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060 銅について(2012年5月30日) |
銅の歴史は、1万年以上も前に遡ります。確認される最古の銅は、イラクから出土した紀元前8800年頃の小玉(ビーズ)といわれています。地殻の構成要素では、アルミニウムは3番目、鉄は4番目、チタンは、9番目ですが、銅は26番目(25番目とする考え方もあります)に過ぎません。ニッケルやクロムよりも存在量が少ないのです。しかしながら、人類の歴史には、銅の存在を外すことはできないのは、分離や加工がしやすかったからに他なりません。軟らかすぎて利器としては役立たずだった銅が、農具や武具に変わるのは、紀元前3500年頃の南メソポタミアのシュメール人による、銅と錫の合金、青銅(ブロンズ)の発見からだったといわれています。 日本における銅の歴史は、弥生時代の銅鐸、銅鏡、銅矛などがありますが、おそらくは縄文晩期から弥生初期にかけて、大陸から朝鮮半島を経由して伝えられたものと思われます。かつては、足尾銅山や別子銅山などがあり、1700年代には世界一の産銅国になっていた時代もありましたが、現在ではすべて廃鉱となり、すべてを輸入に頼っています。世界最大の産出国は、1/3を占めるチリです。銅には、鉱山における硫化銅の精錬に伴う排煙(二酸化硫黄、亜硫酸ガス)と廃液の公害問題があります。 |
現在の流通貨幣 平成元年記念発行硬貨と新500円硬貨 |
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純銅は、赤身を帯びているため「赤銅(しゃくどう、あかがね)とも呼ばれます。スズを添加すると白みを帯びた合金になるのですが、酸化すると青みがかった茶色に変色します。これが「青銅(せいどう)/フロンズ」です。亜鉛を添加したものは、黄金色の「黄銅(おうどう)」になり、ニッケルを添加したものは、白色の「白銅(はくどう)」になり、白銅に亜鉛を添加したものは、銀白色に輝く「洋銀(ようぎん)」となります。私たちの身近なものでは、5円硬貨が黄銅、10円硬貨が青銅(正確には、亜鉛を添加しているので、黄銅に近い)、50円、100円、旧500円硬貨が白銅、新500円硬貨は洋銀(ニッケル黄銅)です。1円硬貨はアルミニウムです。(表※1)ちなみに、奈良の大仏は重さが約260トンある世界最大の青銅製鋳物です。 ■銅の特性 銅は、塑性加工性に優れているため、鍋、釜などの日用品に用いられてきました。また、加工することによって硬くなる(加工硬化)性質があります。古代の銅銭や青銅の梵鐘、美術品、装飾品などもありますし、電気的性質を利用した電線や避雷針があります。建築資材としては、屋根材や銅板を利用したものや水道管に使われる銅管などがあります。中大兄皇子が作ったといわれる飛鳥の漏刻(ろうこく:水時計)には、銅管が使用されていました。 |
現在の流通貨幣と合金名 (※1) |
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<緑青は猛毒か?> 銅が大気中に置かれると表面に皮膜を生成します。それを緑青(ろくしょう)といいます。屋根に銅板を貼ると、当初は赤銅色に光輝きますが、時を経るに従って、濃い青緑色の屋根に変わります。趣がある色合いだと思います。塩基性炭酸銅や塩基性硫酸銅などを主成分としています。かつては、その緑青が猛毒とされていましたが、その後の研究により、毒性はほとんどないことが明らかにされました。水や湯にも溶けないとされています。 <電気的特性> 銅の物理的性質の上で、もっとも重要なのが電気伝導度の高さです。それは、不純物の含有量によって、大きく影響されます。 <低温に強い> 鋼は高温で軟化し低温で脆くなりますが、銅は、低温脆性が起こらない金属です。絶対零度(−273.15℃)に近い状態の低温環境で利用する超伝導線に銅は利用されます。 |
銅板屋根 東京都の池上本門寺本堂 2008年11月23日撮影 |
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<耐食性に優れている> 銅は、耐食性に優れ、大気中での腐食速度は緩慢で、充分に乾燥した常温の大気中では変化しません。湿気および二酸化炭素を含む大気中では、わずかに黒色皮膜で覆われるに過ぎません。また、水中、土中、海水中では、酸化物、硫化物、塩基性炭酸塩などの皮膜が生成されて内部を保護します。 <化学的性質> 銅は、硝酸や濃硫酸のような酸化性の酸やアンモニアには腐食されます。非酸化性の塩酸や希硫酸、そしてアルカリには安定です。硫黄やその化合物とは反応して硫化銅を生じ、黒化します。フッ素と作用させると表面にフッ化銅の皮膜が生成されます。 ■銅の製錬 銅は、まれに天然の自然銅が産出されますが、銅鉱石としては、酸化鉱と硫化鉱があります。硫化鉱には、黄銅鉱や輝銅鉱などがあり、大まかにいいますと、硫化鉱を脱硫(硫化物から硫黄を取り出す)し、炉に入れて粗銅を取り出す製法が古代から続いてきた製錬方法です。その後、還元法、生鉱吹法(なまこうぶきほう)、半生鉱吹法、精鉱吹(せいこうぶき)などが開発され、現在は転炉法でほとんどの粗銅が製造されます。その後、粗銅を電気製錬などによって精製することにより99.99%以上の純銅が得られます。 |
自然銅 (約4cm) ウィキペディアより参照 |
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■銅合金 銅合金は、状態からは青銅型、黄銅型、共晶型、全率固溶型に分類され、種類としては鋳造合金と展伸(加工)合金に大別されますが、多様な銅合金があります。また、アルミニウムを主体として銅などを添加したのがジェラルミンです。ジェラルミンについては、「アルミニウムについて」をご覧ください。 <青銅型合金> 10円硬貨は、スズとの合金の青銅ですが、Cu(銅)−Sn(スズ)系、Cu−Al(アルミニウム)系、Cu−Sb(アンチモン)系、Cu−Be(ベリリウム)系、Cu−In(インジウム)系、Cu−Si(ケイ素)系合金などがあります。 スズ青銅は、スズの含有量によって、銅赤色、黄色、銀白色、灰色と変化します。大気中や海水中でも優れた耐食性を示します。貨幣やメダル、装飾品などのに利用されます。リンを添加したリン青銅は、電子部品などに利用されています。 <黄銅型合金> 5円硬貨が黄銅ですが、Cu−Zn(亜鉛)系、Cu−Cd(カドミニウム)系、Cu−Ge(ゲルマニウム)系、Cu−Ti(チタン)系合金などがあります。 黄銅は、真鍮(しんちゅう、ブラス)とも呼ばれますが、ブラスバンド(吹奏楽団)の名前の由来となっているように、楽器にも使われます。黄銅は、塩類を含む溶液中で脱亜鉛現象が起きたり、加工時のひずみなどによる応力腐食割れが知られています。 |
島根県の神庭荒神谷遺跡 銅剣358本、銅鐸6個、銅矛16本が出土 2009年11月15日撮影 |
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<Cu−Mn系合金> 銅にマンガンを固溶(互いに溶け合わせて全体が均一な固体になる)すると、機械的強さが高温でも低下しなく、電気抵抗が大きく、温度による影響が小さい合金が得られます。蒸気弁、タービン翼や精密電子機器の部品に使用されます。 <Cu−Ni系合金> 銅にニッケルを固溶すると、含有量によって合金の色が銅色から白色まで変化する全率固溶体型合金が得られます。50円や100円硬貨は、ニッケルを25%程度含む白銅です。耐食性と加工性に優れています。さらに亜鉛を固溶させた<Cu−Ni−Zn系>は、洋白(ようはく、ニッケルシルバー)とも呼ばれ、食器、医療器具、装飾品などに使用されます。 <Cu−Be系合金> ベリリウムを添加した合金は、焼き入れ焼き戻しをすることにより、時効硬化性があり、高強度系合金系と高電気伝導度合金系が生まれました。銅合金バネ材の材料にもなります。 <Cu−Ag系合金> 銅に銀を0.1%添加すると、電気伝導度は下がりますが、軟化温度が100℃以上も高くなり、クリープ特性も改善されるため、発電機のロータ(回転子)などに使用されます。 <Cu−Cr系合金> クロム含有量は、0.5〜0.8%程度ですが、クロム銅と呼ばれる、耐熱性と電気伝導性に優れた析出硬化型合金です。 |
島根県の加茂岩倉遺跡 銅鐸39個が出土 2007年10月27日撮影 |
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その他、チタン銅やジルコニウム銅などが開発されています。また、耐候性鋼と呼ばれる炭素鋼には銅が添加されています。このように、銅は私たちの生活とは切り離せない、多様な役割を果たしています。 ■銅の加工 銅の加工の歴史は、人類の歴史に繋がります。現在では、板材は圧延、銅線は線引き、銅棒や銅管は押出しによって製造されます。圧延は、複数のロールの間で押し延ばすことによって板材が作られます。線引きは、ダイスと呼ばれる円錐状の孔型から引っ張り出すことによって銅線が作られます。押出しは、これもダイスとよばれる型材から銅のビレットをトコロテン式に押し出す方式です。アルミサッシの型材と一緒ですね。 また、粉末状の銅粉を粉砕法や電解法、化学反応などによって製造して、成形加工し、高温でプレスさせる粉末冶金法(ふんまつやきんほう)もあります。 銅の接合は、機械的締結(ボルトなど)、融接、圧接、ろう接、接着など各種の方法が確立されています。電子部品の接合や給水管の銅管の接続は、ハンダ付けが基本です。 |
銅製品の例 |
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■銅の抗菌性 銅は、抗菌性でも知られています。日本銅センターのホームページを見ると、 1)レジオネラ菌に効果を発揮する銅イオン 日本銅センターから実証試験の委託を受けた(財)北里環境科学センターの実験によると、水道用配管として使用されている銅板、ステンレス板、塩化ビニル板に菌液を滴下し、培養後の発生集落数を測定したところ、50万から60万CFUいた菌が銅板では、1,000CFU以下に大幅に減少、一方、ステンレス板、塩化ビニル板はほとんど変化が見られなかったとのことでした。 2)O−157にすぐれた抗菌効果を発揮 日本銅センターの依頼により行われた(財)東京顕微鏡院・衛生科学センター(厚生労働省の指定検査機関)による検査で、シャーレに菌を含む寒天培地を凝固させ、その上に銅および黄銅板を置き、培養、観察をした結果、銅板、黄銅板とも周辺に増殖阻止帯が認められ、直下では菌の発育はまったく認められないという結果が得られたそうです。 |
奈良の東大寺大仏 2011年3月11日撮影 |
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3)銅イオンが病原虫クリプトスポリジウムに効果を発揮 クリプトスポリジウムは、汚染された水や手指を介して感染し、激しい腹痛や下痢を引き起こす病原微生物の1つですが、日本銅センターから委託を受けた(財)北里環境科学センターは、銅イオンがクリプトスポリジウムオーシストの感染性を不活性化することを実証しているそうです。 4)大腸菌に抗菌力を持つ銅管 日本銅センターの委託を受けた(財)東京顕微鏡院、食品・環境科学センターの実証試験では、@銅管、A塩ビライニング鋼管、Bステンレス鋼管、Cポリエチレン管、D架橋ポリエチレン管、E硬質塩ビ管、Fポリブテン管の7種類の管材を用いて、大腸菌を10万〜50万CFU/mLの濃度にし、管材検体に入れ、菌液を採取して検査したところ、銅管をのぞく各試験体は大腸菌の生存数低下をもたらす能力はありませんでしたが、銅管を用いた試験結果には、この作用が認められたとのことです。 といった、実験結果がでていました。詳細は、日本銅センターのホームページをご覧ください。 |
銅の国別輸入量 経済産業省(中国経済産業局)のホームページより |
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■銅管ヘッダー方式 住宅での給水・給湯方式で、銅管ヘッダー方式という工法があります。従来の銅管の先分岐工法では、メーターからメイン管を引き込み、そこから室内の各水栓に分岐させていました。接続部は半田付けが基本でした。ヘッダー方式では、メータから屋内に入った箇所でヘッダー部を設置して、各水栓毎に機械式継ぎ手で接続した10A(12.7φ)の被覆銅管を流す方式です。湯待ち時間の短縮や接続に火気を使わない利点があります。また、半田付けの不良による漏水も無視できなかったのですが、機械式継ぎ手によりその問題も解決されます。熟練工でなくても施工ができるとの謳い文句がありました。被覆銅管は、低発泡ポリエチレンで銅管を被覆しています。 ■銅の電食について 「アルミニウムの特性」でも触れましたが、銅は「より貴」な金属であり、極めて腐食しにくい金属です。自然銅として産出したり、古代の銅製品が土中から発見されるのはそのためです。二つの金属が接触したときに、「卑」な金属から「貴」な金属に電子が流れるので、「卑」な金属に腐食が見られるということが基本なのですが、そうとは限らない例がいくつかあります。また、「卑」な金属が腐食することにより、経年のため、その錆を原因として孔食が発生するという考え方もあるようです。 |
銅の国別輸出量 経済産業省(中国経済産業局)のホームページより |
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かなり以前のことになりますが、築10年近く経た銅管から漏水がありました。調べたところ、銅管が間仕切りの軽量鉄骨に触れていたのです。電食を原因として、孔食が発生したのです。絶縁材料で覆う必要があったのです。また、電食ではありませんが、軽量鉄骨内の銅管を後から何かを留めたビスが貫通していたのですが、しばらくは何ともなかったのですが、数年後、漏水が発生して原因が判ったなどいうこともありました。いずれも施工ミスを原因としています。 あるいは、10数年経た井水ポンプからの銅管に孔食が発生して、水が噴き出したことがありました。銅管メーカーの調査で、原因は、井水に含まれていた鉄分による電食だろうとされましたが、これはあくまでも推定です。私は、ちょっと違うのではないかと思っていますが、そのときはそれで済んでしまいました。結構、銅管にまつわる漏水事故は多いような気がします。 ■銅とリサイクル 銅や銅合金のスクラップ価値が高いため、リサイクルの優等生とされています。銅線の盗難などがニュースで取り上げられましたね。銅は、人類との歴史が長いために、産出しやすいと思われがちですが、地殻の構成要素では、チタンやニッケルやクロムよりは希少な金属なのです。リサイクルをより一層、進めなければならないでしょう。 |
経済産業省(中国経済産業局)のホームページより |
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■参考にした図書 ○よくわかる最新「銅」の基本と仕組み/大澤直/秀和システム/20100801第1版/\1,400+税 ○銅の文化史/藤野明/新潮社/19910515初版/\1,100(税込) ○銅とアルミニウムのおはなし/前義治/日本規格協会/20000928第1刷/\1,200+税 |
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059 アルミニウムについて(2012年5月11日) |
銅や鉄には、数千年の歴史が流れています。しかし、アルミニウムやチタンなどの歴史は比較的最近にまで下ります。ステンレスを鉄鋼の一種であるとみるならば、長い歴史があることになります。アルミニウムが、私たちの生活の中に深く入り込んでいることは、周りを見渡せばすぐに実感できます。後述しますが、危険物とする考え方も出ています。そんなアルミニウムを今一度、整理してみたいと思います。 ■アルミニウムの歴史 アルミニウムは、地殻中には主にアルミノ珪酸塩として存在しますが、酸素、ケイ素に続いて3番目に多い成分です。アルミニウムを含有するミョウバン(Alum)などの利用は紀元前に遡りますが、アルミニウムの分離(還元)は簡単ではなかったため、人々はアルミニウムそのものの認識には至りませんでした。アルミニウムの分離を史上最初に成功したのは、1825年のデンマークのエルステットです。その後、複数の実験的製造が行われますが、当時としては、貴金属に等しい価値を持ったものでした。アルミニウムが工業的に精錬される基礎を作ったのは、1886年のアメリカのホールとフランスのエルーです。二人は、それぞれ独自に溶融塩電解精錬法を開発しました。その後、多数の精錬が考案されますが、1911年にドイツで時効硬化型アルミニウム合金(ジェラルミン)が工業化され、飛行機に採用されるとともに、アルミニウムの歴史は変わります。 日本で始めて、アルミニウムの工業規模による生産が開始されたのは、1934年のことです。日本では、当初、軽銀(けいぎん)と呼ばれて、鍋、水筒、弁当箱などに利用されました。現在の自動車産業における軽量化は、燃費向上の有効な対策であることから、アルミニウム合金の比率はますます高くなっています。 アルミニウムの原石は、ボーキサイトですが、日本ではほとんど算出されません。世界の産出量の1/3をオーストラリアが占めています。中国、ブラジルが次に続きます。余談ですが、ボーキサイトから作られるアルミナ(酸化アルミニウム)を原料に2、050℃の高温で、ルビーやサファイヤやエメラルドが人工合成できます。ボーキサイト約4トンからアルミナが約2トン生成され、さらに電気分解して約1トンのアルミニウムが製造されます。その過程では、大量の電気が消費されます。 アルミニウムの純度を99.999%にしたものを高純度アルミニウムといいます。最近では、99.9999%以上の純度の超高純度アルミニウムも得られるようになり、超LSIの配線素材として用いられています。 |
1枚当たり13円の赤字といわれる 純アルミニウムの1円硬貨 |
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■アルミニウムの特性 「ステンレスについて」に掲載した各金属の物性比較を改めて掲載(※1)しますが、アルミニウムの最大の特徴は、軽いことです。鉄の1/3の比重です。軽いといわれるチタンと比較しても半分に近い比重です。熱伝導率は高く、銀、銅、金に続きます。電気抵抗も低く、銅に続きます。そして、一番の特徴は経済性でしょう。その特性から銅の代替え材料となっています。アルミニウムの導電率と機械的強さは銅よりも小さいのですが、比重が小さいため銅と同じ導電率を求めて断面積を大きくしても、単位長さ当たりの重量は銅の約50%にしか過ぎません。そのため、高圧送電線では鋼芯アルミニウム撚り線が広く利用されています。 一方、溶融点は低く、鉄の半分以下です。耐食性は、鉄よりは強固です。アルミニウムは、表面に酸化膜を生成します。また、酸化膜の再生能力もあります。しかし、湿度や塩分含有の大気では、腐食性が一気に高くなります。 アルミニウムの電極電位は低く、陽極的であり、銅やスズ、ニッケルなどと接触すると腐食が起きます。濃硝酸、水、牛乳、酒、酢酸などに対する酸化皮膜の耐性は高いのですが、硫酸、塩酸、アルカリ溶液、海水などには浸食されやすい性質があります。 |
