凍機は電気などのエネルギーを利用して、大気温度の近くに低温熱源を置いて、高温熱源としてのヒートポンプを駆動することにより、吸熱作用による冷却効果を発生させています。大気温度に及ぼす変化が微小であっても、仕切られた冷凍機の中では大きな効果が得られます。冷凍機は、吸熱を行う低温側熱交換器、放熱を行う高温側熱交換器、エネルギー搬送媒体を駆動するポンプや圧縮機などで構成されています。 ヒートポンプは、広義には放熱・吸熱現象を利用する仕組みのことですが、一般的には物質の気化熱・凝縮熱を利用して冷温熱を作り出す「蒸気圧縮式」の仕組みです。家庭用エアコンがヒートポンプの代表例ですが、1980年代にインバーター式エアコンが登場すると、周波数可変運転ができるようになり、高速回転で短時間での温度設定と、低速運転での電力消費を抑えることによって、省エネで高能力な製品が次々と開発されてきました。 |
ヒートポンプの原理 |
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日本では、「夏は冷房」、「冬は暖房」と季節毎に空調の考え方が異なりますが、「欧米では暖房」、「東南アジアでは冷房」といったように単機能な設備が中心となっています。このように、変化に富んだ四季の存在が、日本におけるヒートポンプ技術の発達に大きく影響してきたといわれています。日本の冬はヨーロッパよりも暖かい地方が多かったため、空気を熱源とした冷房と暖房の両機能を持ち合わせたヒートポンプが市場から求められるようになった訳です。 ヒートポンプの特長は、小さなエネルギーで大きなエネルギーを得ることにありますが、その効率を示す指標をCOP(コ・エフィシエント・オブ・パフォーマンス/成績係数)といいます。暖房COPが「6」というと、「1」の搬送動力で「5」の熱エネルギーを運び、全体で「6」のエネルギーを得ることです。家庭用ルームエアコンでは、1997年頃はCOPが「3」程度でしたが、2006年頃からはCOPが「7」程度の製品が市場に出ています。例えば、一般的な家庭用の10畳用エアコンの暖房能力が2.8kwで消費電力が460wだったとします。計算すると、2800/460=約6ですから、COPは「6」ということになります。 |
年間を通して空調が要求される半導体工場などでは、年間平均COPが「10」を超えるケースもあります。また、インバーター冷凍機では、COPが最大「20」を超える製品も出ています。家庭における「エコキュート」は、「二酸化炭素冷媒ヒートポンプ」のことですが、電気を利用したヒートポンプ技術に拠っています。 ヒートポンプの特長は、小さなエネルギーで大きなエネルギーが得られることといいましたが、最大の特長は二酸化炭素(炭酸ガス)の削減効果が高いことといわれています。2012年の京都議定書を始め、地球温暖化ガスを削減するための力強い味方として、ヒートポンプが注目されるようになりました。一方、ヒートポンプは電気をその動力の基本として、オール電化住宅の進展とともに発達してきたため、東日本大震災を契機とした原子力発電に対する疑問から、見直しの動きも見られるようになりました。とはいえ、原子力発電はあくまでも電力を作る側の問題です。ヒートポンプは、電気を利用する側の技術ですから、切り離して考える必要があります。 |
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■ヒートポンプの歴史 フランスの物理学者カルノーにより、1824年、熱力学第2法則の原型が発見されたことで、ヒートポンプの歴史が始まったといわれています。ちなみに熱力学の法則は第1から第3と第0法則があります。
ヒートポンプの原理は、この熱力学の第2法則と、ボイル・シャルルの法則(気体は圧力がかかると温度が上がり、圧力を緩めると温度が下がる)の2つの基本的な性質を利用しています。圧縮すると温度が上昇する |
ことは理解し易いですね。一方、急激に圧力を下げると温度が下がる状況は、スプレー缶でガスを出し続けていると、どんどんスプレー缶が冷えていくことを思い出せば理解できると思います。 当初は、冷却作用のみが利用され、製氷技術などが発達しました。圧縮式ヒートポンプの原型ができ、アンモニアなどの自然冷媒を使った冷凍機が実用化されました。その後、20世紀に入ると、空調における冷房などにも利用されるようになってきました。日本では、1917年、住宅に炭酸ガスを利用した冷凍機を「冷房」に使用したのが、最初といわれています。日本で最初に「暖房」にヒートポンプが利用されたのは1932年といわれています。1937年には、京都電灯本社に、世界初の全館ヒートポンプ式冷暖房設備が完成しています。その後、第二次世界大戦時の戦艦「大和」では弾薬を冷却する目的で蓄熱式のターボ冷凍機が搭載されています。 1928年に、アメリカでフロンガスが開発されると、無色無臭、非可燃性で熱特性に優れていたフロンが急速に利用されるようになりました。しかし、20世紀後半には、塩素を含んだ特定フロンがオゾン層を破壊することが判り、1989年からは国際的な特定フロンの生産規制が始まりました。 日本は、ヒートポンプ技術で世界をリードしています。日本では地下水が豊富だったため、当初は地下水を利用した水冷式が多く利用されましたが、1956年に工業用水法、1962年に建築物用地下水の採取の規制に関する法律が公布されたことにより、法律に準拠した地下水利用が義務づけられ、地下水を利用することが難しくなりました。その後、冷房に冷却塔を用いた冷凍機が採用され始め、空冷式パッケージエアコンも登場しました。1980年代には、ビル用マルチエアコンが誕生し、1台の室外機で複数の室内機を個別制御する技術ができるようになり、その後、冷暖房出力を可変できるインバーターを備えたエアコンや、省エネルギー性や快適性などの性能が大きく向上してきました。 |
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■2種類の熱サイクルとヒートポンプ 熱サイクルには、以下の2種類があり、この変換のために圧縮や膨張などの各種の動作を組み合わせて繰り返します。
典型的な熱サイクルがカルノーサイクル/逆カルノーサイクルです。
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カルノーサイクルは、蒸気機関の原理となりました。また、逆カルノーサイクルが、ヒートポンプの理論上最も効率の良いサイクルとなります。逆カルノーサイクルの「2」の行程で高い温度で熱を放熱するときは「暖房や給湯」となり、「4」の行程で低い温度で熱を取り込むとき「冷房」ができることになります。これらのサイクルを繰り返すのがヒートポンプなのです。 |
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■ヒートポンプの構成要素 ヒートポンプには多くの種類があります。また、日本列島は南北に長いため、その地域性により様々な条件があり、ヒートポンプ自体も多様な設計要件が求められます。例えば、蒸気圧縮式空調機では圧縮機の駆動用モーターの制御にインバータを利用することによって、負荷の状況に対応した運転が可能になっています。また、膨張弁の開度をきめ細かく制御したり、人感センサーなどにより人の有無を判断したり、非常な高度な制御技術も発展してきました。 代表的なヒートポンプの構成要素は、圧縮機、サクションカップ、四方弁、室外熱交換機、膨張弁・キャピラリチューブ、室内熱交換器、アキュウムレータ、冷媒、配管などがあります。 ○圧縮機:ガスの冷媒を昇圧して循環させる ○サクションカップ:圧縮機の機械部に液冷媒を吸い込ませない ○四方弁:冷暖の切換により冷媒が流れる回路を変える機能があり、 冷蔵庫や除湿器などの冷却用途のみの機器にはありま せんが、冷暖兼用の空調機に用いられます ○室外熱交換器:暖房時には外気から吸熱をし、冷房時には外気に 放熱をします ○膨張弁・キャピラリチューブ:いずれも高圧になった冷媒を膨張 させて低圧・低温の状態に変化させます ○室内熱交換器:室外熱交換機とは逆の働きとなり、暖房時には 凝縮器となり、冷房時には蒸発器となります ○アキュムレータ:圧縮機の保護と、冷媒循環量の調整をします ○冷媒:用途に応じて様々なものがありますが、初期のころはアン モニアが使われていましたが、現在はフロン系冷媒の R410A、R407Cなどが多く用いられています |
ヒートポンプの構成要素 |
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■ヒートポンプと冷媒 冷媒は、熱を運ぶ物質のことで熱搬送媒体ともいいますが、蒸気圧縮式ヒートポンプや吸収式冷凍機の初期段階では、冷媒にアンモニアが使われていました。アンモニアは熱的特性に優れていましたが、毒性があり、金属を腐食させやすい性質をもっています。また、亜硫酸ガス、メチルクロライド、メチレンクロライドといった冷媒も使われましたが、いずれ |
フロンと特定フロン |
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も危険性が高いという問題がありました。フロンは、80年ほど前に発明された冷媒ですが、無色無臭、優れた熱的特性、人畜無害な人工化合物質とされ、広く普及しました。しかし、一部のフロンがオゾン層破壊の原因の一つと判ったことにより、世界的な問題となり使用が規制されるようになりました。この特定フロンは、冷媒としてだけでなく、洗浄剤や発泡断熱材などにも利用されていました。 現在は、地球環境に対する影響が少ない代替冷媒として、新しいフロン系冷媒や複数の代替冷媒を混合させたものが使われています。また、人工化合物質自体に問題があるという考え方から、自然界に存在する物質(自然冷媒)を使うべきとして、アンモニアが再検討されたり、炭酸ガス(二酸化炭素)、メタン、ブタン、イソブタンなどを利用した製品が商品化されています。フロンについては、「建設リサイクル法と建築物の解体等(改修)に伴う有害物質について」を参考にして下さい。家庭用のエコキュートでは、炭酸ガス(二酸化炭素)が冷媒として使用されています。 |
自然冷媒の種類
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■業務用の空調システムの種類 業務用の空調システムは、大別するとセントラル方式と個別分散方式があります。セントラル方式は、ヒートポンプやボイラなどの熱源機を機械室や屋上に設置して、集中して令温水を作り、そこから建物の各階に送水して空調を行う方式です。各階には、空調機(エアーハンドリングユニット)やファンコイルユニットが設置されます。セントラル方式は、温度・湿度・清浄度・気流分布を適切に保持するために集中管理ができることから、全体的な省エネルギー対策を可能とするシステムといえます。 個別分散方式は、家庭用のルームエアコンと同じ方式で、室外機と室内機を直接冷媒配管で結ぶ空調システムです。建物面積に応じて、複数台設置することで中規模の建物まで冷暖房をすることができます。建物の利用用途などに応じた管理が可能となります。個別分散方式には、室内機が複数台あってもすべて同一の制御となるパッケージエアコンと室内機を1台ずつコントロールできるビル用マルチエアコンがあり、ビル用マルチエアコンはある程度規模が大きい建物に採用されることが多いようです。 |
空調方式と建物規模
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■エコキュートの開発 「エコキュート」とは、自然冷媒である二酸化炭素(炭酸ガス)を利用した家庭用ヒートポンプ給湯器のことですが、日本における国内出荷台数は、2009年には200万台を突破しています。日本における住宅ストックは約5,800万戸ですから、29軒に一軒はエコキュートが採用されていることになります。 炭酸ガス冷媒は、100気圧に圧縮すると130度Cの高温を得ることができます。この圧力状態では、炭酸ガスは気体と液体の中間の「超臨界状態」になり、その温度を利用することで90度C程度の加熱が可能になります。その際、電力の発電時にわずかに二酸化炭素が排出されますが、燃焼式給湯機とは比べものにはなりません。また、燃焼式給湯機では、投入したエネルギー以上の熱を取り出すことはできませんが、エコキュートでは数倍の熱を取り出すことが可能になりました。それが、COPで表される数値となっています。家庭用エアコンに使われていたフロン冷媒では、凝縮圧力が30気圧程度でしたから、如何に圧縮機や高圧に耐える機器や配管が向上したかが理解できます。 一般的な家庭で使われるエネルギーの約3割が給湯だといわれています。かつては、その多くが化石燃料によって賄われていました。その後、前述したように、省エネ性に優れたヒートポンプ技術を利用したエコキュートが地球温暖化対策の切り札としてもてはやされていましたが、東日本大震災の影響から、その優位性が一挙に揺らぐこととなりました。地球温暖化対策を考える以前の問題として、原発依存体質からの脱却が叫ばれるようになったからです。しかし、省エネルギー、地球温暖化対策、再生可能エネルギーの推進は、そのいずれもが欠けてはならない条件なのです。ヒートポンプが電力を利用するからといっても、原子力発電との直接の因果関係はありません。強いて上げるとすれば、電力依存度の問題なのでしょう。 |
冷凍機の主な種類 |
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■ヒートポンプは再生可能エネルギー利用技術か 家庭で利用されるすべてのエネルギーを電気にした住宅を「オール電化住宅」といいます。オール電化住宅は、調理をIH調理器など、冷暖房をエアコンや電気式の床暖房システム、給湯をエコキュートや電気温水器でまかなうシステムです。一方、ガス会社を中心として、改質した化石燃料を利用した燃料電池によるエネファームにも注目が集まっています。 エコキュートとは、自然冷媒ヒートポンプ給湯機のことですが、関西電力の登録商標であり、国内の電力会社などが使用しているヒートポンプを利用したシステムのことです。あくまでも、ヒートポンプは、電気をその燃料にしています。したがって、その電気をどこから得るかによって、再生可能エネルギー技術に該当するかということになります。ヒートポンプ自体が再生可能エネルギー技術とはいえません。太陽光や風力、水熱、地中熱などの再生可能エネルギーを利用していれば、その技術を利用しているといえますが、原発や化石燃料から電力を得ていればそうではないことになります。 |
■寒冷地におけるエアコンの使用 ここで試算をしてみます。エアコンの暖房能力を4kwとすると、消費電力は0.8kwとなります。1日10時間使用した場合8kwの使用電力となり、電気料金が1kw当たり27円とすると216円、1ヶ月で6、480円となります。 灯油の場合、1リットル当たり約10kwの発熱量があるので、4kwに換算すると1時間に0.4リットル、1日10時間で4リットルの灯油を使用すると、灯油単価が90円/リットルであれば360円、1ヶ月で10,800円ということになります。 エアコンの暖房能力と省エネルギー能力が向上したことと、灯油の値段が高くなった結果、このような計算が成り立つことになりました。あくまでも単位熱量当たりの比較です。また、すべてのエネルギーを電気に頼ることになるリスクと多くの家庭が電気ばかりを利用する危険性をはらんでいます。もちろん、化石燃料を利用する設備機器の向上も考えなければなりません。とはいえ、かつては寒冷地では、能力的にエアコンでは無理といった考え方が主流でしたが、必ずしもそうではない時代が来たということでしょう。 また、次世代省エネルギー基準などにより、建物の断熱性能が向上してきたことにより、少ない熱量で暖房を維持することが当たり前の時代が来ようとしています。パッシブ住宅や無暖房住宅、低炭素住宅といった発想はその延長線上にあります。少なくとも、寒冷地でもヒートポンプを利用するといった選択肢は、充分可能な時代に入ってきたといえます。 |
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■蓄熱式空調システムとヒートポンプ 一般的な空調システムは、最も暑い日や寒い日を基本として設定されています。通常の空調設備は余力を持って稼動しているともいえます。見方を変えると、そこには無駄があることになります。一方、蓄熱システムでは、夜間に冷熱や温熱を蓄え、昼間に放熱する方式となっているため、効率の良い設定をすることができます。ハイブリッド型の自動車と同じ考え方ですね。そして、この蓄熱空調システムとヒートポンプは非常に相性が良い組合せなのです。 蓄熱システムには、建物に水槽を設置して冷温水を利用したり、潜熱蓄熱と呼ばれる氷の融解熱を利用する氷蓄熱、建物の躯体であるコンクリートに蓄熱する躯体蓄熱、土中に蓄熱する土中蓄熱などがあります。また、温水プールなどでは、プール自体を蓄熱槽として利用しようというシステムが利用されています。夜間にヒートポンプを稼動してプールに熱を貯めておき、昼間は温度を保つための最低限の加温で温水プールの温度管理を維持するという方法です。 |
■地中熱を利用したヒートポンプ 地中熱というと、地球内部にある熱エネルギーを想像してしまいますが、ここでの地中熱とは、地球内部の熱エネルギーはほんのわずかで、そのほとんどが地球に降り注ぐ太陽の熱からのものをいいます。地中熱は、年間通して温度がほぼ一定であるという特長を持っています。利用する地中熱は、地下150m程度の深さまでが基本となっています。 一般的に家庭にあるヒートポンプを利用したエアコンでは、夏になると室外機のファンを通して熱風が吹き出されています。ヒートアイランド現象が良くいわれますが、外気中に多くの熱が吐き出されているのです。気温が30度Cを超える真夏では、室外機の周辺も30度C以上になっていますので、より冷媒の温度を高くしなければならないことになります。冬期にも地中の熱を利用することで、より効率が良い空調が可能となるわけです。 地中熱を利用したヒートポンプでは、水や不凍液をUチューブというU字型の採放熱パイプを地中に挿入するクローズドループタイプや、地下水を熱交換する循環水に利用するオープンループタイプなどがあります。クローズドループの一種ですが、建物の基礎杭にUチューブを挿入する工法も開発されています。 |
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■ヒートポンプと未来 繰り返しますが、日本におけるヒートポンプ技術は世界を大きくリードしています。特に、ヒートポンプの導入が進んでいる空調分野においては、熱回収技術や加湿対応などの機能強化が進んでいます。また、低炭素社会実現のキーテクノロジーとしてヒートポンプは位置づけられ、国を挙げての施策も進み、日本における温室効果ガスの削減のための主要技術であるともいえます。 今後は、海外市場の開拓とともに、低価格化を実現することで、温室効果ガスの削減の海外展開も予想されます。ヒートポンプは、燃焼によって「熱エネルギーを作り出す」のではなく、熱力学の基本原理を利用した「熱を移動する」ことで効果を得ることができるシステムです。また、燃焼式に比べて格段にエネルギー効率が高いシステムでもあります。 とはいえ、先進していた技術が、新興国の台頭とともに衰退していった例はいくつもあります。欧州でも、再生可能エネルギー技術としてヒートポンプの普及促進を展開し始めていますので、急激に追いついてくることは間違いありません。 |