金属材料の物性比較 (※1) |
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<加工し易い> アルミニウムは、軽いと共に変形がし易い性質を持っています。それは、加工がし易いことにも繋がります。多くの金属は、ハンマーなどで叩いて加工(塑性加工)すると硬くなりますが、アルミニウムはそれほど硬くならない性質を持っています。 <低温でも脆くならない> 鉄鋼は、低温で脆くなりますが、アルミニウムは脆くなりません。そのため、液化天然ガスタンカーや宇宙ロケットの燃料タンクなどに利用されます。 <非磁性体> アルミニウムは非磁性体なので、地場に影響されません。そのため、パラボナアンテナや船の磁気コンパスなどの計測機器や電子医療機器、メカトロニクス機器などに利用されます。 <光や熱を反射する> よく磨いたアルミニウムは、赤外線や紫外線などを含む光線、ラジオやレーダーから発する電磁波、各種熱線を良く反射します。そのため、暖房機の反射板や宇宙服などに利用されます。 <電気の缶詰> アルミニウムの原石であるボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理をして、アルミナ(酸化アルミニウム)を取り出し、溶融氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム)中で電気分解をすることにより、アルミニウム地金を製造するのですが、その精錬過程では大量の電気を消費します。そのため、「電気の缶詰」といわれています。日本でも、アルミニウムを生産していた時代がありましたが、電力価格の国際競争力が低いため、ほとんどのアルミニウム精錬事業は海外に拠点を移しました。産業用電力の国際比較は、「太陽光発電について」を参照して下さい。 <腐食について> アルミニウムが表面から一様に浸食される状態を均食といいます。一方、針で突いたような小さい穴が局部的に散在して腐食が起きることを孔食(局部腐食)といいます。アルミニウムを屋外に放置しておくと、端部の隙間から水が浸入して花の房のような白い腐食模様が生成されることがありますが、これを隙間腐食といいます。 また、異材との接触による接食腐食や電食(ガルバニック腐食)もあります。電食は、「ステンレスについて」でも記述しましたが、金属の電位差が大きいほど発生しやすくなります。主な金属の標準的な電位差は、表(※2)の通りです。この数値は、与条件により多少の変化がありますが、アルミニウムは典型的な「卑」な金属とされ、基本的には腐食しやすい金属なのです。これに対して、「貴」な金属である銅は、腐食しにくい安定的な金属とされています。 |
金属の電位差 (※2) |
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■アルミニウム二次地金 電解炉からくみ出されるアルミニウム地金(じがね)の純度は、約99.8%です。不純物としては、鉄、ケイ素、銅、チタンがなどがあります。その地金をインゴットやスラブ、ビレットなどの新地金にしたものが市場で取引されます。それに対して、アルミニウム製品スクラップを再溶解して得られる鋳塊を二次地金(再生地金)と呼びます。二次地金は不純物の混入が多いため、鋳物やダイカストとして利用されます。 アルミニウム新地金1トンをボーキサイトから製造するのに必要なエネルギーは、電力換算で約2万1100kwhです。一方、1トンの二次地金の生産に必要なエネルギーは約590kwhなのです。約3%の電力で、アルミニウムのリサイクルができることになります。 ■アルミニウム合金 |
ジェラルミン製の国産飛行機 YS−11 |
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YS−11は、ジェラルミン製の飛行機です。ジェラルミンの発見が航空機の歴史を変えました。ジェラルミンを発見したのは、1906年のドイツのウィルムです。彼は、アルミニウムと銅の合金を主体として、焼き入れ(高温から急冷)をすることで、硬度のある合金を製造しようとしたのですが、失敗をしました。しかし、その失敗した合金がしばらく経つと硬度が増していることに気が付いたのです。そのためジェラルミンを時効硬化型アルミニウム合金といいます。失敗から生まれたのですね。さらに亜鉛、マグネシウムなども加えた、より強度の高い超ジェラルミンや超々ジェラルミンが開発されました。あのゼロ式戦闘機の骨組みは、超々ジェラルミンでした。 アルミニウム合金を用途により分類すると、鋳物(ダイカストも含む)と構造用、船舶用、建材用、電子機器用に用いられる展伸材に分けることができます。一方、熱処理からの分類で、熱処理型と非熱処理型に分けることもできます。熱処理型は、高力アルミニウム合金の主流を占めるもので、ジェラルミンや超ジェラルミンが含まれます。非熱処理型は、銅、鉄、ケイ素などの不純物が少ない純アルミニウム、若しくは少量のマグネシウム、マンガン、クロムなどを含む合金で、熱処理型に比べて耐食性が優れていますが、機械的強さが小さい性質があります。 |
JISによるアルミニウム合金と記号 (※3) |
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シルミンと呼ばれる、アルミニウムとケイ素が約12%の合金に少量のナトリウムを添加した改良処理による合金は、鋳造性も良いため、建築用部材や自動車や航空機エンジン部材などに使われています。 高純度のアルミニウムは耐食性に優れています。しかし、銅、鉄、ニッケルなどの、電気的にアルミニウムより「貴」な金属を含有する合金は、耐食性が低下します。一方、マンガン、マグネシウム、ケイ素は、耐食性に比較的影響を与えずに、強さなどの機械的特性を改善します。それは、アルミニウムとの電極電位の差を原因としています。 JIS(日本工業規格)による、アルミニウム合金の記号は、表(※3)の通りです。また、主な添加剤の特徴は表(※4)の通りです。 |
アルミニウム合金の主な添加材 (※4) |
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■添加剤として 鉄にアルミニウムを添加したギルド鋼、銅合金にアルミニウムを添加したアルミニウム青銅、ニッケル合金にアルミニウムを添加したカンタル合金など多様な合金があります。チタン合金にもアルミニウムを添加したものがありますし、磁石鋼にもアルミニウムを添加したものがあります。このように、アルミニウムは添加剤として、多様な性質を金属に付加するのに利用されています。 ■合せ板 アルクラッドと呼ばれる、特性が異なるアルミニウム合金を熱間圧延による圧接によって製造される「合せ板」があります。要するに、複合板ですね。 ■アルミナイジング 鋼材に、溶融アルミニウムまたはアルミニウム合金浴に浸漬して、アルミニウム皮膜により、高温耐酸化性の向上をしたものをアルミナイズド鋼といいます。 |
アルマイト処理をした ランチプレート |
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■アルミニウムの加工 アルミニウムやアルミニウム合金の加工は、大きく分けて、素材加工と成形加工があります。前者には、鋳造、圧延、押出し、線引きがあり、後者には切断、鍛造、絞り、切削、研磨、接合などがあります。アルミサッシ工場で、押出しによるサッシの型材の製造作業を見たことがありますが、アルミのビレット(素材)をダイス(型)に押し出すことによって、アルミの型材が一気に流れ出ていました。少し驚きました。 針金を折り曲げると、最初は簡単に曲がりますが、その作業を繰り返すと針金がだんだんと硬くなることが経験的に知られています。それを「加工硬化」といいます。刀鍛冶がたたいて鍛え上げるのも加工硬化です。アルミニウムは、銅や鉄と比べて加工硬化の性質が低い金属です。 アルミニウムを接合する場合は、ボルト、ナットなどの機械的接合の他に、溶接、接着があります。溶接は、融接、圧接、ろう付に大別されます。融接とは、母材を溶融して接合することです。圧接とは、母材を溶融することなく接合することです。また、ろう付とは、母材を溶融することなく、添加材(ろう材)のみを溶かして接合することです。アルミニウムの半田付けもあります。 |
アルミニウムの円盤を使った ハードディスク装置の内部 |
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■アルミニウムの表面処理 純アルミニウムは大気中では耐食性に優れていますが、それは表面に形成された酸化皮膜が内部を保護しているからです。しかし、純度の低いアルミニウムではその皮膜効果が期待できませんので、人為的に酸化膜を形成する方法が開発されました。それが、電解処理によるアルマイト処理(陽極酸化処理法)です。アルマイト処理は、1923年にわが国の理化学研究所によって商標登録されました。アルミニウムをシュウ酸、クロム酸、硫酸などの電解浴中で陽極酸化させると、表面に酸化皮膜が形成されます。 さらに、表面処理をした母材を無機化合物や有機染料を添加した電解浴中で電解処理をすることにより、着色を得ることができます。これを電解着色といいます。 アルミニウムを腐食液(化成浴)と反応させる化成処理で、表面に不溶性の皮膜を形成させる化学処理法でも、耐食性が得られます。特に、この化成処理により、塗装下地処理として、塗膜の密着性を向上させる効果もあります。その他、多様な着色法が現在では開発されています。ただし、現場でのアルミニウムへの直接の塗装はお勧めできません。 ■アルミニウムは有害か? アルミニウムは、人体に有害という説があります。以前、単身赴任をしていたとき、熱伝導率が良いためアルミの鍋を使っていたのですが、鍋を洗う度に、黒い色が溶出してくるのが気になって、アルミ鍋を使うのを止めた記憶があります。自宅にもアルミ鍋があったのですが、あまり使う気がしませんでした。今は、IHヒータになったため、わが家にはアルミ鍋はありません。 |
あぶないアルミニウム (※5) 高橋滋也著 三一書房 |
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「あぶないアルミニウム(※5)」は、アルミニウムの過剰投与で起こった透析痴呆とアルツハイマー病が似ていることから、アルミニウムとの因果関係を指摘した著書です。19世紀の終わり頃、ドイツでは、熱伝導の優れたアルミニウムの煮込み料理用のシチュー・パンが普及しましたが、その10数年後にアルツハイマー病第一号患者が出現しているそうです。腎不全にしばしば併発する高リン血症を防ぐために、水酸化アルミニウムゲルを投与していた透析患者が、急性痴呆を起こして死亡したため、解剖して調べると、脳に異常に多くアルミニウムの蓄積が |
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あったことが大きく取り上げられています。 アルミニウムを過剰に投与すると神経毒症等の障害が発生することは、業界団体も認めているようです。ミョウバンは、アルミニウム化合物ですし、胃腸薬の大半はアルミニウム含有量が多く、水道水などにもアルミニウムは含まれています。私たちは、アルミニウムに囲まれて生活をしています。過剰投与から発症することを問題とみるかどうかを含めて、真偽の判断は、私にはできませんが、そういった指摘があるということだけは認識していくべきでしょう。 ■アルミニウムのリサイクル アルミニウム缶のリサイクル率は、日本では90%を超えています(表※6)。アルミニウム二次地金でも触れましたが、アルミニウムのリサイクルは非常に効率が高いといえます。特に、アルミニウム缶は、再生して再びアルミニウム缶にする比率が高いですね。ただし、日本におけるアルミニウム缶の比率は低く、個数では、スチール缶と半々程度です。アメリカでは、飲料缶のアルミニウム缶の比率は、100%に近いそうです。 |
アルミニウム缶のリサイクル率推移 (※6) 重量比 単位は/万トン 経済産業省の統計データより作成 |
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■参考にした図書 ○よくわかるアルミニウムの基本と仕組み/田中和明/秀和システム/20100201第1刷/\1,400+税 ○アルミニウムのおはなし/小林藤次郎/日本規格協会/19920619第10刷/\1,400+税 ○銅とアルミニウムのおはなし/前義治/日本規格協会/20000928第1刷/\1,200+税 ○アルミニウム・現場で生かす金属材料シリーズ/日本アルミニウム協会/20071109初版第2刷/\2,800 ○あぶないアルミニウム/高橋滋也/三一書房/20000115第1刷/\1,500 |
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058 チタンについて(2012年4月25日) |
ジェットエンジンのファンブレード(回転翼)を初めとして、現在、チタン合金はいろいろな分野で重要な役割を果たしています。チタン合金の特色は、軽くて、高温下でも強さを発揮できるところにあります。原子力発電所の多くの部分でも使われていますし、海水に対する耐食性が求められる箇所には、他の金属に比較して格段の性能を持つ純チタンが使われています。また、変わったところでは、酸化チタンは白色の顔料として絵の具や合成樹脂などにも使用されています。 最近知ったのですが、チタンのアメリカの輸入関税率は、日本の5倍の15%だそうです。EUは、日本の倍程度です。 |
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■チタンの歴史 チタン(Ti)は、チタニウムとも呼ばれますが、地球の地殻を構成する成分としては、酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムに次ぎ、9番目(水素を9番目として、チタンを10番目とする考え方もあります)に豊富に存在しています。イルメナイトとルチルが主たる鉱石ですが、二酸化チタン(TiO2)として含有しています。ところが、鉄などと比べて、酸素の分離(還元)が簡単にできなかったことから、チタンの歴史は比較的最近にまで遡ります。 1700年代には、チタン自体は発見されていましたが、金属チタンの抽出に始めて成功したのは、ナトリウム還元法による1910年のアメリカのハンターでした。その次に成功したのは、1925年のオランダのファンアーケルとデボアで、よう化チタンを熱分解することで金属チタンを得ることができました。工業的に四塩化チタンを不活性ガス中でマグネシウムを使って還元する方法を開発したのは、1936年のアメリカのクロールです。特許を取得したのが、1948年ですから、チタンの歴史は、せいぜい100年ということになります。現在も、世界中で製造されている金属チタンのほとんどは、このクロール法で作られています。 1995年に運行を開始したボーイング777では、約60〜70トンのチタンが使われているそうです。日本におけるチタンの工業化は、クロール法による1952年のことです。スポンジチタン(原料用金属チタン)の生産量では、図(※1 日本チタン協会出典)のように、世界のトップ争いをしています。ただし、図(※2 日本チタン協会出典)のように、展伸材(板、管、棒、線などの製品)では、アメリカに水をあけられています。それは、日本には航空機産業が育っていないことも要因としているでしょう。 チタンは、製造過程が複雑で大がかりな設備が必要になるため、高価なものとなります。日本における粗鋼の生産量が1億トン、ステンレスが300万トンに比較すると図(※1,2)のような生産量では、当然、コストパフォーマンスも低くなるのが現状といえます。 |
スポンジチタン(原料用金属チタン)の生産量 (※1) 日本チタン協会出典 |
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■チタンの原石 チタンの原石は、イルメナイトとルチルですが、世界では年間約400万トンが生産されています。その6割がオーストラリア、カナダ、南アフリカを産地としています。日本では、残念ながら、生産されていません。日本には、5〜15%の酸化チタンを含む砂鉄が広範囲に分布していますが、経済的に成り立つ鉱石とは見なされていません。 ところで、このチタン原石ですが、その80%以上が酸化物のまま白色顔料の原料として消費されているのです。製紙などにも多量に消費されています。金属チタンの原料になるのは、せいぜい10%程度といわれています。 ■チタンの物理的特性 「ステンレスについて」で、各金属の物性比較を表にしましたが、チタンはまず、1,668℃とステンレス、鉄、銅、アルミニウムに比べて最も高い溶融点を持っています。比重は、鉄、銅、ステンレスの半分程度で軽く、ただしアルミニウムの倍の重さです。ヤング率が鉄やステンレスの半分ということは、たわみやすいことを示しています。 電気抵抗値が低いということは、電気を伝えにくい性質を持っています。磁性については、常磁性体で、磁場があるとその方向に磁場が向く性質を持っています。鉄は、強磁性体です。 |
チタン展伸材の生産量 (※2) 日本チタン協会出典 |
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<耐食性> 純チタンは、ステンレスをしのぐ耐食性を示します。ステンレスより強固な「不動態皮膜」を形成します。一般論ですが、他に以下の様な性質を持っています。 ・硝酸のような酸化性の酸には特に強い耐食性を持っています。 ・塩酸や硫酸のような非酸化性の酸には腐食されますが、酸化剤を少量添加すると腐食は止まります。 ・微量の水分さえあれば、塩素ガスにも耐えます。 ・亜硫酸ガスや硫化水素にも耐えます。 ・ほとんどの有機酸に対して優れた耐食性を示します。 ・アルカリである高温・高濃度の苛性ソーダと苛性カリには腐食されます。 ・流動海水中では、摩耗現象を起こしにくく、完全な耐食性を示します。 <水素の問題> 製造過程で還元性の雰囲気で加熱すると水素を吸収する問題(通常は、真空、不活性ガスあるいは酸化性雰囲気で加熱する)もありますが、腐食反応が起きると水素が発生します。その水素をチタンが吸収すると、チタンのじん性(粘り強さ)が極端に低下します。ただし、温度が80℃以上にならないと、水素の吸収は急速には進行しないといわれています。チタンの製造には、大がかりな設備が必要なのは、水素を初めとして、炭素や窒素などとの反応が起きやすいからです。 <高温酸化> チタンは、600℃を超えて空気中で長時間加熱を続けると酸化が進行するといわれています。そのため、ジェットエンジンのタービンブレードの限界温度は590℃だといわれています。 |