■参考図書 ○絵解きヒートポンプの基礎のきそ/大敏男/日刊工業新聞社 /20110930初版第1刷/182頁/\2,000+税 ○トコトンやさしいヒートポンプの本/射場本忠彦監修/日刊工業新聞社 /20100728初版第1刷/159頁/\1,400+税 ○ヒートポンプ入門/地球温暖化対策の切り札/ヒートポンプ研究会編 /矢田部隆志/20060320第1版1刷/150頁/\1,600+税 ○地中熱利用ヒートポンプの基本がわかる本/地中熱利用促進協会監修 /内藤春雄/オーム社/20121025第1版1刷/167頁 |
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073 燃料電池について(2013年5月19日) |
■燃料電池の基本原理とその歴史 燃料電池は、「水素」などを燃料にして発電する装置ですが、将来的には太陽光などの自然エネルギーを使って、海に大量に存在する水を利用して水素を供給することが想定されています。燃料電池の仕組みの発見は、19世紀に活躍したイギリスの物理・化学学者のウィリアム・グローブです。水を電気分解すると水素と酸素に分解しますが、この水の電気分解の実験をしたときに、実験装置の電源を切ると電流が逆流することから、水素と酸素を電気化学反応させると、電気を作ることができないかと思い付いたのです。人類最初の燃料電池の実証実験が1839年に行われたのでした。 また、グローブが発表した論文と同じ雑誌には、スイスのクリスチアン・シェーンバインも燃料電池の効果についての論文を発表しています。そのため、この二人を燃料電池の父と呼ぶことがあります。しかし、この発見も当時の圧倒的な蒸気機関の隆盛から100年以上の長きに渡って埋もれてしまうことになります。まだ、環境問題などに対する考え方がほとんどなかった時代のことです。 それから約100年後の1930年代に、イギリスのフランシス・ベーコンは、電解質にアルカリ性である水酸化カリウム水溶液を用いるタイプの燃料電池を開発し、1952年に特許を取得しています。1950年代には、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)社は、電解質に高分子樹脂製の膜を利用した1KWのコンパクトな燃料電池を開発しました。1965年のNASAの有人宇宙船「ジェミニ5号」には、GE社製の燃料電池が搭載されています。その後も、アポロ宇宙船にアルカリ形のものが搭載されるなど、宇宙開発とともに燃料電池は歩み始めることになります。燃料電池は発電効率が高いクリーンエネルギーともいわれますが、その過程で発生する熱を利用することもできますので、変換効率が高いエネルギーシステムなのです。 |
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現在の家庭における天然ガスなどを利用した「エネファーム」は燃料電池が実用化されたものですし、公道を走る乗用車にも燃料電池が搭載されたものが高額とはいえ各メーカーで実現されています。かつては、車に搭載された燃料電池の値段が1億円程度といわれていましたが、2010年頃には、6千万円程度まで下がったとの情報もあります。とはいえ、まだまだ桁が違いますが、数年後には500万円程度にまで値段が下がるとのニュースも報道されました。 ■燃料電池は電気を蓄えることができるのか? 燃料電池というため、乾電池や充電池のようなイメージを連想しますが、燃料電池は電気を蓄えるものではありません。燃料電池は発電所の一種なのです。燃料電池は、燃料となる水素ガスなどを与えることによって、燃料が持つ化学エネルギーを電気化学的なプロセスによって、電気エネルギーに変換する小規模発電所ともいえます。しかし、燃料電池の最大の特徴は、熱機関などのようなスケールに制約がないことがあります。一般の熱機関では熱の散逸を防いで効率を上げるために、発電規模を大きくしなければなりませんが、燃料電池では小規模な家庭用電源や自動車の電源であっても、40%程度の発電効率を実現することができます。 蓄電池(二次電池)も、燃料電池と同様にエネルギーの変換プロセスが電気化学反応における酸化還元反応を基本としているという共通点がありますが、燃料電池は反応が一方向であるのに対して、蓄電池では放電時と充電時にそれぞれ双方向に反応が起きるという違いがあります。 |
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■燃料電池の長所 燃料電池には、従来の熱機関に比べて、以下の様な多くの長所があります。 ・低温動作においても高い発電効率が実現できる ・スケールに制約がほとんどない(小型も大型も可能) ・発電課程で放出される熱をコージェネレーションとして利用できる ・燃焼反応を経ないので窒素酸化物など環境負荷物質の排出が少い ・定格でも低い負荷条件でも効率が下がらない (自動車用動力源に利用できる) ・燃料となる水素ガスの代わりに改質ができれば多様な燃料が使える ・ピストンやタービンなど、機械的な機構がないために低騒音 ■燃料電池のタイプ 宇宙開発とともに再び注目されるようになった燃料電池ですが、その電気の発生原理は電解質中をイオンが移動するときに電気が流れることによっています。その電解質の違いによって、大きく4つのタイプがあります。ジェミニ宇宙船に搭載されたのは、低温型リン酸形燃料電池(PAFC)タイプです。 ・高温型溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC):650度C程度 ・高温型固体酸化物形燃料電池(SOFC):1000度C程度 ・低温型リン酸形燃料電池(PAFC):200度C程度 ・低温型高分子形燃料電池(PEFC):100度C程度 また、リン酸形、固体高分子形、アルカリ形、溶融炭酸塩形、固体酸化形、メタノール直接変換形といった6種類に分ける考え方もあります。 家庭用燃料電池や燃料電池自動車は、現在、低温型高分子形(固体高分子形)が主流です。動作温度が低いため起動や停止が容易で、小容量でも高い発電効率が得られるからです。すべて固体で構成されているため、運転や保守が容易で安全性が高く一般の人が扱いやすいという利点があります。また、高効率でコンパクト化を図ることが可能な高温型固体酸化物形が現在、開発中です。動作温度が高く、取扱に難点があり、起動時間もかかるなどの問題がありましたが、600〜800度C程度の動作温度のものが開発されてきています。発電効率が良いため、そう遠くない将来に普及してくる可能性があります。 ■燃料電池の燃料は何? また本当に炭酸ガスを排出しないのか? 燃料電池の燃料は、水素が本命といわれていますが、海水を利用して水から取り出すことができるならばその資源は無尽蔵にあることになります。しかも燃料電池からの排出物は、クリーンな水だけであり、地球温暖化の問題とされる二酸化炭素(炭酸ガス)をまったく排出しません。とはいえ、現状で実際の燃料となる水素ガスを得るためには、水素と炭素との化合物である炭化水素が使われています。 炭化水素としては、メタン(CH4)やプロパン(C3H8)、オクタン(C8H18)などがあり、これらはいずれも天然ガスや石油などの主成分なのです。これらの炭化水素に、高温の水蒸気を反応させると、炭酸ガスとともに水素ガスが得られます。そのため、燃料電池の燃料としては、天然ガスや石油などが利用されているのです。その際は、炭酸ガスを排出しますが、化石燃料を燃やして発電するよりは、3割程度削減されるといわれています。最終目標である、海水を含む水から水素を得る方法は、まだ理論と実験段階だといえます。 |
燃料電池の種類 |
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■燃料電池の課題 理論上の燃料電池の最大の発電効率は83%程度といわれています。550度C程度の蒸気を使う火力発電の場合の理論上の最高発電効率は60%程度ですから、その素晴らしさが判ります。燃料電池は、熱エネルギーを経ないためにエネルギー損失が少ないのです。各自動車メーカーは、1億円ともいわれる最大の課題であるコストを克服すべく、開発を競っています。 一般的なガソリン自動車では、ガソリンタンクを満タンにするとほぼ500kmほど走ります。同じ距離を燃料電池車が走るためには、およそ5kgの水素が必要となります。もし350気圧程度の高圧でタンクにそれだけの水素を詰めると、約200L程度の体積になります。ガソリンの場合は、約50L程度ですから、その4倍の容量のタンクが必要ということになります。液体水素にして運ぶと約70Lで済みますが、水素を液化するには−253度Cという超低温を確保しなければならないという課題も残ります。 ■触媒に使われる白金 自動車や家庭用として最も開発が進んでいる高分子形燃料電池(PEFC)は、触媒に貴金属である白金が使用されています。しかし、世界の白金埋蔵量は2万8000t程度ですから、燃料電池車を約2億台生産した時点で、資源が枯渇することになります。世界には、約8億台以上の自動車がありますから、それではまったく不足するのです。 そのため、白金に代わる触媒の開発が進められています。コバルトの化合物や炭素原子を骨格にもつナノ原子など、「実用化すれば、ノーベル賞間違いなし」といわれる開発競争が行われています。さらには、酵素を利用したバイオ燃料電池なども研究されています。また、2001年から2003年にかけて、環境省のプロジェクト「地球温暖化対策実施検証事業」では、ホテルやレストラン、家庭から排出される生ゴミを燃料に変えて、燃料電池によって電気を創り出す実証プロジェクトなどが行われました。 |
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■燃料電池が注目される理由 家庭において消費されるエネルギーには、家電製品に使われる電力と、風呂や台所に使われる熱エネルギー、冷房や暖房の空調や熱エネルギーなどがありますが、それらのすべてを電力によるヒートポンプでまかなうこととしたのが「オール電化住宅」です。ヒートポンプとは、大気中の熱を効率良くくみ上げて暖房や給湯用熱源として利用し、暑い季節では室内の空気熱をくみ上げて外気中に放出するシステムですが、近年の省エネルギーを旗印とした技術開発には目覚ましいものがありました。しかしながら、東日本大震災を契機として、電力需要に対する不安視から、その気運にも陰りが出ています。 一方、熱エネルギーの供給業者である、ガス会社や石油会社にとっては、オール電化によって、自分たちの領域が侵されていた訳です。電力業界の攻勢に対抗するために、自分たちの資源を利用するものとして、燃料電池が開発されてきたともいえるのです。都市ガスやLPガス、灯油などから、燃料となる水素を取り出して燃料電池を利用するシステムを「エネファーム」として各社が競っていますが、補助金を差し引いても現時点のコストメリットは厳しい状況です。 また、現在の工業用の水素は、多くの場合天然ガス(CH2)からCを取って作られていますが、このときにCが酸化してCO2(炭酸ガス)が発生するという問題も抱えています。本当の意味での燃料電池の時代が来るためには、太陽光発電などの自然エネルギーを使って水素を作り出す方法を確立しなければならないのです。ここで、太陽光発電の電気をわざわざ水素などにしなくても、そのまま電気で使えば良いのではないかという考え方が出るでしょうが、太陽光発電は夜間など太陽が照っていなければ発電しませんし、そのエネルギーを一時的に水素の形で貯めた方が、高密度で長時間蓄えることができるという利点があるのです。 ■燃料電池はベース電力の供給が基本 家庭で使われる電力の需要は、大きく変動します。一般的な家庭の電力需要は、家電と照明で約34%、給湯で約30%%程度です。暖房や冷房、台所の電力需要は地域差がかなりあります。また、時間帯によっても大きく変わり、深夜に至ってほぼゼロに近くなります。このようなパターンから、電力消費が増えたときの負荷の変動分は既存の電力系統を利用し、ベース負荷の供給を燃料電池とすることが基本とされています。また、発電に伴って発生する熱エネルギーを利用した温水は貯水タンクに蓄えて供給するシステムが一般的な仕様となっています。 日本における家庭用燃料電池の定格出力は750Wから1KWに設定されています。アメリカでは、定格出力が5KWから6KWに設定されていますが、それは電力供給に対する信頼性と広域性の問題だといわれています。狭い日本では、電力業界に対する信頼性が高いということです。正確には、高かったというべきかもしれません。現在の太陽光発電における家庭用の定格出力は4KW前後が一般的ですから、現実にはイニシャルコストの問題があると私は思っています。ローカルな発想で、世界戦略を誤った例はいくらでもあります。考え直さなければならない問題なのではないでしょうか。 |
家庭用燃料電池(エネファーム)モデル ※Panasonicのホームページより |
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■携帯用燃料電池 家庭用や自動車用の燃料電池以外にも、携帯用機器の電源として注目されているのがメタノール燃料電池です。メタノール燃料電池は、電解質に固体高分子膜を使い動作温度も常温から90度C位までと固体高分子形に良く似た構造を持っています。また、最大の特長として、改質器が不要になるため、小型化・軽量化が容易になる点があり、リチウムイオン電池に代わるものとして期待されています。メタノールは安価でエネルギー密度が高く、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)と呼ばれることもあります。DMFCは、携帯電話の充電器、ノートパソコンの電源、小型発電機などへの利用が期待されています。 しかし、固体高分子形と比較して電気出力が低く、また沸点が65度Cと低いために消防法の規制を受けるという問題や、副反応によってホルムアルドヒドやギ酸が微量生じる恐れがあります。まだまだ課題が残っているというべきでしょう。ダイレクト燃料電池には、メタノールの代替燃料として、エタノール、エチレングリコール、2−プロパノール、ギ酸、水素化ホウ素塩、ヒドラジンなどが研究されています。 ■業務用の定置式燃料電池 コージェネレーションから大容量発電プラントなどまでの利用を考えると、業務用の燃料電池の利用範囲は大きく広がりつつあります。 ・コンビニや小規模レストランなどの小規模コージェネレーション ・病院・ホテル・学校などに設置される中規模コージェネレーション ・データセンターや通信基地などで使われる信頼性の高い補助電源 燃料電池には、天然ガスを使用することが多いのですが、ガスエネルギーの約40パーセントが電気に、約40パーセントが温水や蒸気になります。水素と酸素が電気化学反応で発生するのは水ですし、燃焼を行っていませんので、炭酸ガスの発生が少ないという利点があります。前述したように燃料電池は発電効率ばかりでもなく、クリーンなエネルギーといわれる理由です。 |
モバイル型燃料電池モデル 東芝モバイル型燃料電池/Dynario(ディナリオ) に燃料となるメタノールを入れるところ ※東芝のホームページより |
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また、燃料電池は低負荷運転においても、定格運転時と同様の発電効率が得られます。現在実用化されている燃料電池は、廃熱利用を兼ねたコージェネレーションシステムとして利用されていますが、将来的には発電効率を60パーセント程度まで向上させて、適用範囲の広い電源システムとすることが計画されています。立地面での自由度も高く、多量の冷却水を必要としないため、建設物内にも設置できます。業務用の燃料電池として最初に実用化されたのが、リン酸型です。リン酸型は、燃料が都市ガスやLPGなどですが、電解質を液体のリン酸によっています。発電効率は35から40パーセント程度で、作動温度が約200度程度ですが、ビル等に箱形パッケージとして設置されています。 ■燃料電池の将来と日本における問題 西洋が覇権を握ったのは産業革命が一つの要因ですが、その象徴ともいえる蒸気機関の隆盛により、歴史の中に埋もれていた燃料電池だったのですが、宇宙開発と環境問題の高まりとともに、歴史の舞台に再び躍り出て来ました。そして今また、原子力発電への見直しの高まりの中、新たな歴史を築こうとしているのも燃料電池なのです。まだまだ乗り越えなければならない課題は多くあります。オール電化に対抗しようとした業界による、ガスや石油から水素を発生させるシステムが現在は主流ですが、いつか必ず海水から水素を発生されるシステムが普及することも期待ができます。再生可能エネルギーの必要性が求められる時代のなかで、太陽光発電や風力発電などとともにこれからの時代に向かった開発競争が進められていくことは間違いありません。 |
環境配慮型の新技術を利用した電力・エネルギーシステムの 日本国内市場2020年予測 ※(株)富士経済が2009年に日本国内市場の動向を予想したものです |
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ところで、燃料電池の開発で世界をリードしてきた日本ですが、今また新興企業の後塵を拝しかねない状態になってきています。エネファームに代表される家庭用燃料電池に技術開発に精力を注入し、懸命な努力を続けて来た日本ですが、欧米は大規模な産業用途に燃料電池を使い始めているのです。遠からず中国などの新興国もその技術開発の世界に乗り出してくることは間違いありません。巨大な市場規模を背景にした、低コストな大量生産によって席捲される姿は、太陽光発電で世界をリードした日本が、あるいはガラパゴスといわれた携帯電話で世界の潮流に乗り遅れた姿とオーバーラップしてくるのです。それは、市場がどこにあるかを捉える認識の差だったともいえます。市場は、多様なところにこそあるのです。「画一的なグローバル市場をつくる」などという考え方は、幻想だったのです。目指していた「世界一」の概念が違っていたのです。日本における産業構造の問題は、ここにあるといえるのではないでしょうか? |
分野別燃料電池システム市場推移 ※(株)富士経済が2011年に2025年の世界市場を予想したものです |