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■チタン合金 チタンも機械的性質の改良のため、純チタンにアルミニウムなどの合金元素を加えて、チタン合金が作られます。α合金(最密立方晶)、β合金(体心立方晶)、α−β合金に大別されます。チタンは、885℃で同素変態(固体のままで結晶構造が変わる)して、α相からβ相に変わります。α−β合金は、両方が共存する状態です。それぞれに特徴があります。形状記憶合金は、チタンとニッケルの合金が一般的です。アニメのガンダムシリーズに出てくる「チタン合金セラミック複合材」は、実際には存在しません。 また、添加するというよりも、チタンをベース金属としたアルミニウムとの金属間化合物も加工性の良さから注目されています。 ■チタンの加工と接合 チタンもステンレスと同じような加工がなされますが、加工性は決してよくありません。また、チタンの接合には、溶接、ろうづけ、圧着、圧延圧接などが用いられます。 ■表面処理 陽極酸化(チタンを陽極にして、薄いリン酸溶液中に漬けて電圧をかけると、チタン酸化膜が形成されます)の厚さで、虹色、黄金色、ブルー、オパールなどの色調が得られます。厚さは、電圧を変えることにより変わります。 ■チタン建材 1973年、大分県佐賀関町の早吸日女神社(はやすひめじんじゃ)の伊邪那社(いざなぎしゃ)の屋根が、世界で始めて純チタン(板厚0.4mm)で葺かれました。写真(※3)は、早吸日女神社のホームページから引用させて頂きました。表面は、陽極酸化により黄金色にしたそうです。神社のホームページを見ると、1990年には塗り替えられているようですが、約40年を経ていることになります。それが、福岡ドームの屋根に純チタン(板厚0.3mm/48,500u/約120トン)が使われる所以となったものと思われます。テレビでよく見るフジテレビの球形外壁もチタンです。 チタン建材が普及することを阻害している大きな要因は、コストでしょう。また、加工しにくさもあります。しかし、ゴルフクラブやメガネフレームもかなりの比率でチタン合金が使われるようになっています。私もチタン合金のメガネをしていますが、軽いことや破損しにくいことなど多くの利点がチタンにはあります。人工股関節やインプラントなども、チタン合金が主流になりつつあります。機械的性質の他に、人体への無毒性が優れているからです。 |
大分県佐賀関町の 早吸日女神社の伊邪那社 (※3) 早吸日女神社のホームページより |
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■チタンと環境問題 チタン資源は、地球上には豊富に埋蔵している(約5億トン)ことから、当面の心配はないと見られています。また、金属チタンの需要が全生産量の10%程度ということは、鋼材などの他の金属のような市場操作を受けにくいともいえます。しかし、金属チタンのリサイクルは、未だ確立されているとはいえません。しかし、量的拡大が進めばその可能性は高いといえます。チタンの耐食性の高さなどの特性を考えると、多くの可能性を秘めているといえるのではないでしょうか。 ■参考にした図書 ○チタンのおはなし改訂版/鈴木敏之/日本規格協会/20030521改訂版/\1,600+税 ○金属チタンとその応用/草道英武、村上陽太郎、木村啓造、和泉修/日刊工業新聞社/19831215初版/\3,700 ○日本のチタン産業とその新技術/草道英武、井関順吉/アグネ技術センター/19960520初版/\4,500+税 |
開閉式チタン屋根の福岡ドーム 福岡ドームのホームページより |
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057 ステンレスについて(2012年4月15日) |
■ステンレスは錆びない? 「錆びる」ということは、金属の表面が水分などと反応して、酸化物や水酸化物という反応生成物で覆われる状態になることをいいます。ステンレスは、一般の鋼に比較して、極めて耐食性の高い(錆びにくい)材料ですが、海水のような過酷な環境、強い酸などの環境によっては「錆びる」こともあります。 また、「もらい錆び」といって、ステンレス自体は錆びていないのですが、錆びた鉄分が飛んできて、ステンレスに付着した事例が良くあります。これもそのままにしておくと、錆びた鉄分がなかなか取れづらくなり、もらい錆を起点としてステンレス自体に錆が発生することもあります。 ステンレスの表面は、非常に薄いクロムの酸化皮膜で覆われています。この酸化皮膜を<不動態皮膜>といいますが、密着性が高く、空気や水の浸透を防ぐ機能を果たしています。その不動態皮膜が何らかの原因で、脆くなるとステンレスといえども錆びることになるのです。ステンレスはあくまでも鉄を主成分とするステンレス鋼という合金鋼なのです。 ステンレス鋼は、鉄とクロム、または鉄とクロムとニッケルの合金がベースとなっています。それに各種の特性を向上させるために、モリブデン、銅、ケイ素、マンガン、窒素などを添加した合金鋼です。クロム量が11〜12%に達すると、錆の発生が抑えられることが判っています。図(※1)は、アメリカのR.J.SchmittとC.X.Mullenの暴露試験結果ですが、クロムが12%を超えた付近から急激に、平均浸食深さが”0”に近づくのが良く判ります。 |
R.J.SchmittとC.X.Mullenの暴露試験結果(※1) |
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■ステンレスの歴史 インドのデリー市郊外の世界遺産クトウブ・ミナール内にある「デリーの鉄柱」は、鉄分99.72%といわれる高純度鉄で作られているといわれています。地上7mに現れた鉄塔の表面にサンスクリット語の碑文が刻まれていますが、建てられたといわれる紀元415年から1600年近くの年月を経ていますが、錆が進行しないため、神秘の鋼といわれています。この柱は、インドに古くから伝わる製鋼技術ダマスカス鋼の製法で作られたと考えられています。 ダマスカス鋼は、鉄の鎧を切断するほどの切れ味を持つものとして、十字軍時代には、刀剣として珍重されました。その歴史は、紀元前1500年ころまで遡るという説もありますが、近代文明が再び、そのダマスカス鋼に注目したのは、英国王立協会のマイケル・ファラデーが1820年頃に研究を始めるまで時代は下がります。ちなみに、ダマスカス鋼には表面に「ダマスカス模様」と呼ばれる波紋があります。波紋の形状は異なりますが、性質の異なる鉄と鋼を束ねて、焼き入れをしながら鍛切を繰り返すことによって生まれる、日本刀の波紋と同じものだといわれています。 マイケル・ファラデーなどがダマスカス鋼を研究したのですが、ダマスカス鋼(ウーツ鋼)を得ることはできませんでした。現在では、ダマスカス鋼はインドの特定の地域に産する鉄鉱石による炭素鋼と見なされています。そして開発されたのが、白金を10%程度添加した白金鋼といわれる鋼材でした。しかし、白金は非常に高価なため、工業的には利用されませんでした。その後、幾多の研究が続いたのですが、クロム鋼を研究して、現在の成分に近いマルテンサイト系ステンレスの基礎的な研究を発表したのが、1904年のフランスのギレーです。しかし、ギレーの研究を引き継いだフランスのポートヴァンにしても、不動態についての説明がなく、純粋な意味でのステンレスの発見者とは認められていません。 そして1911年、ドイツのモンナルツが鉄−クロム合金を研究して、クロムが12%以上になると硝酸や水・大気中での耐食性が改善されることを発見し、始めて不動態に言及し、特許を取得しています。1912年には、ドイツのクルップ社が18−8系ステンレスの特許を取得するなど、特許申請が続きます。また、イギリスのブレアリーは1916年ころからアメリカ、フランス、日本などで特許を取得しています。そのため、ステンレス鋼の発明者として、ブレアリーが上げられます。彼は、さび・しみ(stain)のない(less)鋼の名付け親でもあります。このように、ステンレスの歴史は、この100年に渡る実用化の歴史でもあるわけです。 日本においても、1918年、旧八幡製鉄所が13クロム系の研究に着手して、1933年に18−8系オーステナイトステンレスの工業化に成功しています。日本では、およそ12%以上のクロムを含むものをステンレスとしていましたが、1988年に国際統一されたため、現在では、炭素が1.2%以下、クロムが10.5%以上で、鉄以外の合金元素の合計が50%を超えないものをステンレスとしています。 |
日本におけるステンレス鋼の生産量 (※2) ステンレス協会のホームページより 世界のステンレス粗鋼生産量 (※3) ステンレス協会のホームページより |
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■ステンレスの生産量と製品 日本におけるステンレス鋼の生産量は、300万トン前後を推移しています。かつては、世界一の生産量を誇っていましたが、2006年に中国に追い越されてから、かなり水をあけられるようになりました。ステンレス協会のホームページに日本におけるステンレス鋼の生産量と粗鋼生産量のグラフがありましたので、参考にさせて貰いました。図(※2)は日本のステンレス鋼生産量、図(※3)は世界のステンレス粗鋼の生産量のグラフです。 ちなみに、日本における鉄の粗鋼の生産量は、1億トン前後(世界2位)で推移しています。ここでも中国の勢いは凄まじく、2010年には6億トンを超え、世界の粗鋼生産量の過半を占めようとする勢いです。 ステンレスの製品には、鋼板、形鋼、平鋼、棒鋼、線材、管材などがあり、これ以外に鋳造品、鍛造品、ステンレス粉末なども供給されています。このうち鋼板が約75%の比率を占めています。 ■不動態皮膜(表面皮膜)に発生する「孔食」「すきま腐食」「応力腐食割れ」など 鉄に希硝酸をつけるとその部分が溶解しますが、濃硝酸に浸すと溶けなくなります。これは、酸化物の皮膜が鉄の表面を覆うためです。同様に、鉄にクロムを添加すると鉄の表面にクロム酸化物の皮膜ができて耐食性に優れたステンレスとなります。この皮膜のことを不動態皮膜といいます。厚さ数nm(ナノメートル/0.0000数mm)の厚さの水和オキシ水酸化クロムの皮膜です。 |
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ステンレス自体のクロム含有量に関わらず、不動態皮膜は90%のクロムによるアモルファス状の非常に密着性の高い皮膜となります。ステンレスではありませんが、チタンも表面にチタンの酸化物の不動態皮膜によって、優れた耐食性を発揮しています。 しかし、海岸地帯や海中など塩素イオンが豊富な場所では、電気反応により不動態皮膜が腐食することがあります。それをステンレスの「孔食(こうしょく)」といいます。その部分からは、ステンレスといえども錆びが発生します。ステンレスの主成分は80%以上は鉄なのです。その対策から生まれたスーパーステンレスという材料は、クロム、モリブデン、窒素を多量に含有しています。関西国際空港旅客ターミナルビルのスーパーステンレスは、クロム30%、モリブデン2%の成分です。 一般の設備でも、最近はステンレスの配管が増えてきていますが、フランジをボルト、ナットで締め付けた部分やガスケットの当たり面などで、孔食と同様に、塩素イオンの電気反応で不動態皮膜が局部的に破壊されて、その部分が優先溶解することがあります。これをステンレスの「すきま腐食」といいます。原子力発電所では、すきま部分にシリコンゴムを注入して対策をしています。 部品加工の段階での応力や溶接時の残留応力により、「応力腐食割れ」が発生することがあります。柔らかくて加工しやすいといわれるオーステナイト系ステンレスでよく発生する現象です。これも、塩素イオンによる不動態皮膜の破壊を初因として、ステンレスの溶解、亀裂の発生に至ります。また、溶接時の加熱によりクロム濃度の低い領域が発生することにより、腐食が起きることを「粒界腐食」といいます。他には、バクテリアや藻によって発生する「微生物腐食」などが知られています。 |
ステンレス表面の不動態皮膜イメージ図 |
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■ステンレスと異種金属接触腐食 電位の異なる2つの金属が接触すると、イオン化傾向の低い金属の腐食が助長されるのは、ステンレスにおいても同様です。鉄の部材同士をステンレスボルトで緊結すると、鉄部の腐食は鉄のボルトを使ったよりも遙かに早く腐食します。これを防ぐには、接触しないように絶縁しなければなりません。なお、鋼種が異なるステンレス同士の場合は、自然電位が同一のため、異種金属接触腐食は起こりません。 ■ステンレスの種類 <クロムとニッケルの含有量による分け方> ●13クロムステンレス クロムを13%含んでいます ●16クロムステンレス クロムを16%程度含んでいます ●18−8ステンレス クロムを18%、ニッケルを8%含んでいます <金属組織の種類による分け方> 炭素濃度0%の純鉄を高温の溶けた状態から温度を下げていくと凝固が始まります。最初に、フェライト(純鉄の場合α鉄と呼ぶ)が現れ、次に約1,390℃の段階になると、オーステナイト(純鉄の場合γ鉄と呼ぶ)が出てきます。さらに約910℃までゆっくり温度を下げるとオーステナイトが再びフェライトに変わります。 |
代表的なステンレスの種類 (※4) |
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●オーステナイト系ステンレス 鉄原子がぎっしり詰まった状態にありますが、比較的軟らかく、加工しやすいクロム・ニッケルステンレスです。オーステナイト系ステンレスのみ非磁性体ですが、加工を繰り返すことで、組織がマルテンサイト化して磁性化することが知られています。一般的に耐食性に優れ、家庭用品や建築内外装、タンク、原子力設備などに利用されます。SUS304は、オーステナイト系ステンレスです。 ●マルテンサイト系ステンレス オーステナイトを急冷することによって、結晶内に多くのひずみが生まれ、硬い性質になったクロムステンレスです。急激に冷やされるため、炭素・窒素が逃げられない構造をしています。刃物などの硬さが求められる用途に適しています。磁性を有しています。炭素が含まれるため、ステンレスの中では最も耐食性が低いレベルにあります。ステンレスのナイフや包丁が錆びることがあるのはそのためです。ステンレスにとって、炭素(カーボン)は耐食性を一番劣化する元素なのですが、マルテンサイト系だけは硬さや強度を生み出すために、炭素を含んでいるという特徴があります。 ●フェライト系ステンレス 炭素をほとんど含まず、軟らかく変形し易い組織を持つクロムステンレスです。高価なニッケルを含まないため、比較的低価格で、加工しやすい磁性体のステンレスです。しかし、強度は高くなく、脆くなりやすい性質を持っています。SUS430は、フェライト系ステンレスです。18%程度のクロムを含むものが大部分を占めていますが、最近は、高純フェライト系ステンレスと呼ばれる、クロム量を30%近くまで上げた高品質なものが出てきています。いずれも磁性を有しています。 ●析出(せきしゅつ)硬化型ステンレス 耐食性の良いステンレスに析出硬化によって高い硬さ、強度を付与したクロム・ニッケルステンレスです。 ●二相(にそう)ステンレス オーステナイト・フェライト系ステンレスともいわれる、混在した金属組織を持つクロム・ニッケルステンレスです。オーステナイトやフェライトよりも強度が高く、比較的新しい種類です。 かつては、磁石に付かないステンレスは高級だということがいわれましたが、磁石に付くステンレスでも耐食性に優れた種類が出てきています。また、オーステナイト系ステンレスであるSUS304は非磁性ですが、強く加工したところはSUS304でも磁石に付くことがあります。JIS規格の記号と代表的なステンレスの種類、化学成分をまとめた表(※4)を参考にしてください。 |
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■ステンレスの特性 <物性性質> ステンレスと他の金属の物性性質を比較したものが、表(※5)です。チタンとアルミニウムの比重が際立って低いことがわかります。アルミニウムの溶融点が最も低いですね。熱膨張はチタンが非常に低いです。電気抵抗はステンレスが非常に高いことなどが判ります。 <熱による膨張が比較的高い> チタンの熱膨張が低いことは前述しましたが、ステンレスの熱膨張がアルミニウムほどではありませんが、比較的高い特性を示します。ステンレスの配管を使用したとき、温度変化による伸び縮み量が大きいので、施工直後は接続部分からの漏れに注意を要します。 <熱伝導が低い> ステンレスにはクロムとニッケルが含まれているため、熱伝導が低くなります。鉄と比べると、クロムステンレスで約1/2、クロム・ニッケルステンレスで約1/3の熱伝導率です。アルミニウムは、鉄の4倍の熱伝導率を持っています。 <ステンレスの硬さ> 種類が多いため一概には断定できませんが、硬い順に並べると、マルテンサイト>オーステナイト>フェライトのようになります。また、圧延などの加工を加えるとさらに硬くなるという特性があります<加工硬化現象>。 |
金属材料の物性比較 (※5) |
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<ステンレスの機械的特性> ステンレスは、非常に種類が多いため、機械的特性もバラエティに富んでいます。試験片による引張試験等のデータが表(※6)です。0.2%耐力とは、ステンレスなどのように明確な降伏点を示さない材料の場合、0.2%のひずみに達した強度をもって降伏点とすることにしています。この表をみると、オーステナイトやフェライトは軟らかく、マルテンサイトや二相、析出硬化型は硬く、引張りにも強いことが判ります。 <耐酸化性> ステンレスは、密着性の良いクロムの酸化物が金属下地を保護しているため、酸化による影響を受けにくい材料です。その性質は、最高約900℃までの加熱にも耐えられます。酸化という視点から見ると、鉄は450℃付近が限界といわれていますので、倍強いことになります。 |
代表的なステンレス鋼の機械的特性 (※6) 「ステンレスの基本と仕組み」より |
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<耐熱性> ステンレスは、種類により結晶構造が異なるため、600℃まではマルテンサイト系、それ以上の温度ではオーステナイト系が使用されます。発電所の蒸気タービンなどはマルテンサイト系が使用されていますが、化学プラントやガスタービンなどではオーステナイト系が使用されるのはそのためです。 <耐低温性> 鋼はもちろんですが、マルテンサイト系、フェライト系のステンレスは低温になるほど脆くなります。しかし、オーステナイト系は、ほとんど影響を受けません。それも結晶構造の違いから生まれる性質です。冷却して液体化した、液化天然ガスの運搬船のタンクには、オーステナイト系が使用されるのはその理由からです。 <ニッケルアレルギー> 日本人にはあまり馴染みがないのですが、白人系の人では、ニッケルアレルギーによる接触皮膚炎の問題から、「Ni規制」が厳しく実施されています。欧米では、ニッケルを含むオーステナイト系などのステンレスが一時問題になりましたが、含有量ではなく、溶出量基準で規制されることになり、まったく問題がないとの結論になりました。インプラントなどでもステンレスが使用されています。宝石類にもステンレスが使用されていますね。 ■表面仕上げ |
ステンレス屋根を採用した札幌ドーム 2008年6月20日撮影 |
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ステンレスの表面仕上げは、表(※7)のようにJISで13種類が定められています。ステンレス板は、最初に高温で圧延された熱間圧延鋼板が製作されます。この熱間圧延鋼板の表面を酸で洗い、汚れ等を取り除いたものが<No.1>と呼ばれる表面仕上げで、光沢はまったくありません。一方、熱間圧延鋼板をさらに室温で圧延すると冷間圧延鋼板になります。その冷間圧延鋼板の表面を酸洗いしたものが<2D>と呼ばれる銀白色をした鈍い光沢がある表面仕上げになります。一般には、ほとんど流通しません。 2Dをさらに適度な光沢を与える程度に冷間圧延をしたものが、<2B>になります。DはDull(鈍い、くすんだ)、BはBright(輝く)の意味です。冷間圧延後、光輝熱処理とスキンパスをして綺麗な光沢を出したものが<BA>になります。磨きをかけずに市場に出てくる製品はBAが一般的です。 |
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2Dや2Bを研磨ベルトで研磨したものが、砥粒の違いにより<No.3>〜<#400>仕上げになります。また、ヘアライン仕上げの<HL>や、梨地仕上げの<No.6>、準鏡面の<No.7>、高い鏡面仕げ上の<No.8>などは有名ですね。 JISで規定された表面仕上げ以外にも、多様な仕上げがあるのがステンレスです。主なものを列記してみます。 ●エンボス 機械的に模様を彫り込んだエンボス用ロールで圧延したものです。 ●エッチング エッチングの技法で、意匠図案を描いたものです。 ●ダル仕上 ロールに加工を加えて、粗面を製品に転写したもので、表面仕上げの2Dと同じものです。メーカーによっては、ショットブラストで加工するところもあります。にぶい灰色のつや消し仕上です。デジタルカメラなどでは、ダル仕上をしたものにクリア塗装をすることにより、意匠性と耐指紋性を向上させた製品が多く出ています。 ●電解研磨 電解溶液中で研磨物体を陽極として電解する方法です。特有の光沢を持つ仕上げになります。また、表面に不動態皮膜も形成されます。 ●化学研磨 電解を利用しないで、研磨液に浸すだけで研磨する方法で、短時間に多量のものが均一にできます。 ●溶融塩法 重クロム酸ソーダの溶融塩液に浸すと、密着性の良い黒色仕上げが得られます。 ●酸性黒色酸化法 硫酸に酸化剤を加えた溶液に浸すと、数種の色調が得られますが、密着性・耐摩耗性は充分ではありません。 ●インコカラー法 硫酸に無水クロム酸を加えた水溶液に着色して浸します。皮膜の厚さにより、ブロンズ、ブルー、ゴールド、レッド、グリーンの色調が得られます。しかし着色膜は多孔質のため、クロム酸とリン酸の混酸中で陰極電解処理を行うことで、密着性・耐摩耗性が良いカラーステンレスが生まれます。 |
ステンレスの表面仕上げ (※7) JISによる |
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●塗装法 合成樹脂系の塗料を焼き付け塗装をします。その他、メッキも可能です。最近は、色を付けるというよりも、ステンレスの金属色を活かし、耐指紋性を向上させるために、クリア塗装をするものが多く出ています。家電品のステンレスの多くは、クリア塗装がなされています。クリア塗装自体にも、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、フッ素系などがあります。 ■特殊なステンレス ●抗菌ステンレス ステンレス自体には、抗菌作用はありません。ところが、細胞毒性がある銀や銅などを添加すると、不動態皮膜の一部から銀や銅が溶け出してきて、細菌に反応して、菌の増殖を防ぐことができるのです。添加型の場合は、表面を研磨しても抗菌機能は持続します。また、表面仕上げ後のステンレスに銀などを表面塗布して抗菌効果を持たせた製品もあります。 ●快削ステンレス ステンレスは、硬度が高いため一般の鉄よりも削りにくいのですが、削りやすくしたステンレスもあります。JISに規定されている改削ステンレスは、硫黄を0.3%程度含ませた硫黄改削鋼です。切削性向上のため、あえて不純物でもある硫黄を添加しているのです。錆びやすく、脆くなる性質を持っていますので、注意する必要があります。 ■ステンレスの加工 ステンレスを成形する方法は、プレス成形の他、回転する板や管にへらやローラーを押しつけて成形するスピニング加工(へら絞り)があります。その他水力発電所に使われる水車などは鋳型で作られます。鋳造方法も各種ありますが、ゴルフクラブはロストワックス鋳造法で作られます。変わった方法では、ステンレスの粉末を押し固めて、高温加熱する粉末冶金法があります。ねじやボルト、ナット類は、切削加工や冷間鍛造法で作られます。ステンレスは、鉄に比べて熱伝導率が低いために、切削時の加工熱が工具のチップ先端にこもりやすい問題があります。 ステンレスの接合方法には、ネジ止め、焼きばめ(加熱膨張した穴に、別な部材を入れて、冷却して固定する)などの機械的接合法やろう付け、圧接、溶接などがあります。オーステナイト系は、溶接施工性が良好で割れなどの発生が少ないのですが、溶接による熱影響からの耐食性低下が注意事項です。 ■ステンレスと環境問題 ステンレスは、鉄を主成分としてクロム、ニッケルなどの鉱物資源から生成されますが、日本では添加物を含めて、そのほとんどを輸入に頼っています。鉄鉱石の過半はオーストラリアから輸入しています。日本国内のステンレスの蓄積量は300万トン程度ですが、確実に増加しています。ステンレスは、比較的高価なことと、腐食しにくいため、リサイクルされやすいともいえます。現在使われているステンレス鋼の約半分がスクラップから再生されたものといわれています。 現状のリサイクル率は、オーステナイト系が90%を超えていますが、フェライト系・マルテンサイト系は数パーセントといわれています。それは、オーステナイト系は非磁性(磁石につかない)のため鉄スクラップとの分別がしやすいからです。 ニッケルアレルギーの問題がないと断定されたことからも、ステンレス鋼からの金属元素の溶出特性は極めて少ないため、食器や食品容器を初めとして水道等の配管等にも使用されています。また、工場やプラント、処理場などの腐食環境が厳しい箇所には、必ずステンレスが使用されています。鉄に比べてイニシャルコストは高くなりますが、ランニングコストを加算したライフサイクルコストを考えると、ステンレスの優位性はこれからも増していくでしょう。 |
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■参考図書 ○図解入門 よくわかる ステンレスの基本と仕組み/飯久保知人/秀和システム/20100806第1版/\1,365+税 ○現場で生かす金属材料シリーズ ステンレス/橋本政哲/(株)工業調査会/20071020初版/\2,800+税 |
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056 太陽光発電について(2012年4月8日) |
地球の約109倍の直径を有する太陽の核融合により放射するエネルギー量は9兆kcal×(10の10乗)/秒、そのうち地球に到達するエネルギー量は42兆kcal/秒です。概ね21億分の1のエネルギー量しか届いていないことになります。しかも、そのうちの30%は、大気や雲、海、地表面に反射して宇宙へ放出されています。 地球全体に降り注ぐ太陽光のエネルギーの100%変換が可能であれば、世界の年間消費エネルギーをわずか1時間程度でまかなうことができるといわれています。現実的にはあり得ませんが、膨大な可能性を秘めているのは間違いありません。 太陽のエネルギーを利用した発電としては、 太陽光発電 太陽電池を利用して、太陽光のエネルギーを電気に変換する 太陽熱発電 反射鏡により太陽光を集光させて、 その熱で発生させた高温蒸気によりタービンを回して発電する の二つの方式がありますが、今回は、太陽電池による太陽光発電についてです。 |
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■太陽光発電の歴史 物質に光を当てると電気が発生するという光起電力(ひかりきでんりょく)効果が発見されたのは、フランスのアレクサンドル・エドモン・ベクレルによる、1839年のことでしたが、それが実用化に発展するには100年以上も時を経なければなりませんでした。太陽光発電に利用される太陽電池は、1954年、アメリカのベル電話研究所において、トランジスタの研究開発の副産物として発明されたシリコン太陽電池でした。1958年、アメリカ海軍がヴァンガード1という人工衛星に太陽電池を搭載したのが実用化の第一歩です。ヴァンガード1は、現在も地球の軌道上にあります。 日本では、1955年に日本電気、1959年にシャープ、1975年に京セラが太陽電池の開発に着手、同じ年に三洋電機がアモルファスシリコン太陽電池の研究を開始しています。世界初の太陽電池を搭載した電卓は、1976年発売のシャープのEL−8026(発売価格2万4800円)といわれています。ただし、アメリカのロイヤルタイプライター社が先だという見方もあります。日本初の住宅用太陽光発電システムを発売したのは、1993年の京セラです。 |
地域別の太陽電池生産量 (※1) NEDOの資料より |
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日本には、太陽光を熱エネルギーとして利用する文化が古来からありましたが、1973年に起きた第四次中東戦争を契機とする第一次石油危機により、太陽光エネルギーを石油の代替エネルギーとして利用しようとする考え方は、当時の通産省が策定したサンシャイン計画という長期エネルギー戦略につながることになりました。そこから当時主流であった多結晶シリコン型や、さらにはアモルファスシリコン型の研究開発が進められました。1980年には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が創設され、ソーラーシステム普及促進融資制度が設けられています。 二度の石油危機を経た日本は、1993年に、地球環境保護を盛り込んだニューサンシャイン計画を策定します。日本の太陽光発電の生産量・導入数が世界一位となったのはそれからです。2003年には、電力会社に買取を義務づけたRPS法が施行されます。しかしながら、太陽光発電を再生可能なエネルギーとして積極的に導入したドイツに、2004年には設置数では抜かれることになります。さらに中国メーカーのこの分野での進出は凄まじく、2009年の地域別の太陽電池生産量は、図(※1:NEDO資料より)のようになっています。「その他の国」では、中国の驚異的な伸びが目立っています。2010年度の企業別太陽電池生産量では、世界の1、2、4、5位が中国メーカー、3位がアメリカ、日本ではシャープが8位にかろうじて入っている状態です。 |
各種の発電システムとCO2排出量の関係 (※2) 住友電工SEIテクニカルレビュー2008年1月/172号を参考に作成 |
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日本では、中断していた住宅用太陽光発電システムの設置に対する補助制度を2009年1月には復活させました。そして、東日本大震災による大打撃を受けた日本では、原子力行政の反省から、太陽光発電などの再生可能エネルギーへの移行が進むかにみられましたが、まだまだ多くの問題を抱えています。脱原子力を決定したドイツにおいても、買取価格の引き下げ、廉価な中国製品の算入によるドイツ国内メーカーの不振などから曲がり角に来ているといわれます。とはいえ、後戻りはできないでしょう。問題をヒントとして解決してきた人類の歴史が示しているといえます。幾多の議題があるといえども、進み出した太陽光発電へのシフトは、間違いなく急拡大していくものと思われます。 ■発電システムとCO2排出量 各種の発電システムとCO2排出量の関係は、グラフ(※2:住友電工SEIテクニカルレビュー2008年1月号/172号を参考に作成)のようになっています。原子力のうち、BWRは沸騰水型原子炉、PWRは加圧水型原子炉のことです。LNGでは、蒸気タービンによる発電をLNG汽力、汽力発電とガスタービン発電を複合したものをLNG複合といいます。LNGや石油、石炭による発電による炭素ガス排出量がいかに凄まじいものかが理解できます。原子力発電に頼ることができなくなった今、太陽光、水力、地熱、風力の自然エネルギーの重要性が再認識できるといえましょう。 全世界で、カーボン(C)に換算して、年間約60億トンの炭酸ガス(CO2)が排出され、約半数の30億トンが太陽エネルギーによる光合成で酸素に還元されていますが、残りの約30億トンは大気中に蓄積されています。 |
各国の電気料金比較 (※3) エネルギー白書2010より |
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■太陽光発電のメリットとデメリット <メリット> ・二酸化炭素をほとんど発生しないため、クリーンな発電 ・資源は太陽光のため、枯渇の心配がない ・太陽光が照射する場所であれば、どこでも発電が可能(砂漠も可) ・発電システムが単純なため、メンテナンスが簡単で故障も少ない ・発電場所と消費場所を同じにできる(送電ロスが少ない) ・可搬可能な電源として利用できる <デメリット> ・他の発電システムに比較して、発電コストが高い ・設置には、大きな面積が必要 ・発電量が天候に左右される ・夜間発電はできない |
各国の電源別電力供給構成の比較 (※4) エネルギー白書2011より |
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■国際的な電気料金の比較と電力構成比較 電気料金は、各電力会社により異なり、基本料金や従量制などの条件があり、国際的な比較は難しいのですが、IEA(国際エネルギー機関)の資料をもとに、各国の家庭用と産業用の電気料金の推移を比較したものがエネルギー白書2010に掲載されていましたので、引用させて貰いました(図※3)。太陽光発電の先進国であり、脱原子力発電を決めたドイツは、2008年と2009年の料金を公表していませんが、イタリアに並ぶ高位置にいるのは間違いありません。また、原子力問題からも、日本の電気料金はさらに上がる状況にあります。 また、2010年度の国際的な電源別の供給構成の比較がエネルギー白書2011に掲載されていましたので、引用(図※4)させて貰います。特に、この白書2011には、東日本大震災の被災関連が詳細に出ています。非常に参考になる資料だと思います。供給構成をみると、日本は天然ガス(27%)、石炭(26%)、原子力(24%)の3つが大きな比率でしたが、原子力が今後下がっていくものと思われます。フランスの原子力依存度が高いのが際立っています。日本の再生可能エネルギー他の比率が欧米や中国と比較しても低いのも気になります。 |
各エネルギー源の発電コスト・CO2削減費用 (※5) エネルギー白書2010より |
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■日本における発電コスト 最近、新聞紙上等にもよく取り上げられるニュースになってきました。エネルギー白書2010をみると、表(※5)のようなコスト比較になります。ただ、この比較には、たくさんの異論があります。このグラフでは原子力の耐用年数を恐らく40年として計算していると思われますが、法定耐用年数の比較(原子力発電所は16年)をすると、原子力は2円くらい上がるとか、原子力被害を算入するとさらに高くなるといった論議が出ています。ネットでは、太陽光発電と原子力のコストが逆転するといった意見もありました。まあ、太陽光発電のシステム料金が大幅に下がらない限り、逆転は難しいと思いますが、CO2削減の問題を含めて、発電コストだけで比較するわけにはいかなくなったことが現実だと思います。 NEDOのホームページをみると、日本の国家的戦略として、発電コストを、2020年までに14円/kWh、2030年までに7円/kWhを実現するとしています。それが達成できるならば、原子力の意味は確実になくなるでしょう。(※6) ■太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移 図(※7)は、エネルギー白書2010に出ていた、資源エネルギー庁調査の太陽光発電の国内導入量と太陽光発電のシステム価格の推移を示したものです。図(※8)も同じく太陽電池の国内出荷量の推移のグラフです。原子力問題からも、導入量の急激な上昇が予想されます。 |
低コスト化のシナリオ (※6) NEDOの資料より |