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日本国内における今後の市場予想をみても、世界市場の予想をみても、環境配慮型の新技術としての燃料電池に対する時代の要請は際だったものがある以上、技術開発の方向性を定める必要があります。将来的には、燃料となる水素などは、太陽光発電等の再生可能エネルギーを利用して供給することが想定されています。燃料電池だけの技術だけでも、太陽光発電の技術だけでも未来を描くことはできません。複数のシステムを複合する多様な技術と、それを如何に組み合わせて利用するかがこれからの課題であるともいえるのです。 |
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■参考図書 ○Newtonムック なるほどよくわかる燃料電池とナノテクの時代/ニュートンプレス2007年9月20初版 ○燃料電池のキホン/本間琢也、上松宏吉/ソフトバンククリエイティブ/2010年8月25日初版 ○きちんとわかる燃料電池−産総研ブックス/産業技術総合研究所/2011年3月24日1版1刷/など |
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072 特定建築物の定期報告制度(2020年5月3日) |
■定期報告制度とは 建築基準法により、対象となる建築物の所有者・管理者は一級建築士などの技術者に調査・検査を依頼して、その結果を特定行政庁に定められた書式で報告をしなければなりません。これが「定期報告制度」といわれるもので、1959年(昭和34)年の建築基準法の改正によって定められました。1970(昭和45)年の改正では、一級・二級建築士以外にも検査資格者制度が導入され、それぞれの資格者別に検査対象が定められました(※1)。 |
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建築物はどのような構築物であろうとも、完成後から始まる経年劣化や環境からの影響等により、老朽化、機能低下が発生してきます。実は、長期に渡る工事の場合には、工事中も劣化が進行しているという問題がありますが、これについては今回は言及しません。特に、不特定多数の人が利用する施設においては、その機能低下などが人命や人身に及ぼす可能性を否定できないことになります。また、「既存不適格」といいますが、法律改正により、従来は適法であった建築物の部分が、法律上不適となることもあります。一方、「既存遡及」といいますが、一定の条件に該当したときは、遡って不適となっている建築の部分を法に適合するようにしなければならない場合もあります。既存の建築物の健康管理ともいえる定期報告制度を活用することにより、建築物の安全性の確保は当然ですが、長期的視野に立つことで、ライフサイクルコストを低減することも可能になるのです。 2013年2月8日に発生した長崎市の認知症高齢者グループホームの火災では、死者5名、負傷者7名の痛ましい人的被害が起きていますが、同様な事故が繰り返されてきた歴史(表※2)もあります。これらの事故は定期報告との直接の因果関係はありませんが、定期報告制度を活用することにより被害を減少させることが可能と思われるケースも含まれています。2009年の東京都杉並区高円寺の飲食店ビル火災では、4人死亡、10人が重軽傷の事故が起きていますが、ビルの所有会社の社長が業務上過失致死傷で逮捕され、執行猶予付きとはいえ禁錮2年6月の判決が確定しています。 |
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2016(平成28)年施行の建築基準法改正により、定期報告制度が変わりました。改正された主要な点は以下の内容です。 @対象となる建築物が「特殊建築物」から「特定建築物」に変わりました A特定行政庁が指定するだけでなく、国が政令で指定するものが加わりました B報告対象に「防火設備」が加わりました C建築士以外の検査資格者には資格者証の交付を受けたものとの要件が加わりました |
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■定期報告制度の対象と判定基準 定期報告の対象となるのは、以下の5つです。 @特定建築物等(劇場、映画館、病院、ホテル、共同住宅、学校、百貨店等で 一定規模以上のもの) A建築設備等(換気設備、排煙設備、非常用の照明装置など) B防火設備(防火扉、防火シャッター、耐火クロススクリーン、ドレンチャー等) C昇降機(エレベーター、エスカレーター及び小荷物専用昇降機) D遊戯施設(コースター、観覧車、メリーゴーラウンド、ウォーターシュート、 ウォータースライド等) 定期報告の判定基準は、以下の3つです。 @要是正:是正が必要な状態として、所有者等に是正を促すもので、報告を受けた 特定行政庁は必要に応じて是正状況の報告聴取や是正命令を行います A要重要点検:昇降機及び遊戯施設の一部に検査項目があります。特定建築物等 や建築設備等にはありません。所有者等に対して、日常の保守点検 において重点的に点検を要するもので、要是正の状態に至った場合 は、速やかに対応することが求められます B指摘なし:要是正にも要重要点検(昇降機及び遊戯施設の一部)に該当しないもの |
JRタワー展望台から札幌市内を望む 2013年1月11日撮影 |
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■2008年の定期報告制度改正 2016(平成28)年の改正以前の2008(平成20)年に定期報告制度が改正された大きな変更点です。 <特定建築物等> ・外装タイル等の劣化・損傷については、従来は手の届く範囲を打診、それ以外は目視調査で良かっ たのですが、改正により竣工及び外壁改修から10年を経た最初の調査の際は全面打診調査に変 わりました。外壁の調査方法は、足場を架けたり、ゴンドラなどで調査をする方法が主体となりま すが、それらを使用するのであれば調査だけでなく、不良箇所の補修工事も並行で行う方法が 費用的には現実的になります。他には、赤外線調査という方法もありますが、前面に障害がない ことや調査をする角度が限られているなどの限界があります。 多くの自治体では、落下により歩行者等に危害を加える恐れのない部分の打診は求めていないよう です。法律改正後の初回に限り、3年以内に外壁改修が予定されている場合は、手の届く範囲内を テストハンマーによる打診等の検査で良いといった指導も行われましたが、改正から3年以上経過 しましたので、調査の必要性が高くなっています。 ・吹付けアスベスト等については、アスベストの有無や飛散防止対策の有無・劣化損傷状況の調査に 加えて、劣化損傷状況の調査も必要となりました。 ・「特定建築物等」にも「建築設備等」と共通の項目がありますが、それらの有無及び定期的な点検 の実施の有無を調査するだけでなく、定期的な点検が実施されていない場合は、作動状況を確認す ることになりました。 ・定期報告には、配置図及び各階平面図等が求められるようになりました。 <建築設備等> ・従来は数回で検査対象全数を一巡するような指導だったのですが、原則として全数検査となり ました。ただし、換気量測定、排煙風量測定などは1/3の抽出が認められています(特定行政庁 により異なる見解もあります)。また、換気風量測定表や排煙風量測定表、非常照明照度測定や これに代わるものなどの添付が求められるようになりました。 |
国土交通省の 「定期報告制度が変わります」 クリックで国土交通省の案内とリンク |
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<昇降機> ・ブレーキパッドの摩耗は目視検査から、摩耗の程度を測定し 検査結果表と判定基準が明確化されました。 ・主索の損傷は、JIS基準による適・不適だけでしたが、判定 基準が明確化されました。また、ブレーキパッドの摩耗とともに 写真添付も必要になりました。 <遊戯施設> ・車輪軸等の亀裂は年一回の探傷試験が必要だったのですが、 目視検査と探傷試験の頻度が各種定められました ■特定建築物等とは 札幌市における定期報告が必要な特殊建築物の区分けや規模は表(※3)のようになっていますが、基本的にどこの地方自治体でもほぼ同様です。ただし、報告周期や報告年度、報告時期については、それぞれの自治体により違いがあります。また、定期報告は、新築後の検査済証の交付からその直後の年度の報告は免除されます。 【注1】『児童福祉施設等』とは、児童福祉施設、助産所、身体障がい者社会参加支援施設(補装具製作施設及び視聴覚障がい者情報提供施設を除く)、保護施設(医療保護施設を除く)、婦人保護施設、老人福祉施設、有料老人ホーム、母子保健施設、障がい者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム又は障がい福祉サービス事業(生活介護、自立訓練、就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る)をいいます。 【注2】『事務所その他これに類するもの』とは、居室の利用の形態が専ら執務の用に供される事務所に類似する用途を示すものであり金融業、不動産業の店舗等を含みます。 【注3】『機械換気設備』とは@中央管理方式の空調設備、A居室で1/20以上の開口部が無いものに設けた換気設備、B劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場等の居室の機械換気設備、C火気使用室に設けた換気設備のことをいいます。 |
(札幌市の場合) |
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■特定建築物等の定期報告の内容 基本的に、全国の書式はほぼ同じ内容です。定期調査報告概要書、定期調査報告書、調査結果表、調査結果図面、調査の写真などから構成されます。提出方法は、自治体によって異なりますが、定期調査報告概要書を1部(提出のみ)、それ以外を2部提出して1部返還(定期調査報告書には受領印を押して返還)してくれるところが多いようです。ちなみに札幌市の場合は、定期調査報告書受理証を提出するとそれに受領印を押してくれますが、求められるのはすべて1部です。 建築の検査が主体ですが、以下の項目があります。 ・敷地及び地盤:地盤沈下や排水、通路の確保、塀、擁壁など ・建築物の外部:基礎や土台の劣化、外壁やサッシ、広告塔、看板など ・屋上及び屋根:防止面や屋根の劣化、機器及び工作物など ・建築物の内部:防火区画、躯体の状態、耐火、内装、常時閉鎖式防火設備、照明、採光及び換気、 アスベストなど ・避難施設:通路の確保、バルコニー、階段、排煙設備、非常用進入口、非常用照明など ・その他:特殊な構造、避雷設備、煙突など また、調査結果図面には各階の平面図が必要ですが、建物と敷地の関係を明示している必要が あります。調査で要是正の指摘をした場合は、改善予定の時期を明記する必要があります。 改善指導書が交付された場合は、改善計画書や改善完了報告書の提出が必要になります。 |
特定建築物等の定期報告 定期調査報告書の第一面イメージ |
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■建築設備等の定期報告の内容 提出書式は、内容が異なりますが特定建築物等の定期報告とほぼ同様です。調査結果図面は求められないことが多いようです。また、建築設備等という名称が誤解を生みやすいのですが、消防設備との区分けからこの名称になっているのでしょう。避難誘導灯や消火設備、消火器等は消防設備ですので該当しません。以下の項目について、それぞれ検査結果と評価データを提出します。建築物に設置されていない設備については報告の義務はありませんが、非常用照明の報告は必ずあります。 ・換気設備:機械換気設備・中央管理方式の空調設備、火気を使用する調理室の換気、防火ダンパー などが該当します。換気量は風量測定記録の提出が基本ですが、二酸化炭素濃度測定や 送風機の電気量を測定するといった代替方法もあります。 ・排煙設備:排煙設備の外観や性能・防火ダンパーなどが該当します。排煙機の風量測定記録の提出 などが求められます。 ・非常用照明:非常用照明、自家用発電装置などが該当します。非常用照明は照度測定表の提出など が求められます。 ・給水設備及び排水設備(給水タンク等を設けるもの):飲料用の給水設備、排水設備などが対象と なりますが、自治体により定期報告の項目に該当しないところが多いようです。 |
建築設備等の定期報告 定期調査報告書の題一面のイメージ |
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■防火設備の定期報告の内容 ・防火扉は、「随時閉鎖式(常時開放)」の防火扉が対象となります。「常時閉鎖式」の防火扉は従来通り<特定建築物>の対象のままです。火災時に感知器と連動したり、温度ヒューズが熔解するなどして、ストッパーが外れることにより閉鎖するものが該当します。防火扉の「運動エネルギー」や「閉鎖力」の測定が必要になりますが、扉が閉鎖する範囲に物品がおいてあるため扉の閉鎖ができなくなっている場合なども指摘事項となります。 ・防火シャッターは、防火扉と同様に、火災時に感知器と連動したり、非常ボタンで閉鎖することにより防火区画を形成するものが該当します。防火区画以外の管理用などに取り付けたシャッターは対象になりません。昨今の倉庫における火災事故で、シャッターの降下部分に物品があったため、シャッターが降りきらず、火災が広がったという事故がありました。 また、2005(平成17)年の法改正により、降下時に挟まれて怪我をすることを防止するために「危害防止装置」の設置が義務づけられています。 シャッターの検査については、かなり専門的な知識と作業が求められます。あるいは、検査をしようにも天井点検口がないなど、建設時・改修時の点検がされていたかどうか疑問を感じる例が見つかっています。 ・その他、ガラスクロス製の耐火スクリーン(機構はシャッターに似ている)や火災時に散水ヘッドから水を噴射することで火煙の広がりを遮断するドレンチャーも対象となりました。 |
防火設備の定期報告 定期調査報告書の題一面のイメージ |
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■非常用照明の問題 建築設備の一つである非常用照明ですが、実際の調査ではこれが一番の問題になることが多いようです。非常用照明は、停電等で通常照明が切断されると自動的に点灯するようになっています。個別に蓄電池(バッテリー)を内蔵するタイプと蓄電池や非常用発電機、非常用電源専用受電設備などから電源が供給される二つのタイプがあります。 ○非常用照明の設置基準は、以下の建築物などの居室や居室から地上への避難路となる廊下・階段 などです。それ以外の部分には適用されません。 ・特定建築物等 ・階数が3以上で、延べ面積が500uを超えている建築物 ・延べ面積が1,000uを超えている建築物 ・採光上有効な開口面積の合計が、その居室の床面積の1/20未満の居室(無窓居室)を 有する建築物 ※2018(平成30)年の法改正により、床面積が30u以下の居室で、地上への出口を有する 場合は、非常用照明の設置が不要となりました ○非常用照明の適用除外となる建築物等は、以下の通りです。 ・一戸建ての住宅や共同住宅の住戸など ・病院の病室・下宿の宿泊室など ・学校等など ○LED電球による非常用照明 ・かつてはLED電球による非常用照明が認められていませんでしたが、パナソニックが2014 (平成26)年に国土交通大臣認定制度により、LED光源による非常用照明の認定を取得、 発売を開始したことにより、LEDの非常用照明が普及し始めています。しかし、従前の電池 内蔵型非常用照明装置の点検はフックでしたが、押ボタン式に変わったことにより、従前の 点検器具が使えなくなりました。また、点検用にはリモコンもあるのですが、各メーカーにより 異なり、私もパナソニック、東芝、三菱、オーデリックなどと別々のリモコンを用意する必要が 求められています。困ったものです。 また、点検をしたことがある方は分かるのですが、LEDの光束は指向性が強く、見つめすぎ ると目が痛くなります。ブルーライトの問題もありますが、注意を要します。 ○問題となる例は ・非常用照明の内蔵電池(バッテリー)が劣化により点灯しなくなっている例が非常に多いの です。内蔵電池の寿命は、3〜5年程度といわれていますが、実際にはそれ以上持つことも 多いため、10年以上もそのままになっていることが多いのです。 ・電球にも寿命がありますが、電球の劣化や球切れがあります。 ・電球が外されていることも良くあります。たまたまの例ですが、蛍光灯タイプの非常用照明が 設置されていたのですが、省エネルギー対策で蛍光管が外されていたこともありました。 非常用照明の蛍光管を外すことは、法令に違反することになります。 非常用照明の照度測定の方法は、非常用照明の直下ではなく、避難上必要となる部分の最も暗い部分で測定することが基本です。避難方向が多数ある広い部屋では、広さにもよりますが四隅近くと中央等で計測します。検査は、すべての非常用照明を確認するのは当然ですが、提出する照度測定表は、測定する部屋の照度を測定することになります。したがって、非常用照明の箇所数と測定箇所数は一致しません。最低限必要な照度は、蛍光管タイプとLEDタイプの場合2ルクス、電球タイプの場合1ルクスです。暗闇でうっすらと光る程度の明るさが求められている基準です。 参考ですが、非常用発電機についても、消防法と建築基準法では規定が異なります。建築物に使用する「非常用発電機」は大きく分けて、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンの二種類がありますが、消防用設備(消火栓、スプリンクラー、消防排煙設備など)への電源供給が途絶えた非常用発電時には、定格負荷で60分以上の連続運転が求められます。一方、建築基準法における防災設備(非常用照明、排煙機など)へ電源を供給する予備電源としては、30分以上の連続運転が求められます。このように消防設備と建築設備の求められる運転時間には違いがあります。実際には、余裕を持って燃料を用意していることがほとんどですが、非常時は30分以内に避難するのが基本ということになります。 |
特定建築物等の定期報告 調査結果表の第一面イメージ 建築設備物等の定期報告 非常用照明の調査結果表の第一面イメージ 防火設備物の定期報告 防火扉の調査結果表の第一面イメージ |