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■太陽光発電の買取価格 2009年11月から、日本国内の太陽光発電の買取が再スタートしています。2010年度までは、住宅用が48円/kWh、非住宅用が24円/kWhでしたが、2012年度の4月段階の買取価格は、住宅用が42円/kWh、非住宅用が24円/kWhになっています。資源エネルギー庁のホームページをみると図(※9)のように、住宅用の普及が進んで、買取価格が下がっています。逆に非住宅用は普及が伸び悩んでいるため、上昇しています。一般の電気料金よりは高く、平均発電コストよりは低く設定されています。 2012年の7月から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」がスタートしますが、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスを用いて発電された再生可能エネルギーによる電力を、一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることが義務づけられます。住宅等における太陽光発電については、従来通り余剰電力のみの買取となりますが、それ以外の太陽光発電は全量買取となることから、メガソーラーの建設が進むとみられています。とはいえ、将来的には買取価格が下がっていくことは予想されます。 ■発電能力と発電量と変換効率 太陽電池の出力(発電能力)を示すのに、kWで最大公称出力をあらわします。実際は、日照条件により出力が変わることになりますが、快晴時のピーク出力でも最大公称出力の70〜80%とされています。最大公称出力が3kWの太陽電池の場合、ピーク出力は2.1〜2.4kWです。一方、発電量はkWh(キロワットアワー)で示されます。つまり太陽電池が1時間当たりに、実際に発電した量が発電量になりますので、最大公称出力に時間をかけても発電量にはなりません。天候等に大きく左右されるのです。ネット上には、地域と太陽光発電のシステム等別にシミュレーションをしてくれるサイトもありますので、試してみるとよいでしょう。 |
太陽光発電の国内導入量とシステム価格の推移 (※7) エネルギー白書2010より |
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日本各地の年間の日照時間を都道府県別に示したものが、表(※10)です。宮崎県、高知県、山梨県などが例年上位を占めています。このデータをもとに、太陽電池を真南に傾斜角30度で設置した場合の日本各地の発電量などが、各所のホームページに出ています。NEDOでは、日本各地の日射量を推定するデータベースも公表しています。それらをみると、日本では、日本海側が冬の日射量が少ないため、太平洋側に比べて年間発電量が少ないことがわかります。北海道は、意外と善戦していますね。 日射量は、季節によって変化しますが、ほとんどの地域で発電量が最も多いのが、5月です。それは、太陽電池は温度が高くなると発電量が少なくなる特性を持っているからです。これは、北海道が善戦した理由の一つでもあります。また、北海道は、水平日射量に対する斜面日射量の比率が高いことも要因としています。北海道は、積雪の問題を解決できれば、太陽光発電に向いた地域なのです。 太陽電池の性能をあらわす指標に、変換効率があります。 変換効率=最大出力/入射した太陽光エネルギー 要するに、光のエネルギーをどれだけの割合で電気エネンルギーに変換して出力したかということです。モジュール別の変換効率の比較は、表(※11:太陽電池の種類)をご覧ください。 |
太陽電池の国内出荷量の推移 (※8) エネルギー白書2010より |
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■太陽電池の種類と変換効率の比較 太陽光発電に用いられる太陽電池は、結晶系シリコン系とアモルファスなどの薄膜系シリコンと化合物系があります。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の資料から引用させてもらった表(※11)です。 市場は、多結晶Si(シリコン)、単結晶Si、アモルファス(非晶質)Si、単結晶Siヘテロ接合の結晶系で占められています。アモルファスSiは、結晶Siと比較して発電効率が低く、市場のシェアは小さいのですが、微結晶Siと組み合わせて効率を高めた薄膜Siハイブリッドと呼ばれるものが市場に投入されています。 シリコン(ケイ素)は、地殻を形成する物質としては、酸素の次に多い物質です。無限に近い埋蔵量が砂や岩石の中に含まれています。しかし、純度の高いシリコンを作るためには、膨大な電気を使用します。CPUなどの電子デバイスに使われるシリコンは、99.999999999%の「イレブンナイン」という高純度が要求されますが、太陽電池に使われるシリコンは、それほどの純度は求められていません。とはいえ、9が7つか8つは並ぶ必要があるため高価なものとなっています。 一方、シリコンを使用しない、銅とインジウム、セレン等を原料とした化合物半導体であるCIS系の太陽電気が高効率な次世代型として市場投入され始めました。 |
太陽光発電の買取価格 (※9) 資源エネルギー庁のホームページより 2012年4月25日追記:太陽光発電の買取価格は、2012年7月から、 発電規模に関わらず、42円/kWh(税込)に決まりました。 買取期間の設定は、発電規模により変わります。 家庭用の太陽光発電電力については、 余剰電力のみの買取制度自体は変わりません。 2013年3月21日追記:太陽光発電の買取価格は、2013年7月から、 さらに38円前後に価格ダウンされる見込みです。 最も、設置価格も下がっていますので、注視していきたいと思います。 |
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2012年度の国の補助制度では、太陽電池モジュールの変換効率基準が改定されました。種類毎に以下の変換効率を達成してなければ、補助金が出ないことになります。 1.シリコン単結晶系 : 16.0%以上 2.シリコン多結晶系 : 15.0%以上 3.シリコン薄膜系 : 8.5%以上 4.化合物系 : 12.0%以上 この場合の変換効率は、以下の計算式に基づいて算出することになっています。 基準変換効率(%)=モジュールの公称最大出力(W)/ {1セルの全面積(u) × 1モジュールのセル数(個) × 放射照度(W/u)} ※放射照度=1000W/u ■エネルギー・ペイバック・タイム EPT(エネルギー・ペイバック・タイム)とは、ライフサイクルエネルギー消費量(MJ)/年間の発電エネルギー量(MJ/Year)のことで、短ければ短いほど設備の性能が高いことになる指標ですが、太陽光発電などのクリーンエネルギーを利用した発電設備に対する環境評価に用いられます。 NEDOの2009年度の資料をみると、表(※12)のように、太陽電池の種類毎に1〜3、4年程度でエネルギー消費量はペイバックされ、後の年数は創エネルギーとなっています。リサイクル促進とは、太陽電池モジュール中の再利用可能な有価物を可能な限り回収してリサイクルすることを意味しています。あくまでも試算ですので、設定によっては、数値は変わってきます。 |
都道府県別の年間日照時間 (※10) 総務省の統計データ2012より (データ自体は2009年度) |
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■太陽光発電システムの構成 ○セル 太陽電池の単体の素子のことです。光起電力効果によって、0.5〜1.0V程度の電気エネルギーに変換する太陽電池の基本単位で、複数の太陽電池を積層したハイブリッド型や多接合型などがあります。 ○モジュール(パネル) 複数のセルを直列で接続して、保護シートや強化ガラス、金属枠などでパッケージ化したものです。電気の取り出し口である端子箱がついています。 ○ストリング 複数枚のモジュールを直列接続したものです。 ○アレイ ストリングを並列接続したものです。 ○パワーコンディショナ 太陽電池が発電する電気はすべて直流ですが、通常の電力と同じ交流にするためにパワーコンディショナを経由することになります。パワーコンディショナは、太陽電池からの電流だけでなく、電力会社の配電線の間の電気の出入りもコントロールしています。 |
太陽電池の種類と特徴、変換効率 (※11) NEDOの資料より |
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○その他 買電用と売電用の2つの電力計が設置されます。また、太陽光発電側と電力計側及び各電気機器側とに分配する分電盤も設置されます モジュールの設置には、屋根一体型と屋根置き型の二つの方法があります。一体型の場合は、屋根材そのものが太陽電池となります。屋根置き型の場合は、架台を屋根面に設置して、その上にモジュールを付けることになります。 ■補助金について 2011年度の国の補助金は、48,000円/kwでした。4kwの太陽光発電を設置すると、192,000円の補助が出たことになります。ただし、設置費用が税込み630,000円/kw以下になることが条件です。逆にいうと、太陽光発電を設置する業者は、この費用一杯に近い見積を出してくることが多かったようです。まあ、一つの目安にはなります。 2012年度の国の補助は、予想通り補助金が下がりました。 |
エネルギーペイバック・タイム (※12) NEDOの資料より |
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・1kW当たりのシステム価格が 55万円以下のもの 3.0万円/kWを補助 ・1kW当たりのシステム価格が 47.5万円以下のもの 3.5万円/kWを補助 予想以上のダウンですね。しかし、システム価格(工事費)の上限も下がっています。業者にとってのうま味が下がったともいえます。補助金が下がりましたが、工事費がそれ以上下がることが予想されますので、ユーザーにとってのメリットは上がったのではないでしょうか? 各地方自治体の補助は、それぞれ異なりますが、2011年度の札幌市の場合、40,000円/kwで上限が120,000円の補助となっています。しかも、抽選ということです。当たる確率は、半分以下のようですので、厳しいですね。 ■太陽光発電のシミュレーション 試みに、あるメーカーの「発電量シミュレーション」でわが家の発電量予想をしたところ ・最寄りの地区 北海道/札幌 ・屋根の形 近いものがなかったので寄せ棟にしてみました ・屋根置型 太陽電池モジュール設置面積 約29.8u モジュールタイプ シリコン単結晶 太陽電池容量 3.62kw ・設置する屋根の方位 南西 ・1ヶ月の電気代 16,000円(2月の電気代) 試算結果です ・1年間の消費電力量 推定 7,351kwh 174,089円 ・1年間の予想発電量 推定 3,412kwh 80,759円 となりました。 設置費用は難しいのですが、税込み190万円程度としますと、他に費用が係らなければ、補助金を20万程度(自治体によって異なります)入れて、コストの回収に21年程度となります。採算は少しあわないかなといったところでしょうか? ネットでみられる、5〜10年程度の回収は、現時点の札幌では難しそうです。 しかし、国際的な市場価格をみると、新聞情報ですが、1米ドル/kWに近づいているそうです。すると、40万円程度で設置できることになりますね。そう思って、サンテック(中国)国内販売店のホームページを調べてみましたが、やはり補助金対象のkW当たり、税抜き55万円乃至47.5万円が目安と出ていました。新聞情報は、少し当てになりませんが、この世界も、液晶テレビのような価格暴落を辿ることは予想できます。そうなると、補助がなくても、30円程度の電力買取価格としても、7〜8年程度で回収可能となります。恐らく、その辺が目安になるのではないかなと期待しています。当然、原発は不要になるでしょう。 |
太陽電池パネルの名称 太陽光発電システムの概念図 2013年3月21日追記:世界トップメーカーである中国の太陽光発電パネルの サンテックパワーが欧州を中心とした太陽光電池導入に対する補助金の減少と、 アメリカによる反ダンピング課税により苦境に陥っているとの情報が流れていましたが、 破産手続きに入るとのことです。中国政府は再建救済をするようですが、 今後の動向が注目です。 |
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■変わり種太陽電池 ○シースルー太陽電池 半透明という特性を活かして、窓や屋根に利用できるアモルファスシリコン系の太陽電池です。透過率が5%や10%のものがあります。集積型の直列構造を作るために、モジュール表面にスリットが入ります。 ○フレキシブル太陽電池 フィルム型アモルファスシリコン系の太陽電池です。厚さは1mm程度と薄く、設置が簡単な特性があります。変換効率は低いのですが、フィルム状で色々な応用が利くため、防水層に貼り付けたタイプなども出ています。 ○球状シリコン太陽電池 直径1〜2mm程度の小さな単結晶シリコン球(ビーズ)をガラスや透明プラスチックに封じ込めたシースルータイプや凸面鏡の中に球状シリコン球を配した集光タイプがあります。受光面が球面のため、平面型が吸収できない反射光や散乱光の光エネルギーも利用できる特性があります。 ■次世代太陽電池 ○量子ドット多接合(タンデム)太陽電池 高効率な化合物・多接合太陽電池の半導体材料は、希少なガリウムやゲルマニウムでした。その技術を利用して、シリコンなどの比較的安価な材料で達成しようというものです。 ○マルチバンド超格子太陽電池 量子ドット多接合太陽電池をさらに発展させたもので、多接合にしないで、量子ドット超格子材料に中間バンド(中2階的なもの)をつくりだして多くの光電流を得ようとするものです。通常の半導体では、紫外線側の光は過剰エネルギーとなるのですが、このタイプの太陽電池では、その過剰エネルギーを分割して利用できることになります。 ■どのメーカーと種類が良いのか? ご多分に漏れず、技術の変化が激しい太陽電池の世界です。海外メーカーもあります。価格、変換効率、メンテナンス、保証期間、地域性や建物形状での適不適もあり、決定打はないでしょうね。ただ、メーカー別に主力モジュールがありますので、調べてみました。また、正確にはハイブリッド型もあり、単純な分け方ができないケースもあります。実際の工事に当たっては、複数の見積を取って、価格以外の要素も加味して決めるべきでしょう。 ○シリコン系単結晶型 最も歴史がある方式で、モジュールの変換効率が高い方式です。東芝、カナディアンソーラー、長州産業、パナソニック、Suntech(中国) ○シリコン系多結晶型 変換効率は劣りますが、比較的安価です。シャープ、京セラ、三菱電機、長州産業、Q−Cells(ドイツ)。 ○アモルファスシリコン系薄膜型 変換効率はさらに劣りますが、コストパフォーマンスに優れています。パナソニック(三洋電機)はこのタイプとシリコン系単結晶のハイブリッドであるHITを出しています。 ○シリコン系薄膜の多接合型 大面積が可能なフイルム型があります。ソーラーフロンティア(旧昭和シェルソーラー)、カネカ、シャープ、富士電機システムズ、Q−Cells(ドイツ)、United Solar(アメリカ)。 ○化合物系 ソーラーフロンティア、ホンダ、Nanosolar(アメリカ)、Global Solar(アメリカ)、First Solar(アメリカ)、Antec Solar(ドイツ)。 ソフトバンクの100%出資会社/SBエナジーが、帯広と苫小牧の計3ヶ所に、2011年末に、国内外10メーカーの太陽光発電パネルを設置して、リアルタイムで発電量比較を公表しています。基本的に同じ条件で、現状における各社の性能比較を見ることができます。正直、私の予想と異なる数値が現在、出ているようです。各社のパネルの1枚当たりの出力が異なるため、単純比較はできませんが、このような実証実験データが公開されることにより、さらなる切磋琢磨を期待したいですね。 ■太陽電池の寿命 太陽電池の寿命は、20年とも30年ともいわれています。京セラが日本初の住宅用太陽光発電システムを発売したのは、1993年ですから、定まった法則はないともいえます。最近のメーカーは、太陽電池の25年出力保証を出しているところがあります。ただ、パワーコンディショナの寿命が10〜15年といわれていますので、太陽電池といえども、メンテナンスやシステム交換の費用は当然、発生してきます。ネット等でみられるコスト回収の理論には、その部分を無視したものが多くみられますので、冷静に考える必要があります。 とはいえ、太陽電池の変換効率や耐久性の向上も進んでいますので、今後の普及と共に、寿命は延びていくことは想定しても良いのかなと考えています。 ■太陽光発電のトラブルなど (屋根の漏水) 良く話題に出てくるケースです。架台の取付のために屋根にビス穴を開けたため、そこから漏水してしまったなどという例があります。ビス穴を開けない工法も最近は出てきました。これは、信頼できる設計者や施工店に依頼するのが一番良いでしょうね。コーキングやパッキンなどで止水するというのは、方法としてはあるのでしょうが、本来やるべきではないでしょう。 また、既設の屋根自体に問題があって、そこに太陽光発電を設置したため漏水等が発生したという例があります。メーカーによっては、築年数が古い建物には設置しないところもあるようです。 既存の屋根の上に太陽電池を設置する場合の、もう一つの問題があります。太陽電池の下地となる既存屋根の改修ができなくなる恐れがあるのです。太陽電池の寿命が20年だとすると、それまでは既存のままにしなければならないことになります。これも信頼できる設計者などに相談した方が良いでしょう。 (構造的な問題) 屋根に架台を取り付けて設置する場合、架台の重量が問題となります。あるメーカーに問い合わせたところ、4kw未満の太陽電池の設定で、陸屋根に30度程度の傾斜を付ける架台が1.1〜1.2トンになるとのことでした。モジュールを合わせると、1.5トン程度の重量が発生します。取付方法ももちろんですが、構造的な検討をする必要があります。 (反射光) 屋根面の太陽電池のモジュールの角度によっては、反射光が近隣の住宅に差し込んでトラブルとなった例があります。特に、東西面(北面に付けることはまずない)の屋根面に設置した場合に被害があるようです。設置前に確認をする必要がありますね。ちょっとした角度の変更で解決できると思います。 (落雪) 太陽電池のパネル表面は、屋根面よりも滑りやすいため、落雪により、隣家の壁や自動車などに被害が起こることがあるようです。取付時期には想定しづらいことでしょうが、そういった被害があることを前提とした、取付位置の工夫が必要でしょうね。落雪防止のため、雪止めを付けるなどの防止策もありますが、逆に太陽電池システムへの積雪被害が発生する恐れがあります。 (メンテナンス) 太陽電池の寿命のところでも触れましたが、現在の情報で一番、不足しているのがメンテナンスの問題だと思われます。日常、目につくところには設置されていないわけですから、定期的な確認作業が必要でしょう。砂やほこり等は、雨風で流されるといわれていますが、鳥の糞などは、自分で取り除く必要があります。 やはり、発電量の変化をメーターで確認することや、架台の錆の状態、設置面の屋根の状態などを定期的に確認するのが一番ですね。 ■災害時の太陽光発電 ヨーロッパなどで行われている電力の買取制度は、FIT(フィードインタリフ)制度といって、電力会社に通常の電力料金の2〜3倍で、全量をいったん買い取らせる方式です。ところが、日本の現在の制度は、余剰電力のみの買取制度のため、余剰が発生した分だけを電力会社が買い取ります。余剰がない状態であれば、常に電力会社からの供給を受けていることになります。これは、日本で2012年7月から始まる「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」でも、住宅については、変わりません。 もし、災害が発生して、電力会社からの供給がストップしたとき、自動的に太陽光発電に切り替わるのではありません。自分で、主電源ブレーカーをオフにした上で、パワーコンディショナを自立運転に切り換える必要があります。その時、今まで使用していたコンセント等は使えなくなるのです。使えるのは、非常用コンセント(特別に設置しなければ、パワーコンディショナに付いているコンセント)だけなのです。しかも容量は、1.5kWが上限と決まっています。太陽光発電が1.5kw以上発電していても、そのすべてを使用できるわけではないのです。1.5kwを上まわる機器は、使えなくなります。エアコンなどは無理でしょうね。電子レンジでなんとかといったところです。蓄電池がなければ、夜間は使えません。 ■太陽光発電を考える 東日本大震災をひとつの契機として、再生可能エネルギーへの注目が今再び、高まってきました。かつては、生産量でも設置数でも世界トップを走っていた日本でしたが、生産量では中国やアメリカ、設置数ではドイツやイタリアなどの後塵を拝するようになりました。何故そうなったのかの議論はここでは触れませんが、大きな変換点を迎えているのは間違いありません。 電力会社が覇権を誇っていた時代はもう終わろうとしています。太陽光発電システムのコストもどんどん下がっています。変換効率も向上しています。今は、補助金がひとつのきっかけとなっているかも知れませんが、補助金の有無は問題にならないような時代がもうそこにやって来ています。技術的な問題も、実績を踏むことによって解決されていくと思います。今まさに、その過度期にあると私は考えます。 ■参考図書 ○プロが教える太陽電池/太和田善久監修/ナツメ社/20110901初版/\1,500+税 ○よくわかる太陽電池/齋藤勝裕/日本実業出版社/20090220初版/\1,600+税 ○なぜ、日本が太陽光発電で世界一になれたのか/NEDO技術開発機構編集 /新エネルギー・産業技術総合開発機構/20071005第2版第2刷 ○エネルギー白書2010/経済産業省 ○エネルギー白書2011/経済産業省 ○太陽光発電フィールドテスト事業に関するガイドライン(設計施工・システム編) /NEDO/201005発行 ○太陽光発電フィールドテスト事業に関するガイドライン(基礎編) /NEDO/200803発行 |
電力会社間の連携状況 (2007年度) 最大電力 9社計 8.74万KW エネルギー白書2011より 世界のエネルギー消費の推移 (石油換算100万トンによるグラフ) エネルギー白書2011より 日本の製造部門におけるエネルギー消費の推移 (1973年度を100として) エネルギー白書2011より 日本の家庭部門におけるエネルギー消費の推移 (1973年度を100として) エネルギー白書2011より 日本の業務部門におけるエネルギー消費の推移 (1973年度を100として) エネルギー白書2011より 日本の運輸部門におけるエネルギー消費の推移とGDP (1973年度を100として) エネルギー白書2011より |
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055 免震構造と制振構造について(2012年4月1日) |
■耐震構造の限界 東日本大震災は、津波による被害と原発被害が際立っているため、どうしてもそちらに目が行ってしまいますが、地震による被害も膨大なものでした。私自身、何かをお手伝いしなくてはの思いから、福島において「地震保険査定作業」を2ヶ月程、従事させて貰いました。結果、約100件程度の建物の調査のなか、その被害の多さと多様さに驚いた次第です。ただ、その中で一貫して感じたのは、地盤の善し悪しが大きく影響している事実があったことでした。地盤が良ければ、かなり古い建物でも、余り影響が出ていないケースが多かったのです。地盤が良ければ、揺れも少ないですし、液状化の心配もありません。 建物を地震に耐える強度に設計することを「耐震構造」にするといいます。1981年改正の「建築基準法」は、「新耐震設計法」を取り入れました。これは、震度4〜5弱の地震に対しては殆ど影響を受けず、震度5強以上の地震であっても倒壊を防止するレベルに建物の構造を設計するというものでした。しかし、今回の東日本大震災では、震度6強から震度7までを記録した地域もあります。事実、一部の建物では、倒壊等の被害が発生することになりました。倒壊に至らないまでも、構造体に甚大な被害を受けた建物も多くあります。 また、2012年3月末の新聞報道等に多くの方が驚いたと思います。首都直下型地震の予想では、震度7の想定区域が大幅に増加したのです。さらに、南海トラフ地震の予想では、西日本の太平洋側に相当広範囲に震度7が予想され、最大津波が34mという想定が打ち出されました。これは、最悪の条件を重ね合わせた結果とはいえ、社会に対して現実を知らしめることとなりました。しかし、恐れおののいていても何も解決はしません。むしろ、耐震や免震、制震に対する理解を建設的に考える機会ではないでしょうか? 先日、テレビを見ていて驚いたのですが、家具の倒壊防止に書棚やタンス上部に突っ張り棒を設置していても、大きな地震では、突っ張り棒が何の役にも立っていない映像が流れていました。しっかり固定していなければ、棒が外れてしまうのですね。結局、耐震構造であっても、揺れが大きければ家具などは倒れてしまうし、建物に余力がなければ構造体に被害を受けてしまう実例ということを実感させられました。 「免震構造」は、免震装置で、「制振構造」は、制震装置で建物の揺れを低減する考え方です。どちらかというと、免震構造の方が地震力の低減率は大きいと考えられています。 ■免震構造とは 基礎と上部構造の間に免震装置を設置する「基礎免震」と構造体の中間に設置する「中間免震」があります。免震装置は、アイソレーター、ダンパー、すべり支承などから構成されていて、上部構造の固有周期を延長・減衰させて、地震力に対する建築物の応答を低減する構造です。と書くと難しいようですが、要するに地震の揺れを吸収して揺れを少なくした建物の構造方式です。戸建て住宅では、基礎免震が基本になります。 また注意しなければならないことは、戸建て住宅以外では、同じ条件の建物の場合、免震構造と非免震構造の建物の違いは、免震装置の有無だけではないことです。免震構造を採用した場合、荷重条件が緩くなるため、構造的には軽量の建物になるのが通常なのです。まったく同じ建物に免震装置が付いているか、付いていないかということではないのです。もちろん、同じ建物に設計することは可能です。 |
気象庁震度階級 |
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◇免震構造のメリット 1)建物への地震力を1/3〜1/5に低減することにより、人と建物を守る 2)地震力が低減することにより、構造体の負担が小さくなり、構造体が小さくなる 3)構造体の負担が小さくなることにより、設計自由度が上がる 4)既存建物の耐震化に有効(免震レトロフィット) 5)揺れが小さくなることにより、家具等の転倒が少なくなる ◇免震構造のデメリット 1)軟弱地盤や液状化しやすい地盤には、あまり向いていない 2)複雑な形状の建物には向いていない 3)建物全周に最大の変位量を考慮したクリアランススペースが必要 4)設備配管・配線類に変位量を考慮したフレキシブルジョイントが必要 5)一般に、コストアップの可能性が高いといわれている 6)横揺れには大きな効果が期待できるが、縦揺れには効果が低いといわれている 7)免震装置の維持・管理が必要 ◇免震装置 免震装置は、一般にアイソレータとダンパーで構成されています。今回の東日本大震災では、構造協会の報告によると、免震構造建物のエキスパンジョイント部で28%が損傷したとの報告があります。建物の主要部は無事だったが、可動部分が設計通りに動かなかったのです。中には、維持管理の問題も指摘されています。可動することを妨げる、別の柱が後から付けられた例もあったそうです。免震構造の有効性とともに、免震装置が抱える問題を今回の東日本大震災は教えてくれました。 ○アイソレータ 建物を地盤から絶縁し、建物重量を支え、建物の固有周期を長くする役割があります。鉛直方向の荷重には横にふくらまないで支え、水平方向には柔らかく変形する特性を持ちます。積層ゴム方式のものとすべり方式の2種類あります。積層ゴムには天然ゴム系積層ゴムのほか、鉛プラグ入り積層ゴムや高減衰積層ゴムがあります。 ○ダンパー 地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを低減するためのもので、オイルダンパー、鋼棒ダンパー、鉛ダンパー等いろいろな種類のものがあります。ダンパーは建物の重量を支えることはありません。 ○免震方式 積層ゴム支承、弾性すべり支承、転がりローラー支承、鋼すべり支承、曲面すべり支承、曲面曲がり支承、平面直動型転がり支承などといった方式があり、いろいろな組合せが開発されています。 |
東京スカイツリー |
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◇戸建て住宅の免震構造 住宅用の小規模建築物用免震装置が開発されています。なかには、復帰装置がないものがあり、20cmも建物がずれてしまったという例がありますので、初期費用だけでなく、維持管理費がどれだけ発生するか、よく調べる必要があります。戸建て住宅の免震装置は、10〜20万円/坪といわれていますから、一般の住宅では、300〜600万程度のコストアップになります。 ◇柱頭免震 最近、少し話題性があるのが柱頭免震です。基礎免震では、柱の下部に免震ピットを設けて、免震装置を設置するようになっています。それに対して、柱の上部(梁の下)に免震装置を設置するのが柱頭免震です。そのため、免震ピットを駐車場などの多目的な空間として利用できることになるのです。逆にいえば、一般の階に免震装置を設置する方法といえます。免震装置の下の階は、免震構造にならないことは、中間免震と同じです。 通常の免震構造に比較して、コストが下がるとの謳い文句がありますが、免震ピットの有無だけの問題です。地下階や1階を駐車場にしているような、既存の建物に対する免震構造としては有効な工法です。 ■制振構造(制震構造)とは 現在、建設中の「東京スカイツリー」は、最高高さが634mですが、内部に直径8m、高さ375mの円筒状の「重り」を下げています。その内部は、避難階段を有するコンクリート製のものですが、鉄骨造の塔体と異なる動きをすることで、大地震時の応答せん断力を約40%低減するといわれています。「パッシブ制振システム」と名付けられています。これは、日本古来の建造物である、五重塔に見られる「心柱」を参考にしています。五重塔でも、塔本体と心柱が構造的に独立しているため、地震や風圧による揺れに対して異なる動きをするために、揺れを吸収しているといわれています。(五重塔はなぜ倒れないか/上田篤/新潮選書) このように、建物本体と別な動きをする装置を設置した構造を制振(制震)構造といいます。エネルギー入力が必要ない方式を「パッシブ方式」といい、エネルギー入力を要する方式を「アクティブ方式」、その中間を「セミアクティブ方式」といいます。ちなみに東京スカイツリーは、パッシブ制振とアクティブ制振を組み合わせて、より高い制振機能を持たせているそうです。また、五重塔もすべての五重塔が同じ構造とはいい切れない事実があることも、参考まで。 |
五重塔はなぜ倒れないか 上田 篤 新潮社 |
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◇制振構造のメリット 1)塔状建造物や軽い建造物に有効 2)風圧力にも有効 3)パッシブ方式であれば、メンテナンスが基本的に不要 ◇制振構造のデメリット 1)大きな建造物には向かない 2)免震構造よりも揺れが大きくなることが多い 3)制振装置の取付位置や数の検討が必要 ◇制振装置の種類 ○層間ダンパー型 建物の上下間にダンパーを設置して連結、建物が振動で変形したときに、ダンパーにエネルギーを吸収させるタイプです。ダンパーには、オイルダンパー、粘弾性体、金属の塑性化を利用したものなどがあります。ほとんどの場合が、パッシブ型です。 ○マスダンパー型 建物の最上部などに「おもり」を設置することにより、建物の振動を低減させるタイプです。ただ、建物の載せるおもりには、荷重条件から限度があるため、現実には風圧力による揺れの低減効果のためのものがほとんどです。アクティブ型の制振装置が多数あります。 ○連結型 建物の構造を複数に分けて、ダンパーで連結することにより、制震効果を生むタイプです。互いの重さを利用して振動の低減を図っています。複数の建物の連結という方法もあります。パッシブ・セミアクティブ・アクティブ型、いずれのタイプもあります。 ◇戸建て住宅の制振装置 住宅用には、壁体内にパッシブタイプのダンパーを取り付ける工法が多数出てきました。高減衰ゴムやオイルダンパを使ったものから、金物に粘性体を挟んだだけのものもあります。今後も多くの商品が出てくると思いますが、特別な事情がない限り、私は戸建て住宅については、制振装置よりも強度を強くすることをまず考えた方が良いと思います。コストは、どのようなダンパーを使うかで大きく変わってきますが、50〜100万前後のコストアップといわれていますので、費用対効果も考えるべきでしょう。 最近、目にした工法で、「制震テープ」を石膏ボードや外壁用の構造合板(の一部)と柱の間に緩衝材として、挟み込んで地震エネルギーを吸収し、地震に対して建物全体が粘り強くなることで、制振住宅とする工法がありました。技術評価も得ているようです。実績等が確認できていませんので、注視したいと思います。 ◇木造の耐震改修における制振装置の効果(2013年11月25日追記) 璧体内や壁体面に設置する制振装置が色々と商品化されてきています。一般に、築数十年を経た木造建築物では、耐振改修を実施して、上部構造評点を1.0以上にすることが厳しいことが多くあります。しかし、最近、商品化された制振装置では、壁倍率を5.0程度として計算できる製品が出てきていますので、改修工事を実施するケースでは、採用を検討してみることは有効となってきました。 |
東寺 五重塔 木造として日本一の高さ54.8m 2009年6月17日撮影 薬師寺 西塔 六重に見えますが三重塔です 2001年8月4日撮影 |
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054 札幌版次世代住宅基準が発表されました(2012年3月12日) |
札幌市は、2012年3月に「札幌版次世代住宅基準」を発表しました。北海道は、積雪寒冷地帯であり、全国平均に比して、全道で1.45倍、札幌で1.4倍のエネルギーを消費しています。その過半を占めるのが冷暖房エネルギーですが、その消費量を2020年度までに半分にしようというのが今回の趣旨です。そのために、暖房エネルギーを削減する住宅の高気密・高断熱化を推進しようというのです。 札幌版次世代住宅の評価基準では、国の平成11年度次世代省エネルギー基準を大幅に上まわる等級基準を設定して、熱損失係数(Q値)と相当隙間面積(C値)を定めています。国の基準で削除された相当隙間面積(C値)が復活しているのが少し気になりますが、革新的な設定になっています。 |
札幌版次世代住宅基準 等級のイメージ (※1) |
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札幌市内で、基準をクリアした新築住宅(改修も含む)を建てようとする建主には、2012年3月末の議会での議決後という条件付ですが、補助金(枠あり)も設定されています。 ■札幌版次世代住宅基準の等級 国の平成11年度次世代省エネルギー基準をミニマムレベルとして、無暖房住宅をイメージしたトップランナーレベルまでを含めて、5段階の等級を定めています。まとめたイメージが表(※1)のようになります。今回の補助は、次世代省エネルギー基準相当であるミニマムレベルを超えるベーシックレベル以上が対象です。 |
<新築の場合>
札幌版次世代住宅の評価基準 (※2) |
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■札幌版次世代住宅基準の評価基準 等級毎に定められている熱損失係数(Q値)と相当隙間面積(C値)は、表(※2/新築、※3/改修)の設定となっています。小規模住宅については、床面積が小さいため、熱損失係数が大きくなる傾向があるので、緩和基準が設けられています。また、冬期に日射を積極的に利用する住宅についても、緩和基準が設定されています。パッシブ換気を採用する場合の、換気回数も0.4回/h(熱交換を伴わない一般的な換気方式は0.5回/h)を使うことが認められています。 改修の基準では、トップランナーが外されています。ミニマムは現在の次世代省エネルギー基準ですからありません。 |
<改修の場合>
札幌版次世代住宅の評価基準 (※3) |