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■アスベストの問題 詳細は「アスベストについて」を参照して頂きたいのですが、日本が世界標準といわれる0.1%以下の規制を実施したのは、2006年のことです。5%以下の規制にしたのが1975(昭和50)年、1%以下の規制にしたのが2004(平成18)年のことです。現実に、多くの建物ではアスベスト(石綿)が存在しています。また、アスベストの含有の有無を判断できない場合は、所有者等に分析調査の実施を依頼してその結果により判断することになります。分析調査や除去工事には、多くの自治体で補助を受けることができます。 古いJISでは、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトの3種類だけの分析でしたが、2008(平成20)年の改訂で、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトを合わせた6種類の分析を行うことになっていますので、アスベストの調査済みと安心する訳には行かないケースがあります。 |
アスベストの原石 厚生労働省のパンフレット 「アスベスト全面禁止」より |
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■耐震診断について 定期調査報告書には、「耐震診断及び耐震改修の調査状況」を記入する欄があります。基本的に、耐震診断の実施の有無・予定と耐震改修の実施の有無・予定を記入するだけです。ただし、都道府県の耐震改修促進計画において、地震発生時に運行を確保すべき道路(緊急輸送道路)に面している建物については、耐震診断と耐震改修が求められます。該当する道路については、各自治体の指定状況を調べる必要があります。また、「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する」法案が閣議決定されていますので、耐震診断の義務付けと耐震改修を行う義務付けが、今後は拡大することが予想されます。 |
ビル火災でビル所有者が逮捕された 2012年3月6日朝日新聞 |
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■定期報告とグループホーム このところグループホームでの火災による死亡事故が続いたため、マスコミ等でもその問題を指摘する動きがありました。グループホームとは病気や障害などで生活に困難を抱えた人が、専門スタッフ等の援助を受けて、共同生活を受ける施設のことですが、大きく分けて2種類のグループホームがあります。一つは、介護保険法や老人福祉法に規定される「認知症対応型共同生活介護」と、もう一つは障害者総合支援法(旧名:障害者自立支援法)に規定された「共同生活援助」などがあります。しかも、最も問題なことは、これらの施設に居住する人の生活形態は、多くの面において多様であるということです。 また、グループホームは基本的に「特定建築物」ですが、その用途区分は表(※○)の2項の「児童福祉施設」には該当しません。一部の例外もありますが、多くの自治体では7項の「寄宿舎」の扱いをすることになっています。従前は、2項と7項で要件が異なりましたが、改正により、地階または3階以上の階にあるもの又は床面積の合計が300u以上のものはすべて該当することになりました。ただし、2階建てで床面積が300u未満のグループホームは、定期報告の対象とはなりません。 |
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■スプリンクラー設備 スプリンクラー設備は、消防設備ですので、定期報告の項目には該当しません。消防法では一定の条件を満たして、夜間に要介護者の避難介助のため必要な介護者が確保されている小規模福祉施設では、スプリンクラーの設置をしなくても良いことになっているなど、一定の適用除外がありました。しかしながら、グループホームでの火災事故の増大を受けて、2007(平成19)年に消防法施工令が一部改正され、グループホームなどを含む小規模社会福祉施設では、従来の延べ面積1,000u以上から、設置免除要件もありますが、延べ面積が275u以上であればスプリンクラー設備を設置しなければならなくなりました。 既存の施設についても、2012(平成24)年3月31日までの猶予期間がありましたが、その経過措置も終了しています。補助もほとんど終了しています。このスプリンクラー設置義務の対象となる施設は、グループホーム以外にも、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、介護老人保健施設、救護施設、有料老人ホーム、老人短期入所事業を行う施設など、福祉施設のほとんどが該当します。 |
長崎の認知症施設での火災事故 2013年2月9日の朝日新聞 |
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■定期報告の調査ができる資格 特定建築物等と建築設備等、防火設備は、一級建築士又は二級建築士が調査をすることができます。木造建築士は不可です。その他、特定建築物調査員、建築設備検査員、防火設備検査員、昇降機等検査員などの資格がありますが、それらの定期報告の調査ができる資格関連をまとめたものが、前述した表(※○)です。建築士以外の検査員は、法定講習の修了者で国土交通大臣から資格者証の交付を受けている必要があります。 |
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■定期報告の費用 定期報告の費用は、建物の場所、規模、定期報告の該当項目などによって異なってきます。当然、是正に要する費用は含まれていません。一律に決めることはできませんが、私の場合、個人事務所ですから極力廉価で実施するように心がけています。夜間や早朝の調査がほとんどですので、遠隔地の場合は得意の車中泊を利用する事が多いですね。また、定期報告を長年に渡って実施していなかった施設の場合は、行政庁に行って事前に調査するケースも出て来ますので、複数回の出張が発生することもあります。ちなみに、過去の提出物は「定期調査報告概要書」だけを閲覧することができます。コピーも可能なところが多いようです。定期報告を提出する際に、郵送を受け付ける行政庁と、郵送を受け付けない行政庁があります。郵送を受け付けない遠隔地の行政庁の場合は、建物調査以外にも出張旅費がかかります。 図面がない場合や過去の定期報告の控えがない場合は、図面等の作成に費用が係ります。その際は、図面作成のための建物調査の必要も出て来ます。また、外壁の全面打診検査(赤外線調査も含む)が必要な場合は、その費用も発生します。アスベスト調査、耐震診断については前述しましたが、定期報告自体には、これらの費用は含まれません。 |
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■罰則について 定期報告をしなかったり、又は虚偽の報告をした場合は、建築基準法の規定により、100万円以下の罰金に処せられることになっています。冒頭に記述した事故等の増大からも、特定行政庁等による指導は強化されていくと予想されています。是正措置状況の報告をさせたり、未提出や虚偽の疑いがあったり、是正項目を改善していないなどの状況があれば、行政による指導が行われる可能性があります。罰金の多加よりも、事故が起こってからでは、取り返しが付かないことを考える必要があると思います。 |
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071「間違いだらけの地震対策」/目黒公郎(2013年4月10日) |
間違いだけの地震対策/目黒公郎/旬報社/20071015初版 /194頁/\1,400+税 「建築物の耐震化の促進に関する法律が改正されます」にも記述しましたが、国土交通省による阪神・淡路大震災で亡くなった方々の死亡原因や死亡推定時刻のデータは、本書の引用でした。孫引きには注意を要しますので、元出典を確認するために本書を入手しましたが、なかなか興味深い内容でした。 ■地震で建物の下敷きになった方々のほとんどは直後に亡くなっていた 石原慎太郎前東京都知事の、2007年に、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の際の自衛隊の派遣要請に関して、「被災地の首長の判断が遅かったから2000人余計に犠牲者が増えた」という無責任極まりない発言を否定するところから始まります。マスコミにも一部、同調する見解や考察が出されていたと記憶していますが、事実は、まったく異なりました。何故なら、兵庫県南部地震では、地震発生からの2週間のあいだに被災地全体で約5,500人が亡くなっています。その70%以上を占める3,875人が神戸市内で亡くなった犠牲者ですが、そのうちの3,651人に関してのデータ(※1)を見ると、それが明白になります。 |
犠牲者の死亡推定時刻 (※1) ※阪神・淡路大震災の発生時刻:1995(平成7)年1月17日午前5時46分52秒 ※神戸市内で亡くなった3,875人のうち詳細な分析が行われた3,651人について記載 「間違いだらけの地震対策」(目黒公郎著)より |
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本書のデータは「建築物の耐震化の促進に関する法律が改正されます」に引用したものより、さらに詳しく分析していますが、監察医と臨床医が扱った事例に分けてあります。臨床医の場合は、遺体が搬入された時刻を死亡時刻としている例もあることから、結果の精度は監察医のものほど高くないという前提があります。しかし、それらを鑑みても、地震直後の14分以内に亡くなった方は、全体の80%以上であることは確実です。高度焼損遺体(火事で完全に焼けて骨だけになってしまった死体)など、死亡時刻がよくわからない死者を除くと、その比率はさらに上がります。 次のデータ(※2)も、「建築物の耐震化の促進に関する法律が改正されます」に掲載した神戸市のものですが、犠牲者の死亡原因の多くは建物や家具などの倒壊を原因として亡くなったことが判ります。著者も言うように、どうしても私たちは映像で見たものの印象が強く残りますが、阪神・淡路大震災で亡くなった方々の多くは、火災を主要因として亡くなった訳ではないのです。地震により倒壊した建物や家具の下敷きにさえなっていなければ、助かった人が多くいたことはこのデータからも明らかなのです。ただし、被災直後の迅速な救助活動を否定していないことは当然です。 |