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■等級と断熱材の充填のイメージ 札幌市のパンフレットを見ると、等級と断熱材の充填のイメージが図(※4)のように出ています。これは、あくまでも16kのグラスウールの熱伝導率を0.038W/mkとした場合の計算です。熱伝導率が高い断熱材を使うと壁厚は薄くなりますし、熱損失係数の計算によっては変化します。あくまでも壁のイメージです。 それにしても、凄まじいトップランナーの壁厚ですね。札幌市のパンフレットでは、構造体が2重に入っていますが、壁や天井を含めた建物の納まりを相当検討しなければ、トップランナーは建てられないでしょう。 いずれにしても、感じたことは、これからは外張断熱だの充填断熱だのとの論議が意味をなさなくなるのだなということでした。「断熱工法」に出てきた「付加断熱」が付加ではなく、断熱の主体となるということをこれは示しています。充填断熱がむしろ付加になったのではないでしょうか。 |
等級と断熱材の充填のイメージ (※4) 札幌版次世代住宅のパンフレットより |
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■補助の内容 補助申請の要件は、自ら居住するために、べーシックレベル以上の札幌版次世代住宅基準の建物を建てる人です。建て売りやマンションは除外されています。補助額は、表(※5)の通りです。細かい規定がありますし、議会承認を前提としています。今回の申請受付期間は、2012年5月14日〜5月25日です。 札幌市では、全体で40件程度、トップランナーは3件程度を今年度の予定枠としています。札幌市の説明会では、現在、札幌市で建てられている住宅でも、ベーシックレベルは数パーセントとの発言もありました。今回の基準の善し悪しはともかく、1つの方向性が出ていると感じました。 |
札幌市の補助金額 (※5) |
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札幌市では、ベーシック以上と認定した建物に図(※6)のラベルを交付するとのことです。 |
トプランナー ハイ〜ベーシック 札幌市の性能表示ラベル (※6) |
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053 固定資産税について(2012年3月10日) |
■固定資産税とは 毎年1月1日現在、市町村の固定資産課税台帳に所有者として登録されている人にかかる、土地・家屋・償却資産への市町村税です。売買等で、所有者が代わっても、1月1日時点で所有していた人に請求が来ます。売買等で、所有権が代わる場合は、売買等の契約段階で、日割り計算についての協議をしておく必要があります。 土地・建物の固定資産税評価額は、3年に一度評価替えが行われます。一定の住宅用地と新築家屋には、特例、軽減措置等があります。納税は、毎年、市町村長から送付される納税通知書にしたがって、年4回に別けて行われます。 3年に1度の基準年度以外は、評価額の修正がないのが原則ですが、家屋の増改築や土地の地目の変更があった場合等は、基準年度以外も価格の修正が行われます。また、最近は土地の下落傾向が続いており、土地については年度毎の価格修正が行われるようになっています。 家屋にかかる固定資産税は、1月1日時点で建築中の場合は、課税されません。あくまでも、家屋が完成しているかどうかです。登記されているかどうかは問われません。1月10日に完成したとすると、翌年から課税されることになるのです。 2009年のデータ(※1)をみると、固定資産税は市町村の税収全体の43%です。6%の都市計画税と合わせると、税収全体の約5割を占めていることになります。町村部ほどその割合が高くなります。個人の市町村民税が36%、法人の市町村民税の9%と比べても、如何に税収全体に対する依存度が高いかが判ります。固定資産税だけですと、2009年度の税収は、国全体で8兆7,789億円になります。 |
2009年度の総務省データより (※1) |
■固定資産税の税率と免税点 固定資産税は、原則として以下の税率になっています。原則というのは、<固定資産税評価額=課税標準額>とならないからです。また、税率も自治体により異なっていることがあります。 固定資産税=課税標準額×1.4%(標準税率) 固定資産税と同時に納税通知書が送られてくるのは、都市計画税です。 都市計画税=課税標準額×0.3%(標準税率) このように、固定資産を所有していると、<原則として>評価額の1.7%程度の納税義務が毎年発生することになります。 同一の市町村に所有する固定資産の課税標準額の合計が、表(※2)の場合は、固定資産税はかかりません。 |
固定資産税の免税点(※2) |
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■情報公開制度 土地・家屋の評価額等は、毎年、送られてくる納税通知書に記載されていますが、固定資産の該当する市町村において、無料で縦覧することができます。ただし、納税者等でなければ縦覧はできません。借地人等の場合は、課税台帳を有料で閲覧することができます。また、縦覧の時期は限られています。 固定資産税の納税者は、基準年度において、課税標準額等に不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日から60日以内に、文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申し出をすることができます。地目の変更や、家屋の増改築等の場合は、基準年度以外でも申し出ができます。ただし、かなりハードルは高いようですね。しかし、5年間遡って還付された例もあるようです。審査決定に不服がある場合は、裁判所へ提起することになります。 2012年の新聞情報によると、旭川市の約7、100件分の誤徴収の例では、返還分は20年、徴収分は5年を遡るとしていました。判例に基づいた判断のようです。これは、審査の申し出ではなく、担当者が計算間違いをしていたことが定期監査で発覚した結果でした。 |
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■一物五価 土地の価格には、5種類もの価格「時価(実勢価格)・公示価格・基準地価・路線価・ 固定資産評価」があります。基準地価を除いて、「一物四価」ともいわれますが、基準地価も含めると「一物五価」になります。 @時価(実勢価格) その土地が実際に取引される価格のことを言います。 A公示価格 地価公示法に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が全国的に都市計画区域内の標準地を選び、毎年1月1日現在の標準地について公表する価格のことです。二人以上の不動産鑑定士が各々別々に現地を調査し、最新の取引事例やその土地からの収益の見通しなどを分析して評価を行い、その結果に基づいて土地鑑定委員会が決定します。 この公示価格は、一般の土地取引の指標となり、公共事業用地取得価格の算定、相続税評価や 固定資産税評価の目安として活用されています。毎年3月20日過ぎ頃に公表されています。 B基準地価 基準地価とは都道府県知事が国土利用計画法施行令に基づいて公表する毎年7月1日時点の土地価格です。公示価格とともに土地取引の目安とされています。 公示地価が都市計画区域内を対象とするのに対し、基準地価は都市計画区域内及び 都市計画区域外の住宅地、商業地、工業地や、宅地ではない林地も含んでいます。 7月1日現在の価格が、9月20日頃に各都道府県の公報で公告されます。市町村役場で、いつでも閲覧することができます。 C路線価 さらに複雑になるのですが、路線価には2種類あります。相続税や贈与税を算定するため、課税の対象となる財産の評価方法として国税庁が定めたものが「相続税路線価」です。毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格、基準地価、売買実例価額及び不動産鑑定士等の地価事情精通者の意見価格等をもとに算出され、主要道路に面した標準的な宅地の1u当たりの評価額のことです。毎年8月上旬に公表されます。8月上旬以降に税務署もしくはインターネットで閲覧することができます。相続税路線価は平成4年8月から概ね公示価格の80%になっています。通常、路線価というのはこちらのことです。 一方、土地の固定資産税を評価するために、市町村が基準年度毎に定められるものが「固定資産税路線価」というものです。こちらは市町村が公表しています。概ね公示価格の70%程度といわれています。 D固定資産税評価額 固定資産税を支払う基礎となる価格です。固定資産税の課税主体である各市町村が決めます。 3年毎に1月1日時点の土地価格を基準として決定されます。固定資産評価額は公示価格の70%が目安となっています。結局、「固定資産税路線価」と同じことになります。 以上のことから、次のような目安が分かります。ただし、これはあくまでも目安ですので、敷地条件などによって変化します。 公示価格×0.8=相続税路線価 公示価格×0.7=固定資産税評価額 相続税路線価×0.875=固定資産税評価額 |
固定資産税の評価額の軽減(※3)
都市計画税の評価額の軽減(※4) |
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■住宅用地に対する課税標準の特例 人が居住する家屋の敷地には、固定資産税評価額に対して、評価額の軽減(※3)があります。建設予定の場合は、認められません。また、家屋の床面積の10倍までが限度です。一方、都市計画税の場合の軽減は表(※4)のようになっていますので、固定資産税と都市計画税の課税標準が異なることがあるのです。 併用住宅の場合は、敷地全体の面積のうち、住宅に係る居住部分の割合に応じて、表(※5)のような軽減があります。 |
併用住宅の軽減 (※5) |
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■新築住宅等についての特例 新築の住宅(一般住宅や共同住宅)は、家屋に係る税額が軽減されます(※6)。また、その軽減期間は、 3階建以上の(準)耐火建築 →新築後5年間 上記以外の一般住宅 →新築後3年間 となっています。この軽減措置を受けるには、書類による申請が必要です。また、特例の対象となる住宅には、セカンドハウスも含まれます。 |
新築住宅の特例 (※6) |
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■その他の軽減措置 その他、一定の条件が認められれば、税の権限措置が受けられます。 ・住宅耐震改修に伴う税額の軽減 条件に応じて、最大1/2の軽減 ・バリアフリー改修工事に伴う税額の軽減 条件に応じて、最大1/3の軽減 ・省エネ改修を行った住宅の税額の軽減 条件に応じて、最大1/3の軽減 ・特定市街化区域に新築した中高層耐火建築物である貸家住宅の税額の軽減 ・新築貸家住宅の敷地の用に供する旧特定市街化区域農地の税額の軽減 ・高齢者世帯向け優良賃貸住宅の税額の軽減 ・認定長期優良住宅に対する税額の軽減 ・被災代替家屋の特例 東日本大震災等の被害を受けられた方を対象にしています いずれも時限立法です。また、書類による申告をしなければ受けることができません。 |
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■固定資産税の特殊性 所得税の計算や申告手続は、納税者自らが行い、税金を納める仕組みになっています。しかし、固定資産税は、市町村が一方的に固定資産を評価して税額を計算して課税します。この方式を賦課課税方式といいます。しかも、万一間違いや事実誤認があったときは、納税者がその間違いを証明することができなければ、還付を認めて貰えないのです(審査請求制度/審査するのは、「固定資産評価審査委員会」)。しかも、市町村はなかなかその間違いを認めようとはしません。希に間違いを認めた場合でも、還付期間は5年程度が基本ですが、市町村の対応によっては、20年も遡った例があるそうです。 修正された事例としては、以下のような例があるそうです。 ・集合住宅の専用駐車場が、住宅用地の軽減特例を適用されていなかった ・公衆用道路として利用されているにも関わらず、私道として評価されていた ・利用形態が二つある一筆の土地が一つの利用形態として評価されていた ・店舗併用住宅として利用していた建物を、住居専用にしたが、変更されていなかった ・解体した家屋の固定資産を払い続けていた ・土地の実測面積が登記面積より少なかったので、登記簿の地積更正ををした ・冷凍倉庫に係る固定資産税を長年、評価の高い一般倉庫として課税されていた ・ゴルフ場敷地内にある山林地が、一体評価で高額な課税をかけられていたが、分離評価が認められて、山林地は低額な固定資産税になった しかも、前述したように、審査請求ができるのは、納税通知書の交付を受けた日から、60日後までと限定されているのです。いかにハードルが高いかが判ると思います。ただし、市町村の対応によると思いますが、評価の訂正はいつでも法律上は可能だとの考え方もあるようです。 また、例にある冷凍倉庫の修正の影響からか、従来の「冷凍倉庫」が「冷蔵倉庫(保管温度が摂氏10度以下に保たれる倉庫)」と非木造家屋経年原点補正率基準表が改められ、2012年度の評価方法が変更されたそうです。冷蔵倉庫を所有される方は、要注意ですね。 |
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■土地の固定資産税について 固定資産税における土地の評価額は、原則として土地登記簿に登記されている地積によります。したがって、修正された例でもあげましたが、実測面積が小さい場合は、登記簿の地積更正をすると認めて貰えます。 土地の用途が畑や宅地と別れている場合は、別々の固定資産税の評価額がかかります。その基準となる用途は、土地登記簿の地目が基本です。地目には、@宅地A田B畑C山林D原野E牧場F池沼G鉱泉地H雑種地の9種類があり、それぞれ評価方法が異なります。ただし、一団の宅地造成事業を施行するために買収した土地は、複数の地目が混在していても、一団の土地として評価されることになっています。 土地の評価の調整には、土地の権利も影響してきます。これも登記簿に掲載されています。@地上権A区分所有権B永小作権C区分所有権に準ずる地役権D借地権E定期借地権等F耕作権G温泉権H賃借権I専用権の10種類があります。ちなみに借地権は、借地権者には固定資産税はかかりませんが、所有者にはかかってきますので、その分が通常地主が地代に転嫁します。 農地の固定資産税は、非常に安い設定となっています。それは、農地そのものの評価額が低いからです。特定市街化区域にある農地の場合は、宅地並み(近傍類似宅地の価格から造成費相当額を控除した上で、一般住宅用地の特例程度)の課税がかけられることになっています。ただし、生産緑地指定を受けると、農地並みの課税になります。また、一般市街化区域の農地が宅地の評価に変わると、固定資産税が一気に上がります。(実際の課税標準には、調整措置があります)。農地のままですと、一般農地に準じた課税なのですから、再開発が進んだ市街化地域の農家が、生活基盤がどうあろうとも農業を止められないことが、これだけでもよく判ります。 特定市街化区域農地:三大都市圏にある特定市にある市街化区域にある農地 一般市街化区域農地:特定市街化区域以外の市街化区域にある農地 修正事例でもあげましたが、私道の場合は、課税がされません。しかし、認められるための要件があります。 また、大きな土地を所有しているとします。その土地を宅地開発して分譲するとしたとき、土地は道路分は目減りすることになります。道路には固定資産税がかからないからです。しかし、所有している時点では、その目減りを認めてくれません。すべて同じ評価で課税がされます。相続税財産評価通達では、広大地補正が規定されているため、統一性がないですね。 一方、日照阻害を受ける宅地の場合、20%を超えない範囲で、補正をして評価額が減額されることになっています。 その他、土地の形状・条件によって、@奥行価格補正A側方路線影響加算B二方路線影響加算B三方路線影響加算C四方路線影響加算D間口狭小補正E奥行長大補正F不整形地補正G無道路地補正Hがけ地補正などがあります。上記の内、加算とは評価額が上がることを指しています。また、実際の土地は古い市街地など、複雑な形状や条件にある場合が多く、評価が難しいといわれる所以です。逆にいえば、良く調べると間違いを見つけられる可能性もあるといえます。 |
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■土地の固定資産税の負担調整措置 かつては、公示価格の20〜30%程度で評価されていた土地の固定資産税評価額でしたが、1994年度の評価替えから、公示価格の70%に一気に引き上げられました。全国でばらばらだった、評価水準の格差是正が大きな目的でした。そのため、税額がいきなり約3.5倍になってしまうことを避けるために、徐々に税負担を増やしていくように調整がされました。それが、「負担調整措置」というものです。 ところが、バブル崩壊後の大幅な土地下落の実態から、基準年度毎に、「負担調整措置」を工夫して、特例措置として調整がされるようになってきました。商業地、住宅用地、及び農地毎に「負担調整措置」が定められています。地下の下落が大きい場合は、基準年度以外にも、価格に修正を加える特例措置が設けられています。こういった措置が、固定資産税の制度を難解なものにする原因ともなっています。 |
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■家屋の固定資産税について 評価の対象となる家屋を、評価の時点において、その場所に再度建築する場合にかかる価格を基準にすることになっていますが、実際の課税標準価格は実勢と相当の乖離(かいり)があります。「建物と土地の税金について」でも記述しましたが、各法務局毎に「新築建物課税標準価格認定基準表」が定められています。 2011年度の札幌法務局は、木造住宅で53,000円/u(約175,000円/坪)、RC造の共同住宅92,000円/u(約304,000円/坪)です。東京地方法務局は、木造住宅で68,000円/u(約224,000円/坪)、RC造の共同住宅108,000円/u(約357,000円/坪)です。詳細数値は、各法務局のデータをネット等でお調べください。いずれにしても、特に木造住宅の価格はかなり安く設定されています。 この価格を基にして、法律で定める評価基準、経年・損耗減点補正率・物価水準・設計管理費による補正率など多数の乗率があります。また、構造によっても異なるため、なかなか理解するのは難しい内容になっています。市町村によっても異なりますが、建築費総額の50〜60%程度以上が評価額になっていることが多いようです。 しかし、この計算を行うのは、市町村の担当者なのです。建築の専門家が行うのではないため、長年に渡っての計算ミスを誰も気が付かなかったという事例が発生するのです。もしかすると、永遠に誰も気が付いていない事態も考えられるのです。 また、所得税の減価償却の残存率は10%ですが、固定資産税の場合は20%です。建物がどんな状態にあろうとも、20%以下にはなりません。ただし、償却期間は所得税法よりも長期に設定されています。木造住宅が20%に達するのは、築27年目です。 |
札幌市の新築建物課税標準価格基準表 |
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■参考にした資料図書 1)新・嘆きの「固定資産税」物語/森田義男/ダイヤモンド社/19970410初版 2)知っておきたい固定資産税の常識[第9版]/吉田隆一/税務経理協会/20050610第9版 3)平成19年度版要説固定資産税/固定資産税務研究会編/ぎょうせい/20070801初版 4)怒りの固定資産税/奈良新聞社編/奈良新聞社/19961205第1刷 5)固定資産税土地評価における不動産鑑定評価活用の手引/日本不動産研究所固定資産税評価研究会/20080101初版 6)固定資産税評価のための登記簿・図面・道路の調査/黒沢泰/ぎょうせい/20050130初版 7)図解わかりやすい固定資産税/山口祥義/ぎょうせい/20031020初版 8)固定資産税宅地評価の理論と実務(上・下)/山本一清/第一法規/20060514初版 9)わかりやすい不動産の税金ハンドブック/山本和義/実務出版/20080620版 10)その他インターネットによる各種情報(出典が明らかなもの) |
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052 建物と土地の税金について(2012年3月5日) |
建物と土地(以下、不動産と表記)に関わる税金は、色々な場面において発生します。税金を詳しく知るためには、各種の参考図書もありますし、NETにもかなり詳細に出ています。国税庁のホームページを見ても良いかもしれません。また、毎年のように改正?が行われているのも事実です。そこで、簡単にその概略を場面毎に記述してみたいと思います。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■不動産を取得したとき 1)印紙税 契約をした時の契約書:不動産の譲渡に関する契約書、地上権などの土地の権利に関する契約書、賃貸契約書、工事請負契約書、お金を払った時の領収書等に課される国税です。 印紙税額の一覧表が基本ですが、時限立法で、「不動産売買契約書」「建設工事請負契約書」の印紙税の軽減措置が実施されています。また節税対策として良く利用されるのが、領収書を複数に分けることによって、印紙税額を少なくする手法があります。いずれにしても、金額に応じた印紙税額が決まっています。 2)登録免許税 不動産を所有して、登記をした時に課税されます。不動産の価格の0.4%が基本ですが、登記の形態により金額が変わってきます。地上権や地役権などの権利登記にも課税される国税です。 登録免許税額の一覧表が基本ですが、これにも時限立法で軽減措置があります。問題は、不動産の課税標準です。課税標準とは、「不動産の価額」のことをいうのですが、土地については、固定資産税評価額が基準となります。また、建物の価格認定基準は、全国の地方法務局毎に課税標準価額が定められています。実際の契約金額ではないことに留意する必要があります。札幌市の課税標準価格認定基準表と東京都の課税標準価格認定基準表をリンクしておきます。 3)不動産取得税 不動産を取得した時に、一回限り課される地方税(都道府県)です。課税標準は、登録免許税と同じですが、課税率は3%〜4%です。免税点もあり、住宅については、時限立法で軽減措置もあります。 4)消費税 現在、税率上げが議論されていますが、建物の取得や売買手数料等に対して、取引価額の5%で課税される租税です。土地の取得については非課税になっています。 5)相続税 相続や遺贈によって不動産などを取得した時に、課税される国税(国税庁のホームページへ)です。不動産に限らず、相続によって取得した財産の合計額から基礎控除額を引いた金額に対して課されます。 6)贈与税 不動産などを個人からもらった時に、課税される国税(国税庁のホームページへ)です。不動産に限らず、贈与によって取得した財産の合計額から基礎控除額を引いた金額に対して課されます。会社などの法人からもらった場合は、贈与税ではなく所得税になります。 個人が1年間にもらえる贈与税の基礎控除額は110万円です。相続税との違いは、不動産を所有していた人が亡くなった場合は相続税、生きている場合は贈与税です。一般論で言えば、相続税の方が税率が低くなっています。生きている時に作った遺言などによって、不動産等が贈与されることを遺贈といいますが、これは相続税になります。 時限立法で、住宅取得資金贈与の特例などがあります。 7)特別土地保有税 市町村により、免税となる面積は異なりますが、土地の投機的取引の抑制のために1973年に定められた地方税(市町村)です。土地を取得した段階と土地を保有している段階に課税されていましたが、2003年度以降の課税は停止しています。 8)いろいろな控除と補助 不動産を取得(住宅の改修も含む)した時には、時限立法ですが、各種の控除や補助が実施されています。控除は、確定申告にて還付されます。また、補助は申請すると受けることが出来ます。要注意ですね。 ・住宅ローン控除 ・バリアフリー改修等の特別控除 ・省エネ改修工事等特別控除 ・住宅エコポイント |
伊豆方面から富士山を望む 2009年12月12日撮影 本文とは関係ありません 阿蘇連山の朝 2009年11月21日撮影 本文とは関係ありません |
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■不動産を保有しているとき 9)固定資産税 毎年1月1日現在、市町村の固定資産課税台帳に所有者として登録されている人にかかる、土地・家屋・償却資産への地方税(市町村)です。固定資産税は、原則として、課税標準額の1.4%の税率になっています。課税標準となる評価額は、3年に一度見直しがなされます。 時限立法で、以下の様な特例・軽減が実施されています。良く内容が変わりますので、注意していなければなりません。 ・住宅用地に対する課税標準の特例 ・宅地に係る固定資産税の負担調整措置 ・新築住宅等についての特例 ・新築住宅に対する税額の軽減 ・高齢者世帯向け優良賃貸住宅の税額の軽減 ・住宅耐震改修に伴う税額の軽減 ・バリアフリー改修工事に伴う税額の軽減 ・省エネ改修を行った住宅の税額の軽減 10)都市計画税 毎年1月1日現在、市町村の固定資産課税台帳に所有者として登録されている人にかかる、土地・家屋・償却資産への地方税(市町村)です。都市計画税、原則として、課税標準額の0.3%の税率になっています。都市計画税も固定資産税と同じ課税標準額を基準としています。宅地についての特例などがあります。 11)特別土地保有税 7)と同じものです。 |
立山連峰を望む 2009年11月9日撮影 本文とは関係ありません |
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■不動産を譲渡(売却等)したとき 12)(不動産)所得税 不動産を譲渡した時に、その不動産の取得にかかった金額より、譲渡価格が多かった時に課せられる国税(国税庁のホームページへ)です。いわゆる値上がり益にかかってくる税金です。不動産の取得費には、取得に要した費用や宅地造成費、設備費、改良費なども含まれます。他の所得と分離して課税される「分離課税方式」になっています。 所得費が不明な場合は、収入金額の5%を概算取得費とすることができます。相続財産の物納をした場合は、その財産の譲渡はなかったものと見なされます。また、譲渡損が出た場合は、一定の条件の繰越控除も認められています。 譲渡内容により、以下の軽減措置があります。 ・居住用財産の3,000万円特別控除 ・居住用財産の軽減税率 ・特定の居住用財産の買い換え特例 その他、所有期間が短期と長期などでも、税率に違いがあります。 13)住民税 前掲の軽減措置等も含めた控除を計算して、出た収入金額を基に所得税がかけられますが、同じ収入金額に対して同時に住民税もかけられます。例えば、 課税譲渡金額=収入金額−(取得費+譲渡費用+特別控除額) 5年以下の短期の場合 所得税30% 住民税9% 5年超の長期の場合 所得税15% 住民税5% (10年超の居住用の場合、さらに特例で軽減される) が基本ですが、各種の軽減措置があります。 14)印紙税 不動産を譲渡した場合の契約書にも、印紙税がかかります。また、領収書等にも印紙が必要です。 |
美瑛川より十勝連峰を望む 2010年6月22日撮影 本文とは関係ありません |
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■不動産を賃貸等(不動産収入)しているとき 15)所得税 アパートなどの不動産の貸付によって生じた所得は不動産所得となります。収入金額から必要経費を引いて、他の所得と合計して申告します。必要経費には、減価償却費も認められています。また以下の様な償却も認められています。 ・中心市街地優良賃貸住宅の割増償却 ・高齢者向け優良賃貸住宅の割増償却 16)住民税 所得税と同時に課せられます。 以上を簡単にまとめてみると次の表のようになります。 |
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051 集成材について(2012年2月3日) |
■集成材(Laminated Wood)とは 日本農林規格(JAS)によると、集成材とは、ひき板、小角材等によりその繊維方向を互いにほぼ平行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着をした一般材のことです。説明が難しいですが、要するに小さい木材を繊維方向を揃えて積層接着した成型材のことです。 合板は繊維方向を揃えていませんので、集成材には含まれません。また、パーティクルボードやOSBボードもパーティクルやストランド状にしたものを圧縮成形していますので、これも集成材ではありません。JASでは、集成材の種類を造作用集成材、化粧ばり造作用集成材、構造用集成材、化粧ばり構造用集成材の4つに分けています。 |
集成材のJASマークの例 |
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造作用集成材:建物の非耐力の内部造作に使用される集成材 化粧ばり造作用集成材:表面に美観を目的として化粧薄板を貼り付けた造作用の集成材 構造用集成材:構造用の所要の耐力部材として使用される集成材 化粧ばり構造用集成材:表面に美観を目的として化粧薄板を貼り付けた構造用の集成材 集成材は、ラミナと呼ばれる厚さが数センチで含水率を15%以下にしたひき板を、通常はフィンガージョンイントという接合方法で縦方向につなぎ、接着剤で重ね合わせ、圧力をかけて製作されます。接合方法は、フィンガージョイントの他に、スカーフジョイントやバッドジョイントがあります。 |
出雲ドーム 日本初の木造ドーム/集成材により 直径140.7m、高さ48.9mの空間を構成 2007年10月25日撮影 |
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フィンガージョイント:木材の端部を、指と指を組み合わせたようにジグザグに切削加工して、相互に はめ込んで接着する接合方法です。家具などをよく見ると、ジグザグに接合 されているのが判ります(右に写真) スカーフ ジョイント:木材を繊維方向に斜めに切断して、その端部どうしを接合する方法 バットジョイント:材料の木口端面を直角に切断し、切断面と切断面を接着剤で接合する方法 |
フィンガージョイントの例 |
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■構造用集成材の種類 構造用集成材は、断面寸法により、大断面、中断面、小断面の3種類に分けます。 大断面集成材:短辺が15cm以上、断面積が300cu以上のもの 中断面集成材:短辺が7.5cm以上、長辺が15cm以上のもの 小断面集成材:短辺が7.5cm未満、長辺が15cm未満のもの 構造用集成材のラミナには、曲げヤング係数や節の大きさでL30からL200までの14段階の等級区分があります。同じ等級のラミナで積層される集成材を同一等級構成といいます。また、等級を変えた対称異等級構成、非対称異等級構成、特定対称異等級構成といった集成材があり、外側に強度の高い等級を配置します。 |
足寄町役場 カラマツ大断面集成材による サミットHR工法 2010年10月13日撮影 |
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同一等級構成 |
対称異等級構成 |
非対称異等級構成 |
特定対称異等級構成 |
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■構造用集成材の基準強度 構造用集成材の強度等級は、曲げヤング係数(E)と曲げ強度(F)を組み合わせて、E120−F330などと表示されます。国土交通省告示第117号(2008年2月8日)による主に生産される構造用集成材の基準強度は、表(※1)です。2007年のJAS改正で、ヤング係数の低いスギなどのラミナを配置して、外側にベイマツなどの強度等級の高いラミナを配置する特定対称異等級構成が認められました。その基準強度の表が(※2)です。 古い告示において、構造用集成材1級に製材の約1.5倍の許容応力度が与えられていたことがありました。それで、「集成材の強度は製材の1.5倍ある」と言う人がいますが、それは既に間違いです。等級に応じた基準強度を使う必要があります。 ■構造用集成材の使用環境 JASでは、構造用集成材の耐水性能、対候性能、耐火性能、強度性能、接着性能などを使用する環境に応じたA・B・Cのランク分けをしています。 使用環境A:構造用集成材の含水率が長期間継続的に又は断続的 に19%を超える環境 直接外気にさらされる環境 太陽熱等により長期間断続的に高温になる環境 構造物の火災時でも高度の接着性能を要求される環境 接着剤の耐水性、耐候性又は耐熱性について高度な 性能が要求される使用環境 使用環境B:構造用集成材の含水率が時々19%を超える環境 太陽熱等により時々高温になる環境 構造物の火災時でも高度の接着性能を要求される環境 接着剤の耐水性、耐候性又は耐熱性について通常の 性能が要求される使用環境 使用環境C:構造用集成材の含水率が時々19%を超える環境 太陽熱等により時々高温になる環境 接着剤の耐水性、耐候性又は耐熱性について通常の 性能が要求される使用環境 ■集成材の接着剤について 構造用集成材の接着剤には、使用環境AとBでは、レゾルシノール、レゾルシノール・フェノール、メラミンが使われますが、いずれもホルムアルデヒドが含まれています。使用環境Cでは、同じ接着剤の他にホルムアルデヒドが含まれていない水性高分子イソシアネート(API)やホルムアルデヒドを含有しているメラミンユリアが使われます。API接着剤は、耐水性や耐火性に劣るために使用環境Cとされています。また、価格も安く急激にシェアを伸ばしていることと、一時、集成材の剥離が問題になった中国製品に多く使わ |
主要な構造用集成材の基準強度 (※1) 平成20年国土交通省告示 第117号(平成20年2月8日)による |
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れていたことなどから、敬遠する向きもありました。しかしながら、品質改良も進んでいることからも、今後の展開は変わっていくかも知れません。剥離が問題になった製品は、接着剤の問題というよりも、集成材自体の品質も問題だったからです。 また、ホルムアルデヒドを含む接着剤を使った集成材でも、F☆☆☆☆の商品があります。F☆☆☆☆だから、ホルムアルデヒドが含まれていないと考えるのが間違っているということです。「シックハウスについて」でも書きましたが、建築基準法で規制されている化学物質を含めて、厚生労働省は13物質について、濃度指針値を定めています。しかし、人によっては指針値以下の濃度でもシックハウス症候群を発症することが知られているのです。 |
特定対称異等級構成集成材の基準強度 (※2) |
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造作用の集成材の接着剤は、かつてはユリア系(尿素とホルムアルデヒドの重合反応)の接着剤が使われていましたが、最近はレゾルシノールやAPI、酢酸ビニル系の接着剤が使われています。ユリア系は無色透明、レゾルシノールは赤褐色、APIは白色といったところで判断するしかありませんが、室内用にはユリア系やレゾルシノールは避けたいものです。否定するわけではありませんが、一般の工場で製作した家具や造作用集成材の接着剤までを確認するのは、結構大変だと思います。逆に言えば、要注意事項だといえます。 ■エンジニアリングウッドとLVLとPSL エンジニアリングウッド(EW材)とは、接着剤を用いて作られる木質系の材料の総称で、強度特性などが等級などにより、表示できているものをいいます。構造用集成材、構造用LVL、構造用合板、構造用パネル(OSB)などが含まれます。従って、造作用の集成材はEW材には含まれません。また、I型ビームのように、フランジに構造用LVLなどを使って、ウェブ部分に構造用合板やOSBを使った合成材も広義にはエンジニアリングウッドに含まれます。 LVL(単板積層材 Laminated Veneer Lumber)とは、丸太を<かつらむき>したベニアの繊維方向を揃えて接着剤で熱圧したものです。ベニアの繊維方向を直角に交互に貼り合わせたものは合板です。LVLはJASでも基準強度が規格された構造用のLVLもあります。 単板を繊維方向に細長く切断した木片(ストランド)で繊維方向を揃えて接着剤で積層成型したものをPSL(Parallel Strando Lumber)といいます。PSLは、JASで規格されていませんので、構造用に使う場合は、国土交通大臣の認定を取得した製品を使う必要があります。LVLもPSLも接着剤は、フェノール樹脂が使われていますので、耐水性は高いですが、ホルムアルデヒドを含有しています。 |
置戸町生涯学習情報センター 大スパンのカラマツ集成材 三上建築事務所 2004年竣工 2005年6月16日撮影 |
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