地震後2週間までの犠牲者の死亡原因 (※2) ※神戸市内で亡くなった3,875人のうち詳細な分析が行われた3,651人について記載 「間違いだらけの地震対策」(目黒公郎著)より |
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■元気な若者が多く亡くなったのは何故か? 図(※3)は、神戸市内の犠牲者の年齢分布です。本書からの引用ですが、兵庫県監察医調査のデータを基にしています。これを見ると明らかに高齢者が多く被害にあっていることが判ります。ところが、20〜25歳の若い世代にも高い山があることが判ります。彼らは何故亡くなったのでしょうか?著者は、神戸以外の地域から神戸に来て勉強していた大学生や若い働き手たちが、耐震性能の低い、いわゆる安アパートに住んでいたからだと推定しています。私も、その推定は当たっていると思います。 ■新潟中越地震の被害が少なかった訳 2004年10月23日17:56、新潟県のほぼ中央に位置する中越地域を震源とするマグニチュード6.8の直下型地震・新潟中越地震が発生しました。北魚沼郡川口町や小千谷市では気象庁震度階最大の震度7を観測しました。兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)に勝るとも劣らない激しい揺れだったのですが、被害は遙かに少なかったのです。表(※4)は、兵庫県南部地震とその前2年間に北部日本で発生した地震の被害をまとめたものですが、同様な傾向が出ています。その理由は、いずれも以下の特徴を持つ雪国仕様の建物が多かったからです。 |
神戸市内の犠牲者の年齢分布 (※3) 「間違いだらけの地震対策」(目黒公郎著)より |
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・豪雪地帯のため、重い雪に耐えられる構造だった ・防寒のため、窓などの開口面積が小さく、壁量が多かった ・地盤の凍結対策のため、基礎の断面が大きかった ・雪のため、トタンなどの滑りやすく軽い金属屋根が多かった ・寒冷地のためシロアリ被害が少なかった 私の住む札幌市では、積雪荷重を140cm(一部は190cm)以上、見込むことが求められます。また、凍結深度は60cmですから、それより下までの基礎の深さ(断面が大きくなる)が求められます。 ■建物が壊れなくても家具や電化製品が凶器になる 私も東日本大震災後の福島県内の建物内部を多数確認しましたが、家具や電化製品の倒壊状態は凄まじいものでした。その後、テレビでも見たのですが、防災用品として売られているタンスなどの家具を天井との間の「突っ張り棒」は、あまり役に立っていませんでした。激しい地震の揺れがあると、一瞬にして棒が外れてしまうからです。本書でも、突っ張り棒を使う場合は天井側に板材を貼り付けることなどを推奨しています。 ■問題なのは、耐震強度偽装問題よりも、既存不適格建物 2005年に発覚した耐震強度偽装問題は、社会的に大きな問題となりましたが、現実に、この問題の影響があるとみられるマンションは、全国で100〜200棟のレベルだといいます。しかし、この耐震強度偽造問題とは無関係な既存不適格のマンションやホテル、事務所ビルなどは、全 |
兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)とその前2年間に 北部日本で発生した地震の被害比較 (※4) 「間違いだらけの地震対策」(目黒公郎著)より |
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国で150万棟あるといわれています。既存不適格の戸建て住宅に至っては、さらに約1、000万棟あると見られているのです。既存不適格とは、建設された時の基準では合法であったが、その後の法律改正により不適となった建物のことです。 耐震強度偽装のマンションを買ってしまった方々を、可哀想だと思った多くの人が住んでいるその住宅に、既存不適格という問題が存在しているのです。最近は、リフォームを実施する人が増えてきていますが、単純に耐震補強を施工する場合よりも、リフォームに合わせて耐震補強をするコストメリットについても本書では言及しています。 ■目黒の三点セット 著者は、現在の既存不適格建物の厖大な数と近い将来に予想される地震被害の規模を考えると、事前に行政がお金を用意して進める現在の耐震補強支援策は、財政的に成り立たないし、副次的に多くの問題を生むと判断しています。仮に、数を限って実施したとしても「やりっぱなし」の現在の制度が、悪徳業者が入り込む環境をつくっているといいます。しかも、最も重要なことは、事前の耐震補強対策へのインセンティブを削いでしまうのが現在の制度だと断言しています。 これを解決する「制度」として、著者は @行政によるインセンティブ制度(公助) A耐震補強実施者を対象とした共済制度(共助) B新しい地震保険(自助) の三つの制度によって、耐震補強が不要な耐震性の高い建物に住む人と耐震補強を実施した人は、将来の地震で万が一、全壊・全焼などの被害を受けても、新築住宅の建設に十分な支援を地震後に受け、生活再建できる環境が整えられると提言しています。 |
間違いだけの地震対策 目黒公郎 旬報社 |
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「公助」とは、事前に持ち主が<自前>で、耐震診断を受け補強の必要がないと判定された住宅、または補強をして認定を受けた住宅(つまり地震後の公費軽減のために自助努力したもの)が、地震によって被害を受けた場合に、損傷の程度に応じて、行政から優遇支援される制度です。従来の補助制度と異なり、この制度では、行政は事前に巨額の資金を用意する必要がありません。いくら大勢の方が耐震補強を実施しても予算上の問題は生じないことになります。そして、もっとも重要なことが、耐震補強をすることにより、地震が起きたときの被害を減少させることができます。 また「共助」は、「耐震補強実施者を対象としたオールジャパンの共済制度」だといいます。耐震補強済みの建物が被災するのは、概ね震度6以上の地域で、しかも全壊率はそのなかの数%程度ですが、現在心配されている東海地震や東南海地震などの巨大地震が発生しても、震度6以上の揺れにさらされる地域に存在する建物は全国の建物の数%程度だといいます。したがって耐震補強済みの建物が被災する確率は、全国比でせいぜい数100分の1程度なのです。つまり共済制度に入る建物の持ち主が全国に平均的に分布していると仮定すると、数百世帯以上の積み立てで、全壊一世帯、半壊二、三世帯を支援する割合になるのです。著者の試算では、東海・東南海・南海の連動地震を想定しても、耐震補強時に消費税以下の積み立て(4〜5万円程度)を1回だけすれば、全壊時に1000万円、半壊時に300万円の支援を受けることができるといいます。 この理論は正しいのでしょうが、すると震度6以上の揺れにさらされる可能性が低い地域で住宅を所有している人は、耐震補強をする意欲がなくなってしまうような気がします。逆にインセンティブが下がってしまうのではないでしょうか?少し、この確率論には疑問点が起きてしまいました。 兵庫県南部地震では、揺れで被災した建物は全半壊で25万棟、一部損壊は39万棟でしたが、延焼火災建物は7千数百棟でした。このように、兵庫県南部地震の例を見ても、揺れによる被害と火災による被害は数十倍違います。さらに建物の耐震性が高まると初期出火率が低下するだけでなく、消火活動の条件が向上しますので、延焼火災数はさらに減少します。そこで、「自助」として、耐震補強建物を対象として、揺れによる被災建物を免責とし、<地震後の火災のみ>を対象とする地震保険を提案しています。具体的には、補償対象建物数が現在の100分の1程度になりますので、年間10万円程度の保険料であれば、これを1000円にできることになります。地震保険の割高感もなくなるし、2倍の2000円にして火災保険の30〜50%を上限とする地震保険の補償限度も撤廃できるという提案です。 ■地震災害への主要な三つの対策 地震災害を対象に考えれば、主要な三つの対策は、 @構造物・施設の地震対策(耐震設計・施工、免震・制震装置の開発・設備など) A災害時の対応システム(組織作り、マニュアル整備、緊急備蓄など) B最適な復旧・復興戦略の構築(スムーズな復旧と被災地の環境改善に向けた復興計画の整備など) だといいます。その他、アスベストの問題、危機管理マニュアル、防災マニュアルなど、「間違いだらけ・・・」のような銘をうった本は多数ありますが、その名に恥じない非常に興味深い内容でした。 |
東日本大震災による地震被害 2011年4月9日撮影 東日本大震災による地震被害 2011年4月29日撮影 |
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